モララーのビデオ棚in801板63at 801
モララーのビデオ棚in801板63 - 暇つぶし2ch91:世界が 5/7 ◆I9jpBkGhiY
11/01/19 01:22:57 9WirUpbk0
「……。」
怒ってるみたいな顔だが、ごめん、泣きそうな俺だったけどちょっと笑いそうになった。
何でだか、耳も頬っぺたも真っ赤だからさ、お前。
そんな顔で凄んでも、って。怖くないよ、全然怖くない。
「何、…タクヤ」
お前が手を、ゆっくりあげた。掌を拳に変えながら。
真っ直ぐ俺を指す。
そのまま、また黙る。
「シンタ」
そして、しばらくして押し殺した風に言った。
何で。何でここでハイタッチなの。
そう言いたかったけど、お前が余りにも必死そうに見えるので、俺は黙っていた。
手を伸ばせば多分届くそれくらいの距離、だ。何とか、俺はパイプ椅子の角度をバランスぎりぎりまで傾けて、腕の先を拳にして、伸ばした。
お前の大事なギターは抱きしめたまま。
こつんと触れあうだけ。別に何でも無いこと。
「……コンビニ、行って来るし」
何俺、どうしちゃったのよ。
「…え?」
「コンビニ」
「…あ、うん」
それきり、いきなり現実に戻ったみたいにお前は背中を見せて、乱暴にドアを閉めて出て行った。ばん、と強い音と風が残った。
「…何だあいつ」
そう、それから数秒、俺が固まっててもそれは仕方ないことだと思う。
思わずゆっくり呟いて、さっきの拳の方の手で癖みたいに口髭を撫でる。ゆっくりじんわり、その手が柔らかくなっているような感覚があった。
その手を、ギターヘッドに置く。お前の指がいつもそこにあるところに。
二、三、音を出す。低い響き強い響き、幾つかのコードも鳴らしてみる。
けれどどんな音の中でも俺の耳はお前の声の方を、覚えている。
こんなの無い、のかもしれない。
こんなの無い。
こんなの無い、はずだ。
俺はどうしちゃったんだ。

92:世界が 6/7 ◆I9jpBkGhiY
11/01/19 01:24:13 9WirUpbk0
何かがちょっとずつ、俺の感覚を逆なでている。それに俺はびくびくと、馬鹿みたいに過剰な反応を返してしまって、コドモじゃないんだから。
そう理性では思う。でも心のどこかでそれが怖くて、俺は目を閉じたり頭を止めたり、息も止めたりしてじっとしようと努めた。
だけど何で、それをあいつはわからないかな。
何であんな風に、俺を呼ぶかな。
耳に残るよ。お前の声は、耳に残る。あんな風に呼ばれたら、覚えちゃうよ。
あんな声で、俺を呼ぶんだ。
マフラー無しで出てきたことを、コンビニまでの十数分の間に俺は後悔した。寒ぃ、今日は。
天気はめちゃくちゃいいのに、空が青い分風が冷たい。冬になってる、いつの間にかちゃんと、冬になってた。
電信柱からの何重ものラインが、それもくっきりとして眩しいように見える。こんなの初めてだ。
ポケットに手を入れて手もぎこちない。右足、左足、そう次は右足。そんな風に思ってないと、上手く歩けない気がする。
どうやって昨日まで俺、歩いてたんだろう。一歩一歩、自分のスニーカーを意味なく見つめてしまう。
ああマフラー。耳を覆いたかった。
シンタ君の声が消えない。
すれ違う誰の声も。走ってる車のクラクションも。店先のコマーシャルソングも。
全部その外、みたいな感覚。
別に欲しくないガムを一個だけ買った。レジの前で並んでると、わけもなく俺は遠近感が狂った。
レジのおばちゃんに袋要る?なんて、要らないって言えばいいのに入れてもらっちゃったりして。地球にやさしくないなあ。
ドアを出たところで、深呼吸をしてみた。また冷たい風がくしゃっと髪を揺らして行った。
指に引っかけた袋もくしゃっと、鳴る。そんなこと今まで思いもしなかった。
こんなの無い、って何度も思った。でも本当に無い。
俺はどうなったんだ。何であいつには、それがわからないかな。
でも、こんなん、なんてのは。
「…無い、わぁぁぁ~…!!」

93:世界が 7/7 ◆I9jpBkGhiY
11/01/19 01:25:13 9WirUpbk0
こんなのは無いよ。こんなのなんて。本当に俺、どうしちゃったんだ。
何かがちょっとずつ、違う気がする。全部が。
くそ、シンタの方は何ぁんにも、変わってないって顔してるくせに。俺だけがおかしくなった。なってる、事実として。
うん、シンタだけは変わらないんだけど。
俺にとっても、それ以外と比べても、何も、うん。
俺はコンビニ前でへたり込んで、かっこ悪く頭を抱えてた。日だまりがやたら優しくて、笑ってるみたいだ、と思ってた。
だけどそれ以外の全部が。
そう、街ってこんな風だっけ。コンクリートってこんな色だっけ。冬ってこんな寒さだったっけ。
黙ってると、地面がグラグラ揺れてるみたいに思える。風の音が、嬉しそうに叫んでるみたいに思える。
意識も感覚も踊ってる。光の色は。冬の温度は。空の高さは。
それでまだ、耳にはあの声が残ってる。
世界が全部違って見える、なんて。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
戸惑う☆が大好物です。
ありがとうございました、また時々どこかで。

94:風と木の名無しさん
11/01/19 05:12:06 HYneaCYE0
時の話題や勢いのある最新ニュースを掲示板の書き込みを読みながら一発理解。

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95:風と木の名無しさん
11/01/19 22:14:11 hzCIpc02O
>>87
本尊の方はよく知らないのですが(スミマセン
姐さんの書かれる2人の関係性がツボでした
言葉の選び方も読んでいて心地よくて大好きで、投下が楽しみなシリーズでした
お疲れ様でした! またいつか、姐さんの文章を読みたいです

96:風と木の名無しさん
11/01/19 22:32:26 yV2mJaTHO
>>87
萌えま☆
シリーズ乙でした!

97:風と木の名無しさん
11/01/19 23:53:33 SbHkvGFr0
>>87
乙でした!
いつも投下を楽しみにして、
投下されたときはキタ━(゚∀゚)━!とwktkしながら読ませてもらってました。
またいつか姐さんの文章を読めることを期待しております

98:風と木の名無しさん
11/01/20 00:30:32 TDwFyZnM0
>>87
乙&GJ!
最後の最後でまた☆が可愛すぎるよ!!
またこの二人の話が読みたいです。ありがとう姐さん!!

99:初七日 1/5
11/01/20 01:24:26 GgpUn3F30
ギ/ャ/グ/マ/ン/ガ/日/和 弟子×師匠です
死にネタなのでご注意ください

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!




甘い香りがして目が覚めた。

そこは見たこともないほど広い広い花畑で、
色とりどりの花が咲き乱れていた。
「うわーどこだここ…ハウステンボス?」
呟きながらあたりを見回す。無意識のうちに、あの子の姿を探す。
そして思い出す。ああそうか、ここへはひとりで来たんだっけ。

「三途の川の手前ですよ、芭蕉さん」

驚いて振り返ると、そこにはさっきまでいなかったはずの弟子がいた。

「うわっ! 曽良くん何で!?」
「血の池で溺れる芭蕉さんとか、針のむしろでぶっ刺される芭蕉さんとか、
いろいろ見たいものがあったので……」
「なんで師匠が地獄に落ちるの前提で話するんだよ!
天下の俳聖だぞ! 極楽行きに決まってるだろこのバカ弟子!!」
「死人のくせにうるさいです芭蕉さん」
「だつえばっ!」
生前と変わらぬチョップの重さを保ちやがってチクショー…
鬼弟子に聞えないように呟きながらふらふらと立ち上がる。

100:初七日 2/5
11/01/20 01:26:02 GgpUn3F30
「いい眺めですね」
「うん…私もあんまりきれいなんで驚いちゃったよ」
「いえ、芭蕉さんが無様に倒れ伏す様が」
「えええ…!? 久しぶりに会ったっていうのに相変わらず弟子がひどい…」
大事に鞄に下げて連れてきたマーフィー君を抱きしめながらめそめそと芭蕉は嘆く。
そして目を伏せたまま唇を噛んだ。

「…大体いくら私を心の底から尊敬してやまないからって
こんなとこまで追いかけてくるなんてバカだよ」
「微塵も尊敬はしていませんが、
芭蕉さんがひとりで旅なんて出来るわけがないですから。ほら」
曽良は懐から取り出したものを芭蕉に手渡す。
「何これ?」
「三途の川の渡し賃ですよ」
「あっ…」
「やっぱり持ってきてなかったんですね。
こんな汚い人形は文字通り後生大事に持ってきたくせにバカジジイが…」
「やめてー! 私の友達ひっぱらんといて! 中身出ちゃう!
だって道中のお金の管理なんて私やったことないんだもん!」
「渡し賃がないと衣服を剥ぎ取られるそうですからね。
芭蕉さんを僕以外の人間が全裸にするのは許せません」
「めずらしくちょっと優しいと思ったらやっぱりそんな理由!?」
「あと女性が三途の川を渡るときは処女を捧げた男が背負って渡るしきたりだそうです。
さあ芭蕉さん僕の背中におぶさって早く!」
「弟子が顔色ひとつ変えずにすごいこと言ってる!!
松尾死んだ後までこんな辱めが待ち構えてるとは思わなかったよ!」
「生きている間に受けた辱めとどちらが悦いですか」
「もういや!!」
顔を覆ってうずくまったところを蹴り飛ばされ、芭蕉は花畑の中を勢いよく転がる。

101:初七日 3/5
11/01/20 01:27:22 GgpUn3F30
「バカやってないでさっさと行きますよ、芭蕉さん」
倒れこんでいる芭蕉を腕組みで見下ろし、
自分で蹴っておきながら曽良は早く立ち上がるよう促した。
「師匠に対してこの仕打ち…
まあ君は明らかに地獄行きだろうけどさ……」
呼吸を整えながら、芭蕉は仰向けに寝転がる。

「……それでも早すぎるよ。君はまだ一緒に来るべきじゃない」

その言葉に、曽良は何も答えようとしない。
弟子がどんな表情を浮かべているのか見るのが怖くて、芭蕉は目を閉じた。

「―芭蕉さん」
ゆっくりと足音が近付く。
咲き乱れる花を踏みしめながら、曽良が芭蕉に歩み寄る。
それはまるで自らの命を投げ打って芭蕉を追ってきた曽良をそのまま表しているようで、
芭蕉はひどく胸が痛んだ。
この子の人生はまだまだ、この花のように美しく続いていくはずだったのに。
バカな弟子だな、君はまったく。
だけど師匠の私にまでバカがうつっちゃったんじゃないだろうか、
少しだけ嬉しいんだ、君が来てくれたことが。

102:初七日 4/5
11/01/20 01:28:59 GgpUn3F30
(そ…それにしても……
怖い! 生前受けた数々の仕打ちのせいでこんな場面ですら弟子の足音が妙に怖い!)
死んでなお殺られる!と身を硬くした芭蕉の腕を、
曽良の手がそっと掴んだ。

「置いていかないでください」

まるで迷い子のような、頼りなげな響き。
かつて何度も旅の途中で芭蕉自身が曽良の背中に投げつけた言葉を、
聞いたこともない声で曽良が呟いた。

驚いて思わず目を開けると、そこにいるのはやはりいつも通りの無表情な曽良だった。
(…ええ!? 何今の!? 聞き間違い?)
「そ、曽良くん、今なんて……ウボァッ!?」
掴んだ手がみるみるうちに力を増していく。
「痛い痛い痛い曽良くん腕痛い! ミシミシいってる!!」
「僕も行きます」
「ついて来ちゃだめ…!
ギャアアアア私のすばらしい上腕筋の全ての力をもってしても全然払いのけられない…!
何これ!? 万力!?」
「僕も行きます」
「壊死しちゃう! 死んでるのに壊死しちゃうから離して曽良くん! 曽良さま!!
そして帰って……!」
「僕も行きます」
「もう本当に帰れこの鬼弟子ィィィ……!!」

103:初七日 5/5
11/01/20 01:30:59 GgpUn3F30
―ぼんやりと、見慣れた天井が視界に浮かび上がってきた。

地面に縫い付けられているかのように体が重い。
喉の奥が乾きすぎて、ひきつれるように痛んだ。
「……ちっ…」
おかしな夢を見たものだ。
「―僕を追い返すなんて何様のつもりですか……」
ぼんやりとひとりごちながら、目をこする。

戸を開ければ外は馬鹿馬鹿しいほどに良い天気だった。
花の盛りを迎えた椿が鮮やかに咲き誇っている。
澄み切って高い秋の空は、あの人のどこまでも無邪気な笑い顔を連想させた。
引き裂かれるような胸の痛み無しであの笑顔を思い出せたのは、
きっと彼が死んでから初めてのことだ。

(やっぱり僕が追い縋るなんて似合わない。こんなに急がなくともいつかは行く道だ)
旅のお供を頼まれたあの日だって、そういえば曽良は芭蕉を随分と待たせたのだ。

(せいぜい泣きながら僕を待っているといい。
僕はこっちでゆっくりしてから行くことにしましたよ、芭蕉さん)

右腕の包帯が緩んでいるのに気づいて、曽良は結び直そうと体を起こした。
手のひらをひらいて、ふとその手をとめる。
懐かしい人の香りがそこから立ち上ったような気がした。

「……かすかに老臭がする」
かつて傍らにいたその人に聞かせるように、曽良はそっと呟いた。
口元がかすかに緩んでいることには、曽良自身気づいていない。



□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

104:風と木の名無しさん
11/01/20 15:23:30 mUtaX3eR0
>>99
そばキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
ツンデレキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!

