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密林の果て(2/4)
なだらかな美しい海岸線が伸びている。波の音が穏やかに寄せては返す。
その波打ち際で少女が波と戯れ、遊んでいる。
ジェイと知子の娘、ジュリだ。
医療設備とは無縁の原始の密林で出産が行われていたことに、イアンは驚きを禁じ得なかった。
しかし、確かにジェイと和樹の母はこの島で生活を営んできたのだ。
夫婦としての暮らしを。
ジュリを見守ることの出来る距離の砂浜に、母と息子は立っていた。
和樹が着せ掛けた大柄なシャツを知子は羽織っている。そのシャツが海風に靡く。
イアンから少し離れた場所に、包帯で腕を吊ったジェイがじっと座っていた。
和樹ともイアンとも、彼は言葉を交わそうとはしない。
奇妙な距離感を保ったまま、二人は知子と和樹を見つめていた。
「…可愛いね」
波打ち際で、時折こちらを伺いながら遊ぶジュリを見ながら、和樹は言う。
「ジュリって言うんだね。…樹木の“樹”に、“里”?」
和樹のそんな問いかけに、明らかには答えず、知子は穏やかな表情で言った。
「立派になったわ。和樹」
「母さん」
母がすでに自分の中で答えを出していることが、和樹には分かっていた。
だが、息子である限り、和樹は問いかけなくてはならなかった。
「母さん、僕と一緒に帰ろう」