モララーのビデオ棚in801板63at 801
モララーのビデオ棚in801板63 - 暇つぶし2ch2:風と木の名無しさん
11/01/07 02:09:56 HsU8doP00
★モララーのビデオ棚in801板ローカルルール★

1.ノンジャンルの自作ネタ発表の場です。
書き込むネタはノンジャンル。SS・小ネタ・AAネタ等801ネタであれば何でもあり。

(1)長時間(30分以上)に及ぶスレ占拠防止のためリアルタイムでの書き込みは控え、
   あらかじめメモ帳等に書いた物をコピペで投下してください。
(2)第三者から見ての投下終了判断のため作品の前後に開始AAと終了AA(>>4-7辺り)を入れて下さい。
(3)作品のナンバリングは「タイトル1/9」~「タイトル9/9」のように投下数の分数明記を推奨。
   また、複数の書き手による同ジャンルの作品判別のためサブタイトルを付けて頂くと助かります。
(4)一度にテンプレAA含め10レス以上投下しないで下さい(連投規制に引っかかります)
  長編の場合は10レス未満で一旦区切り、テンプレAAを置いて中断してください。
  再開はある程度時間をおき、他の投稿者の迷惑にならないようにして下さい。
(5)シリーズ物の規制はありませんが、連投規制やスレ容量(500KB)を確認してスレを占拠しないようお願いします。
   また、長期連載される書き手さんはトリップを付ける事を推奨します。
(参照:トリップの付け方→名前欄に「#好きな文字列」をいれる)
(6)感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬や、書き手個人への賞賛レスはほどほどに。
   作品について語りたいときは保管庫の掲示板か、作品が収録されたページにコメントして下さい。

※シリーズ物の規制はありませんが、連投規制やスレ容量(500KB)を確認してスレを占拠しないようお願いします。
※感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬はほどほどに。
※「公共の場」である事を念頭にお互い譲り合いの精神を忘れずに。

相談・議論等は避難所の掲示板で
URLリンク(s.z-z.jp)

■投稿に当たっての注意
1レスあたりの最大行数は32行、タイトルは全角24文字まで、最大byte数は2048byte、
レス投下可能最短間隔は30秒ですが、Samba規定値に引っかからないよう、一分くらいがベターかと。
ご利用はテンプレをよくお読みの上、計画的に。


3:風と木の名無しさん
11/01/07 02:14:02 HsU8doP00
2.ネタ以外の書き込みは厳禁!
つまりこのスレの書き込みは全てがネタ。
ストーリー物であろうが一発ネタであろうが
一見退屈な感想レスに見えようが
コピペの練習・煽り・議論レスに見えようが、
それらは全てネタ。
ネタにマジレスはカコワルイぞ。
そしてネタ提供者にはできるだけ感謝しよう。

  / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  | ネタの体裁をとっていないラッシュフィルムは
  | いずれ僕が編集して1本のネタにするかもね!
  \                           | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄V ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  | | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| . |
                               | | [][] PAUSE       | . |
                ∧_∧         | |                  | . |
          ┌┬―( ・∀・ )┐ ピッ      | |                  | . |
          | |,,  (    つ◇       | |                  | . |
          | ||―(_ ┐┐―||        |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   |
          | ||   (__)_), ||       |  °°   ∞   ≡ ≡   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄







4:風と木の名無しさん
11/01/07 02:14:56 HsU8doP00
3.ネタはネタ用テンプレで囲うのがベター。

別に義務ではないけどね。

テンプレ1

                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  モララーのビデオを見るモナ‥‥。
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  きっと楽しんでもらえるよ。
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | | □ STOP.       | |
 | |                | |           ∧_∧ ヒトリデコソーリミルヨ
 | |                | |     ピッ   (・∀・ )
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |





5:風と木の名無しさん
11/01/07 02:23:47 HsU8doP00
テンプレ2
          _________
       |┌────┐|
       |│l> play.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]
   ∧∧
   (  ,,゚) ピッ   ∧_∧   ∧_∧
   /  つ◇   ( ・∀・)ミ  (`   )
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |            ┌‐^───────
  └───│たまにはみんなと一緒に見るよ
                └────────
          _________
       |┌────┐|
       |│ロ stop.      │|
       |│              |│
       |│              |│
       |│              |│
       |└────┘|
         [::::::::::::::::MONY:::::::::::::::::]

                 ピッ ∧_∧
                ◇,,(∀・  ) ヤッパリ ヒトリデコソーリミルヨ
.  (⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒)
  |                                 |
  └────────┘


6:風と木の名無しさん
11/01/07 02:24:49 HsU8doP00
テンプレ3
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 生 ||             ∧(゚Д゚,,) < みんなで
        //_.再   ||__           (´∀`⊂|  < ワイワイ
        i | |/      ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 見るからな
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ"
               ,-、
                 //||
            //  .||               ∧∧
.          // 止 ||             ∧(゚Д゚,,) < やっぱり
        //, 停   ||__           (´∀`⊂|  < この体勢は
        i | |,!     ||/ |           (⊃ ⊂ |ノ~
         | |      /  , |           (・∀・; )、 < 無理があるからな
       .ィ| |    ./]. / |         ◇と   ∪ )!
      //:| |  /彳/   ,!           (  (  _ノ..|
.    / /_,,| |,/]:./   /            し'´し'-'´
  /    ゙  /  /   /                    ||
 | ̄ ̄ ̄ ̄ |,,./   /                 /,!\
 |         |   /                   `ー-‐'´
 |         | ./
 |_____レ


7:風と木の名無しさん
11/01/07 02:26:15 HsU8doP00
テンプレ4

携帯用区切りAA

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

中略

[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!

中略

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!




8:風と木の名無しさん
11/01/07 02:27:02 HsU8doP00
 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | 僕のコレクションに含まれてるのは、ざっと挙げただけでも
 |
 | ・映画、Vシネマ、OVA、エロビデオとかの一般向けビデオ
 | ・僕が録画した(またはリアルタイムな)TV放送
 | ・裏モノ、盗撮などのおおっぴらに公開できない映像
 | ・個人が撮影した退屈な記録映像、単なるメモ
 | ・紙メディアからスキャニングによって電子化された画像
 | ・煽りや荒らしコピペのサンプル映像
 | ・意味不明、出所不明な映像の切れ端
 \___  _____________________
       |/
     ∧_∧
 _ ( ・∀・ )
 |l8|と     つ◎
  ̄ | | |
    (__)_)
       |\
 / ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | 媒体も
 | 8mmフィルム、VCR、LD、ビデオCD、DVD、‥‥などなど
 | 古今東西のあらゆるメディアを網羅してるよ。




9:風と木の名無しさん
11/01/07 02:28:46 HsU8doP00
   |__[][][][]/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   | ̄ ̄ ̄|   じゃ、そろそろ楽しもうか。
   |[][][]__\______  _________
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || |       |/
    |[][][][][][][]//|| |  ∧_∧
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ || | ( ・∀・ )
   |[][][][][][][][]_||/ (     )
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   | | |
              (__)_)




10:風と木の名無しさん
11/01/07 10:55:02 jRpzdx8Z0
>>1乙!

11:風と木の名無しさん
11/01/08 03:40:48 6q/H8eZoO
>>1
ようがんばった
>>1あんたは偉い

12:流恋情歌 Part2 1/7 ◆SIw6ke0ny6
11/01/08 14:48:53 5WUSeI7aO
>>1乙です。
前スレ>>427の続きで、時代劇「参匹がKILL!」より、素浪人の殿様×仙石。
訳あって殿様がオカマちゃん風味。エロなし。
全三回投下の二回目です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


しぶる親父を拝み倒してその夜は飯屋に宿を借り、翌日ふたりはまた色街の近くに訪れた。
親父に梅乃屋まで言づてをしてもらうと、おきみから事情を聞いた女達が、老婆の目を盗んで代わる代わる船着き場まで足を運んだ。
女達は死んだ筈のお絹と話が出来る喜びや、薄情な千吉への恨みごとを口にし、それぞれの目に涙を浮かべていた。
別れがたい女達の願いと、旅仲間と待ち合わせをしている都合もあって、ふたりはしばらくこの土地に留まることにした。
そうなると宿代や飯代を稼がねばならず、あちこち訪ねて運よく、柄の悪いやくざ者に目を付けられている大店に、用心棒の口を見つけた。

男達を叩きのめしている最中にひょっこりお絹が顔を出し、兵四郎がきゃあっと悲鳴を上げてうずくまったりするので、真之介は気が気ではなかった。
ほとんどひとりで働き、なおかつ兵四郎を気遣ってやらなければならないので、いかに頑丈な真之介といえども少し身にこたえた。
だが乗り掛かった船だと開き直り、船着き場に通う兵四郎に付き添い、しつこく押しかけてくるやくざ者相手に暴れて、憂さ晴らしをしていた。

大店に泊まり込んでの用心棒暮らしが、そんな調子で三日を過ぎた頃。
親父の飯屋でふたりはまた、酒を酌み交わしていた。すると店に入るなり、声をかける者があった。
「あっ殿様!仙石さぁん!」
「あらっ、ほんとだ。元気にしてた?昼間っから酒飲んで、珍しく羽振りがよさそうじゃないの」
「やあ、お恵ちゃんに陣内。元気だぞ、酒は旨いしな」
「お前らも一杯やるか?おーい親父、もっと酒、酒くれ」
兵四郎は笑って挨拶を返し、真之介は奥に向かって徳利を掲げた。
そのかたわらに、鍔黒陣内とお恵は腰を落ち着けた。
「いや親父さん、俺達には飯を頼むよ。腹ぺこだし、ゆっくり酒飲んでもいられなくてさ。急いで梅乃屋に行かなくちゃ」
「そうよね。ねえ殿様、ここの宿場にある梅乃屋って店知ってる?」

13:流恋情歌 Part2 2/7 ◆SIw6ke0ny6
11/01/08 14:51:30 5WUSeI7aO
着いたばかりのふたりの口から因縁のある店の名前が飛び出したので、兵四郎と真之介は大いに驚いた。
「ああ知ってる。この先の色街の中心にある店だ。陣内、そこに何の用だ」
「あら……ってことはお絹さんて人はもしかして、お女郎さんなのかしら」
「おいお恵、お前なんで、梅乃屋のお絹を知ってるんだ」
お恵の言葉にますます驚いて真之介が尋ねると、ふたりは旅の途中で出会った男から、梅乃屋のお絹という女に言づてを頼まれたのだと答えた。

三日前、陣内とお恵が連れ立って歩いていると、道外れの林の中からただならぬ悲鳴が聞こえた。
そっと覗いてみると旅姿の男達が何やら争っており、刃物を抜いた三人が寄ってたかって、ひとりの男に襲いかかっているようだった。
ふたりは襲われている男の顔を見て驚いた。旅仲間の真之介に、まるで瓜二つだったからだ。
慌てたお恵は人殺しだと大声を上げ、飛び出した陣内は仕掛け槍を振るって男達を追い払った。

駆け寄ると傷だらけの男は、もはや虫の息だった。
よく見れば髷の形や着ている物は違うし、何より腕の立つ真之介がごろつき連中風情に簡単にやられる筈もなく、全くの別人だとわかった。
男は千吉と名乗り、絶え絶えの息の下からふたりに頼み事をした。
とある宿場の梅乃屋という店にいるお絹に、自分が死んだことを知らせてくれ。
博打で当てた金を持って帰るつもりだったが、賭場から自分を付け狙っていたらしい追いはぎに襲われて、叶わなくなってしまった。
約束を守れなかったことをどうか代わりに詫びてくれと、涙を流してふたりを拝み息を引き取った。

陣内とお恵は、真之介によく似た男の最期の言葉を、無視することは出来なかった。
千吉の懐にあった残り少ない金で最寄りの寺に供養を頼み、遺髪を携えてお絹のいる宿場にたどり着いた。