弟子かわいいよ禿萌えたよちくしょうこんにゃろ

105:風と木の名無しさん
11/01/20 21:33:09 UCA77jDW0
>>99
目覚めそうだ
ありがとう

106:恋の始まり 1/6
11/01/20 22:37:40 wuehQ4O2O
オリジナル 男前×初老紳士
題名の通り、始まる前の話ですので×よりは+の方が合っているかも…

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

その男は、イケメンと言うよりは男前と言う言葉があっていた。
涼しげな目元に、スッと通った鼻筋。
190近い長身に、長い手足。無駄のない、しかししっかりと筋肉の付いた身体。
整えられた髪の毛に、ビシッと決まるスーツ姿。
正に女も男も憧れる、自他共に認める男前である。
そんな男が大学時代からかれこれ10年以上続く俺の腐れ縁なわけで…。

確かに奴が男前であることに異論はない。
しかし、どんな人間にも欠点と言うものがある。
念のため、奴と自分を比べて虚しくなる日々はとうに終えてあるので、
嫉妬のために奴の欠点を挙げているのではないと言っておこう。

男前の友人の欠点とは、『来るもの拒まず去るもの追わず』の精神だ。

その言葉そのまんまの意味で、寄ってくる女や男までもとっかえひっかえ。
今まで奴に長い間付き合った特定の相手など居たことがない。
あまりのだらしなさ乱れっぷりに
「お前、ちゃんと相手に恋して相手を愛したことあんのかよ?」
と聞いたことがある。
そしたら奴は無駄なくらいに男前な顔付きをこちらに向け、怖いくらいに真剣な表情で
「なにそれ、美味しいの?」
とのたまいやがった。



107:恋の始まり 2/6
11/01/20 22:38:55 wuehQ4O2O
呆れた俺に奴が言ったのは、恋や愛はされるものであり、自分からするものではないのだと言うことだった。
つまり、相手に恋をして告白をして受け入れられて徐々に愛を深めていく…
なんてまどろっこしい事をしなくても、自分に好意を持った人間が嫌というほど寄ってくる。
だから恋だの愛だのというプロセスを踏まなくても、楽しい事や気持ちいい事をしてくれるのに何故そんな面倒な事をしなきゃあならんのだ?と言うことらしい。
その言葉を聞いてから俺は、世の中には自分と違う考えを持った人間が居るもんだと結論付けて、それ以上は考えないようにした。
持てる人間と持たざる人間の違いを数えたって虚しくなるだけだ。

それからと言うもの、俺は奴とは所謂恋バナというものをしないで、楽しい遊び友達として付き合ってきた。
今日もその延長で、寂しく男二人でブラブラしていたのだが…。

「今日って雨降る予報だった?」
「いや、お天気お姉さんはそんな事言ってなかったな」

まさかの通り雨に降られ、やむを得ずシャッターの閉まった店の前で雨宿りをしている。
服もだいぶ濡れてしまい、俺はぶるりと身体を震わせた。



108:恋の始まり 3/6
11/01/20 22:40:04 wuehQ4O2O
「くそっ、誰だよ雨男は!?」
そんな俺の独り言を拾った男前は
「同期が結婚し幸せな家庭を持つ中で、遊んでくれる女の子も彼女も居ない寂しいお前が雨男だろうなぁ」
と言いやがった。

非常に侮辱された気分だが、コイツに怒ったって無駄だ。
はぁ、と一つ溜め息をつき無気力に会話を続ける。
「お前だってそんな寂しい雨男と遊んでんだから、大して変わんねぇんじゃないの?」
「ひどいなぁ。その言い方。俺はあえて寂しいお前と遊んでやってんの。」
なんなら女の子でも男の子でも呼ぼうか?と携帯をいじり出す奴。
全く、酷いのはどっちだと口にしようとしたその時、俺らが雨宿りしている軒先に駆け込んでくる人があった。

「参りましたねえ」
と困り顔で呟いたのは灰色の髪の毛を持った男性。
「君たちも雨宿りですか?」
との優しい声が俺達の耳を撫でていく。
恐らくは50歳を過ぎ、もしかすると60歳以上かもしれないが、男性が発している柔らかい雰囲気が彼を若く見せているようにも思えた。

「朝の天気予報では晴れだったんですけどね」
と俺が答えれば、
「まんまと騙されてしまいました」
と男性が笑った。


109:恋の始まり 4/6
11/01/20 22:41:09 wuehQ4O2O
そしてガサガサと自分の鞄を漁った男性は、あったあったと言いながら俺達にタオルを渡す。
よくわからないままタオルを受け取った俺の顔は心情そのままを映していたらしく、男性はあぁと声を上げて説明してくれた。
「このままでは寒いでしょう?一枚しかありませんが良ければ使って下さい」
「いや、でも一枚しかないなら俺達でなく貴方から…」
俺は戸惑いを声に乗せ訴えてみたが、男性はやはり優しく微笑むのみ。
「おじさんを通り過ぎた人間が拭いた後のタオルじゃ嫌でしょう?私はもうそういうのは気にしない歳なんです」
だからどうぞと勧めるタオルを断れず、ペコリと頭を下げた。

そして先に使うか?と奴に視線を向けると、そこには微動だにしない男前が居た。
しかも雨に濡れてるオプション付きで男前が倍増している。
こいつ人見知りだったかなと思いつつも、タオルの礼を言わせるべく脇腹を肘でつついた。
その衝撃でようやく動き出した奴は、何故か顔を赤らめ、しどろもどろで礼を言う。
「あ、あ、あの、ありがとう、ご、ございます」
「いいえ、気になさらずに。ほら、早く拭かないと風邪をひいてしまいますよ」


110:恋の始まり 5/6
11/01/20 22:42:12 wuehQ4O2O
雨に濡れて少なからずとも不快だろうに、男性はニコニコと笑って俺達に気を使ってくれている。
なんて出来た人なんだろうなと奴に耳打ちしようとして、気がついた。

コイツ恋に落ちてやがる。

顔を紅潮させ、何度もパチパチとまばたきしている。
自分から湧き出た初めての感情を、どう処理すれば良いのか戸惑っているのだろう。
せっかくの男前がただの大型犬のように見えた。

奴のただならぬ様子を男性は異常事態と受け取ったのか、心配そうな表情をした。
「あの、大丈夫ですか?もしやもう風邪をひかれたのでは?」
そう言って、奴の体温を計ろうと伸ばした手を奴はがっしりと捕まえた。
驚いた男性を尻目に、奴は至極真剣な表情で、いや必死と言っても言いような表情で訴える。
「もし貴方がよければ、雨宿りがてらコーヒーでも飲みに行きませんか?」

ベタだ。男女の恋愛沙汰に慣れている筈の男前なのに、口から出た言葉は「俺とお茶しない?」だ。

唐突な言葉に男性は驚いているが、この言葉で俺は奴がマジで恋に落ちたのだと確信した。
今までまどろっこしい事を避けていた奴が、ナンパの定番、お茶に誘ったのだ。


111:恋の始まり 6/6
11/01/20 22:43:59 wuehQ4O2O
「コーヒーですか?」
の戸惑った男性の声に、奴はぶんぶんと首を振っている。
俺はそんな奴の様子に苦笑を漏らした。
それから、三十過ぎてからの初恋に振り回されるだろう奴と男性に、若干の哀れみを込めて視線を送る。

手を握られたままの男性は少し困ったような顔をしていたが、ふっと表情を和らげ、柔らかい笑顔を浮かべる。
「…そうですね。せっかくなので喫茶店で雨宿りでもしましょうか」
その男性の言葉に、奴は思いっきりガッツポーズをした。

普段のすかした態度とは違う奴の様子に、俺は思わず噴き出してしまう。

そして男性の言葉を受けた心底嬉しそうな奴の表情を見て、俺はこの恋が上手いこと実れば良いなと思った。

頑張れ男前!!と心でエールを送りつつ、どこか寂しさを感じている俺の心情。
これは遊んでくれる奴が減った寂しさのせいにしておこう。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


112:風と木の名無しさん
11/01/20 23:54:26 cuC2IrK70
>>106
萌えた!初老紳士めっさストライク過ぎましたありがとうありがとう。

113:1/6
11/01/21 02:44:09 zxTwFfGF0
生ネタです。東/宝ミュー/ジカル、M!より、大司教×天才児。
初めて見たけど萌えたぎったよ…!

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



眼下の街並みは、薄らと白くぼやけ始めていた。朝方より上空をどんよりとした雲が覆い、案の定雪景色となった。
赤い屋根や煉瓦造りの時計台が、それでもまだ落ちきらぬどこかからの光を受けて静かに立っている。おかしな明るさだ。
窓の下を行き交う物売りのワゴン車や、ザルツ/ブルグ市民の外套の色も故にまだ、しっかりとしていた。
馬車馬の白い息も御者の鞭の響きも、冬の寒々しさを含んでいたが、だがガラス窓一枚隔てたこの部屋には入りこんでこない。
大司教は優雅にマントを翻し、窓際から暖炉の傍の椅子へ腰掛けた。ふっかりとそれが、好ましく身を受け止める。
生地はびろうどと絹に限る。それも最高の職人の手で、刺繍の全てを施したものを。
静かであり、温かい。薪はたっぷりと燃え明るく、余計な詮索は何もせぬ。
傍のテーブルには僅かに湯気を立てるカップが、またつつましく控えている。
もうすぐ夕食の刻だ。今頃シェフは大わらわで、この街の領主である大司教のディナーの準備に取りかかっていることだろう。
それまでの大司教の、この優雅な沈黙と高雅な空想の時間を、邪魔する者はいない。
いや、居ないはずだった。
「……猊下。申し訳ございません」
いつものように典雅に瞼を閉じた、その刹那。
不意に、重厚なドアをノックする音が聞こえた。
全てが大司教の好みに作られているこの居室の、その扉を開けまた触れることが出来る者など、それこそ限られている。
「……アル/コ。何事だ」
「は……」
配下の、媚びへつらうのが上手い伯爵の顔を思い浮かべながら、大司教はうっとりと目を閉じ、微動だにせず呼び掛ける。
アル/コ伯爵は伯爵で、またドアの外から焦ったように、しかし苦々しげに話を続ける。

114:2/6
11/01/21 02:44:43 zxTwFfGF0
「モー/ツァルトの、件でございます」
「……あれか。どちらの方だ、父親か」
「息子の、方の……」
「ふん」
「あやつめ、猊下の命に背くだけでなく今度は……曲を聴いて頂くまで帰らぬと、まあ傲慢を絵にかいたような振る舞いで…」
「参っておるのか」
「いえ、勿論叩き出しましてございます、猊下!ところがあの若造、とことん思い上がり甚だしく」
「……。」
領主の嗜みとして、音楽家の一つも飼うのは常識だ。
しかしこの大司教の音楽への拘りは相当なもので、その鋭敏な感覚に対して、並みの音楽家など全く歯が立たぬ。
その中で古くから仕えているレオ/ポルド・モー/ツァルト、この男は面白みはないが下らぬ曲は書かぬ男だ。
だがそれでも、大司教を芯から満足させることなどは到底出来ない。それでも大司教がその男を見限らぬのは、今は偏に
その息子の存在あってのことと言えよう。
確か名を、ヴォ/ルフ/ガングと言った。
大司教はうっすらと、切れ長の瞳の瞼を開いた。ちらちらと舞う炎の明かりが、やや滲んでいるように目に映る。
「……あの男が、どうしたと」
ため息をついて黙りこんでしまった伯爵を、大司教は先を語れと促した。
そうか。確か昨日、フーガの一曲も書けぬものに用はないと、叩き出し追い返していた。それを持参したとでもいうのだろう。
ただし招かれざるものであることに違いはない。もう直ぐ夕食の刻限なのだ。
大司教とは、いやしくも神に仕える身だ。神の絶対性を彼ほどに崇め、口にする者はないと言っていい。
しかしそれを。あの男は踏みにじる。
声でも、態度でも、そして音楽のすべてにおいて。
「は……、ヴォ/ルフ/ガングめ、目障りなことに、その……お屋敷の庭に座り込んで、一歩も動かぬと……」
「……何時からだ」
「昼よりずっとでございます。いやはや気がくるっております猊下、この天気ですぞ」

115:3/6
11/01/21 02:45:11 zxTwFfGF0
礼儀を知らぬ。唯のしもべに過ぎぬ輩であるのに、そのしもべが堂々と領主の館へ乗り込んでくるなどと。
日頃よりあの若者の振る舞いにはそれこそ、大司教への畏敬のかけらも見て取れぬというのに、愚かにもほどがある。
息子の所業に常日頃から父親は頭を抱えている、という噂も耳にする、当然だ。少なくともレオ/ポルドはこの大司教のしもべで
あることを、自覚している。
それはひいてはこの世を統べる教皇猊下への忠誠、神への信仰ということではないか。それを、あの愚かな息子は何を。
あの男はいつも、大司教のすべてを踏みにじる。
しもべとしてこれ程に、不愉快な男はおらぬ。
「……如何致しましょう猊下……、いや音楽家の一人や二人、病に倒れたとて何もお気になさることではございませんが……」
「アル/コ」
「はっ」
「シェフに伝えよ。ディナーは半刻、遅らせる様に」
「…は?」
溌剌とした目と天から授かった、そのままの髪を無造作に束ねる。
手足は自由に、どこまでも自由に空を駆け、そして声は高らかで朗らか。
星の光を具現化したようで、星そのものが降り立ったかのような輝きと煌めきを持つ。
だが、神を凌駕する天才など、認めぬ。
不意に内から開いた扉に、伯爵は明らかにひるみ、一瞬すくみあがったようだった。廊下の石の冷たさが、さっと肌に伝わり来る。
「げ、猊下!?」
結えた髪も、直ぐに冷えた。
大司教は唯一人優雅に、だが大股で歩く。
赤いマントに金の刺繍が、その度に翻る。こつこつと、靴音も響き渡る。
回廊を降り、大ホールへ抜け、幾人もの使用人どもが慌てて道を開け頭を垂れる姿を、大司教は見ているが目には入っていない。
路傍の石ころと同じようなものであるが故だ。
館のあちこちに、揺らめく蝋燭の炎が宿っている。
しかし雪空は、それでもまだ奇妙に明るさを残していた。

116:4/6
11/01/21 02:45:45 zxTwFfGF0
手づから大扉を開けた瞬間、冷たい風と叩きつけるような雪が、そのマントに飛びかかって弾かれた。大司教はゆるり首を回し、
積もり始めた雪に白く黙り始めている門から、そろそろ凍りつこうとしている噴水のあたりにその姿を認めた。
一見、ただの塊だ。雪を積もらせ、しんと動こうともしない。
「……何の用だ、モー/ツァルト」
さく、さくと。
今度の靴音は響かず、一歩ずつ音と跡を残し大司教の歩みに続いた。
ただの塊だ。
大司教にとっては、唯のしもべ、唯の音楽家の一人に過ぎぬ。
天からは羽毛のように雪が降り、時折狂ったように風に舞いあがって落ちる。身の温もりがその度わずかずつでも失われて、ゆく。
その中にまだ、その塊は動こうともせず。
いや、ようやく顔を上げた。
「……目障りな真似をするな」
しゃがみこんでいたその男の頭から、輝く茶金の髪の上から、さらさら落ちるそれは確かに雪だ。相当に積もっている。
空は重く黒いのに、積もった雪のためか景色の色はむしろ、鮮やかさと艶やかさを増したようにも見えていた。
「はっ……」
ゆらり、ヴォ/ルフ/ガングは笑んだようだった。
「ようやくお出ましですか。随分とお待ち、いたしました、よっとっ……」
ばっと、そして。雪よりも白い、白い白い輝きが、まるでその男の手から放たれたように空に舞った。
一つ一つ、一枚一枚。舞った後、だが意志を持ったかのように風にさらわれず、落ちる。
落ちる。落ちた。
その一枚を、大司教はゆっくり身をかがめ手に取る。
微かに雪が、指に触れた。
「あんたのお望みの、フーガですよ猊下。春よりも美しく、光よりも気高い……!!」
旋律が紙の中、黒く黒く踊っていた。

