11/07/03 20:04:01.98 m4TRMLwu0
ライブを終えて裏口を出ようと階段を上っていくと、ドアの前に見たことない男が立っていた。
ちょっとしたインパクトだったのはそいつがえらく背がでかくて、そんで……普通そういう事しないよな、って動作で、
目のあたりに上げた二本の指をちょっと動かすような、まぁ古臭いっつうかそれはねぇだろって挨拶を俺にしてきたからだ。
他に誰かいれば俺じゃないって無視決め込んだけど生憎俺しかいなかった。
ファーつきの、高級カーテンみてーな柄のロングコートに、メイクに……、
いや、いいけどそのシルバーのアイメイクがやたらどぎつい。特濃。
「待ちくたびれたじゃない、YOU」
……お前どっかのアイドル事務所の社長?
「あんた誰」
「ミッシェル神條です」
なんだよその腕クロスさせるポーズ、頭おかしいのかお前。いい加減にしろ。見てるこっちが恥ずかしいだろ。
「今日YOUのライブ観てさ、」
「……そりゃどうも」
「決めたんだよ……その美しさ……ボクのバンドに入らない?」
カツンカツンカツン、と硬い階段が奴の靴底を跳ね返す甲高い音。近付いてきた奴は俺より頭一つ分くらいでかい。
「近いんスけど神條さん」
「……遠慮しないで、ミッシェル神條って呼んでいいんだよ……」
いや普通神條って呼ばれる方がいいんじゃねーの。ミッシェルてお前。
バカに関わってる時間が惜しい。俺はさっさと奴を避けて階段を上ろうとした。
「ちょっと、」
それに先回りして、俺の行き先を塞ぐ。また笑う。
「つれないなぁ……YOU」
「どいてもらえる」
「YOUがボクのバンドに入ってくれるなら」
さっさと帰りたかったし、目の前の男は頭おかしいし、その上更に俺に違うバンドに入れときた。
さすがに俺も頭にきて、目の前のお耽美野郎にずい、と詰め寄った。
「あのさ、何考えてんのかしんねーけど、俺は今のバンド以外でやるつもりはねーんだよ」
じろりと睨み上げると、何でか半開きの唇と目が妙に恍惚とした色でもって俺を見る。
何だこいつ、頭おかしい上に変態か。いや変態だから頭おかしいのか。どっちだ。