なんという因縁であり皮肉な話なのだと、聞き終えた真之介はため息をついた。お絹が風邪をひかず千吉が追いはぎに遭わなければ、ふたりは再会を果たせた筈なのに、幾日かの差で相次いで命を落としてしまうとは。
すでにお絹も生きてはいないことを告げると、恋人達のあまりの運の悪さに落胆し、陣内とお恵はしばらく黙り込んでしまった。

14:流恋情歌 Part2 3/7 ◆SIw6ke0ny6
11/01/08 14:55:17 5WUSeI7aO
「そうだったのかあ。とんだ無駄足になっちゃった。せっかくお絹さんに、渡してやろうと思ったのに」
陣内が懐紙に包まれた遺髪を懐から取り出すと、兵四郎が手を伸ばして受け取った。
「ねえ殿様、どうしたらいいかしら、それ」
「またあの寺に戻って、墓に入れてもらうしかないかなあ。千吉の実家まではわかんないしね」
「うん……あのな、ふたりとも、よく聞いてくれ。実はな、お絹って女は」
兵四郎の手の中にある遺髪を悲しげに見つめるお恵と陣内に、真之介は現状を説明しようと切り出した。
すると兵四郎がいきなりぽろぽろと大粒の涙を零したので、一同は仰天した。兵四郎は遺髪を胸に抱きしめ、俯いて震えながら泣いた。
「ちょっと、ど、どうしたんだよ殿様!」
「やだあ、お腹でも痛いの?初めてだわ、殿様が泣くなんて」
うろたえる陣内とお恵を、真之介は慌てて諭した。
「大丈夫だ、お前ら落ち着け。おい、お絹、お絹だな。話を聞いていたか」
「お絹ってなんだよ。仙石、お前何言って」
「しいっ。黙って、陣内さん」
戸惑い喚く陣内をお恵が制し、真之介が女の名前を呼ぶと、兵四郎はゆっくりと顔を上げた。

「……勝手だよ、全く。今更、こんな姿で戻って来て。お金なんかの為に命を落として……あんたが帰って側にいてくれたら、あたしはそれでよかったのに。せんさんの馬鹿、せんさんの馬鹿野郎……」
振り絞るような声で呟くと、兵四郎はまた顔を伏せた。
「ねえ仙石さん、これってまさか」
「ああ。信じられんだろうが、お絹の魂は今、殿様の身体にいるんだ」
「え、えーっ!またまたあ……どうせ、殿様の冗談なんでしょ」
「たこ、この馬鹿。いくら殿様でも、こんなたちの悪い冗談なんぞやるか。なあお絹、そいつをどうしたい。お前の墓に一緒に入れるか?」
優しく語りかける真之介の様子に、これはまさしく本当らしいと、お恵と陣内は顔を見合わせた。

再び顔を上げた兵四郎の涙は止まり、悲嘆に染まっていた顔付きは随分穏やかになっていた。
「お絹……いや、殿様、か?」
「うん。お絹は引っ込んだ。俺の奥深くに、隠れちまったようだ」
様子を伺う真之介に頷くと、兵四郎は取り出した手ぬぐいで涙を拭き、遺髪を台の上に置いた。

15:流恋情歌 Part2 4/7 ◆SIw6ke0ny6
11/01/08 14:58:18 5WUSeI7aO
「そうか。よっぽど悲しかったんだな。幽霊が死んだ男を悼むってのも、なんだかおかしな話だが」
「ああ、今お絹は自分でも、どうしていいのかわからないんだ。落ち着くまで、そっとしといてやろう」
そうだな、と真之介が呟くと一同はまたしばらく沈黙し、それぞれ物思いに沈んだ。

静寂を破る声と共に、男が慌てて店に転がり込んで来た。見れば用心棒を勤めている店の手代で、また例のやくざ者達が、今日は更に人数を増やして押しかけて来たと言う。
兵四郎と真之介は押っ取り刀で飯屋を飛び出し、陣内とお恵も取りも直さずその後ろに続いて走った。

「てめえら、いい加減にしろ。あんだけ痛め付けられて、まだ懲りねえのかっ」
「うるせえ、さんぴん!今までみてえにゃいかねえぜ、今日のこっちの人数を見ろい!」
真之介に喚き返した男の言葉通り、店の前には目つきの鋭い喧嘩支度の連中がいつもの倍の二十人ばかり並び、兵四郎達を取り囲んでいた。
連日不様に追い返されたのが余程腹に据えかねたのか、一家を挙げて挑んできたようだ。
「どうだかねえ、数が増えたからいいってもんでもないぜ。こっちも今日はひとり多いが、役に立つかは微妙だからなあ」
「なんだと仙石!そんなこと言うと陣ちゃん、いち抜けたってしちゃうよっ。大体俺にはこんな喧嘩、関係ない……んん?」
居並ぶやくざの中に、旅から帰ったばかりなのか、手甲脚半を身に付けた男達が三人混じっていた。その男達を顔をしかめて睨み付ける陣内に、平四郎が尋ねた。
「どうかしたのか、たこ」
「うん、ちょっとね殿様、あそこの三人、見覚えがあるような……」
「あーっ!陣内さん、あいつらよ。殿様、仙石さん!あの三人が、千吉さんを殺した奴らよっ」
「なぁにぃ!?ほんとか、お恵っ」
「陣内、確かか。確かにあいつらか」
「うんうんそうだ、間違いないよ。くそうお前ら、よくも千吉の金を奪ったな!」
兵四郎達が怒りを漲らせた表情で向き直ると、追いはぎ一味はうろたえたが、やがて開き直り胴間声で叫んだ。
「な、なんでえ!千吉なんて奴、知るもんかっ」
「俺達ゃ、この一家の身内だ。おかしな難癖つけやがって、てめえら叩きのめしてやる!」
それを合図に、やくざ達が一斉に長脇差を抜き放った。

16:流恋情歌 Part2 5/7 ◆SIw6ke0ny6
11/01/08 15:02:22 5WUSeI7aO
「このろくでなしの盗っ人共が、しらばっくれやがって!千吉の仇討ちだ、手加減しねえぞ」
愛刀を抜いた真之介の喚き声を皮切りに、兵四郎と陣内も刀と槍を構えた。
野次馬達が悲鳴を上げて遠巻きに眺める中、喧嘩は始まった。次々と襲いかかる刃をかわし、三人は難無くやくざ達を殴り倒していった。
兵四郎は追いはぎの男達と向き合い、険しい顔で睨みつけた。
別のやくざを峰打ちで倒した真之介は、刀を構える兵四郎の肩が震えているのに気が付いた。

「よくも、よくもせんさんを……ぶ、ぶっ殺してやる!」
呻くように叫んだ兵四郎の身体からは、怒りと憎しみの焔が噴き出し、揺らめいているように見えた。だが慣れぬ刀の重さに腕はがくがくと揺れ、その危なっかしさに真之介ははらはらとした。
「お絹、待て!気持ちはわかるが、今は出て来るな。俺達に任せろっ」
諌める声に聞く耳を持たず、兵四郎は刀を振り上げ、やみくもに追いはぎ達に斬りかかった。
追いはぎのひとりの長脇差が唸りを上げて刀を叩き、その衝撃に兵四郎は刀を取り落とした。
ぎらつき迫る刃に目をつぶった兵四郎の前に、素早く駆け付けた真之介が立ちはだかった。
男の刀を力任せに跳ね返すと、返す刃で着物の前を斬り裂いた。
すると懐から零れた紺色の胴巻きが、ずしりと重そうな音を立てて地面に落ちた。
「おっと、どうやら当たりだな!そいつに幾ら入ってる?音からすると、たかがやくざの三下が持てるような額じゃねえだろ」
「千吉は、五十両盗られたって言ってたよ!」
「そいつ、逃げる時に千吉さんから、その胴巻きを引ったくっていったわ。あたし、覚えてる!」
畳み掛けるように真之介と陣内、そしてお恵に追い詰められ、三人の男達はいよいよ泡を喰った。
「返してもらうぜ。千吉がいない今、そいつはお絹のもんだからな」
真之介は伸ばした刀の先に胴巻きを引っ掛け、掬い上げてから平四郎に手渡した。
涙を浮かべた兵四郎は、ひどく大事そうに両手で胴巻きを握り胸に当てた。

17:流恋情歌 Part2 6/7 ◆SIw6ke0ny6
11/01/08 15:05:27 5WUSeI7aO
「お兄さん方、ご覧の通りこいつら盗っ人だよ!お上に訴えたら、そちらの親分さんもとばっちり食うかもよ」
「それがいやなら今すぐ、こいつらと縁切れ。ついでにこの店からも手ぇ引け。そしたら訴えずに、俺達で始末を着けてやる」
陣内と真之介の言葉を受けて、格上らしき数人の男達が話し合っていたが、やがて彼らは長脇差を鞘に納めた。
「わかった。役人なんざ怖くもねえが、そいつらあ一家の面汚しだ。代貸のこの俺が親分の名代として、たった今縁を切るぜ。店のこたあひとまず、置いといてやる」
ひとりが言うと、他のやくざ達も刀を仕舞った。身内に見放された三人は青ざめたが、やけ気味に罵声を張り上げ、再び刀を構えて真之介達に向き直った。
胴巻きを懐に抱いた兵四郎はふいに顔を上げると、先程落とした刀を拾い上げた。
「旦那、あたしゃやっぱりやりますよ。せんさんの仇を取るんだ」
「いや、いかん。お前は手を出すな。その手を血で汚しちまったら、千吉に極楽で会えなくなるぜ」
きつく諭す真之介の厳しい顔を、兵四郎は眩しそうに見つめた。
その隙を見て、男達が襲い掛かってきた。だっとその間を駆け抜けた真之介の愛刀が閃き、一瞬の内に三人を斬り捨てた。
どうっと倒れ伏した音を背に息をついた真之介は、刃を染めた血を袴で拭き取った。
「お絹、お前は綺麗なまんまで、せんさんの待つあの世に行くんだ」
振り返りにやりと笑った真之介に、泣き笑いの表情で兵四郎が頷いた。
それを見た陣内が、ちぇっ、あいつひとりでかっこつけやがってとぼやき、お恵はまあまあとそれを宥めた。

その夜、梅乃屋は店を挙げてのどんちゃん騒ぎとなった。受け取った金は楽しいことにぱあっと使ってしまいたい、というお絹の願いで、梅乃屋の女達を全て借り切った。
真之介達は元より、世話になった飯屋の親父や、真之介達の雇い主の大店主人、更には喧嘩相手だったやくざ一家の親分までもを宴席に招いた。
艶やかな遊女の酌に照れた親父は、顔を赤くして滅多に呑めぬ美酒を味わった。
つまらぬことが原因でいがみ合っていた主人と親分は、仲裁を買って出た陣内の口車と酒の勢いに乗せられて、今宵を限りに争いをやめることを誓い合った。

18:流恋情歌 Part2 7/7 ◆SIw6ke0ny6
11/01/08 15:08:19 5WUSeI7aO
兵四郎とお絹は交互に入れ代わり、賑やかな宴を楽しんだ。浮かれた陣内がおどけた歌や踊りを披露し、それを見て真之介達も皆も声を上げて笑った。
上客に満面の笑みを浮かべたやり手婆は、いそいそと酒や肴を運んだ。

大いに盛り上がった宴は、やがて静まった。千鳥足で帰った客もいれば、酔い潰れた居残りの客が、広間で女達と雑魚寝を決め込んでいた。
滅法酒に強い真之介はあぐらをかき、ひとりまだ手酌で呑んでいた。
かたわらで寝転がっていた兵四郎が、ふいにゆらりと上体を起こした。

「……せんさん」
「おいお絹、お前まだ俺をそう呼ぶのか」
寝ぼけまなこで呼びかけられ、真之介は苦笑した。
「ふふ、冗談ですよ。これが最後ですから、勘弁しておくれな」
「おい、最後って……」
「ねえ旦那、ちょっとふたりだけになりませんか。あたしの部屋で」
真之介の手を取り立ち上がると、兵四郎は広間を出て彼を奥に招いた。
廊下から薄明かりがほのかに差し込むお絹の部屋は、隅に行灯や文箱などのわずかな調度品が寄せられ、すっきりと綺麗に片付けられていた。。
畳の真ん中に腰を下ろした真之介の正面に、兵四郎は正座をして向き合った。
「あたし、旦那方には本当に感謝してるんですよ。せんさんのお金を取り返してくれた上に、仇まで討ってくれて」
「まあな、いろいろ運がよかったんだ。それもこれも皆、お前のせんさんが引き合わせたのかもしれんぜ」
「そうねえ……あの人、約束を守ってくれたんだね。この世ではとうとう会えなかったけど、その気持ちが嬉しいですよ」
「うん……そうか」
切なげな表情の兵四郎に、真之介はただ頷くしかなかった。


[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
次回で終わります。

19:Soul in the circuit
11/01/08 22:30:37 6h09WUGi0
>>1さん乙
>>12
続きを楽しみにしています!