117:5/6
11/01/21 02:46:10 zxTwFfGF0
「……。」
「どうだ。……僕を侮辱したことを、撤回しろ」
「……何を、無礼な」
「あんた、フーガの一つも書けないだとか、僕を侮辱しただろう……謝るのは、あんただ!」
そう、あまりにも礼儀知らずな若者。
ヴォ/ルフ/ガングはくっきり、冷え切った指をこちらに向けた。その先に既に輝く何かで、こちらを斬り裂かんほどの勢いで。
みすぼらしいコートから、穴のあいた粗い布地のズボンから、雪が落ちる。
「……愚かな。貴様は……私のしもべに過ぎぬ。しもべにこの私が、頭を下げるだと?」
「はっ…!」
落ちる。落ちる。
「……だけどあんたは、僕の音楽には逆らえない!」
輝く。煌めく。
「僕は音楽だ!」
ヴォ/ルフ/ガングは、その名の通り吠えた。肩から髪から、さらさらと降り積もった雪がこぼれた。
「……。」
目尻から耳へうっすらと赤みが走っている。切れ上がった目が、彩られていた。
瞳には変わらず星が宿る。激しく燃え上がり、その輝きをどうにも抑えきれぬように身もだえている。
張りつめた肌はそれ以外驚くほどに白く。そして声は高らかでくすみなく。
これほどに無礼な若造の曲など、と。普段なら一笑に伏していただろう。
だがその時手の中の芳しい喜びを、大司教は知らず知らず、握りしめただけだった。
二人の間には雪がただ落ち続けるだけ。
神を凌駕する天才。
奇跡の子。星の子。いや星そのもの。
「パパだってそうだ!あんただって……、結局、僕の才能だけを愛してる!!」
それが瞬間、弾け飛ぶように叫んだ。
「僕の、才能、だけ……!!」
そしてゆっくり墜ちるのを、指先が緩やかに墜ちてゆくのを、大司教はただ見守っていた。
そしてゆっくり墜ちた時。瞳は揺らがずにこちらを睨みつけていたが。
そしてゆっくり墜ちきった時。
胸に踊る炎のように湧き出たその感覚のことを、何と呼ぶべきであったのか。

118:6/6
11/01/21 02:54:18 zxTwFfGF0
熱く猛り、それでいて喜びに近くくすぐったいようで、力強く叫ぶようなそれ。
父親に何を言われて来たのか、知らぬ。だがあの堅物が、自由すぎる息子に酷い説教を喰らわせる姿など、容易に想像がつく。
この若造は、それを何度も味わってきたはずだ。
それでも何時も、父の後ろを慌てて追っては、その顔色をうかがっていた。
この星は叫んでいる。
今望みをかなえれば、星を手にすることが出来る。
その術を知って、大司教の中の感覚は勢いを増した。
「……もし、私が」
自由で、朗らかに、気高く、煌めくまま、愛されたい。愛されたい。愛されたい。
「貴様の、才能だけでなく……このまま」
このままの僕を愛してほしい。
手に取るように叫ぶ星。
「……身も心も、愛してやると言ったら?」
ならば星はこの手に宿るか。この手の中永遠に、神の手にすら渡すことなく輝き歌い続ける。
それは甘美で、至福のこと。
たとえ神を裏切ることで、あったとしてもだ。
ゆっくり今度は、大司教の指がヴォ/ルフ/ガングを指した。
言葉は落ちず、ヴォ/ルフ/ガングの耳に届いた。そのはずだった。
何故なら瞬間で、冷え切った眦が、見開かれた瞳が、理解したと赤みを増す。
身も心も。甘美な響きだ。
それはどちらにとっても、ひどく甘美で淫靡な響きだった。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!


大司教は天才児に固執し過ぎだと思うんだ。

119:風と木の名無しさん
11/01/21 21:00:36 upQKvBEeO
>>113
わああああっ!神!神!
まさかM!で萌えてる人が自分以外にいるとは思わなくて驚いてるw
ありがとうございます…!
わーっ、ここが2ちゃんでなければw

120:白い吐息が消えぬ間に 1/8
11/01/22 01:27:56 WvDjBBB30
生 ラクGO家 煙草に関するオムニバス
めだか(赤)×らくだ(雨)/焦点・紫緑(+合点×焦点(灰))


|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

【めだか×らくだ】

吐く息が白く濁ってまた空気に溶ける。その白さは何となく煙草を連想させた。
一日に何十本も吸う訳ではないけれど、欲しくなる瞬間は一日の内に何度もあった。
煙草の害はよぉく知っているけれど、人通りも耐えた午前二時。これくらいは大目に見て貰えないだろうか。
誰にだろう。空の上からこっちを覗き見しているかも知れない、悪趣味な人にだろうか。
隣を歩く三つ歳嵩の弟弟子をちらりと盗み見る。
「ちょっと待て」
「どうしたの?」
「煙草吸わせろ。もうちょっと行ったら、歩き煙草禁止区域だったろ」
「よくそんなの覚えてるね、兄さん」
ただでさえ丸い目をさらにまん丸に近付けた志らくに、そんなのマナーだろと言い返しながらコートのポケットに
入れておいた煙草を取り出して咥えると火を点ける。オイルの残りが少ないライターは、中々火を灯さなかったけれど、
三度目で小さな炎が立ち上がりほっとした。此処まできて吸えなかったら怒るよ、俺。
あんたにマナーを語られたくはないという最もなご意見を無視しながら大きく吸い込んだら、軽い筈の煙草なのに
やけに咽喉に沁みた。
「兄さん、携帯灰皿持ってんの?」
「持ってるよ」
「似合わねぇな。でも貸してね」


121:白い吐息が消えぬ間に 2/8
11/01/22 01:28:36 WvDjBBB30
言いながら士ラクも煙草を取り出して、一本唇に挟んでから、ぱたぱたとコートのポケットを叩く。
どうも探し物はないらしく、視線が此方を向いた。
「ライターも貸して下さい」
「いいけど」
点くのかなぁと思いながらも手渡してやると、士ラクも何度かカチカチと音を立てて奮闘する。けれどライターは
先程その役目を終了していたのか、今度は火を灯す事はなかった。
否、もうちょっとやってれば点いたのかも知れないけれど。
早々に諦めた士ラクは仕方が無いという風に言った。
「火、貰うよ」
煙草を咥えたまま、顔が近付く。思わず息を止める。煙草の先が触れ合う。乾燥した葉っぱにじりりと火が燃え移る。
昔かけていたものよりも随分と洒落た黒縁眼鏡のレンズの向こうの、士ラクの伏せた睫毛が街灯の下小さく影を
落としているのが見えた。
近付いた時と同じ唐突さで距離が離れる。ちゃんと火は点いたらしい。常にない近さに一瞬固まった自分が何となく
悔しかったけれど、顔には出さずに鷹揚に構える。バレてんのかも知れないけど。こいつの事だし。
「ありがとうございます」
「お前が勝手に盗ってたんじゃねぇか」
「貰うよって言ったよ、わたしは」
「うんって言ってないだろ、俺は。盗人だけだけしいな」
「だから一言入れたって言ってるだろ。もう耄碌して耳聞こえなくなってきたの? わたしより年下なのに」
「うるせぇ、たかだが三つだろうが。この歳になりゃ関係ないだろ」
「はいはい、そうだね。あんたが生意気なのは一生変わらないんだろうし。あーあ、出会った頃は見た目だけは
線の細い可愛い兄さんだったのに、今じゃブタさんだし、時の流れは残酷だね」
「お前だってそうだろ。女共から『カワイー』なんて言われて調子に乗ってた癖に、しゃらくせぇ」
 言い合いにもならない、ただの言葉のじゃれ合い。普段の俺と士ラクならもっと辛辣で周りが引く位に
言い合うけれど、それも喧嘩でもなんでもなくて、ただのスキンシップの一環。

122:白い吐息が消えぬ間に 3/8
11/01/22 01:29:16 WvDjBBB30
あれを目の当たりにして俺達が仲が悪いと思う人も居るらしいが、そんなのは見る目がないだけだ。
べたべた馴れ合うつもりは毛頭ない。これが俺と士ラクの距離。他人様には測れなくて当たり前だ。
立ち話は煙草一本分。言葉にして確認しなくても、多分こいつもそう思っている。
禁煙者の肩身はどんどん狭くなり、増税は財布を圧迫する。しかも咽喉を使う商売の俺達が揃いも揃って煙草を
呑んでいるのは褒められたものではないだろう。あれだけ稼いでいるんだから増税の所為ではないだろうけど、
志の輔兄さんだって禁煙をするご時勢だ。けれどうちの師匠や、士の輔兄さんを見ていれば、煙草が噺家にとって
害のあるものだとは到底思えない。師匠曰く、禁煙なんて意志の弱い奴がやる事だそうだから。
士ラクの吐いた煙が風邪に流される。俺のも同じで、流れて消える寸前の煙はどちらが吐いたものか分からない。
「人から火ぃ盗んだ煙草、上手い?」
「人から火ぃ貰った煙草、上手いですよ」
しれっとした顔で言い返す士ラクに妙に安心してしまうのはどうしてだろう。
後半分程度になった煙草の先が息を吸う度に赤く燃えるのを惜しむ気持ちが少し湧く。だから気付かれない程度に、
ゆっくりと残りの半分を灰にした。

123:白い吐息が消えぬ間に 4/8
11/01/22 01:29:51 WvDjBBB30
***

【紫緑】

長年の習慣は中々抜けないもので、長年深く付き合ってきた煙草と縁を切ってもうすぐ一年になるというのに、
まだ何となく手が勝手にが箱を捜してしまう瞬間がある。
収録の合間の小休止。楽屋の机の上を滑った指先が無意識に捜していたものではなく、まだほんのりとした暖かさを残した
湯呑みに触れた時、唄丸ははっと顔を上げた。
そして、目が合う。
揶揄う風な、それでいて微笑ましく細められている様な、そんな柔らかい視線。
「……何時から見てたんだい」
「そりゃもう、ずっとですよ。俺が師匠から目を離す事がある訳ないじゃないですか」
「あんたが目を離せないのは、どこぞの美女じゃないんですかね」
「たい平じゃあるまいし、言掛かりですよ」
間髪入れずに飛んできた『それこそ言掛かりですよ!』の声を宴樂は無視し、唄丸は分かっているからと目線だけで返す。
たい平だって本気で怒っている訳ではないので、それで十分だ。
 唄丸が無視をするのは、樂ちゃんの病気がまた始まったねと肩を竦めている固有三と公樂の面白がっている視線。
もう慣れっ子だ。
「こんなに何時も師匠に熱い視線を注いでいるのに、そんな疑いを持たれちゃうなんてまだまだ足りないんですかねぇ」
「そういう軽口はよしなさいよ」
「本気なんですけどね」
「余計に悪いよ」
「まぁまぁ、そう照れずに。口ではなんと仰っていても、師匠のお気持ちはちゃんと分かっていますから」
 何処までもポジティブシンキングで笑顔を見せる宴樂に、唄丸は呆れて嘆息する。
分かり易く好意を向けてくれるのは嬉しいし、年の離れたこの友人を大切に想う気持ちは負けてはいないという自負もある。
そうでなければ一年に及ぶ長丁場だった襲名披露にあそこまで付き合って全国を回ったりはしない。
宴樂の『分かっている』はそういう事だ。ただ表し方が違うだけで。

124:白い吐息が消えぬ間に 5/8
11/01/22 01:30:26 WvDjBBB30
「でも……もうすぐ一年ですね」
「そうだね」
「ようやく俺も煙草を吸ってらっしゃらない唄丸師匠に慣れました」
「そうかい。あたしはまだ自分で慣れてませんけど」
「慣れてくださいよ」
苦笑いを浮かべて嗜めた宴樂が自分の身体をとても心配してくれているという事は、唄丸にだってよく分かっている。
それでもやっぱり煙草を恋しいと思う時間は一日の内にあって、どうしようもない。やめると誓ったからには、
貫き通すつもりだけれど。
話を向けてみたのは、吸えない苛立ちの八つ当たりではなくて、ただの悪戯心。
「どうだろうね。禁煙は一生続けてナンボだって言いますからねぇ……ねぇ、翔太さん」
「何で俺に振るんですか。俺が煙草に縁がないの、師匠だってご存知でしょ」
唄丸と宴樂の会話が盗み聞く気がなくても聞こえていたのであろう翔太は、いきなり向けられた水に戸惑った。
洒落たフレームの眼鏡の奥のつぶらな瞳を怪訝そうな色を浮かべている。
一見そうとは見えない人の悪そうな笑みを浮かべた唄丸は、平坦な口調を心がけた。
「あんたにはないかも知れないけれど、今、身近に禁煙を頑張っている人がいるって噂を小耳に挟んだんでね。
ちょいとご忠告。一生続けてナンボって事は、周りのサポートも一生ですよ」
「何で俺が士のさんの面倒を一生見なきゃいけないんですか」
「誰も士の輔さんだなんて言ってませんよ、ねぇ、樂さん?」
「言ってませんね。それじゃ駄目じゃん、翔太」
勿論宴樂は唄丸の味方で、最近活動を潜めているブラック団の絆はかくも脆いものかと露呈させる。
ああっと大げさに頭を抱えた翔太は恨みがましく唇を尖らせたけれど、五十を過ぎた男がしても可愛くないと
一刀両断に切り捨てられた。最も、それを可愛いと思うのであろう人間が、揶揄の種になっているのだけれど。
「思い浮かべちまったんだから、仕方が無いと思って助けてあげなさいよ」
「そうだよ。どうせ士の輔は今、一年で一番忙しい時なんだろ?」
「だからこの前も飲みに行きましたよ。息抜きさせてあげようって」


125:風と木の名無しさん
11/01/22 01:33:23 jyAcJDWzO
支援

126:白い吐息が消えぬ間に 6/8
11/01/22 01:35:22 gP+tsKgn0
「あんた達、息抜きじゃなくてもしょっちゅう飲みに行ってるじゃない」
「ゴルフだって付き合う約束してますよ」
「あぁ、そりゃ親切だね」
翔太は自発的にゴルフをしない。最近は誘われればホールを回るらしいけれど、相手は主に士の輔だ。
翔太曰く『友達の少ない士の輔さんに付き合ってあげている』状態らしいけれど、全く持って素直ではない。
やらないゴルフをする様になる程度には、一緒にいて楽しいのだと、その行動が告げているのに。
何を張り合う気になったのか、急に宴樂が唄丸に向き直る。
「俺だって師匠の釣りにお付き合いする覚悟はありますよ」
「……翔太さんだったら覚悟とかなしに一緒に行ってくれそうだけど」
「あ、釣りなら全然オッケーですよ。今度一緒に行きま……なんでもないです」
隣に居る男がどんな視線を翔太に向けたのかは見なくても分かって、唄丸は大げさに溜息を落とす。
まったくいい歳をして悋気の強いのも困ったもんだね……とぼやくその胸中に、もう煙草の事はなかった。


