13/02/13 10:13:18.33 sx+Sgk4/
42.
「…んだよ」
母さんの声に続いて聞こえてきた男の声。切実な女の声音に対して、男の声は玩弄するような響きを含んでいる。
「だって」
詰るような母さんの声は、くぐもって響く。その声音の、聞いたことのない弱々しさと、どこか相手に媚びるような響き。
それが俺の胸を鋭く深く刺した。そして、次の瞬間。
踊るようにリズムを合わせていた男の腰が、一方的な激しい動きを見せた。女の尻を、ぐいと強く突きこんだのだ。
「……あ…ぁっ!」
母さんの悲鳴。そして男の手が、その背中を乱暴に押す。
母さんの影は前のめりになり、尻を突き出す格好で、浴室のタイル壁に両手を付いたようだ。
「おら」
「あ…はぁ…」
「洗っても意味ねーし。中、ヌルヌルじゃん」
「いや」
スモーク越しの、湯気と水滴に、輪郭を滲ませた男女の影。そして、淫靡な会話。
信じられないが、俺の母さんが、いま男と、交わっている。その姿を俺は初めて、目の当たりにしているのだった。
生前の父さんと母さんのこういう姿ならば、当然のことと許せもしたろう。だが。
母さんは、教え子に。俺の同級生に抱かれている。ぱん、ぱんっという腰と尻肉がぶつかる音が、徐々に激しさを増した。
「あ、っ!…あっ!や!は…ぁっ!」
一方的に責められる母さんの嬌声だけが、くぐもりながらも、鋭く響く。
それに勢いを得たように、男の腰は、強く逞しく律動する。俺はいつの間にか後ずさっていた。廊下の壁に背が当たった。
この光景を見続けることに耐えられそうになかった。
だが同時に、得体の知れない赤黒い感情が、尾てい骨からビリビリと湧き上がってくる。
これは─興奮、なのか?
「ダメ!きちゃうから、もぅ…!」
「バカ、早いよ」
「だ、だってっ…さっき、したばかりだからっ……」
「…ははっ、いいよ。じゃ、イケよ。おらっ」
母さんの切羽詰まった叫び。男の笑い声。肉の弾ける音。ガラスに飛び散る飛沫。
ガタガタッ、と洗面器がぶつかり、転がる音がした。そして。
「…あ!あ!…もぉ、イクぅっ!」
母さんは、ハッキリとそう叫んだ。 水滴に滲んだその影は、弓なりに反って、ぶるぶると痙攣した。