映画「都論:LЁGAСУ」よりСLU×ЯINZLЁЯでエロなし。文章が硬め。
あと文中に出てくる用語を記載しておきますので参考にどうぞ、

GЯID=USЁRである不倫が新たに作りだした電脳世界。
USЁR=実世界の住人、文中では不倫が主。
СLU=不倫が自分の補佐をさせる為に作った、自身のコピー。
   若かりし不倫の姿をしているが歳をとることは無い。
   与えられた使命を守り続けるあまり、不倫を裏切ってしまう。
ЯINZLЁR=СLUに仕える謎の戦闘マシーン。
TRОN=不倫の盟友のセキュリティプログラム、裏切ったСLUに倒される。
ISО=GЯIDの世界を革新させるらしい存在。勝手に湧いて出てきた。
ネタバレを含むので、駄目な方は飛ばしてください。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

20:Soul in the circuit 1
11/01/08 22:35:57 6h09WUGi0
玉座に座る支配者は、窓からGЯIDを見おろしていた。
漆黒の闇が青白い光を包み込んでいる。大地にはコンデンサのようにそびえ立つ建造物、
トランジスタのような住居群、そして一律に共通しているのが、どこへでも分け隔てなく伸びる光、
一際高いこの塔から見れば、その光景はひとつの集積回路のように見えていた。
おそらくUSЁR達はこの光景を"美しい"と表現するのだろう。

にもかかわらず、СLUは苛立っていた。
GЯIDのすべてを支配し、何もかもが自分の思い通りにいく筈なのに、
彼の論理演算で予想だにしなかった出来事が次々と起こっていく。
彼が抹殺しようとした一人のUSЁRは幾ら捜索隊を出しても見つからず、
ISОの生き残り共は利害関係の一致をネタに怪しげなクラブを作り、
СLUに反旗を翻そうとする下級プログラムの溜まり場になっているという。
彼等を処理さえすれば、確実にGЯIDは彼の演算通りの世界になるというのに。

СLUのなかで"苛立ち" - 不正処理の塊が物理的な暴走となって現れる。
無意識のうちに、彼は憲兵であるプログラムに歩み寄り、殴りかかっていた。
もちろん彼の下僕として矯正済みであるから、文句など何一つ言わない。
例え反抗されようが、今はこの憲兵プログラム以外誰一人いない筈だ。
そうしてサンドバッグにされるプログラム、このまま行けばフリーズするだろう
とСLUが肩に力をいれて最後の一発を繰り出そうとしたその時だった、
誰かがСLUの腕を強い力で制御しているのだ。振り向くと、ЯINZLЁRが立っていた。
フルフェイスのヘルメットに覆われたそのプログラムは一際異彩を放っている。

21:Soul in the circuit 2
11/01/08 22:38:27 6h09WUGi0
お前か…」

例えСLUでもЯINZLЁRの力には敵わない、彼は静かに憲兵を解放した。
それと同時に深刻なシステムエラーに陥る憲兵を気にもとめず、СLUは彼を見やった。
セキュリティプログラムの名残か、矯正をしても僅かだが本分は失われぬようだ。
だがそれもСLUの許容内にすぎない。彼はЯINZLЁRの身体に視線を移していく、
均整のとれた肉体、この世界の特徴であるプログラムのスーツは、その肉体美を忠実に再現する。
そして彼はGЯIDが誇る戦士、アリーナの英雄、物言わぬ戦闘兵器…
この世界に生けるもの達に畏怖されると同時に尊敬されているЯINZLЁR、
そんな彼を従わせ、自らに与えられた使命「完璧な世界の構築」の為の駒とする
自分自身にСLUは陶酔していた。紛うことなく、私はこの世界の支配者だと。

ЯINZLЁRのヘルメットにСLUの手が添えられるが、反応はない。
СLUは彼の頸部を探る様に弄り、彼のみが知るあるプログラムを作動させた。
プログラムは顔全体を覆っていたフルフェイスのヘルメットを分解していく、
かつてのクーデター以降、СLU以外誰一人見たものがいないЯINZLЁRの素顔が現れた。

そこにはひどく無機質で、端麗な顔立ちが佇んでいた。
黒く艶のある短髪、鼻筋の通った正面、固く結ばれた形のいい唇、
整った眉と適切な大きさの眼と鼻、それらを含む全てが整っている。
驚くことにGЯID以前の遥か昔、MСPが支配していた時代から全く衰えていない、
プログラムに"加齢"の概念がないのだから、当たり前と言えばそうなのだが。
また矯正の成果だろうか、視点はおぼろげで、眼に意思がまるで感じられない、
顎を掴まれたことにも反応せず、ひたすら心許無い視線をСLUに送り続けている。

22:Soul in the circuit 3
11/01/08 22:41:27 6h09WUGi0
「相変わらずだな」

СLUは内心ほくそ笑んでいた。
それは幾サイクルも前の、彼を裏切った忌々しいUSЁRを叩き出した日のこと。
彼は記憶メモリのなかでも、特に甘美なメモリであるそれを引きずり起こす。
盟友であるTRОЙや不完全なISОと共に現を抜かす間抜けな男の顔を、今も忘れてはいない。
そしてそれらを破壊する瞬間は、"快楽"としてСLUの論理演算回路に刻み込まれていた。
記念すべき日。不完全な要素を排除できた"快楽"ほど素晴らしいものは無いだろう。

だが目の前のプログラムは、その不完全な存在を最後まで守ろうとして、犠牲になった。
それは彼の身体と忠誠心がСLUではなく、USЁRの為のものであったからだ。
哀れなプログラム、そう馬鹿にする一方でСLUは焼けつくような"嫉妬"を覚えていた。
USЁRは不完全な存在にもかかわらず、創造の力を含む全てを持っていたのだ。
彼が不完全な存在であるのはСLUの目から見ても明らかであったし、
欠陥を抱える者がGЯIDの全てを管理しているという現実に嫌悪さえした。
そしてその存在を過保護といえる程に守り続けた、愚直なセキュリティプログラム。
その身体と忠誠心を、完璧であるСLUの使命に役立てるべきだと考えていた
彼にとっては、腹が煮えくりかえる程に不愉快な事実であった。

СLUはその忌々しい過去を振り払うかのように、目の前のプログラムへ
半ば強引に、USЁR達が"キス"と呼ぶであろう行為をする、がこれは不正処理の結果ではない。
USЁR達が"快楽"を得たい時に"キス"をするという情報を事前に認知していたからからだ。
СLUは、彼のガラス玉の様な瞳が自分の顔を映し出したのを一瞥したあと、乱暴に唇を貪り始める。
次にСLUの舌が彼の上唇を押し上げて彼の口内に侵入し、口腔内の敏感な回路を刺激していく、
彼の回路の活動は活発になり、熱を帯び始め、呼吸活動は激しくなり、頬も色づき始めた。
が口内を犯されても、彼は依然として曖昧な表情で、蠢く舌を受け入れ続けるままだ。
それは異常な光景だったが、СLUはそこから得体の知れない"何か"に興奮していた。
だがその"何か"を具体的に掴むことは、プログラムであるСLUには難題であった。


23:Soul in the circuit 4
11/01/08 22:47:58 6h09WUGi0
これまでも何度か経験があったが、なかなかいい感触だ。
あの欠陥だらけのUSЁRがこれを見たら何と感じるだろう?
大切な盟友が自分のコピーに好き勝手されたら、どう思うだろう?

操り人形との"キス"を続けるうちに、СLUの苛立ちが少しづつ薄れていく、
舌と口腔の摩擦によって生まれた淫らな音を背景に、彼は"勝利"を感じていた。
完璧で、歳を取らず若いままの私と、老いぼれていくだけの不完全なUSЁR、
どちらが優れているかは明白…それはСLU自身にも分かりきったことだ。
あの男と来るべき息子とISОさえ処理すれば、真に「完璧な世界」が構築できる。
奴等は巨象に喧嘩を売る愚かな蟻にすぎない、だから今は"快楽"に身を任せればいい。

ЯINZLЁRの腰に添えられていたСLUの手が、緩やかにスーツの下部へと降りていく。
更なる淫行が始まるのだろう、彼は抵抗を諦めたかのように、そっと目を閉じる。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

24:風と木の名無しさん
11/01/09 11:07:40 ZlAqm1x5O
>>19
萌えた…GJ

25:襷 1/4
11/01/10 20:45:03 rumhCbnA0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
朝銅鑼より馬尺伝とコーチの捏造昔話。年末年始の怒涛の萌えフラグにすなおに踊ってみた。


見物客の去った中継地点はガランと物寂しかった。
撤収作業にかかるスタッフの姿はまばらにあれど、つい数時間前まで大きな声援と熱気に包まれていた
場所とは到底同じに思えない。
そんな中、自分の足は我知らずとある関係者エリアに向かっていた。
本来は立ち入り禁止の、しかしロープで簡易に区切られただけの場所に今更入ったところで見咎める者はいない。
だから進む足を止められないまま奥へと入り込む。
その先に、その人はいた。
パイプ椅子を幾つか並べて作った臨時のベットに仰向けで、今も息荒く横たわっている。
身体は冷やさぬようジャージの上着が、一方目元から額にかけては逆に熱を冷ますよう濡れたタオルが覆うように
掛けられている。
視界が塞がれているならもう少し近づいたとしても驚かれはしないだろう。
そう思いながら足音を忍ばせ、側による。
そして見つめる。その人の片手には水の入ったペットボトル。そしてもう一方の手には一本のたすきが
握り締められていた。
それに反射的に自分の眉が寄ったのがわかる。
きつく握り込まれた、それは渡せなかったたすきだった。
練習の一環で、部活単位で見学に来ていた大学生駅伝。
そこで自分が目を奪われたのは、一人の選手の走りだった。
けしてトップを争うようなものではない。それどころか、その選手は途中調子を崩すと棄権を危ぶまれるような
走りになった。
フォームは崩れ、意識も朦朧となり。しかしそれでもけしてその足が止まる事は無い。
一歩一歩、とにかく前へ、諦めることなく。
中継地に置かれた小さなモニターに釘づけになる自分の背後では、次々と他校の選手達がたすきを渡し、
その度に大きな歓声が上がる。
華やかなシーンとは裏腹な苦痛に満ちた、しかし自分の意識はただ一つその走りに集中する。