127:白い吐息が消えぬ間に 7/8
11/01/22 01:35:58 gP+tsKgn0
***

【合点×焦点(灰)】

仄暗い夜の道のその先で、ヘンゼルとグレーテルの置いた小石みたく道標のように灯りを燈している自販機が
飲料水のものなのか、そうではないのか。
士のさんの視線はぼんやりとそれに吸い寄せられている。
最後の店でちょっと飲み過ぎたからお茶でも欲しいなぁ、などと思っていないのは明白で、どうせ「あー、
煙草吸いてぇなーっと考えてるんだろうというのは、手に取る様に予想が出来た。
何でも人生三回目の禁煙なんだそうで、その単語だけでもう「駄目じゃん」って気持ちになる。三度目って事は、
二回失敗してんだろあんた、なんだし。でもまぁその前にやってた時は年単位で止められていたのも知っているから、
今度も失敗しますよーっとは言い切れないし、この人の身体を考えれば止められるに越した事はない。ただ煙草の害と、
吸えないストレスのどっちが身体に悪いのかは知らないけれど。思い返せば師匠や兄弟子、弟弟子も吸ってる人達が
多いんだよねー、この一門は。
ふと思い出した言葉を舌のに乗せたのは、散々揶揄われた意趣返しを元凶に向けてみたかったからだ。
「あのさー、志のさん、知ってる?」
「んー、何を?」
「禁煙って、一生続けてナンボなんだってさ」
「……知ってる」
罰の悪そうな顔になった志のさんが可愛い。意外と顔に出る。というか、俺の前だから気ぃ抜けて出ちゃってる。
士のさんのこういう無防備さは愛おしい。
誤魔化す為になのか、自慢なのか、士のさんは威張って言った。
「一応言っとくけど、続いてるんだからな」
「知ってるよ。あんた、今日会ってからでも一本も吸ってないじゃん。それに大体士のさんの性格だと、一本吸ったが最後で、
『あああ吸っちまったぁ!』って自暴自棄になって前よりひどい本数になんのが目に見えてるじゃない」
「よくご存知で」
「長い付き合いだしね」
本当に長いよ。出会って二十七年だもん。それはそのまま、お互いの噺家人生に重なる。最もこんなに
仲良くなったのは出会って十年目くらいからだったけど。


128:風と木の名無しさん
11/01/22 01:37:47 KTPxIiqL0
支援

129:白い吐息が消えぬ間に 8/8
11/01/22 01:45:27 jyAcJDWzO
その間の数年を除いて、ずっと士のさんからは煙草の匂いがした。何時も同じ銘柄の、キャビンの赤い箱。
飛行機の禁煙席でも隠れて吸おうとする様なヘビースモーカーの士のさんが吸っていると、
俺にとっちゃ美味しくない煙草も、妙に美味そうに見えて不思議だった。前にそんなに美味しいのって聞いたら、
お前にゃ解んないよって言われちゃったけど。間接的になら、その味を知っている。
「長い付き合いだから、煙草の匂いしない士のさんって、変な感じするよ」
「あー、俺も自分でそう思うわ」
「だよねぇ……くしゅんっ」
続けようとした言葉はくしゃみになって飛び出した。コートの前をしっかり締めていても寒いものは寒い。
少し笑った士のさんが冬の間は咽喉の保護にと絶対に手放さないマフラーを外して、俺の首にくるりと巻いてくれる。
頬に触れた柔らかい肌触りと同じ位にその手は優しい。
けれど簡単に甘えは出来なくて、慌てて返そうとした手はやんわりと止められてしまう。
「いいよ、俺、大丈夫だし。あんたも咽喉大事にしなきゃ。パルコの公演まだ半分あるんだし」
「今年は禁煙してるから、何時もの年より咽喉の調子いいんだよ。大人しく巻かれとけ」
囁く様に言いながら、顔を覗きこんできた士のさんの唇が掠める様に一瞬だけ触れる。道端で……と睨んだら、
レンタル代だと軽口でいなされる。
「気前いいね」
「翔ちゃんが高いのは分かってるからな。まだ払ってくれるっていうなら拒まないけど?」
「……馬鹿」
触れたい、触れられたい。往来じゃんって気持ちとの間でゆらゆら揺れる。寒いんだから暖かいものが
欲しくなるだろうってのは言い訳だろうか。
身長分の十数センチ。踵を上げれば埋めるには十分。
迷って迷って……暗がりの中コートの袖を引く。嬉しそうに笑った士のさんに胸の奥がきゅっとなって、
見ていられなくなって目を閉じる。さっきよりもほんの少しだけ長く、熱を分け合う。


130:白い吐息が消えぬ間 9/8
11/01/22 01:48:51 jyAcJDWzO
マフラーに微かに残る煙草の匂い。煙草の味がした口づけを、何時か懐かしく思う日が来るのかなぁ、とぼんやりと考える。
離れた唇の間から落ちた二人分の吐息が白く濁って交じり合って、空気に溶けた。


□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
途中で連続投稿規制ひっかかったのと
バイさるさんにもひっかかったのでのでID変わりました。
手間取ってすみません。


131:時間外診察 1/6
11/01/22 11:42:07 JMZg1aRv0
ドラマ紅将軍の外線 将軍+愚痴
先日のSPの流れは踏んでいません…

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

 病気が周囲に伝わってからは、早見は暇を持て余していた。
 北への異動までは救命を任されているが、体調を気遣うメンバーは早見に極力時間を作らせ、
何とか休ませようとしている。
そのおかげで、8時出勤17時帰宅、昼休憩はきっちり1時間と言う、
医者になってからは信じられないくらいの規則正しい生活を送らされていた。
 医師になって十数年、救命のセンター長になってから五年余り。
自分だけの生活、プライベートは無かったようなものだから、
急に出来た時間をどう捌いていいものか早見はわからない。

 今日も今日とて、早見は17時ぴったりに救命を追い出されていた。
心配そうな顔で華房と出水に「しっかり休んでくださいね」と言われれば、
さすがの早見も「ああ」と頷くばかりでそれ以上は口に出来ない。

正直なところ、処置室や自分の司令室に居た方が心休まる。
しかし散々迷惑をかけた上、それでも自分の身体を本気で心配している部下に そんなことは言えなかった。
 家に帰ったとしても少ない荷物の整理はとっくについていて、することは無い。
余りにも手持ち無沙汰な早見は、ふと愚/痴/外/来のことを思い出す。
勤務する病院内で行ったことの無い場所の一つであり、
これからも訪れることの無いであろう場所。


132:時間外診察 2/6
11/01/22 11:43:03 JMZg1aRv0
 そう言えば、自分が起こしたゴタゴタが一応収束してから、
キチンと多愚痴に礼を言っていなかったことに早見は気付いた。
それに白取が愚/痴/外/来で出る珈琲の美味さについて、やけに語っていたことも思い出す。

「ちょうど良い機会かも知れない」
そう思った早見は、帰り支度を終えた身体を愚/痴/外/来へ向かわせた。

 早見は少し疲れた顔で時計を確認した。
 既に17時30分。
 わかりづらい場所にあるとは聞いていたが、ここまでとは……と早見はこめかみを揉む。
十数年も勤めている勤務先で軽く迷子になるとは考えもしなかった。
おかしいような惨めなような気分が、早見の口元に笑いを作る。
このままさ迷っているのも無駄なように思えたので、今日のところは断念して帰ろうと思い立ち、身体を反転させた。
視線が移るその先に、今まで迷子になりながら探していた部屋の主が、やけにぼんやりとした表情で立っていた。
「こんなところでどうしたんですか? 早見先生?」

133:時間外診察 3/6
11/01/22 11:44:17 JMZg1aRv0
「そうでしたか。言ってくだされば、僕が救命まで迎えに行きましたよ。
ベテランの看護師さんでさえ、ここの場所を知らない人もいるんですから」
多愚痴は早見の前に珈琲を置きながら、笑って言った。
 早見は無事、多愚痴の先導により目的の場所にたどり着いていた。
この歳で迷子になっていた姿を見られていた情けなさはあったが、
先ほどの多愚痴の言葉に少し安堵する。

「そうか。看護師も知らないのなら、俺がわからなくても当然だな」
苦笑しながら、多愚痴から出された珈琲に口つける。
尖りの無い上品な香りが、鼻を抜けていった。

「美味い」
「富士原さんが定時で帰っちゃったので、少し煮詰まっているかと心配したんですけど……」
「それでも、その辺の下手な喫茶店より美味い。白取が絶賛するのもわかるな」
 会話の中で出てきた人名に、多愚痴は顔を歪めた。
そんな多愚痴の様子に、早見は内心首を傾げる。

「あの人はここを自分専用の喫茶店か何かだと勘違いしてるんじゃないですかね。
この間も来るやいなや、挨拶もなしに『愚ッ痴ー、珈琲』ですよ!まったくもう!」

共通の知り合いの傍若無人さを理解してもらおうと、多愚痴は早見に愚痴のような形で訴えた。
愚/痴/外/来の主でも、誰かに愚痴を聞いてもらいたいこともあるのだな、
と早見は珈琲を口に運びながらぼんやりと考える。


134:時間外診察 4/6
11/01/22 11:45:16 JMZg1aRv0
「それにあの人、この間の救命関連の事件のときも、ずーっとここに泊まっていたんですよ!七輪や冷蔵庫まで持ってきて」
多愚痴のその言葉に、早見は堪らず表情を崩し、噴き出した。
「あいつ、ここに泊まってたのか!?どおりで、四六時中病院内にいると思ったら……」
笑いと驚きが混ざり合った様な早見の表情に、多愚痴もふっと気を緩める。
そして、こんな辺鄙な場所にある自分の城に来てくれた客に対して、
ぐちぐちと愚痴を言っていたことに多愚痴は気付いた。

「あっ、すみません、早見先生。せっかく来てくださったのに、自分の愚痴を聞かせてしまって」
 多愚痴は申し訳なさそうな表情で早見に謝った。
「いや、あいつのお守りは大変だろうからな」
早見の言葉は本心で、だからこそ、別に構わないと言うように速水は手を振る。
そんな早見の様子に多愚痴はほっとし、早見同様珈琲を口に運んだ。あれ、と、珈琲を啜る二人の間に流れたある程度の沈黙の間を破ったのは、多愚痴の声だった。
「早見先生はこんなところに何の用事があったんです?」

最近は救命でも、精神的ケアが必要な患者は少ないし、
何かあれば内線一本で済む話。
わざわざ救命の長がのこのこと、しかも私服で訪れるような場所ではないことは確かだ。
何かやらかしたかな?と記憶を巡らせる多愚痴に、早見は声をかけた。

「いや、大したことじゃない。ただ、先日の俺が引き起こした救命関連の出来事で、
多愚痴先生にはずいぶんと迷惑をかけたからな。礼を述べに来た」
言葉が終わると同時に、軽く頭を下げる早見。

 思いもよらなかった早見の行動に、多愚痴は困惑しつつも、直ぐに首と手を横に振った。
「よして下さい。顔を上げてください、早見先生。
僕だって早見先生をはじめ、救命の皆さんにはお世話になったんですから」
そこで一旦言葉を止め、嫌な顔をしながら
「それに、白取さんだって救命の皆さんに嫌な思いをさせて、沢山迷惑をかけたんですし……」
と続けた。


135:時間外診察 5/6
11/01/22 11:46:10 JMZg1aRv0
そんな多愚痴の言葉に苦笑をもらした早見は、手にしている珈琲カップに視線を落とした。
そして、真面目な、しかしどこかここではない遠くを見るような表情を浮かべる。

「正直な話、アイツを不快に思ったことは幾度と無くあった。
だが、アイツと多愚痴先生がいなければ、俺は今ここに居れたかどうかもわからない」
 もしかしたら生きていなかったかもな、と言う早見の言葉にどう答えていいのかわからず、
多愚痴は悲しそうな寂しそうな顔をした。

「俺は独りで戦っているつもりだった。俺独りでも、自爆テロぐらいすれば、
少しでも状況は変わると思ったんだが……。現実ではそう上手くはいかないようだ」
自嘲気味に話す早見に、多愚痴はでも、と口にする。
「でも、早見先生が捨て身同然で動いていなきゃ、
きっと白取さんは監査の時点で帰っていました。
早見先生が水面下で必死になって頑張っていたからこそ、
白取さんも何かを受け取って動いたんだと思います。
あの人も今後の医療を真剣に考えている人ですから」
 そう話す多愚痴の顔には早見へのねぎらいと賞賛、
そして、これまで様々な事と戦ってきた相方への深い信頼が読み取れた。

「そうか……。だからアイツは戦ってこれたんだな」
少しアイツがうらやましい、と多愚痴に聞こえない程度の音量で呟き、
そうそう見られない柔らかい表情を早見は浮かべ、珈琲を飲み干した。


136:時間外診察 6/6
11/01/22 11:49:45 JMZg1aRv0
読み取れない早見の言葉とめったに見られない表情に、
不思議なような驚いたような多愚痴に向かって、
「しかし、愚/痴/外/来と言われているだけあるな。
多愚痴先生のせいで、話すつもりも無いことまで口にしてしまった」

そう言い、早見は困ったような顔をする。
 未だ、何がなんだかと呆けている多愚痴だったが、照れたようにふにゃりと笑い、言った。
「でも、ここはそう言うことを話して、心の中をすっきりしてもらう場所ですから」
それに愚/痴/外/来ではありません、と続けた田口に
「そうだった」
と早見はニヤリと笑った。

 鞄を持ち立ち上がった早見に、玄関まで送ります、と多愚痴も立ち上がったが、
「さすがにもう迷子にはならんさ」
と苦笑しながら返されると、
「それもそうですよね」
と多愚痴も可笑しそうに返し、答えるしかない。



