12/04/20 16:03:39.98 dH537OCW
>>77
店主の妹が”それ”を呼ぶと、厨房裏の深淵から染み出るように、その異形の物体が姿を現した。
それは一見人間のようでありながら、頭頂部を十腕形上目の胴体にも似た冒涜的な角度を持つ
白い帽子状のものが覆い、付け根からは狂気じみた青色の触手が10本生え、
それ以外は-いささか小柄ではあるものの-人間に酷似していた。
触手は不規則に蠢いていたが、私が恐怖に駆られ後退した瞬間、
鏃状の狂った先端部分が空中で私に向けられピクリとも動かなくなり、
加えて地獄めいた丸さの顔面に不釣合いな大きさの瞳が、錯乱状態の私に
逃避の隙を与えまいと睨め付けてきた。
”それ”は腰に手を当て、どこか厭らしくニヤついた表情を見せながら、脳髄に響くような
甲高い声で自らの目的がこの地上の制圧にあることを語って聞かせた。
その内容は、我々人類が今絶望に満ちた終焉を迎えようとしているという慄然たる事実を、
私に完全なまでに理解させるのに十分すぎるものだったのである。
─斉藤渚著『侵略者』より抜粋