26:襷 2/4
11/01/10 20:46:40 rumhCbnA0
そんな中、一度だけ声をかけられた。
次の場所に移るから来いと。時計を見れば制限時間を過ぎており、その選手のチームは繰り上げスタートを
余儀なくされていた。
駅伝選手にとって、棄権と同じくらい辛く悔しい。そう思えば尚更足は動かなくなり、先に行っとってくれ、
短くただそう言い捨てれば、それに相手は一瞬苦々しそうな表情を見せたが、それ以上はもう何も言わなかった。
チームの中で抜きん出た才能を持ったエース。
そんな自分の立場をこれまで特に意識した事は無かったが、その特権による我儘を初めて通した。
そしてそこまでしてゴールを待った選手が、今目の前にいる。
辺りに人はいなかった。
後片付けか、続いているレースの様子が気になって見に行っているのか、彼と同じチームの者達の姿も
近くには無く、だからしばし無言でその人の姿を見続ける。
苦しそうだった。
呼吸は乱れ、冷や汗にも似た汗が止まらず、軽く脱水症状を起こしているようにも見えた。
同じ競技に携わっている者として、程度の差はあれ、自分にも似たような経験はある。
だから水分を取らないと。
そう思った矢先に、その人の手からペットボトルが滑り落ちた。
手に力が入らないのだろう。それでも下に落ちたそれを手探りで追おうとするような動きにはたまらず
自分の足が動いていた。
拾い上げ、もう一度握らせようとする。
けれどそれは叶わなかった。
先程まで弱々しいながらも懸命に動いていた手は、その時完全に脱力していた。
荒かった息も止まっている。
気を失ったのか。
一瞬ギクリとしたものの、すうっと眠るように意識が遠のく。それは別に珍しい事ではないからと
自らを落ち着かせ、その傍らに膝まづき、手にしていたペットボトルを相手の手へと返した。


27:襷 3/4
11/01/10 20:47:53 rumhCbnA0
触れた指先は冷たかった。それをゆっくりと解き、もう一度握らせる。
そうして視線を上げれば、その人の唇は渇いていた。
本当は飲ませてやりたかった。
でもどうすればと思った時、ふと人が戻ってくる気配を背後に感じた。
反射的に焦り、立ち上がりながら視線を落とせば、その時その人のもう一方の手が自分の瞳に飛び込んでくる。
力などもう入っていないだろうに、それは今もたすきを握り締めていた。
なぜだろう、それが瞬間自分の胸に無性に切なく、悔しい気持ちを宿らせた。だから、
「そのたすき、俺がいつか繋いでやるから。」
無意識に口から出た言葉は、あても無ければ途方も無いものだった。しかしそれは、
才能がある。結果も残している。だから好きも嫌いもなくこれまでただ走ってきた。
そんな自分が生まれて初めて胸に抱いた、走りに伴う欲だった。


28:襷 4/4
11/01/10 20:49:09 rumhCbnA0
「おーい、根元。ぼちぼち動けるか?」
耳にぼんやり届いた声に、すうっと意識が浮上した。
「……ぅ…ん…」
「まだえらいか?」
「……気ぃ失っとたみたいや…」
「おいおい、大丈夫か?」
「あぁ、もう大丈夫や。」
横たわっていた体制から起き上がろうとし、それを支えようとしてくるチームメイトの手を断って
椅子に座り直すと、根元は一度頭をしっかりさせるように首を横に振った。
そして聞く。
「レース、どうなっとる?」
「まぁ……最下位や。」
「俺のせいやな。」
「この競技に個人のせいは無いやろ。」
優しいけれど、気休めにもならない。そんなチームメイトの言葉に微かな苦笑を浮かべながら、根元は
弱気とはまた別の次元でやはり自分は選手には向いていないな、と声に出さないまま思う。
と、その時、
「……おまえ、水拾ってくれたんか?」
ふと視線を落とした自分の手の中の物に違和感を覚え根元が問うと、それに周囲の荷物をまとめ出していた
チームメイトは不思議そうな顔を上げてきた。
「ん?何の事や?」
「いや、俺確か寝とる時にこれ落として…」
「俺は知らんぞ。おまえ、夢でも見とったんちゃうか?」
逆に心配そうに問われ、そう言われてしまうと途端自分に自信がなくなる。それでも、根元はもう一度、
自分の手の中の水を見つめながら呟きを落としていた。
「誰かが側におった気がするねんけどな…」


選手から指導者へ。
進路を変えた根元がとある走りに出逢い一目惚れするのは、これからもうしばらく後の事となる。


29:風と木の名無しさん
11/01/10 20:49:44 rumhCbnA0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
今後の馬尺伝とコーチの就カツ=婚カツが気になります。

30:風と木の名無しさん
11/01/10 22:44:34 eUCDLICI0
ふたなりとか妊娠出産とかそういう特殊嗜好の作品でも投下していいの?

31:風と木の名無しさん
11/01/10 23:18:08 3JUVllsk0
>>29
おおおGJ!
選手コーチ好きだー

32:風と木の名無しさん
11/01/10 23:23:22 oKulyK8uO
注意書きしておけば、あとは読む読まないは受け手の判断だから
良いのではないでしょうか?
何にせよ全てはネタですし
気になるならトリップ付けておけば
趣向が合わない人は避けることも可能ですしね

33:風と木の名無しさん
11/01/10 23:33:00 3Vbv2ww80
>>30
注意書きさえあればいんじゃね?

34:33
11/01/10 23:33:32 3Vbv2ww80
ごめん、レス被った

35:流恋情歌 Part3 1/6 ◆SIw6ke0ny6
11/01/11 09:01:02 LVWPYh5IO
>>18の続きで、時代劇「参匹がKILL!」より、素浪人の殿様×仙石。
訳あって殿様がオカマちゃん風味。エロなし。
全三回投下の最後です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!


「旦那、厚かましくって悪いんだけどさ、もう一つお願いがあるんですよ」
「構わん、俺に出来ることなら引き受けてやる。ただし、金絡みはいかん。俺の懐は大概寒い」
「ふふ、お金はちょっとは必要だけど、それは大丈夫。せんさんのを取っておいたから」
兵四郎は懐から、小判を二枚と懐紙に包んだ千吉の遺髪を取り出し、真之介の膝の前に差し出した。
「あたしのお墓に、せんさんを入れてやって欲しいんです。この一枚はお寺のお坊さんに渡して、ちょっとはましな供養をしてもらって下さいな。
どうせあたしのお墓なんて、ろくでもない出来に決まってるんだから。もう一枚はお礼として、旦那方に。路銀の足しにでもしてやって下さい」
「わかった、確かに引き受けたぜ。金もありがたく貰っておこう」
真之介は金と遺髪を一緒に懐紙に包み直し、懐にしっかりと入れた。
ほっと息をついた兵四郎は、さっぱりと清々しい笑顔になった。
「ああよかった。これで安心して、あの人に会いに行けるわ……ううん、待って。あのね旦那、もう一つだけ、我が儘言っていいかしら」
「いいとも。ただし俺は、金はあまりねえぞ」
からかうように駄目押しする言葉に笑い、兵四郎はじっと真之介を見つめた。

「旦那、あたし達この何日か、隣同士の布団で寝てたわね」
「うん、そうだな。お前は女だが身体は殿様なんだから、何も問題なかろう」
「そうね。でもあたし、いつだかの夜中にふっと目が覚めて……隣に眠ってる旦那の顔を見てる内に、変な気持ちになっちゃったのよ」
「変な気持ちたあ、なんだ」
「そのねえ、旦那の……口をね、吸いたく、なっちゃって」
「……ば、馬鹿!何言ってやがる」
唐突で意外な告白に、真之介は顔を赤く染めてうろたえた。あまりの狼狽ぶりに、兵四郎はくすくすと笑った。

36:流恋情歌 Part3 2/6 ◆SIw6ke0ny6
11/01/11 09:05:30 LVWPYh5IO
「だってねえ、惚れた男に瓜二つの人が、すぐ側でかわいい顔してすやすや眠ってるんですもの。おかしな気にもなりますよ」
「そ、そりゃあそうかもしれんが、しかし」
「まあ、最後まで聞いて下さいな。あたし旦那の肩に手をかけて、そうっと唇を近付けたんです」
「う、うん……」
「そしたら旦那が、ぼんやりと目を開けてあたしを見つめるもんで、ちょっと慌てちまったんですよ」
「そ、それで?」
「旦那ったら、固まったあたしの顔を見て、それは嬉しそうに笑いなすった。それから『殿様』って呟いて、あたしに抱き着いてきなすったんですよ」
「なんっ……う、う、嘘だっ!」
「こんな嘘ついて、何の得があるもんですかね。抱き着いたまま、また旦那はくうくう寝ちまったんで、あたしもすっかり毒気を抜かれて……あんたの身体を布団に直してから、おとなしくまた寝ましたよ。旦那、覚えてないんだねえ」
いよいよ湯気が上がりそうな顔色になった真之介は、口をぱくぱくさせて兵四郎から目を逸らした。
兵四郎は慈母のように微笑むと、遠くを見つめるようにしてまた口を開いた。

「あたしね、死んでからも……死んだとは気付いてなかったんですけど、あの川のほとりにずっといたんです。せんさんは網元の息子だけど、家業が嫌いな人だったの。でも海は好きだって言ってた。
だからあたし、戻って来ないあの人はひょっとしたら海の側に暮らしていて、この川はそこに繋がっているんじゃないかしらって。そう思って、いつも川を見ていたの」
話題を変えられてほっとした真之介は、無言で頷き先を促した。
「そしたらある日、この八坂の旦那がやって来て、あたしのすぐ隣に立ち止まった。ふたりしてしばらく川を見てたんだけど、あたしなんだか、ずいぶんあったかそうな人だなって思って。
側にいると不思議と、すごく気分が安らいだんです」
「うん。こいつは、そういう男なんだ」
「ええ、本当にそう。それで今度は九慈の旦那がやって来て、八坂の旦那に声をかけたでしょ。この人はそりゃあもう、嬉しそうにあんたを振り返った。
あたしは目の前で笑ってるあんたを見て、てっきりせんさんが帰って来てくれたんだと思って喜んだ。そしたら、ぐいっと引きずられるようにして、この人の中に入っちまったんです」

37:流恋情歌 Part3 3/6 ◆SIw6ke0ny6
11/01/11 09:08:40 LVWPYh5IO
「そりゃあつまり……どういうこった」
言わんとすることが今一つ掴めない真之介は、胸をぼりぼりと掻きながら尋ねた。
兵四郎は悪戯っぽく、歌うように耳元で囁いた。

「だからね、この人はあんたが好きなんですよ。あたしはその気持ちに、引きずられたんです」
「なっ……馬鹿!ふ、ふざけたことを言うなっ」
「ふざけてなんかいませんよ。あたしが何年、色の道でおまんま食ってきたとお思いだえ。これでもちょっとは、色恋を見る目はあるんだよ」
仰天して目を剥いた真之介を見据え、兵四郎は笑って啖呵を切った。

「八坂の旦那だけじゃないですよ。旦那も、この人を好いてるんでしょ」
「……お絹!」
「駄目だよ旦那、あたしにはわかるんですよ。いつかの夜のことだけじゃなく、あんたはぶっきらぼうな風でいても、いつもこの人のことを気にかけてるもの」
「そ、そりゃあお前が取り憑いて、ややこしいことになってるからだ!殿様だけじゃなく、お前の為でもあるんだ」
「うそうそ。例えばあたしがこの人以外に取り憑いたとしたら、旦那はあそこまで優しかったかしらねえ。ううん、元々優しい人だとは分かるけど、やっぱりこの人だったから、困りながらも旦那はあんなに親切だった。いつも愛しそうな顔をして、この人を見ていたのよ」
「いと、愛しそうって、どんな顔だ!」
「そりゃ、いろんな顔よ。今慌ててる、その顔だってそう。何も照れるこたないわ」
「……照れてねえ!」
真之介は真っ赤な顔で絶叫したが、兵四郎はころころと笑いこけ、実に愉快そうにそれを眺めた。