137:時間外診察 7/6
11/01/22 11:51:09 JMZg1aRv0
 早見は、立ち上がった多愚痴の頭を唐突にぽすぽすと叩くと
「俺は今暇なんだ。……また珈琲を飲みに来てもいいか?」
と将軍と言う名にふさわしくない、優しい笑みで多愚痴に尋ねた。
「ええ、いつでも」
多愚痴も嬉しそうに早見に笑顔を返す。
 しかし、ふと表情を曇らせた多愚痴は、あ、と声をあげた。
「あ、でも、あんまり僕の頭を叩かないでくださいね。
……そりゃあ、僕が小さいことは自分でもわかっていますけど……」
早見先生や白取さんが大きすぎるんですよ、とうだうだこぼし始めた多愚痴に、
「ちょうどいい高さにある多愚痴先生が悪い」
と早見はニヤリと言い放った。
 少し憤慨したような表情の多愚痴は、ふと何かに気付き、笑いをこらえるような顔になる。
「そう言えば、白取さんもおんなじ様なことを言ってました。
やっぱり、二人は同期で、仲が良いんですね」
 そんな多愚痴の言葉に盛大に顔をしかめた早見を見て、
多愚痴は耐えていた表情を解き、声に出して笑った。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

たしか将軍って外来に来てないですよね?見落としていたらごめんなさい。

138:決戦前夜
11/01/22 12:21:50 VLIoXlVIP
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

俺は、生まれ落ちたときから世界に忌み嫌われていた。
見る者すべてに驚愕と畏怖を抱かせる異形の身体。
母親は自分の産み落とした怪物の姿を見て悲鳴をあげ、闇に葬った。
俺は、ごみ溜めのような街で薄汚い浮浪者たちに拾われた。
生きるために何でもやった。その街では、力を持つ者だけが法だった。
俺を育て犯し続けた男を殺した日、俺はその街の支配者となった。
だが、そんな俺にも生きる道があったのだ。
他のものを圧倒する、純粋な力。
それを求めていたのだと、ある日俺の前に現れた師匠は言った。
厳しい修行が始まった。
だがそれは俺にとっては初めて生を実感できた日々だった。
ぎりぎりまで命を削り、自分の可能性に賭け続け、
思ってもみない特別な能力と、俺を慕う弟のような存在も手に入れた。
俺は、俺の強さをもって、俺を世界に見せつける。
生きる道を与えてくれた師匠をなんとしても世界に認めさせてやる。
第一歩を踏み出す朝。俺は、常に俺の後ろをついてくる兄弟弟子に声をかけた。
「行くぞ、餃子」
「はい、天さん!」

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

139:風と木の名無しさん
11/01/22 14:38:46 Sj9yUGbJ0
>>120
乙乙!!!紫緑萌えなので最高だった!!他のも萌えた!!!!
掛け合いが軽妙でテンポよくてイイ!!

140:風と木の名無しさん
11/01/22 16:29:52 SFo85ERs0
>>131
大好きな組み合わせのSSが棚で読めるなんてありがとう!
将軍にとっても愚痴はいい癒しになるよね
外来訪れる将軍が見られて満足です!

141:風と木の名無しさん
11/01/22 18:52:37 BXHJyoy60
拳を合わせた所で完全にビルドアップだと思ったらまさかのハニーフラッシュだった
服がビリビリに破けて変身する姿が浮かんだのは絶対に私だけじゃない
せっかくサーガネタも出たから、そろそろ羽の生えた王子様とか出てくれないかな
あと、ブロッケンの靴に唾吐いて首はねられた兵士がGの竜馬に見えるんだよ
傷といいモミアゲといい…
でも似たようなパーツ持った人かなりいるからなあ
いくらなんでも主人公の首ちょんぱなんてしないよね

あしゅらについては、もう何も言うことはありません

142:風と木の名無しさん
11/01/22 18:54:50 BXHJyoy60
すみません盛大に誤爆しました…

143:Ruina 1/5
11/01/22 22:08:49 OvdP4fgU0
避難所で少し前に話題になっていたメロ→エメ←シーです
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

ひばり亭、ある日の夕刻。
宿から出かけていたものたちがひとり、またひとりと帰ってきて
ホールは徐々に賑わい始めていた。
先日行われた神殿軍の襲撃とそれに伴う戦争のためしばらく遺跡や門が封鎖されていたこともあり、
冒険者や商人たちはその反動でこぞってそれぞれの商売に精を出しているらしい。
ほくほく顔の商人もいれば、泥まみれでうなだれた様子の冒険者もいた。
しかし皆手には一様にエールを持ち今日の慰めや明日への活力をその杯の中に求めている。
そして、ホールの中を所狭しと埋めているテーブルの中には
その杯を持つには若すぎる者が集った卓もあった。

「異常だろ、アレはよ!?
 なんであの暗いオッサンがエメクに四六時中張り付いてんだ!?
 スパイは止めたんじゃなかったのかよ!!」
「おや、君、いつものスタンスはどうしたのかね。
 メロダークくんが誰に張り付こうが君には関係がないのではないかい」
「大有りだ!!」

シーフォンは、だん、と拳でテーブルを叩いた。
その拍子に湯気の上がるミルクコーヒーのカップが揺れる。
かろうじて零れることを免れたそれに、シーフォンは無造作に角砂糖を二つ放り込み
イラついた様子で音を立てながらスプーンでかき回した。
向かいのテレージャもそれを見ながら自分のカップに口をつける。
彼女は年齢的には飲酒を認められているが、(一応)巫女という立場もあり(普段は)酒を口にすることはない。

144:Ruina 2/5
11/01/22 22:10:04 OvdP4fgU0
神殿のスパイだったメロダークがエメクの殺害を試み、失敗したあげく
何がどうなったのかは当事者以外にはさっぱりわからないが、
そのままエメクへ従者のように付き従うようになってしまったのはつい先日のことだった。

パリスやネルがエメクに尋ねても、本人は言いづらそうに口ごもるばかりで
「仲間の一人が実はスパイでそれに殺されかけました」というとんでもない事実以上に
言ってはまずいことでもあるのかと、周囲の疑問は膨らむばかりだった。
実際のところは、言ってはならないことというよりも、
あの体験をどう説明していいのかエメクやメロダークにもわからないのだった。

そのメロダークが梃子でもエメクの傍を離れようとしないため、
探索のメンバー構成はおのずと限られてくる。
最近では、遺跡の知識と盗賊の技術を兼ね備えたシーフォンが残りの一人になることが多くなっていた。
つまりその様子を最も目の当たりにしている。

「ひとっことも喋らずエメクの後ろにへばりついてよ、気色わりいんだよ!
 スパイじゃなくてストーカーかっつうの!」
「ほほう」

テレージャは、いつもとさほど変わらない穏やかな笑みを浮かべ、
苦々しげな顔をするシーフォンに視線を向けたまま手だけを忙しく動かしている。
かりかりかり。
彼女愛用の羽ペンが翻り、白い表紙のノートに何かを素早く書き付けた。

145:Ruina 3/5
11/01/22 22:11:00 OvdP4fgU0
「大体なんで妖術師の僕様が神官二人のパーティに付いて行かなくちゃならねーんだ。
 テメーが行けよ、お仲間だろ」
「そうしたいのは山々なのだがね。
 流石に得意の重なりすぎたパーティが危険だという事は経験の浅い私にも分かる。ああ残念だ」

テレージャは、少し口元を笑みに緩めたまま
声色は本当に悔しそうにため息を一つ吐いて見せた。

「まあまあ、シーフォンさんも落ち着いて。甘いものでもいかがですか?」

突然、お盆にいくつものプリンを乗せたアルソンが
二人の間ににゅっと顔を出した。

「おや、美味しそうだ。頂こう」
「……ふん」

二人は促されるままお盆の上のガラスの器をひとつずつ手に取る。

「あ、おかーさん、私にもプリン~」
「だから僕、まだお母さんって歳じゃありませんってばー」

アルソンはそのまま呼ばれた方へ戻っていってしまった。
どうやら自分が焼いたプリンをひばり亭の中で配り歩いているらしい。

「うむ、頭脳労働の後の甘いものは格別だね」
「…………」

146:Ruina 4/4
11/01/22 22:12:37 OvdP4fgU0
どこで手に入れたのかは分からないが、味の濃い立派な卵を使い、
あえて少し硬めに焼き上げられたカスタードプリン。
軽く焦がしたカラメルも良い風味で、更にその上へたっぷりの生クリームが乗せられている。
そのクリームとカラメルを同時にほおばり、
シーフォンの眉間の皺が少しだけ緩んだ。

「……とにかく。僕はもうあのパーティはイヤだからな。
 ひとりで潜ってた方がまだマシだ」
「まあそう言わず。エメク君もせっかく君を誘ってくれてるんだろう。
 愚痴くらいならいつでも私が聞いてやるから、行ってきたまえよ」

テレージャは相変わらずニコニコと微笑んで、傍目にも機嫌がよさそうだ。
対照的にシーフォンは、むっすりと膨れたまま無言で口にプリンを運んでいる。

それでも、単なる愚痴や雑談とは言え
あのシーフォンとここまで中身のある会話をするのは、実のところテレージャが最も多かった。
巫女と魔術師、本来ならば敵対しても不思議ではない間柄であるが
彼らは互いに巫女である以前、魔術師である以前にひとりの探究者なのである。
そういう意味では同じ世界に生きるものとして、何か共通の言語のようなものがあるらしい。
ちなみにこれをもっと砕けた言葉にすると「オタク」である。
けして二人ではない彼らは常に同じ世界観を共有している。

「まあな、アイツと行くとイイもんが見つかるのは確かだよ。
 術の系統もかぶらねえし」

まだぶつぶつと何か文句を垂れながら、それでも明日も
誘われれば同じパーティで行くのだろうとテレージャは思った。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
テレージャさんは白表紙のノートを写本にして売り出すべき
ナンバリングミス失礼しました

147:P4 主人公×尚紀
11/01/22 23:07:41 8orl0ZMG0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

柔らかい髪に手を差し入れて撫でると、決まって尚紀は一瞬困った目でこちらを見上げる。
それに笑って応えて、そのまま撫でているとゆっくり身体を預けてくれる。
そうしたら左腕を背中に回して、抱き寄せる。抱き返す尚紀の腕の動きはまだぎこちない。
髪を撫でていた右手も背中に回して、ぎゅっと抱きしめる。
高校一年生、もう完全に大人の体格、顔つきになっている者もいれば、成長しきってない身体、あどけなさの残る顔立ちの者もいる。
どちらかといえば尚紀は後者だ。特に身体はまだまだ細い。抱きしめるとよくわかる。
「尚紀」と耳元で囁けば、「はい」と律儀に返事が返ってくる。
もう一回りは成長するだろう身体に、素直な返事。
何かわるいことをしているような、いたいけな子を誑かしているような背徳感。
堪らない。
密着した身体を離し、赤くなって俯いている顔を顎を取って上げさせる。
眼はまだこちらを見ていない。だから
「尚紀」
もう一度名前を呼ぶ。
ゆっくりと尚紀の瞳が動く、眼と眼が合う。
「いい?」
聞いておいて返事を待たずにキスをした。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
これだけです。ただ、これだけです。

148:風と木の名無しさん
11/01/22 23:32:54 qp8Z1bme0
>>147
( ゜∀゜)o彡゜主尚!主尚!

149:風と木の名無しさん
11/01/23 21:15:31 2CDwB0KG0
>>106
友人君もちょっと報われるといいなあ。

150:不身持1/4
11/01/26 13:45:05 spEGzXHR0
注!三戸校門親分×8でエロ。
30年以上前の再放送で
8が親分の事を好きすぎなのを見て。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!



おいらは、なんて罪深いことをしているんだろう。

今は足を洗ったけれど、
過去には岡っ引きに追われるような悪事もやらかしてきた。
当時反省こそしたが、こんな気持ちになった事はない。
先刻まで飲んでいた酒のせいにして
抵抗しつつも心の奥の己の欲に流されたことに、後悔する。

背後から抱かれ親分の奇麗な指先が全身を這う。
立て膝をついたそこはがくがくと震え、
崩れそうな身体は親分と壁との間に挟まれている。
普段鮮やかに風車を操るその繊細な手に
己の情けない体は悦び、あまつさえ
あられもない声まで上げてしまうなんてもう申し訳が立たない。


151:不身持2/4
11/01/26 13:46:57 spEGzXHR0
「楽にしてな…」
耳元に唇をひっつけたまま囁かれて
思わず仰け反った所に、宛がわれていた熱い塊が押し込まれる。
「っひ…ぁ…っ―!」
「ほーら、力抜かねえか…」
「―…!!」
無理ですって、痛い、痛い、熱い、痛い。
痛てぇと叫びたくても、ひゅっと喉が鳴るだけで。
圧迫感に息もできずこのまま溺れるんじゃないかと思う。

「っはぁ……、は…っ…」
「息ってのは、吸って、吐いてってやるんだよ」
尚余裕の笑いを含んだ声がまた耳元で囁かれる。
痛みと圧迫感に耐えて呼吸を整えていると、
下半身からじわりじわり、今までに感じた事のない
痛みとは違う感覚が沸き上がってきてもうそれどころではない。
「…は…ぁ……は……!」
「ちょっとは、落ち着いたな…」
体を密着させたまま、じっとしていたかと思うと、
両手を後ろから壁に押し付けられて、急に突き上げられた。


152:不身持3/4
11/01/26 13:49:00 spEGzXHR0
「ぅぁあ……っ―!」
羽交い絞めにされて、ゆっくりと
でも確実に奥まで突かれるその度に感じるのは
痛みでは無く、紛れもない快楽。
「く…んぅ……!…っあ…ぉやぶん…っ」
壁に縋りついて唇を噛みしめ、女みたいに溢れる声を我慢しようとするも
また揺さ振られて、一瞬で諦めさせられる。
「っぁ…こんなの、やっぱりいけねえよ…っ」
「おめぇは、今更過ぎるんだよ…」

親分が、こんな事をしちゃいけねえ。
親分が一声掛けただけで江戸だけでもざっと百人が動くっていう凄い人。
人の懐に手を入れて暮らしてきた自分にとっては、雲の上の人だった。
それでもずっと憧れで、大好きで、形振り構わず追い掛け続けてきた。
親分みたいなお人が、おいらみたいな人間と
それ以前に野郎なんかと何かあっていいはずがない。
そもそも、お傍にいるのを許してくれただけでも贅沢な話だった。


153:不身持4/4
11/01/26 13:55:26 spEGzXHR0
「ゃ、あ…っでも―…!」
「…もう余計な口叩かずにいい声だけ出してな…っ」
「ひぁあ…っ……!!」
中を一層強く抉られ、そこからは抵抗など完全に放棄した。

あぁもう二度と高望みしませんから

好意を寄せる言葉など一言も紡いでくれたことはないのに
考え違いなおいらをどうか明日も傍にいさせて下さい。

平生では聞く事のない荒っぽい息遣いと熱い吐息を感じて
親分も少しは興奮しているのだろうかなんて
真っ白になっていく頭にちらりと過った。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

