11/03/18 22:25:58.10 etzSJQNh0
けれど、怒られても少し、いや、かなり困ってしまう。何しろここには刃物があるので、人の頭を金属バットで砕いてしまうような男相手では虎穴に虎の子を取りに行
くようなものだ。
高田は腰に近づきはじめていた腕を急遽進路変更し、鍋を掻き回すお玉を握る手に向けて行く。
そっと近づけ、後少し、後少しと近づけ、指先があと少しで触れる、とまでなった時、丑嶋の手が動いた。
「ほら」
「は?!」
丑嶋の手は握っていたお玉を鍋の上にあげ、高田の手に握らせた。お玉に入っていたビーフシチューはお鍋の中に落ち、少しだけ跳ねて鍋の表面に付いた。
「は?!これをどうしたら・・・」
持たされたお玉に戸惑う高田に目も合わせず、丑嶋は忙しげにコンロから離れ、机の上に乗せてあったボールの方に向かった。
「いいって言うまで掻き混ぜてろ。俺はその間にこっちをやるから」
戸惑ったままで手を動かさない高田と違い、丑嶋はボールの中に入っている野菜に調味料を掛け、手早くサラダを作っていく。
「混ぜるって、えー・・・」
やれと言われたものの、ただ単純に混ぜるだけの作業でも、やったことがない高田にはそれさえも上手に出来ない。
モジモジと手を蠢かしていると、丑嶋が大股で歩いてコンロの方に来た。
「こうだ、こう」
言うが早いか、丑嶋はお玉を握る高田の手の上に手を重ね、ゆっくりと鍋の底から掻き混ぜさせた。