「まあいいわ、旦那が白を切ったところで見え見えなんだから。ふたりとも本当に、かわいいのねえ」
「……やかましい!おま、お前一体、何が言いたいんだっ」
「何って、あら、なんだったかしら……ああそうそう、お願いがあるんだった。旦那、聞いてくれるんでしたよね」
「う、うん……なんだ、言ってみろ」
あらたまった顔付きで見つめられ、真之介は深呼吸をして乱れた息と弾む胸の鼓動を整えようとした。
兵四郎はついっと右手を伸ばすと、真之介の顎に触れた。幾度も触れられた覚えのある感触が、真之介の胸をまた高鳴らせた。
指は緩やかに這い上がり、半開きの唇をそっとなぞった。

38:流恋情歌 Part3 4/6 ◆SIw6ke0ny6
11/01/11 09:13:49 LVWPYh5IO
「あたしね、やっぱり触れたいんです。この、唇に……」
「お、お絹……」
「三年待ってたせんさんは、再び触れ合うことが叶わないままで死んじまった。あの人によく似たあんたの温もりを代わりに貰って、あたしはあっちに行きたいんです」
「だが、そりゃあ……千吉が妬きゃあしねえか」
「ふふ、優しい旦那。お世話になった旦那が相手なら、きっとあの人は許してくれますよ」
「し、しかし……」
「中身はあたしだけど、身体は八坂の旦那なんですからさ。惚れ合った仲だし、いいじゃありませんか」
「だっ、誰が惚れ合った仲だ!」
「もう、照れちゃって……それともやっぱり、本当の相手があたしだからいやなのかしら。仕方ないけどねえ、こんな女だし」
「いやっ、そ、そんなこたあねえが……」
からかった後に寂しげに目を伏せた兵四郎の言葉を、真之介は焦って否定した。兵四郎はにっこりと笑い、顔をぐっと慎之介に近付けた。
「嬉しい。じゃあ旦那……目を」
「う、わ、わかった……」
素直にぎゅっと目を閉じた真之介の肩に手を置くと、兵四郎も目を閉じて顔を傾け、ゆっくりと唇を触れ合わせた。幾秒か押し当ててそっと離すと、ふたりは目を開けた。
困ったように真之介が笑うと兵四郎も微笑み返し、その肩に腕を回して抱き寄せた。真之介も兵四郎の背に両腕を回した。
「ありがと、旦那。八坂の旦那にも、ありがとうって伝えとくれ。ずっと一緒にはいたけど、とうとう話は出来なかったからさ」
「ああ、必ず伝える」
「頼みましたよ。ふたりとも本当に、せんさんに負けないくらい、いい男だったよ……」
甘く耳元に囁くと、兵四郎は真之介の肩に顔を埋めた。

「お絹……?」
抱き着いて押し黙ったままなのを気にかけ、真之介が女の名前を呼ぶと、兵四郎は涙の跡が残る顔を上げた。
「俺だ、仙石」
「殿様……お絹は?」
「向こうへ行った。きっと千吉が迎えに来たんだろうな、嬉しそうにしていたよ」
「そうか、行っちまったか」
身体を離した兵四郎は、慎之介がため息混じりに呟くのを見て笑った。
「寂しいか、仙石。お絹に口を吸われて、満更でもなかったみたいだな」
「馬鹿、そんなんじゃねえ」
「そうか?俺は中で見ててちょっとばかり、妬いていたんだぞ」
「ばっ、馬鹿野郎!ふざけんなっ」
頬に朱を走らせた真之介を、兵四郎は穏やかに見つめた。

39:流恋情歌 Part3 5/6 ◆SIw6ke0ny6
11/01/11 09:17:39 LVWPYh5IO
「……お絹からの言づてだ。ありがとう、だとよ」
「ああ、聞いてた。お前達の話は、みんな聞こえていた。俺達の仲について、お絹が言っていたこともな」
逸らそうとした話をまた引き戻され、真之介は慌てた。
「あ、あんなのは、女の戯言だっ」
「戯言か……俺はそうは思わんぞ。いや、思いたくない」
「と、殿様……」
「妬いたというのも本当だ。自分でも、狭量だとは思うが。気の毒な女の最後の頼みだからとわかっていても、俺が相手だと、お前はあんなに素直になってはくれんからな」
まあ仕方がないが、と笑う兵四郎を見て、真之介は眉根を寄せた。
この人は旦那が好きなんですよ、というお絹の言葉を思い返してしばらく目をつぶった。

「仙石、どうした?俺の言葉が、気に障ったか」
無言でいるのを気にかける兵四郎の肩を掴むと、真之介は上げた顔を彼の顔近くに寄せて傾けた。
そして兵四郎の唇に、自分のそれを荒っぽく押し当てた。
驚いた兵四郎が目を閉じる間もなく口を離すと、しかめっ面を真っ赤にして突き飛ばすように肩を離した。

「真之介……」
「うるせえ!何も言うなっ」
「しかし真之介、今のは」
「黙れってんだ、殿様!お前が、く、くだらん嫉妬なんぞ、するからだっ」
真顔になりいざり寄ってきた兵四郎から、真之介は喚きながら畳を後ずさりに這って逃げようとした。
兵四郎は腕を掴むと力任せに引き、気まずさと恥ずかしさに火照る身体を胸に抱き寄せた。

40:流恋情歌 Part3 6/6 ◆SIw6ke0ny6
11/01/11 09:21:15 LVWPYh5IO
「は、離せ、殿様っ」
「真之介、頼む。このままでいてくれ」
「殿様……な、泣いてんのか?」
身じろいだ真之介は、触れ合う兵四郎の頬が濡れているのに気付いた。
「ああ、そうだ」
「なんでだ。何を泣いてんだ」
「何故だろうな。まだお絹の気持ちが、俺の中にあるのかもしれん……いや、違うな。俺は嬉しいんだ。ただただ、嬉しいんだ」
静かに優しく囁くと、兵四郎は真之介を抱いたまま、身体をそっと横たえさせた。
流れ滴る涙を頬に受けた真之介は、覆い被さる背中に腕を回して抱きしめ目を閉じた。
淡い闇と静寂が、抱き合うふたりをひそやかに包み込んだ。


女は川を見ていた。
滔々と流れる水に切なる想いを託し、いつかはきっと海にたどり着くと信じて、ひたすらに川を眺め、祈り続けた。




□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
蛇足・お絹さんのイメージは在りし日のタイチキワコさんだったり。

最後までお読み下さり誠にありがとうございました。
あと処々にてお言葉を下さった姐様方、身にあまる喜びでした。ありがとうございました。

41:風と木の名無しさん
11/01/11 17:09:47 zW2xICF20
>>40 はらはらと髪が抜け落ちたじゃないですか!
すばらしく萌える話をありがとうございます。

42:風と木の名無しさん
11/01/11 23:00:24 eHAoTNIu0
保管庫何かあった?

43:風と木の名無しさん
11/01/11 23:04:15 Y3Hd+AZ/0
あれ?繋がらない…

44:風と木の名無しさん
11/01/11 23:09:25 2BIM/eua0
保管庫管理人です。

メンテナンス中にサーバ上のファイルが全部消えるという事態が発生しました。
現在、ローカルに保存していたバックアップから再びアップロード中ですが
FTPが重いので少々時間がかかっております。

最後にバックアップを取っていたのが2010/12/31になるので、ここ10日ほどの
wiki変更分がやり直しになってしまいそうです。
本当に申し訳ありません。

45:風と木の名無しさん
11/01/11 23:11:28 HKL86m+F0
>>44
いつも管理ありがとうございます
気長に復旧をお待ちしております

46:風と木の名無しさん
11/01/11 23:18:22 VrKYe4bt0
>>44
乙です

47:風と木の名無しさん
11/01/11 23:46:47 Uc18z3BJO
>>44
本当に本当にいつもありがとうございます。
どれだけお世話になっているか…
感謝。

48:風と木の名無しさん
11/01/12 02:34:35 2sI5+rf20
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ナマモノ、某移動王国の宰相×王様
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  デビュー前イメージだから今とキャラが違うのに注意してね
 | |                | |             \
 | | |> PLAY.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

49:1/4
11/01/12 02:35:03 2sI5+rf20
 どこにでもある安アパート、そのまた一室。
 そんな場所でも、簡単な録音機材さえ用意すれば、立派なスタジオに早変わり。
 巧みなタコ足配線で繋がったパソコンマイクキーボード、あと良くわからない諸々の機材が我が物顔で席巻する手狭な空間を眺めまわして、
いやあまったく時代は便利になったものであると改めて感心した。文明の進歩様様だ。
 俺自身はざっくりとした作曲こそ家でやれるものの、音楽スタイルの関係上アコギをじゃんじゃか鳴らしたり、
バンドに任せることが多いから、どうしても収録は家だと難しいところが多いのだけれど、
DTMの打ち込み中心、一部生音という彼のスタイルなら結構な割合の作業をこの家の中で終わらせることが出来るのだ。
 ちょいとしたお隣近所の方々への配慮の心さえあれば、案外苦情は来ないもので、
午前の収録はつつがなく終わらせることができた。
 ちーん。
 そこまで考えたところで、レンジが温めを終了する小気味良い音を立てた。
「はいはーい」
 誰にともなく返事をしつつ台所へ向かう。
 ほかほかと湯気を立ち上らせるコンビニ弁当の淵をつまみ、予想以上の温まりにあちちっと声を上げながらテーブルへと放った。
 家スタジオの便利なところは、スタジオ以外の用途に使えることだ。
 仮眠を取るのも、だらだらと雑談して時間を費やすのも、こうやって好きな時間に飯を食うのもはばかることはない―いや、寧ろ当たり前なんだけど。家だし。
「Re/voちゃん、俺自慢の飯を召し上がれ☆」
「……何だか本当にすみません……」
 俺渾身の場を和ますギャグを見事にスルーして、目の前の青年は身を縮こまらせた。家主は彼だというのに、俺の方が堂々としている気がする。
 家主。そう、彼が今回の俺の音楽のパートナー、Re/voちゃんである。
 外見としては、微妙に垢抜けない暗めの茶髪に眼鏡をかけた、何処にでもいそうな地味寄りの兄ちゃん。表現が非常にありきたりだが、これ以上のものは浮かびそうもない。
 この傍から見れば平平凡凡な人間が、音楽の才能の点は(同業者としてのの嫉妬さえ抜きにすれば)手放しで『最高』と言えるのだから、人は外見によらないものだ。

50:2/4
11/01/12 02:35:36 2sI5+rf20
「コンビニ飯くらいで恐縮しないでよ。
 ほら、冷める前に食っちゃおうぜ。午後も収録続くんだし」
 パンやらおにぎりならまだしも、如何せん俺が買ってきたのはパスタだ。冷めて固まり、尚且つ伸びきったパスタ程物悲しい食べ物はなかなかないだろう。
 しびれを切らして、ビニールに包まれたプラスティックのフォークを彼の前に突き出すと、漸くRe/voちゃんは俺の手からフォークとパスタ容器を受け取った。
「本当に良いんですか?Ji/mangさん」
「これで取り上げたら俺わりとガチで鬼でしょ」
 Re/voちゃんがやたらと恐縮している原因は、このコンビニ飯が俺のおごりだという点だ。
 昼食を取ってこいと勧めつつ、自分は食べる様子が見られないので一緒に行こうぜと誘ってみたら、
しぶしぶと「CDを作り込んでいたら、いつの間にか生活費までつぎ込んでかつかつだ」と理由を告げた。
 それを聞いての感想は、一点集中タイプだなあと呆れ半分羨み半分、それくらい言えよ俺そんなに頼りないかよと言う不満がほんのひとかけ。
とりあえず聞いた以上はと俺が纏めてRe/voちゃんの分と俺の分、コンビニで買い出しをしてきたのである。
 俺とてRe/voちゃんと同じインディーズのアーティスト(俺としてはエンターテイナーを自称してる)、金に余裕があるわけではないが、
一回り年下の若造が腹を減らしているのを放っておいて一人で飯を食いに行くほど非情ではないのだ。