つい勢いで。申し訳なかった。


154:風と木の名無しさん
11/01/26 21:23:01 2PNlDW5c0
>>150
ふおお!萌え滾ったよ、ありがとうGJ!
余裕の親分カッコヨス

155:風と木の名無しさん
11/01/26 22:53:57 2uHpHXe20
>>150
凄いやばい萌えた

156:止まない雨はない 1/7
11/01/29 19:31:27 Tc9OaxuT0
ヒカアキです。いつも感想をくれる方、ありがとうございます
新婚旅行はどうしても書きたかった

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

気がつけば窓外を流れる景色はのどかな田園風景に変わっていた。
空を覆う雲から初夏の白い陽射しが透けて見える。
東京では昨夜から雨が降りしきっていた。
新幹線で梅雨前線を抜けたのだろうか。
自分たちを取り巻く諸々の厄介事からも逃げることができたようで、ヒカルは小さく吐息を漏らした。
「キミの番だよ、進藤」
ぼうっとしていたらしい。ヒカルはアキラの声で我に返った。
窓枠に置かれた小さなプラスチック盤の右上、黒のハネに対し、白もハネて応戦している。
ここはツグべきか中央にオクべきか。
しばし悩んだ末、ヒカルは中央に進出する手を選んだ。
ヒカルの正面でアキラが細い顎をやや引き、考え込んだ。
恐らく、右下の黒石に上からツケるか下からツケるか迷っているのだろう。
アキラなら上ツケを選択するはずだ。
ヒカルとアキラは二列のシートを対面させて四席分を占領していた。
最初はおとなしく並んで座っていたのだが、静岡を過ぎたあたりで我慢できなくなった。
平日の昼間に新幹線を利用する客は少ない。
ヒカルは勝手にシートを回転させ、アキラに向かいに座るよう促した。
アキラは「あとから団体のお客さんが乗ってくるかもしれないだろう」と渋った。
だが、白のカカリに対し、三連星の真ん中にコスんで意表を突くと、黙って正面に座り、あとは何も言わなくなった。
先ほど松永を通過したから、そろそろ新尾道のはずだ。
アキラは予想通り上からツケてきた。
ヒカルはツイで黒を補強した。
その時、目的地到着が近いことを知らせるアナウンスが流れた。
「打ちかけだね」
「ああ」
ヒカルは碁石をくっつけたまま盤を折り、バックパックの外ポケットにしまった。
アキラは腰を上げ、旅行バッグを棚から下ろしている。

157:止まない雨はない 2/7
11/01/29 19:33:46 Tc9OaxuT0
東京からここまであっという間だった。
今打ちかけの対局で四局目だ。
三年前に河合と広島を訪れた際はひどく遠い道のりに思えた。
あの時は河合にずいぶん失礼な態度を取ってしまった。
それだけ子供だったし余裕もなかった。
ヒカルはふと、当時よりもいくらか大きくなった手のひらを見つめた。
今、自分は大人と言えるのだろうか。
十八歳の誕生日まであと三ヶ月。
どんな契約も親の署名と捺印がなければ交わせない。
経済的に自立してはいるが、いまだ実家暮らしだ。
ヒカルの脳裏に行洋の渋面が浮かんだ。
「どうしたんだ、進藤?」
新幹線はすでに停車していた。
アキラは通路に立ってヒカルを待っている。
「なんでもねー」
ヒカルは慌ててバックパックをしょい、アキラのあとに続いた。
別の新幹線に乗り換えて三原駅に向かい、そこからローカル線を乗り継いで尾道駅で降りた。
昼食は三原駅ですませた。
二人は駅前で因島行きのバスに乗り込んだ。
バスは他に地元客を数人乗せ、因島めざして発車した。
「すごい、瀬戸内海を見るのは生まれて初めてだ」
アキラが嬉しそうに窓に顔を寄せた。
凪いだ群青の海に小島が点々と浮かんでいた。
二人は石切神社で参拝したあと、秀策記念館を開けてもらい、中を見学した。
河合と来た時はろくに展示物を見ることもなかった。
アキラは秀策の書やぼろぼろの碁石にしきりに感心した。
秀策の墓前でも熱心に手を合わせた。
ヒカルもアキラにならってしゃがみ、目を閉じて合掌した。
佐為、お前はそっちで虎次郎と打ってるのか。
オレがそっちに行くのはかなり先だけど、また会えたら思いっきり打とうな。
オレ、絶対負けないから。
塔矢がお前と会ったらどんな反応すんのかな。

158:止まない雨はない 3/7
11/01/29 19:35:32 Tc9OaxuT0
やっぱ驚くのかな。
今さらかもしんねーけど、オレと塔矢―。
「いい眺めだな」
いつの間にかアキラは立ち上がり、眼下に広がる瀬戸内海を見下ろしていた。
ヒカルもアキラの隣に並んだ。
以前もこうして瀬戸内海を見下ろしたことがあった。
ヒカルの目から勝手に涙が溢れた。
「進藤、泣いているのか?」
アキラが驚いたように聞いた。
「大したことじゃねーんだ。いろいろ思い出しちゃってさ」
ヒカルは手の甲で何度も涙を拭った。
だが、涙は止まってくれない。
見かねたアキラがハンカチを渡した。
ヒカルはそれで両目をごしごしこすった。
事の発端は先月の囲碁ゼミナールだった。
ヒカルはアキラと同じ仕事が割り振られてはしゃいだ。
それがいけなかった。
同室の真柴にアキラとキスしているところを見られてしまったらしい。
らしい、というのはヒカルがその事実を知ったのが今月に入ってからだったからだ。
それも噂が日本棋院中に広まったあとでようやく聞かされた。
噂を教えてくれた和谷は「気にすんな」とヒカルを励ました。
ヒカルは今まで自分に向けられていた視線の意味を知り、納得した。
と同時に、これだけではすまないと直感した。
しばらくして、アキラから「父がボクたちに聞きたいことがあるそうだ」と電話をもらった。
ヒカルは腹をくくって塔矢邸に向かった。
二人の未成年を前に行洋は回りくどい言い方をしなかった。
単刀直入に「アキラと進藤君は恋人同士なのか?」と尋ねた。
ヒカルは迷わず「はい」と答えた。
「そうか」
そう呟いたきり、行洋は眉間に深い皺を寄せ、押し黙ってしまった。
佐為とネット越しに対局したあの日。
ヒカルはもちろん病院の個室にいる行洋の様子を知らない。

159:止まない雨はない 4/7
11/01/29 19:37:06 Tc9OaxuT0
だが、プロ生命を賭けたあの対局の時でさえ、こんな顔はしなかったのではないかと思えた。
それほど行洋の表情は苦渋に満ちていた。
ヒカルの胸で冷たい不安が頭をもたげた。
行洋にとってアキラは目に入れても痛くないほどかわいい息子のはずだ。
その息子が男と付き合っている。
二人を別れさせることなど行洋にとってはいとも簡単だろう。
修行と称してアキラを中国に連れていくことだってできる。
そうなればヒカルには手も足も出ない。
ヒカルの胃がきりきりと痛んだ。
「お父さん」
アキラの低い声が重苦しい沈黙を破った。
「例えお父さんが反対したとしても、ボクは進藤を選びます」
ヒカルは座布団からどき、その場で土下座した。
「お願いします、塔矢先生。オレと塔矢のことを認めてください」
再び長い沈黙が続いた。
ヒカルがもうだめかと諦めかけたその時、行洋が「いいだろう」と頷いた。
「アキラと進藤君が選んだ道なら仕方がない。私は黙って応援しよう」
「ありがとうございます!」
ヒカルはもう一度深々と頭を下げた。
隣でアキラがほっと息をついたのが気配でわかった。
ヒカルは、サンダルをつっかけて門まで見送りに出てくれたアキラに因島に行かないかと誘った。
「新婚旅行は因島って決めてたんだ」
「新婚旅行か? それはまた大げさだな」
アキラは苦笑したが嬉しそうでもあった。
ヒカルは二人の手合いのない日を急いで調べ、尾道の旅館を予約した。
佐為と虎次郎が共に過ごした景色をアキラに見せたかった。

「塔矢、お前に話したいことがあるんだ」
旅館の大食堂での夕食のあと、部屋に戻ったヒカルは窓を開けた。
雨が降っていたが、東京と違い、不快な熱気はなかった。
一番安い部屋にしたため、目の前に広がる景観は駐車場と古びた商業ビルだけだ。
「なんだ?」

160:止まない雨はない 5/7
11/01/29 19:39:05 Tc9OaxuT0
アキラも隣にやって来て同じように外を眺めた。
「佐為のこと」
アキラは勢いよく顔を振り向けたが、何も言わなかった。
ヒカルはまず、小学六年生の頃、祖父の蔵に盗みに入ったことを告白した。
蔵には古い碁盤があり、碁盤には血の染みがこびりついていた。
アキラは黙って静かに聞いていた。
佐為の名前、入水したいきさつ、虎次郎に取り憑いたこと、それでもなお成仏できずにさまよっていたこと。
話がアキラとの出会いに及ぶと、アキラの肩がぴくっと震えた。
ヒカルは佐為がどれほどアキラを評価していたか、佐為の言葉を忠実に再現して伝えた。
佐為に向いている目を自分に向けさせたいと願ったことも正直に話した。
思えば、それが恋の始まりだった。
アキラを追いかけることでプロになれた。
代わりに佐為に打たせてやる機会がなくなった。
「五月五日だった。すげーいい天気だった」
佐為はさよならも言わずに消えてしまった。
佐為を探すため、ヒカルは秀策ゆかりの地を巡った。
最後に行き着いたのは日本棋院の資料室だった。
そこで神様にお願いした。
佐為に会った一番初めに時間を戻してと。
神様は何も答えてくれなかった。
佐為がいないなら碁を打つ意味などない。
ヒカルは手合いをサボった。
だが、佐為はちゃんといた。
自分の打つ碁の中に。
碁を打ち続けたいと心の底から思った。
ヒカルは心地よい疲労を感じ、サッシにもたれかかった。
雨に濡れた車が電灯の光を反射し、整列した海ぼたるのようにちらちらと輝いていた。
アキラを窺うと、真剣な眼差しで遠くを見つめていた。
その端整な顔にかかった黒髪が風で音もなく揺れた。
「まあ、すぐには信じらんねーとは思うけど……」
「信じるよ」
アキラはヒカルの言葉を遮って目を戻した。

161:止まない雨はない 6/7
11/01/29 19:41:07 Tc9OaxuT0
「キミの言うことだ。信じるよ」
その瞳に余計なものは一切なかった。
アキラが自分の正気を疑うわけはないとわかってはいた。
だが、やはり断言してもらえたことは心強かった。
「オレ、佐為にはすげー感謝してるんだ。佐為のおかげでお前にも碁にも出会えたんだもんな」
「ボクも感謝しなきゃね」
アキラは顔にまとわりつく髪をかき上げた。
「キミに出会えなかったらひどく寂しい人生を送っていたと思う」
「なあ、塔矢、一緒に住まないか? 塔矢先生にも認めてもらえただろ。それに、これは新婚旅行なんだし」
ヒカルは上目遣いでアキラを見た。
「いいよ、住もう」
アキラは微笑んで頷いた。
「よっしゃ。じゃあ、帰ったらさっそく雑誌を買わなきゃな。あと不動産屋にも行かねーと」
「進藤」
「ん?」
「話してくれてありがとう」
「オレの方こそありがとな、責めないでいてくれて。東京に戻ったらまた変な目で見られるだろうし、
いろいろ陰口叩かれるだろうし、根も葉もない噂だって立てられるだろうし……」
「ボクは気にしない。周りがとやかく言えないほど強くなればいい。それはキミだって同じだろう?」
「ああ、そうだな」
ヒカルはアキラの首に腕を回した。
「塔矢、お前がいてくれてほんとに嬉しい」
「ボクも嬉しいよ」
アキラもヒカルの背に腕を回し、そっと抱きしめた。
「進藤、ボクはキミを一人にしない。どんなことがあっても消えたりしない。いつまでもキミのそばにいる」
「ずりーぞ、塔矢。それ、オレが先に言おうと思ってたのに」
ヒカルは笑いながらぼろぼろと涙をこぼした。
「つらかったね、進藤」
アキラは幼い子供をあやすように優しく背をさすった。
「うん、すげーつらかった」
ヒカルは涙を溢れるに任せた。
「よく頑張った」

162:止まない雨はない 7/7
11/01/29 19:43:25 Tc9OaxuT0
「自分でもそう思う」
アキラがおかしそうに笑った。
ヒカルはアキラの髪に顔をうずめて泣きじゃくった。

翌日、早めに宿を出た二人は慈観寺、糸崎八幡宮、宝泉寺を訪れ、新幹線で帰京した。
その日の夜、ヒカルは両親にアキラとの関係をカミングアウトした。
行洋からはすでに許しを得ていることも伝えた。
両親は相当ショックだったようで、絶句したまま口をぽかんと開けていた。
「オレ、塔矢と一緒に住むから」
ヒカルはそう言い残し、二階に上がった。
ジャージに着替えていると雨が降り出した。
勢いはたちまち強まり、室内は雨粒が世界を叩く音で満ちた。
ヒカルはベッドに潜り込み、目を閉じた。
陰気な雨音も今は快く聞こえた。
雨は降るが、じきに止む。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

163:1と9 1/7
11/01/31 01:50:57 lZblzaW20
某神話モノのAA小説の弟者×兄者です。ほぼ愛なし鬼畜で色んな意味で痛い電波です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

俺と同じその顔は滅多に表情を変えることはなく。
俺と同じその声音は殆どの場合抑揚がなく。
俺と全く同じ遺伝子のはずなのに。だけれど。だからこそ、
だから。

俺は、兄者が嫌いだ。


二人分の体重を支えるベッドからぎしりと悲鳴が聞こえる。
そろそろ買い換えるかなあ。まあ、いざとなったら床ですればいいか。
そんなことを考えながら組み敷いた兄を見下ろすと、そいつは平坦な声でぽつりと呟いた。
「ベッド、壊れるぞ」
ああ、こんな微妙なところでシンクロとかどうなんだよ。
つーか今この状況で相変わらずの無表情とかほんと死ね。

「いいんだよ、そんなの……それより、」
ぞんざいに言いながらスタンドに手を伸ばし、ペン立ての中に紛れ込ませた銀色のそれを目の前に突き出す。
「これ、何だと思う?」
兄はしばらく考え込んでから「医療器具?」と答えた。まあ、一応正解だろうが。
「ハズレ。これはぁ」

兄のズボンに手をかけ、下着ごと一気に引きずり下ろす。
一瞬だけ身体がびくりと反応したような気がして一気にテンションが上がった。
「兄者のここに突っ込む用の棒だよ」
意地悪く耳元で囁き、兄のペニスの尿道口を指でなぞる。
衝撃的であろうことを告げられた反応を伺おうと顔を覗き込むと、さっき身体が震えたのは完璧に気のせいだったのかやはり相変わらず能面だった。
「なるほど、カテーテルというやつか。だが生憎俺はそういう病気では「もういい黙れ死ね」

164:1と9 2/7
11/01/31 01:52:17 lZblzaW20
こいつと話しても時間の無駄だ。……昔から分かっていたことだが。
俺は言葉責めを諦めてさっさと目的を遂行することにした。
左手で兄の萎えたペニスを掴み、右手で通販で買ったばかりの尿道バイブを構える。
それは拡張用でもあるらしく、サイズの違うものが5本セットになっているお徳用だった。
しかし俺の目的は拡張ではないので、今手にしているのはその中で一番大きな物である。
俺の目的。兄者を組み敷く目的はいつも同じだ。
それは愛とか快楽とかでは断じてない。そんなの想像するだけで身の毛がよだつ。
俺の目的。ただのストレス解消。
それは、けれど俺にとっては非常に重要な大切なことだった。

「なあ、弟者」
兄が何かを言いかけた。
しかし俺は既に話すをする必要はないと結論を出した後だったので、それを無視する。
「お前はどうして―」
俺に何かを問いかけようとしたらしい言葉は最後まで発せられることはなかった。
兄の口からはその代わりにひゅっと間抜けな音をした息が零れ落ちる。

何の予告も予備動作もなく、強引に尿道にバイブを突っ込んだ。
本当は消毒したりローションを塗ったり、色々面倒なことをした方がいいらしいがこいつには必要ないだろう。
尿道用にしてはそれなりの太さを持ったそれは少し挿れたところで進みにくくなったので、ぐりぐりと回転させながら文字通り捻じ込んでいく。
奥へ奥へと押し進める度に兄はくぐもった呻き声を上げた。
それが無性に面白くて、持ち手まで全部挿れてやろうと俺は益々力任せにバイブを押し込む。

「うっ、ぐ……ぁ゛っ」
ああ、愉しい。なんて愉しいんだろう。
この兄の家族として、弟として生活を送らなければならない日常のストレスが、兄が苦痛の表情を浮かべる度に少しずつ癒されていく。
それにしても。
普段の忌々しい無表情を歪めることが目的なら、やはり兄には快楽よりも苦痛の方がいいらしい。
一度精液が出なくなるまでヌいてみたが反応はすこぶる悪かった。
きっと不感症に違いない。だから無駄に可愛い彼女がいるくせに童貞なんだ。

165:1と9 3/7
11/01/31 01:53:30 lZblzaW20
……なんだかまた腹が立ってきた。後でディルドでも注文しておこう。
「あ゛、い……ちょっ、お、弟者……」
尻穴用とか初心者用とかもあるらしいが、俺は兄想いだから膣用の極太サイズにしておいてやろうかな。
「ぃ、いたい。こ、れ、ちょっ、とっ……マジで痛いんだが」
こいつのことだからもし腸が裂けたって絆創膏でも貼って放っときゃ次の日には治ってるだろ。
「っ、弟者、弟者、痛い。痛いって」
「……んだよ、うるさいな」
話さないと割と最近決めたばかりだったのに、あまりにもうるさいのでつい反応してしまった。
「痛いです」
「痛くしてんだよ」
「なん……だと……」
何故かショックを受けたような口ぶりの兄を尻目に、バイブのスイッチを入れる。
殆どが尿道に埋まったそれは、電子音を立てながら軽く振動しはじめた。
「ぅあっ……おっ、弟者、ま、まって。タイム、タイム」
「うるさいと言ってるだろう」
兄が呻き声の合間にしきりに制止を訴える。今までは殆ど無反応でこんな反応はなかった。
そのことに戸惑う反面、マグロだった兄がささやかながら抵抗する姿に殊更被虐心をそそられる。
やはり思い切って買ってよかった。次からはSMでいこう。
「こ、これ、は、性行為、だよな?」
「……まあ、一応そうだな」
「じゃ、あっ、……うっ……なん、で……」
分からない。分からないと兄はしきりに繰り返す。
「何が分からないんだよ?」
「性行為、とは、好き、だからっ……やる、ん、じゃ……」
「は?」
「好きなの、に……ぁ゛っ、んで、痛い、ことっ、」
一瞬思考が飛んだ。飛んで大気圏に突入した。
何こいつこわい。
もしかして俺が自分のことを好きだと思ってた?
俺が自分のことを好きだから親や妹者が留守の度に強姦してるんだと思ってた?
だから今まで抵抗しなかった?
なにそれこわい。

166:1と9 4/7
11/01/31 01:55:55 lZblzaW20
「……実は俺、変態なんだ。朴念仁な兄者は知らないかもしれないけど、そういう愛もあるんだよ」
俺は上半身を起こして辺りを見回した。
調度ギリギリで手が届く位置に殺虫スプレーがあった。あれでいいか。
「変態、なのは、し、ってる……」
スプレーを手に取る。中身はまだたっぷりと入っているようで、ずしりと重い。
少し勿体ない気がするが……まあいいか。
「そう、か。なら……っ、仕方、……」
噴出口を上に向ける。
勿体ない。でも、調度いいんじゃないか。
ほら。これならもしかしたら消毒代わりになるかもしれないこともないかもしれないしな。
まあ多分無理だろうが。
「んなわけないだろう」
兄の下半身を持ち上げる。
尿道で暴れ続けるバイブの振動に身体は強張っていたが強引に両脚の間に入り込んだ。
「―ッ?!」
スプレーの噴出口を肛門に挿れた途端、兄は目を見開き声のない悲鳴を上げる。
続いて人差し指と親指も突っ込んでなんとか引き金を引くと小さく聞き慣れた音がし、それと同時に兄の身体が跳ね上がった。
それが面白くて、俺は反応がなくなるまで何度も繰り返す。
やがてそれにも飽き、スプレーの本体も押し込もうと兄の脚を左右に力いっぱい広げた。
ごきり、と嫌な音がした。
兄がなにやら言っているが当初の予定通り聞こえないことにした。
スプレーの底を思い切り殴りつける。
ぶつり、と嫌な音がした。
構わず何度も殴り続けえるとスプレーは半分以上埋まった。
今度こそ兄は普段からは想像もつかない高い声で悲鳴を上げる。
うるさいな。近所迷惑だ。
ハンカチとティッシュを丸めて兄の口に詰め込む。
すると悲鳴は呻き声に代わり、それはやがてすすり泣くような声になった。
すごい。こんな兄は初めて見た。
いつもこんななら、ちょっとは好きになれるかもしれない。
……いや。それは有り得ない。
俺が俺で兄が兄である限り。

167:1と9 5/7
11/01/31 01:57:27 lZblzaW20
「お前なんて、好きなわけないだろ。化け物のくせに」
兄が虚ろな目で俺を見上げる。その弱々しい姿が。まるで人間のように苦痛に涙を流す姿が。
ひどく、愉しい。気持ちいい。ゾクゾクする。
「どういう思考回路をしたら自分が好かれてるなんて思えるんだ?化け物のくせに」
「どうして泣いてるんだ?化け物のくせに」
「痛いのか?化け物のくせに」
「それとも俺に嫌われてると分かってショックだったのか?化け物のくせに」
化け物。化け物。化け物化け物化け物化け物。
俺はこわれたように、呪いのように「化け物」と兄を罵った。
「……違うな。お前が化け物なのは事実なんだから」
罵ってなんかいない。そう、ただ本当のことを言っているだけ。
なのに兄は目を細めて俺を見た。まるで傷ついたように。否定するかのように。
「どうしてそんな顔をするんだ?こんな時にまで人間の真似はやめろよ、気持ち悪い。化け物のくせに」
けれど兄は人間の真似をやめない。化け物のくせに。

兄が、こいつが人間の真似をするのが一番嫌だった。
全て知っている俺の前ですら人間の真似をやめることはない。
それが一番嫌だった。
俺と兄は同時に生まれて、顔も同じで声も同じで遺伝子も同じで、なのに俺が1で兄が9というただそれだけで、
兄がその本性を、その本音を俺の前に、ただの人間である俺の前に晒すことは永遠にないのだ。
きっとたとえそれが、遠い過去であっても遠い未来であっても。
どんな時間軸のどんな俺であったとしても。
それが一番嫌だった。
けれど俺がどんなに兄に詰っても、1と9はあまりにも遠すぎて―

「―う、ぐ、ぅううぅっ!」
今までの鬱憤を全て込めたような渾身の力でスプレーを殴ると、それはやっと全て兄の胎内に埋まった。
兄は糸が切れたようにぱたりとベッドに突っ伏し動かなくなる。
肛門と尿道から流れ出た血で出来た血溜りに倒れている姿はどう見ても死体だが死んではいない。
どうやら気絶したようだ。化け物のくせに。
掃除するのも面倒くさいので、尿道にスイッチONのバイブが、尻に殺虫スプレーが刺さったままというシュールな状態の兄を放置して俺は友達の家へ避難することにした。
……まあ、俺は兄想いだから、教団には連絡しといてやろう。

168:1と9 6/7
11/01/31 01:58:22 lZblzaW20
**************************************

「俺はれっきとした人間だぞ?」
自らの血で出来た血溜りの中に、俺は蹲っていた。
これのどこが人間なんだ、化け物め。
口の中で何度も「化け物」と毒づく。
兄はそんな俺を見透かしているのかいないのか、またさっきのムカつく笑い方をして見せた。

「なぁ、弟者」
兄が何か糞難しいことを言っている。
けれど傷を負った部分があまりにも熱くて中々頭の中に入ってこなかった。

「もうすぐ俺はこの時間を修正して、お前とのこの全てをなかった事にする」
ああ、そうか。
なら今度はもっと良い関係を築けたらいいな。
次の俺は今の俺を覚えていないだろうが、せめて今この時間軸の捻じ曲がりきってしまった俺たちよりは。

「折角だから、俺の精神の安定と、ある一つの可能性を引き起こす為に
忘却するお前への選別に、俺の胸の内を少しだけ聞かせてやろう。兄として」
―?
今、なんて。

『恨めしい。憎らしい。羨ましい。』
確かにそう言った。
兄が俺のことを、恨めしいと。憎らしいと。羨ましいと。

169:1と9 7/7
11/01/31 02:00:27 lZblzaW20
「……なんだよ、それ。化け物のくせに」
いつだって本音を見せないで。ただの人間に過ぎない俺を見下して―。
なのに、羨ましい?
羨ましいのは俺の方だ。
今だって、この時間を覚えているのは兄だけで、俺は忘れてしまう。
せっかく兄の本音を知れたこの時間を、兄の手によってもうすぐ忘れてしまう。

兄が笑う。世界が歪み、闇に包まれる。世界が変わる。
もう終わりか。今の俺と、今のこの感情とは永遠にさよならか。
ならばその前に、と目前の兄に手を伸ばすが届かない。
人間が欲しがる物を全て持ってるくせに俺の何がそんなに羨ましいのか聞きたくて。
笑っているのになぜ今にも泣き出しそうな顔をしているのか聞きたくて。
あの時、何を言いかけたのか聞きたくて。
引き千切れそうなほど精一杯手を伸ばす。けれどやはり届かない。
『割合が9:1ではなく7:3であったならば』
さっき兄はそう言った。
俺が3ならば、この手は届いただろうか?
いっそ0ならば、こんな苦しい思いをしてまで手を伸ばそうともしなかったのだろうか?
けれどどの時間軸でも、俺が俺で兄が兄である限り俺は1で兄は9で。
そして、1と9ではあまりにも遠すぎて―伸ばした手は、きっと永遠に届くことはないのだろう。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

書き忘れた…
弟者は自分と兄者の出自も全部知ってる時間軸な話です

170:風と木の名無しさん
11/01/31 02:49:39 KN3hfQKp0
AA系はスレが多くて元ネタが気になりまくってもなかなか割り出せないのが残念だ…

171:風と木の名無しさん
11/01/31 09:29:05 UtAyZUvD0
>>156
またヒカアキが読めて嬉しいです
若いなりにお互いを支え合うラブラブの二人もいいですねー!
萌えましたありがとう

172:シゲコマ←ヤナ1/9
11/01/31 14:32:52 gnTNzpAw0
日テロドラマ刑事犬です。
シゲコマはセフレですが残念ながらまだ出来上がっておりません。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ソレデハ オオクリシマース!

その夜、大捕り物を終えた警視庁刑事部捜査一課第八凶行犯捜査殺人捜査十三係の面々は傷の手当てを終えると、
ある者は飲みに、ある者は官舎に、ある者は家族の待つ自宅へと各々に消えていった。
それを見送り、デスクに一人残った柳誠士郎は、はぁっと大きくため息を吐く。
今日は別れた妻が引き取った愛息の誕生日だった。
プレゼントを贈るどころか、会うことすら叶わない。
そんな切なさを噛み締めながら、一人報告書の記入を進めて行く。
キャリアながら面倒な事務作業を若手に押し付けず引き受けるのは、人の温もりのない暗い部屋に帰るのを嫌ったからだ。
さらに言えば、しこたま取られた慰謝料と養育費を稼がなければならないという理由もある。
「はぁぁぁぁ…。」
黙っていると我知らずため息がこぼれる。
胸の奥をキュンと締め付けられながらも、キーボード上の指先を動かせば、見かけによらず優れた事務能力を備えて生まれてしまったせいで報告書の製作はあっという間に終わってしまった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…。」
柳は大きく肩を落とした。
こんな事ならもっとダラダラ作業をすれば良かった。
時計を見ればまだ九時を少し回った所だ。


173:シゲコマ←ヤナ2/9
11/01/31 14:35:17 gnTNzpAw0
できることなら家には寝に帰るだけでありたい。
まだまだローンの残る、一人暮らしには大きすぎる2LDKのマンションのあちこちに、一人息子の影を探してしまうから。
こうなったら未解決事件の資料でも読み込んで時間を潰す…もとい、残業代を稼ごうと、ヤナギは席を立った。



資料室は十三係の詰め所の一階上、南の端にある。
デジタル全盛の時代にあって、まだまだ紙媒体での書類が山ほど残るその部屋は、いつでも古いインクと紙の匂いが立ち込めている。
さながら、図書館のような雰囲気があった。
ヤナギはその扉を開けた事を、後にひどく後悔する事になる。
その日、資料室はいつものインクと紙の匂いに混じって、微かに甘い女の香水のような匂いがした。
立ち入った婦警の残り香かなにかだろうと大して気にも留めなかったヤナギは、そのまま扉を閉め資料室の中に足を踏み入れた。
「二〇〇八年、葛西臨海公園殺人事件…葛西臨海公園殺人事件…。」
目当ての事件を小さく呟きながら、キャビネットの間をゆっくり進んで行くと、奥の方で何やら人の気配を感じてヤナギはビクッと身を竦めた。