51:3/4
11/01/12 02:36:23 2sI5+rf20
 どうやら俺が最初に食べるのを律義に待っているらしく、Re/voちゃんはフォークのビニールをのろのろ剥がして間を持たせている。
「んじゃ、いただきます」
「いただきます」
 あまり待たせるのも酷であるし、率先して手を合わせ、パスタを口に突っ込んだ。
 んー、ちょっと冷めたか。
 口に広がるカルボナーラのまったりとくどい口当たり。程良く濃い味付けが、鳴る寸前まで減った腹には丁度いい。
 次いでRe/voちゃんもパスタを頬張り、ゆっくりと咀嚼する。頬が緩んでいるのを見ると、どうやらご満足いただけたようだ。
「うまい?」
「ええ。ありがとうございます」
「そりゃ結構」
「気遣いさせてしまって本当にすみ……」
「感謝するんだったら『ごめん』禁止」
「…………」
 続く言葉を封じられたRe/voちゃんが、むぐむぐと口の中で言葉をこねる。
 数年前からRe/voちゃんの音楽活動にゲスト的な形で出演させてもらって以来、結構な付き合いだが、まだ微妙に収録の時間以外は遠慮がちな気がする。
 ……逆に言うなら、収録の時間は鬼も裸足で逃げ出す厳しさだったりするんだけど、その点に不満を言うつもりは無い。
 これでも初対面で俺が抱いた「愛想悪い奴だな」という印象よりは大分進歩していたりするんだから、単に人見知りなのだろう。
「腹が減っては戦は出来ぬ、ってね」
 ずぞぞ、と蕎麦のようにパスタをすすり、Re/voちゃんに笑いかけた。

52:4/4
11/01/12 02:36:51 2sI5+rf20
 一旦食べだすと遠慮は薄れたらしく、Re/voちゃんは順調に食事を進めている。
 黙々と、但し非常にご満悦な様子で食べ進めている姿は、何とはなしに小さい犬を彷彿とさせる。
 きゃんきゃん騒ぐタイプではなくて、静かにちょろちょろ、但ししっぽだけは感情を露わにしている感じの奴だ。
 彼が犬だったら、今は、尻尾がぱたぱた揺れているに違いない。
 なんつーか、ちょっと可愛いかもしれないなあ。
 成人を過ぎた野郎相手に小型犬みたいだという感想を抱くのは失礼かもしれないが、抱いてしまったものは仕方ない。
 理屈ではないのだ、こういうものは。
 衝動のままに、手を伸ばす。
「わっ、Ji/mangさん、何するんですか!」
 それこそ犬にするようにわっしゃわっしゃと頭を撫でてみると、残念ながら犬ではないRe/voちゃんは抗議の声を上げた。
「いやー何となく。愛でてあげたくなって」
「何となくって……」
「飯の代金代わりだと思ってよ」
 そう言うと途端に黙ってされるがままになるのは、素直すぎやしないだろうか。
「ま、午後も頑張りましょーねということで」
 くしゃくしゃになった頭をぽんとひと叩きして離すと、むうと口をへの字にしたRe/voちゃんが頭を守るように抱えた。
「Ji/mangさんのこと、まだいまいち良く解らない……」
 そりゃまた残念。俺はこんなに単純明快、欲望に忠実だというのに。
 呻き声をあげるRe/voちゃんの耳がほんのり赤らんでいる。
 もしかしなくても、照れてるのだろうか。
 ……やっぱり、こいつ可愛いんじゃなかろうか。
 それを目にして、何とも形容し難い衝動が湧き上がってしまったのは、俺にとっても不意打ちだった。
 誤魔化すように手を打って、さあそろそろ休憩はしまいにしようか、と言うと、ほっとしたようにRe/voちゃんはそれに賛同する。
 相変わらず音楽のこととなると途端にスイッチが切り替わるRe/voちゃんの性格なら、俺の誤魔化しには気付かないだろう。
 ちょっと厄介かもしれない彼の性格に、俺は今回ばかりは感謝した。

53:風と木の名無しさん
11/01/12 02:38:02 2sI5+rf20
                    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                     |  ジャンルスレを見て衝動に逆らえなかったよね
 ____________  \            / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | __________  |    ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|  そもそもこれカプ小説と言っていいものやら
 | |                | |             \
 | | □ STOP.       | |               ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 | |                | |           ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
 | |                | |     ピッ   (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
 | |                | |       ◇⊂    )(    ) |  ヽノ___
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)(_(__).      ||  |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

54:風と木の名無しさん
11/01/12 03:33:07 S4sXI5BH0
暖かいお言葉有り難うございます。ご迷惑をおかけして本当に申し訳ない。
なんとか復旧が完了いたしました。

あと、感想BBSを移転というか新しく新設いたしました。
最近、感想掲示板に業者の広告書き込みが増えてきて、管理人さんが不在の為に
削除もままならない状態になっているので、管理できる掲示板に変えた方が
いいかなと思ったので。

個人的に専ブラで読めたら便利だなと思ったので、2ch形式の掲示板に
なってます。

URLリンク(bbs.kazeki.net)

55:風と木の名無しさん
11/01/12 08:02:33 pvF1n0+kO
>>54
乙です。またありがたく利用させていただきます。

56:風と木の名無しさん
11/01/12 12:16:05 zmfixbcDO
>>54
GJ過ぎる
最高の管理、感謝です。

57:風と木の名無しさん
11/01/12 14:36:12 q9g18DZc0
>>54
素晴らしい
まさにネ申

58:加速る(さきばしる) 1/4
11/01/12 23:11:12 PVn3Vbzr0
>>54
ナイスリカバーとチューンナップ、いつも本当にありがとうございます。

勢いで投下させていただきます。
半生、要義社Xの検診(映画版)の物理×数学です。
事件がきっかけじゃなく二人が再会してたら…という設定です。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

「君は…」
「なんだい?」
「いや、なんでもない」
「言いかけてやめるなんて君らしくないな」
くすりと目を細めて笑った石上に、油川は返す言葉がなかった。
日頃から非論理的なことは受け付けないというのが口癖なのに、さっき出かかった言葉ときたらこうだ。
(君はまるで数学の花園にいる妖精のようだ)
どうだ。この非論理的な空想、いや妄想の情けないことといったら。
(ありえない)
さすがの油川でも、常であればこんな類の発言をする人間―例えば度々大学を尋ねてきては空想や妄想を論じる女刑事など―にはっきりとそう答えるだろう。

17年ぶりに再会しても、石上は石上のままだった。
数学を愛し、時には数式の波に溺れ、時にはそれを操り、それと対話する。
油川は物理に常に一歩も二歩も引いた目で対峙しているつもりであり、それが正しい学者としてのあり方だと思っている。
それに対し、石上は数学に己の全身全霊を預けてしまう。だが石上に限ってはそれを愚かなこととは思えない。
何故なら数式と戯れている彼の姿は完璧なまでに無垢であり、
(それゆえにとても、美しい)
そう思う。
油川の口から花園だの妖精だのという妄言が飛び出そうになるくらいに、だ。
恋は人を詩人にさせる、とは誰が言った言葉だろう。
(恥ずかしくて蕁麻疹が出そうだ)
油川は薩摩切子の猪口の中身を勢いよくあおった。

59:加速る(さきばしる) 2/4
11/01/12 23:16:04 PVn3Vbzr0
現在石上が住んでいるアパートの場所が知れてから、油川は足しげくそこへ通うようになった。
石上の部屋は典型的な男のやもめ暮らしの様相をしていたが、何故だか居心地がよかった。
畳敷きの部屋に簡素な家具、書棚には数学関連の本やレポートが並び、それ以外には生活に必要最低限のものしか置いてない。
彼には必要のないものだからだ。
デスクにはパソコンと、やはり数学の書籍がうずたかく積まれている。その脇にはちょこんと、電動の鉛筆削り器が置かれていた。
学生時代にふと、油川は石上に質問したことがある。
「君は何故シャープペンシルを使わないんだ?」
書くたびに芯が丸まり、何度も削らねばならないのは面倒じゃないのか、と。
「僕こそ、なぜシャープペンシルが重宝されるのかわからない」
という答えが返ってきた。シャープペンシルの芯はいつなくなるかもわからない。
ノックした回数をいちいち数えていれば予測することはできるだろうが、それこそ面倒だ。
書けるのか書けないのか、鉛筆はそれが一目瞭然じゃないか。
そう言うと石上はがりがりと後ろ頭を掻きながら、また数式に目を落とした。
部屋で鉛筆削り器が動く音を聞くと、油川はそんなことを思い出す。

石上の部屋に顔を出すたびに油川はなんらかの手土産を持ち、石上はそれを見て無邪気に嬉しそうな顔をした。
土産はたいがい酒やその肴であったが、今日はちょっとした酒器も持ち込んだ。
「君が気に入るかと思って持ってきた」
そのガラス細工を手に取った石上は
「規則性のあるものは嫌いじゃない」
そう言って目元を緩ませた。
一対の猪口と徳利で、赤や青のガラスに順序良く鋭い切れ込み模様の入った、スタンダードなものだ。
人はそれを見て、綺麗だ、美しいという。その色の鮮やかさ、細工の見事さ、丁寧さに。
しかし石上は人とはまるで違う視点から物を見ているのだ。

60:加速る(さきばしる) 3/4
11/01/12 23:19:14 PVn3Vbzr0
「ふ…ぁっ…!」
薄暗がりの中で、石上の身体が触れられて大きくビクッと震えた。
この世でただ一人、天才と呼べる男の考えていることは油川にも及びのつかないことがある。
いやむしろ自分自身の行動に及びがつかず、今でも戸惑ったままだ。
シュンシュンと、石油ストーブの上のヤカンが控えめに音を立てる。壁の薄い部屋だが不思議と冬でも寒さは感じない。
こうして二人、ベッドで身体を重ねているせい―という訳ではないはずだが。

初めはただ、手を伸ばしただけだった。
猛然と数式の証明に取り組んでいた石上が、ふとデスクチェアから立ち上がり、代わりに隣にあったパイプベッドに腰掛けた。
酒よりも何よりも石上を喜ばせるのは、数学の難問だった。油川はそれを手に入れるために
うーんと背伸びをするその姿を、油川は隣の部屋から目を細めて見ていた。
背を丸めデスクに向かう石上の後ろ姿を肴に、油川は愉快な酒を飲むことができる。とても快適な空間だった。
「どうした、もう終わったのか?」
「いや…もうちょっとかかりそうだよ…久しぶりに手ごたえを感じるんだ」
そう呟いた石上の顔は本当に幸福そうだった。そこは深夜の安アパートの一室であるはずなのに、
彼の周りだけは柔らかい陽光に包まれているかのように見えた。
まるで何かの小動物と会話するかのように、天井をぼんやりと見つめながら愛しそうな顔で微笑む石上の身体は、
浮世にあっても心は別の世界で遊んでいるのだろう。
(どこかへ飛んでいきそうだ)
全く、非論理的な話だ。重力や大気の条件を変えず、人間の身体を宙に浮かばせることなどできないのに。
元々、油川と石上は共鳴しあう部分がある。向いている方向も同じだ。
(しかし僕らはお互い全く別のエレメントに存在している)
と油川は思っている。17年前からどんなに親しくなろうとしても、その透明な壁は突き破れない。
相手の表情や向いている方向も見えているが、どちらかがどちらかの世界へ行くことはできないのだ。
石上に限っては、こちらの世界へ来ることなど考えたりもしないだろう。
(こんなにももどかしいことがあるだろうか?)

61:加速る(さきばしる) 4/4
11/01/12 23:23:20 PVn3Vbzr0
油川は物言わず立ち上がり、ベッドのそばまで行った。石上を見下ろす。石上もまた、油川を見上げた。
油川はおもむろに石上の左手首を取った。そしてそのままベッドに縫い付け身体を引き倒し、流れに任せてその上から覆いかぶさった。
石上も抵抗などせず、ただベッドにぱたりと背中から倒れた。
「な…なに?」
石上の物言いは大学生だった17年前と同じように聞こえた。
こんなことを本人に言ったらどう思われるかわからないが、少し幼さを残したような舌足らずの話し方。
目を見開いて、下からじっと油川を見つめている。その薄く開いた唇に油川は自分のそれをそっと寄せ、触れる手前で呟いた。
「僕は、酔ってはいない」
その言葉を聞いても、身体の下にいる男はなんの反応もしなかった。
でも唇が触れる段になってようやく石上から、えっ?と小さな声が漏れ、同時にその身体がビクッと跳ねた。


「…っ…ぁっ…!」
耳の裏に柔らかく唇を落とすと、石上から引き攣れたような声が漏れた。
石上の、アイロンもかけていない洗いざらしの白いコットンシャツ。
そのボタンをするすると外していく油川の顔は何食わぬ顔をしているように見えるが、その目には慈愛の色が浮かんでいた。
鉄面皮の油川も、石上には何故か出来得る限り柔らかく、優しく接したくなる。
開いた襟元にそっと鼻先を埋めると、石上は恥ずかしそうに身を竦ませた。
「…っ…」
泣き声のような吐息に、嫌だっただろうか?と石上の顔を覗き込んだ油川は、目を見開いた。
石上はまっすぐに油川を見ていた。その目は―難問に取り組んでいるときと同じように―透き通っていて、涙で潤んでいた。
それは丸っきり子供のようにあどけなく、油川の胸を締め付けた。
このとき、石上の目は確かに油川を捕らえ、油川もまた、確かに石上の目の奥からその心の中を捕らえていた。
(透明な壁は、本当に存在していたのだろうか?)
17年前から感じていた、越えられない何かの存在を疑うくらいに、石上は近くにいた。
いや、彼は初めからずっと、そこにいたのかもしれない。
ただこの瞬間、自分は確かに石上と同じ世界にいるのだと、少なくとも油川はそう感じた。
再会するずっと前から心に溜めてきた感情が溢れ出し、油川は石上に熱く口付けた。

62:加速る(さきばしる) 5/4
11/01/12 23:25:36 PVn3Vbzr0
「き、君は、何故、黙ってるんだ?」
何度か言おうとして何度も失敗し、暗がりの中であまり役に立たないはずの眼鏡を
おぼつかない手つきで掛けることに気を傾けながら、ようやく尋ねることができた。
自分から押し倒しておいて訊くことではないが、油川はそうせずにはいられなかった。
石上は黙っているどころか、ろくな抵抗もしなかったように思う。
油川の手が恥ずかしい部分に及ぶとさすがに身体が逃げを打とうとしたが、それも容易く封じられるようなものだった。
「君は、意味のないことはしないだろう?」
石上はそう答え、油川の身体の下で驚くほど穏やかに微笑んだ。
(なぜだ)
石上がいわゆるセクシャルマイノリティであるという話は聞いたことがなかったし、
なにより自分がそうであるという話も生まれてこのかた聞いたことがないし、
自分がこんなにも感情にのみ任せた行動に出てしまうなど、決してありえない。
油川にしてみれば全てが腑に落ちない。
それゆえ、油川が石上にした行為の意味を問われても、それに答えるのは今の油川には難しいことだった。
全ての現象には必ず理由がある。
(それをiなどという、訳のわからないもので片付けるつもりはないが)
ひょっとして石上は何もわかってないのだろうか?何も感じてないのだろうか?
「いしが…」
「いや、それよりも僕が黙っていることに意味がある、と言ったほうがいいかな」
白いシャツに埋もれながら、ぼんやりと下から油川を眺める石上の表情は解け、柔らかい。
「…君に、この意味がわかるかい?」
そう言って石上はふわりと笑ったが、この瞬間、油川には実にたくさんの問題の解を求める義務が課された。
(さっぱりわからない)
何故シングルのパイプベッドに、裸同然の姿の男が二人、重なり合っているのか。
いや重なり合っているだけでなく、もっと色々な行為も行ったわけだが、
行った上で何故石上がこうして平静(この平静という定義も曖昧であるが)でいるのか。
「ふむ」

63:加速る(さきばしる) 6/6
11/01/12 23:33:25 PVn3Vbzr0
ここはひとつ、基本に帰ろう。
(わからなければ仮説を立て、実験で実証していくしかあるまい)
現象は目で見て確認できるのだ。これほど明らかなことはない。
油川は不敵に愛用のフチなし眼鏡をひとつ、指でずり上げた。
しかし油川がどのような仮説を立てようが、実証は既に済んでしまっているのだが、残念ながら今の油川は混乱していた。

□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
ありがとうございました。ナンバリングミスすみません。
天才同士のセクロスはどんなものか想像ができないのですが、
将棋みたいに全部頭の中だけで完結しそうなイメージでゲソ

64:霞拳志郎でふたなり・妊娠出産・女絡み・昔話パロ1/9
11/01/12 23:41:40 L1Kycd440

 ____________
 | __________  |
 | |                | |
 | |  |> PLAY.     | |
 | |                | |           ∧_∧ 退カヌ媚ビヌ省ミヌ
 | |                | |     ピッ   (*´ω`*)
 | |                | |       ◇⊂    ) __
 |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |       ||―┌ ┌ _)_||  |
 |  °°   ∞   ≡ ≡   |       || (_(__)  ||   |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

いつも書いてるののスピンオフ的作品の劉家拳伝承者×主人公
ふたなり・妊娠出産・女絡み・眠れる森の美女パロという危険思想なので注意。
正直血迷った。
余りに酷いので葬り去ろうかと思ったが勿体無いので投下。
何が酷いかって、魔法使いの性格が一番酷い。

65:霞拳志郎でふたなり・妊娠出産・女絡み・昔話パロ2/9
11/01/12 23:42:42 L1Kycd440
昔々である。呪いにかけられた城があった。いや、城と言うか、家かもしれない。
そして呪いにかけられているのは、城ではなくてその家主だった。

「…ここか」
さて今ここに立っている宗武という男は、バカなので…いや、バカではなく、
この城に纏わる伝説…というか噂を聞きつけてここにやってきたのである。
その噂と言うのは、「この城にかけられた数々の罠を突破し、呪いによって自室で眠りについている美しい城の主と契りを交わし、
その城の主が目を覚ませば、自らの望む物が手に入るだろう」という物である。
宗武はそういう信憑性の無い話が嫌いなので、そんな話を全く信じてはいなかった。
ただ、この噂が広まって以来、この城の罠を突破した者はいないというので、突破してみたくなっただけの事である。
どうせこんな話は嘘なので、城の中の部屋に行っても何もないだろうとは思う。
まあ、もし万が一本当だったら面白いなと思いつつ、多分「そんなわけはねえ」と思って入ってみた。

「フッ…どんな罠もこの北斗劉家拳の敵ではない!」
とりあえず建物の中に入るまでの罠は難なく突破した。
それから城主の部屋とやらを探すのに部屋を開ける度に罠があったが、それも難なく突破した。
宗武としては非常に物足りなく思えたので、明らかに寝室とは思えない部屋もわざわざ開けて罠を発動させてみた。

つまらなかった。
宗武と言うのはずっとこの数年何をやっても虚しいような、虚無感に支配されており、
とりあえず戦争を引き起こしてみたり武器を売ってみたり平和の架け橋になるような人物を惨殺してみたりと
争いを引き起こすような事をしていたが、どうも何をやっても憂さ晴らしにはならない。
そこでこういう明らかに嘘くさい伝説とやらにも乗ってみたのだが、
「詰まらん」
それで最後の部屋まで来た。
数十年間開けられた事が無いと推測される扉だった。
錠が下りていたので錠を破壊すると、部屋に入った。確かに寝台に人が寝ていたが、
「…おい」
思わず声が出た。
「男じゃねえか」
確かに別にブサメンではない、容姿からすればかなりいい方ではあるが、男。どう見ても男である。
「…帰るか」

66:霞拳志郎でふたなり・妊娠出産・女絡み・昔話パロ3/9
11/01/12 23:43:50 L1Kycd440
「フォフォフォまあそう急くな」
寝台の反対側から声が聞こえて驚いてそちらを向くと、妙な老人が座っていた。この俺に気配を悟られないとは一体何者だ。
「なんだジジイ」
「契っていかんのか?」
「晩飯でも食べていかんか?」みたいな軽いニュアンスで老人は言った。
「男じゃねえか」
「別にワシは女だとは言っておらんぞ」
噂の元凶はコイツか。
「契って、彼…拳志郎が目を覚ましたらおぬしの望むものは手に入るぞ?」
「俺はそういう物に興味はねえ」
「まあそう言うな、契るだけだったらタダじゃぞ」
どっかの悪徳業者のように頻りに勧めてくる。鬱陶しい。
「おぬしも折角ここまで来たんだし」
そういってジジイは消えた。

契るだけなら…って拳志郎は新聞か何かか、と思って拳志郎を見やった。
まあ確かに顔だけなら大分いい方だし、体格はかなりいい方だが宗武の方がもっと体格がいいのでそこは気にならない。
「…」
どうせ家に帰ってもやる事が無いのだし、一丁やってみるか、という気になった。
鏈ってる最中や鏈った直後に目を覚まされたら面倒だと思ったが、自分には北斗劉家拳があるので大丈夫だろうと思った。
試しに拳志郎を抓ったり引っ張ったり打ん殴ったり目を覚ましそうな秘孔を一通り突いてみたりしてみたが、
目を覚ます気配が無い。ただ単に寝ている人間だったらこれで目を覚ます筈なので、
やはりこの男には呪いなり何なりが掛ってるのかもしれない。
とりあえず拳志郎の服を全部脱がせてみて、試しに一回射精させてみたが、それでも目を覚まさなかった。
そこで自分も服を脱いで寝台に上がった。
どうせ相手は寝ているのだから、愛撫せず一気に挿入していいだろうと思って手を伸ばすと、何か違和感を覚えた。
「?」
思わず見た。
「…おい、どうなってんだジジイ」
「呼んだかの?」
いきなり現れた。
てめえ今まで見ていたのか的な文句をつけるのも宗武は忘れていた。

67:霞拳志郎でふたなり・妊娠出産・女絡み・昔話パロ4/9
11/01/12 23:44:56 L1Kycd440
「どういう事だ」
「見たままだがの?」
「なんで穴が二つあるんだ」
「生まれつきじゃよ」
消えた。全く何の説明にもなって無かった。大体「生まれつき」というのも本当か信用し難い。
あのジジイが呪いをかけた時一緒にこういう体になったのかもしれない。
しかし後ろに突っ込むのは前に突っ込むのに比べて大変だとか聞いた事があるので、手間が省けていいかもしれない。
ということで、鏈ってみた。
拳志郎は目を覚まさなかった。
「…おい」
こんどは老人は現れなかった。