174:シゲコマ←ヤナ3/9
11/01/31 14:36:30 gnTNzpAw0
『…やめっ…バカッ、…ンっ…』
『…うるさい。』
どこかで聞き覚えのある声が、ヤナギの耳に密やかに届く。
「ん?」
ヤナギは眉を潜めた。
大きな身体を小さく屈めて、刑事の身のこなしで対象に静かに迫る。
『無茶ばっかしやがって、お前みたいな捜査の仕方じゃ命がいくつあっても足りない。』
『そんなヘマするか。いいから離せッ!』
大きな影が小さな影を捕らえるように、資料の詰まったキャビネットに押し付けていた。
そこから逃げ出そうと、小さな影が必死に抵抗している。
『こんな傷作ってよくもそんな口が利けるな。』
『ちょっと弾が掠めただけだ。』
ああ、なんだ、いつものケンカか。
それなら巻き込まれないうちにさっさと逃げるべし。
幾多の経験からそう思い、ヤナギが二人の影に背を向けると、妙に淫靡な濡れた音が静寂に包まれた資料室に響き渡る。
『ぅッ、あっ…舐めんな、バカっ!』
聞いたこともない甘い声に、思わず振り返ってしまった。
『俺に断りもなく怪我して来た罰だ。』
『な…んで、いっつも…違う女の匂いさせてるようなお前に…一々断り入れなきゃいけないんだっ…!』


175:シゲコマ←ヤナ4/9
11/01/31 14:38:35 gnTNzpAw0
『首も絞められたって?赤黒く残ってるじゃないか、痕…。』
厚く空を覆っていた雲が晴れ、現れた丸い月が、庁舎の外から二人の姿を明るく映し出す。
『許せないな。』
低くそう言ったシゲムラは、コマツバラの白い首筋に口唇を寄せて強く吸い付いた。
『や…めっ…はなせって…ッ』
上着は肩からずり落ち、襟元のボタンはいくつか外され、
ネクタイも緩められている。
引き出されたシャツの裾からは、シゲムラの手が図々しく差し込まれて、弄るように蠢いていた。
『シゲ…ッ、ァッ、』
震える細い指先で必死にシゲムラの身体を押し返そうとしているコマツバラの眼鏡の向こうの目が、薄っすら浮かんだ涙に頼りなく揺れている。
長めの髪は乱れ頬を隠し、薄情そうな赤い口唇は半開きで熱い吐息を零していた。
ヤナギは目の前で繰り広げられる光景に唖然とし、ポカンと口を開けながら、それでもつい見入ってしまった。
止めろと抵抗しながら、シゲムラに身体中を弄られ、キスをされるコマツバラは、反面、ヤナギがこれまで見たことのないイイ顔をしていた。
きれいだと思ったし、なんか可愛いなと思ったし、何より、ああ、きっとこの人は目の前の相手に恋をしている。
そう思った。

176:シゲコマ←ヤナ5/9
11/01/31 14:40:28 gnTNzpAw0
独り身になって早半年、そろそろ自分も恋をして構わないだろうか?
いや、むしろしたい。
きっとしよう。
二人の先輩の痴話喧嘩兼情事に妙な希望と決意を胸に抱きつつ、気付かれる前に邪魔者は退散しようと背を向けた時。
「ヤナー。」
背後から低い声で名前を呼ばれた。
ぎょっとして振り返ると、シゲムラがニヤリと笑いながらこちらを見ていた。
「シシシ、シゲさんっ!」
蛇に睨まれた蛙の如く、ヤナギは恐ろしさに身が竦んで動けない。
「あっ!て、て、てめぇヤナ…!いつからそこにっ!」
耳まで赤くしたコマツバラがひどく動揺した様子で、こっちを見ている。
「え~っと…その……しばらく前から…?」
「しばらく前だぁ?」
「ででででも大丈夫です!大丈夫!このことは口が裂けても誰にも言いませんから!ていうか言える訳ないし!」
「いっそお前も共犯になるか?どうだ一緒に。」
必死に両方の手の平を振って、だから許して下さいと懇願するヤナギに、余裕綽綽な笑みを浮かべてそう誘って来るシゲムラの目は全然笑ってない。
それがまた一層恐ろしいのだと、ヤナギはこの時はじめてシゲムラに取り調べられるマル被の気持ちを理解した。


177:シゲコマ←ヤナ6/9
11/01/31 14:42:12 gnTNzpAw0
「い…いえ…ご遠慮させてもらおうかなぁ…なんて…。」
「ふざけんな、つうかいい加減放せ!」
シゲムラの腹にドカンと一発蹴りをお見舞いして、その腕の中からなんとか逃げ出すと、コマツバラは乱れた格好のまま、ビシッとヤナギを指差して言った。
「いいかヤナ、お前誰にも言うんじゃねぇぞ!わかったな!?」
「は、はいぃぃぃ。」
その迫力にヤナギは思わず土下座で頭を下げてしまう。
「それからシゲ!お前今度職場でこんなことしやがったらぶっ飛ばすからな!覚えとけ!」
「どうかな…。」
「覚 え と け !!」
怯えるヤナギと、どこ吹く風のシゲムラを残し、コマツバラは細い肩を無理やり怒らせてズカズカと去っていった。



178:シゲコマ←ヤナ7/9
11/01/31 14:43:42 gnTNzpAw0


資料室には男二人が取り残された。
「………あのぅ………」
ビクビクしながら見上げれば、シゲムラはコマツバラが去っていった薄暗い通路をじっと見つめている。
小さな背中の面影を追うように、優しく目を細めて。
それもまたヤナギがはじめて見るシゲムラの顔だった。
「可愛いだろ、あいつ。」
「はぁ…。」
「素直じゃないんだ。」
「はぁ…。」
「なんだよ、その気のない返事。」
「はぁ…。」
「まぁいい。ただ、あいつにだけは惚れるなよ。万年気が休まらなくなる。」
後ろ手に手を振りながら、妙な脅し文句を残してシゲムラもまた資料室を出て行く。
今、ヤナギは激しく後悔している。
こんな事なら無理に残業なんてしないでとっとと家に帰るべきだった。
見てはいけないものを見、知ってはいけないことを知ってしまった。
明日からどう二人に接すればいいのか。
というよりむしろ、より一層二人に絡まれることになるであろう日々を思えば、今から気疲れしてしまう。


179:シゲコマ←ヤナ8/9
11/01/31 14:45:03 gnTNzpAw0
そしてなにより、忘れられないのは月明かりに照らされたあの白い肌。
残された口付けの痕と、一瞬響いた甘い声、吐息。
涙がちの目でシゲムラを見上げ、誘うように睫毛を伏せたコマツバラの艶めいた顔。
「ヤバイ、どうしよう…。」
ヤナギは頭を抱えてその場にうずくまった。
確かに、恋をしたいと思った。
確かに、恋をしようと思った。
そして多分、恋をした。
その途端に失恋したような気もするが、何よりその相手に驚いてしまう。
「あああぁぁぁぁ…どうしよう…。」
風に乗って流れて来た雲がまた月を隠す。
「どうしようぅぅぅぅぅ~………。」
薄暗くなった資料室で一人悶絶しているうちに、時間は過ぎ、その日ヤナギは終電を乗り過ごした。





180:シゲコマ←ヤナ9/9
11/01/31 14:47:58 gnTNzpAw0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、オオクリシマシタ!

ヤナはコマさんの幻影を消すべく、
「俺はあのコが好き俺はあのコが好き、てゆうか俺デブ専!」と、
必死に自分に暗示をかけながら交通課婦警さんに恋してるフリだといい…。
盛大なるナンバリングミスと、1/9伏せ忘れ…どうぞご容赦下さい…orz


181:風と木の名無しさん
11/02/01 07:38:45 USQ2/ybb0
>>180
面白い!かつ納得して萌えた、GJ

182:風と木の名無しさん
11/02/01 10:30:43 1Y3nr9Mo0
>>180
GJ!
ツゲさんに翻弄されまくるコマもヤナも可愛い上、コマのエロさがよく伝わる!
今後の△に期待して正座で待ってます!

183:風と木の名無しさん
11/02/01 17:00:12 2ZZP+/lm0
>>180
普通にドラマとして楽しんでたのに目覚めたありがとう

184:大/航/海/時/代/4 ユキヒサ×イアン 1/4
11/02/01 18:04:18 0cxxb9Ia0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )昔のゲームから!デフォでゲーム内でやられかける受に乾杯

濡れた声が室内に響く。
波にゆれる船内で、まぐわる二人。
「っ…あ!あっ、ユキ…ヒサ、あーっ!!」
腕をつかまれて、中に入れられて揺さぶられる。頭の中が火花が散るような快楽に、イアンはしばらくもだえていた。やがて来る絶頂。
二人は同時に達し、イアンはぐったりと今いる副官室のベッドの上に横になった。
シーツを握り締め、荒く息をつく。
ゆるいウェーブの金髪に白い肌、女みたいな容姿ゆえにこんな思いは何度もしてきた。
今の提督と知り合う前。
ユキヒサと知り合う前。
自分が提督として父の船団を率いていたとき、そしてその後船が難破して路地裏で何人もの男に犯された。
そのまま明に売り飛ばされて、見世物小屋で遊ばれる宿命に合ったのを、今の提督が拾ってくれた。
なのに。
斬り込み隊長である日本人のユキヒサは、彼の過去をしらない。
今も冷たい目で、袴をただし、副官室を出て行こうと、イアンに背を向けた。
「ユキ…ヒサ…」
着物の端を、イアンがつかんだ。
ユキヒサのことは嫌いじゃない。嫌いだったら抵抗する。
自分を拾ってくれた提督の一員だから。
「なんだ」
「……。そばに、いて欲しい」
冷たい視線が、服が乱れているイアンを見つめる。
ぱっと袖を振り切ると、そのまま去ろうとする。
残念そうに見つめるイアンに振り向くと、ユキヒサは言った。
「そこまでする義理はない」
「…ん」
ふ、と長いまつげを伏せると、枕にぼしっと顔を伏せた。
乱れた毛布も直して、本格的に眠りに入る。
懐中時計を見てみれば、夜中二時半だった。
これが日常。
真夜中にいつもの仕事を終え、一部の人間が眠っているのを見届けると、ユキヒサが入ってくる

185:大/航/海/時/代/4 ユキヒサ×イアン 2/4
11/02/01 18:05:03 0cxxb9Ia0
いつからだろう…いつからだっけ…。
イアンは一人、毛布の中で思い出しかけていた。



「いやだ!!」
気がつけばうりとばされて、そこは明の見世物小屋だった。
どさっと物置に押し倒されて、あごをすくい上げられた。
「あんたさ、売り飛ばされたんだ。結構な高値だったんだ、せいぜいその体で稼いでくれよ?」
「やっ…!!」
その手をどけて、あとずさる。
われながらなんと情けない。武器がなくては太刀打ちできない。
せめてその指を噛み千切ってやればよかったと思うが、体がいうことをきかない。
身体で稼ぐ?
男に犯されて、それを見世物にされる?
それとも単純に変わった容姿ということで、売られるのだろうか。
金髪に青い目なんて、この港町ではそう大して特殊でもないが、それでも希少なのは確かだ。
それに女性のような、それでも身長は高いが、この顔つきは相変わらず魅力的に映るようだ。
キィ、と、物置小屋の戸が開いた。何かを男が男に言伝しているのを聞いて、す、と隙ができた。物置から脱兎のごとく、光を求めて脱出すると、見世物小屋の外に出た。
「おっと」
たまたま通りかかった、いかにも日本人らしい格好をした男が歩いていた。後から追っ手が来る。この男なら腕が立ちそうだ。刀を携えているのが見える。
「頼む、助けてくれ!!」
「?」
「船に乗ってたら一服盛られて、見世物小屋に売り飛ばされたんだ!あっ、あの男たちから助けてくれ!」
「船に?」
男のこめかみがぴくりと動く。
話を聞いてるうちに、相手が近くまで走りよってくる。
ガッと手首をつかまれたとき、その男がゆらりと動き、紅い刀身のそれを取り出した。
魅了されるような刀だった。妖しい魅力のある、使い手を選ぶような刀。
ここで売りに出されている普通の刀とは違うことは明らかだった。
追っ手も、その男が刀を身構えたことに、うっと後に引き、手を離した。
「おまちなさい」

186:大/航/海/時/代/4 ユキヒサ×イアン 3/4
11/02/01 18:06:24 0cxxb9Ia0
凛とした声が響いた。
まさにその男が警戒していたときだった。
後ろから現れたのは、二十代かと思われる、ショートカットの中国人の女だった。
さらにその隣にはフランス人と思われる男と、五十代の中国人の男がいる。
「提督…」
「え…」
刀を身構えた男が、その体勢のままつぶやいた。
「貴方…船に乗っていたといったわね」
その女が、イアンをしげしげと見つめて聞いた。
「?は、はい…。父の商船を率いて…、その後難破して乗った船でここまで来たんですが、売り飛ばされたようで…」
われながら言ってて情けない。
「ふう…ん。よし、分かったわ、貴方たち、この人は私が買い取るわ。いくらがいい?」
「ええっ!!」
イアンはその提案に驚いて身を引いた。
だが見世物小屋の男たちは相談しあって、足もとを見たのか、とんでもない額を請求してきたが、彼女はその提案を受け入れた。
中国人の男に何かを頼むと、即座に金を持ってきて、その場で交渉成立してしまった。
「さ、て。貴方。名前は?」
「イアン…イアン=ドゥーコフです」
「みたところ貴方頭よさそうね。ま、一服盛られたのはちょっと警戒心が甘かったのかしら?どう?副官の仕事やってみない?あ、私はマリア=リー。この日本人はユキヒサよ」
刀を鞘にしまったユキヒサが、イアンをちらりと見た。ふい、と後ろを向いて、とことことどこかへ去る。
それに気づいたイアンが、ユキヒサの腕をつかんだ。
「なんだ?」
不機嫌そうなユキヒサが、イアンのほうをむいた。いつもこんな感じなんだろうか。だとしたらちょっと苦手かもしれない。イアンはそう思いながらも、助けてくれたことに、お礼を言おうとした。
「礼ならいらん」
「何か、えっと、ユキヒサの、したいことなんでもいい、とにかく、…ありがとう」
何か、と、ユキヒサの唇がその形を作った。
ふ、と笑うと、イアンの耳元で何か言ったが聞き取れなかった。

こうしてこのあたり一帯を占めるリー家の仲間入りをしたイアンは、恩を返すように働いた。その仕事振りは最初の数日で見事に評価されるほどだった。
その容姿からも、通るたびに何人かが声をかけてきたが、前のようになるのはいやだったので、無視してきた。ただ、ユキヒサにだけは心を開いた。
容姿なんてくだらない。


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