最近ご無沙汰だった事もあって10回ぐらいやってみた。後ろにも入れてみた。
或いはと思って拳志郎の陽物を自分の後ろにも入れて見たりしたが、目を覚ます気配が無い。
「…おい」
あれか?騙されてたのか?
そこで宗武はある事に気付いた
「契りを交わし、目を覚ませば、望む物が」というのが噂の内容で、
確かにあのジジイも「目を覚ませば、望む物が」っと言っていた。
「契れば目を覚ます」とは誰も言ってなかった。
「…」
嵌められた。やはりこういう信憑性の無い話に乗るべきではなかった。早く身なりを整えて帰ろうと思った。
しかし今自分の下で色々な液塗れになっているこの男をどうしようかと思った。
このまま放置していくのは流石に気が咎めたので、風呂場に抱えていって洗ってやった。
多少の呻き声は発するものの、起きる気配はない。さっき鏈っていた時と同じような反応だ。
洗い終えると、拭いてやって、ちょっとしたサービス精神で新しい服(部屋の箪笥から出した)を着せてやって、
寝台の汚れた敷布等取り換えてやって、寝台に寝かせてやって、部屋から出た。
そのまま帰ろうと思ったが、腹が減った気がしたので、台所へ行って何か食べようと思った。

数日後。
宗武はまだ拳志郎の家に居た。「どうせ家に帰っても退屈なだけだ」と自分に言い訳するが、
どう考えてもずっと寝ているだけの拳志郎と一緒に居る方がずっと退屈な筈である。

68:霞拳志郎でふたなり・妊娠出産・女絡み・昔話パロ5/9
11/01/12 23:46:20 L1Kycd440
自由に鏈れるとはいえ、そんな事は家に帰って女を買うなりなんなりした方がずっといい筈である。
寝ていて碌な反応を返さない拳志郎を抱いていても詰まらない、筈である。
「…」

数か月後。
宗武はまだ拳志郎の家に居た。
まだ宗武は自分への言い訳を欠かさない。「退屈凌ぎだ」と自分に言い聞かせているのである。
そう、毎日契るのも風呂に入れるのも髭を剃ってやるのも全部退屈凌ぎなのである、多分。

月日が流れた。
最近宗武はある事に気付いた。
腹が出てきている事である。
自分ではなくて、拳志郎の。太ったとかそういう意味ではなくて。
なので観察日記をつける事にした。

日に日に腹が大きくなっていくのを見て、鏈るのを憚っていたら、拳志郎が元気が無くなってきた気がする。
あれか、こいつは寝ているのになんで痩せないのかと疑問だったが、ひょっとして俺との契りで栄養を得ていたのか。
どんな物の怪だ。多分これも呪いの一環なのだろう。全く自分はオカルトの類は嫌いだというのに。
しかしだからと言って鏈る訳にもいかない。しょうがないので闘気を送り込んだらそれで元気になった。全くあのジジイは本当に変態だ。
それで数ヶ月したら産まれた。乳はどうすんだ、と思ったが、どうやら出るらしい。どうなってんだ。

一年数ヶ月が経った。
宗武はまだ拳志郎の家に居た。ガキの世話とは面倒な物だ。世話の合間に本棚の本でも読む。もう何度も読んだ。
しかし本棚の本を読んでいると未だ会話した事のない拳志郎という人間の人となりが多少なりとも分かる気がするのだ。
そう、自分は拳志郎の事を何一つ知らない。もう何年もずっと一緒に暮らしているのに、何一つ知らない。
いや、これは「一緒に暮らしている」と言える状況なのだろうか。
よくよく考えたら自分が勝手に上がり込んで勝手に世話をして勝手に鏈っているだけである。
拳志郎に目を覚ましてほしいとは常々思っていたが、目を覚ましたら不法侵入と強姦魔の誹りは免れないであろう。
「…」
そう考えると起きて欲しくないのだ。
本の余白の汚ないメモ書きももう暗記するほど見飽きた。本は全部読んだ。日記に書く感想も無い。
…いや、まだ読んでない本が一つだけある。拳志郎の日記である。

69:霞拳志郎でふたなり・妊娠出産・女絡み・昔話パロ6/9
11/01/12 23:47:23 L1Kycd440
余りに字が汚いので今まで読む気がしなかったのだが、いい加減読む本も無いのでこれでも読むかという気になった。
人の日記を勝手に読む事について多少の躊躇いが無いでもなかったが、
もう拳志郎が目を覚ましたら非難されるであろう数々の禁忌は犯しているので今さらである。

読んだ。
重要な部分を掻い摘んで話すと、
「女房が死んで毎日酒とタバコに溺れて嘆いていたら、怪しいジジイが現れて、
『死んだ女房が転生を果たすまでここで眠らせてやろう。
生まれ変わった女房が寝てるお前と契りを交わしたら目覚める』
というので承諾した。しかし『契りを交わす』というのは些か問題ではないだろうか。
『口づけをする』とか条件を緩和できないか明日交渉しようと思う」
という事であった。

「…」
思わず日記を床に叩きつけた。拳志郎が目覚めない筈である。その女房の生まれ変わりとやらでなければ、目覚めないのだ。
「望む物が…」というのは、要するに女房にとって望む物は拳志郎なのだから、ただ単に拳志郎が目覚めるという意味なのだろう。

数日後。
ガキと一緒に居間でメシを食っていると、誰かが城に入ってきた気配がした。暫くすると女が現れた。
「あなたがこの城の主?」
「違う」
「じゃああなたも噂を聞いてこの城に?」
「そうだ」
「もう城の主に会った?」
「まだだ」
「なら私が先に会っていいかしら?」
「構わん」
「あら、城の主と契りを交わせば望みの物が得られるというのに…あなたは欲しくないの?」
「俺はただ暇つぶしに来ただけだ」
「そう…子供連れで?」
「そうだ」
女が拳志郎の部屋へ消えて行ったのを見て、宗武は、「…帰るか」と呟いた。

70:霞拳志郎でふたなり・妊娠出産・女絡み・昔話パロ7/9
11/01/12 23:48:24 L1Kycd440
さて、拳志郎は目を覚まして驚いた。死んだ女房そっくりの女性が裸で自分の上に乗っていたら誰だって驚く。
「…あんたは?」
「私よ拳志郎!生まれ変わって、あなたにもう一度会いに来たの!」

宗武は山道を歩いていた。敷地自体が広大なので、延々と一本道を歩く羽目になるのだ。
ガキは歩くのが遅いしすぐギャーギャー喚くので眠らせる秘孔を突いた。抱えて行った方が早い。
歩いている途中で、宗武は自分の日記を拳志郎の本棚の中に忘れてきた事に気付いた。
突き詰めて言えば犯罪録である。自分が、拳志郎に対してした。
もう二度と会う事もないだろうから構わないかと思っていると、誰かが後ろから接近してくるのに気付いた。非常な速さで。
宗武も走ったがすぐに追いつかれた。
「よお」
タバコを咥えた拳志郎である。
「初めまして…かな?」
「…」
「まあ、あんたにとっては俺は初めましてじゃないんだろうけど、俺はずっと寝てたからあんたの事知らねえしな」
「…」
「名前は?」
「…劉宗武」
「ふーん。あ、その子俺が産んだんだろ。ちょっと抱かせろよ」
そう言って宗武の手から半ば子供を奪い取ると目を覚ます秘孔を突いた。
子供は目を覚ますと「まー」と言って拳志郎に懐いた。
「…秘孔を使えるのか」
「ああ、俺は北斗神拳伝承者だからな。…今までずっと寝てたから、多分今は他の奴が伝承者になってるだろうけど」
「その通りだ」
「あんたは?」
「俺は北斗劉家拳伝承者」
「ふーん」
「ずっと寝てたのか」
「そりゃお前見てたんだからわかるだろ、寝てたんだよ」
「その間の記憶は無いのか」
「無いよ」
「…」

71:霞拳志郎でふたなり・妊娠出産・女絡み・昔話パロ8/9
11/01/12 23:49:46 L1Kycd440
宗武は拳志郎が子供をあやしているのを見ていたが、暫くして、
「もういいだろう、返せ」
「なんで返さなきゃならん」
「俺のガキだ」
「俺のガキでもあるだろ」
「…てめえの女房の前で他の男との子供を育てるのか?」
「お前も一緒に暮したらどうだ?」
「あ?」
「あじゃねーよ」
「お前、正気か?」
「ああ?」
「なんで見ず知らずの奴と同居する」
「見ず知らずじゃねーだろ」
「…俺は貴様が寝ている間ずっと勝手に貴様を」
「んー、まあ確かに知らない間に処女喪失したのはちょっと残念だったかなー。初産の喜びや授乳の喜びも味わえなかったし」
「大体、貴様の女房が許さんだろう」
「いや、俺の頼みだったら結構聞いてくれるよ?」
「…いい、そいつは貴様にやる」
子供を抱いたままの拳志郎を置いてその場を去ろうとした。すると子供が気付いて「まー」と言って泣きだしたので、
「ほら、こいつもお前がいいって」
「貴様の女房が、子供はともかく、俺を受け入れる気になるとは思えん」
そう言うと拳志郎はわざとらしい溜め息をついた。
「やっぱりそう思う?」
「当然だろうがボケェ!」
「だよなー。…あーお前との契りで俺が目覚めてたら良かったのに」

72:霞拳志郎でふたなり・妊娠出産・女絡み・昔話パロ9/9
11/01/12 23:51:04 L1Kycd440
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ごめんちょっとサラダバーしてくる

73:風と木の名無しさん
11/01/13 03:53:12 2Mr9XFW00
>>58
GJ…!
映画を見てこの二人にハァハァしてたからたまらん!
石上と一緒にいる油川の表情の柔らかさはやばい

74:風と木の名無しさん
11/01/13 15:56:03 zF4G9Ruo0
>>58
何というGJ!! 禿げ上がるほど萌えました!

75:一本勝負 1/6
11/01/13 16:14:19 bTuft0+t0
ドラマ木目木奉のラムネ→ミナトすこし缶も。
エロ的なものは全くありません。
映画のネタがほんのちょこっとでるのでご注意を。
設定間違えてたらごめんなさい。


太河内春樹が己の甘さを痛感したのは目の前に竹刀が差し出された時だった。
戸惑う太河内をよそに道場内は沸き立ち拍手する者さえいる。
「奏が太河内さんに勝負を挑んだ!」
後輩の誰かが叫ぶ。
「奏、太河内さんからポイント取ったら昼飯奢ってやる」
「後輩に負けんなよ太河内ィ」
同僚たちが適当なことを言っている。太河内は頭を抱えたくなった。
頭が痛い。
そもそも通常稽古を終えたのだからいつも通りに早く道場を立ち去ればよかったのだろう。
それを、何の魔が差したのか分からないが今日に限って道場で一息をついた。
それが悪かった。
道場の片隅で一息ついている太河内のもとへ、奏哲郎がやってきてしまったのだ。
言葉の出ない太河内に奏は笑う。
「今日こそ一本勝負お願いします、太河内さん」



76:一本勝負 2/6
11/01/13 16:15:30 bTuft0+t0

この事態が全くの想定外だと言えばそれは嘘になる。
むしろ、腕に覚えがあり常に上を目指す奏がいずれ太河内に挑んでくると
全く思わない方がどうかしていると言えるだろう。
だからこそ、太河内は常に真っ先に道場を去っていたのである。
道場内に在っては、何故か不機嫌そうと言われる顔の眉根をさらに寄せ、
新人が一睨みで五歩下がるような気迫を常に身に纏い、
それはそれは血のにじむような努力を重ね、日々薄氷を踏む思いで過ごしていたのだ。
しかし結局は予期されていた危険に真正面からブチ当たるという体たらくで、
市民を危険から身体を張って守らねばならない警察官としては大失態である。
知らぬ間にいつもの薬瓶を探している左手に気が付き、太河内はひっそりと苦笑する。
あんなものをこの道場内に持ち込むわけがないのに、自分は何をしているのだろう。
不承不承、太河内は立ち上がる。周囲がどっと沸いた。
こうなってしまえばもう負けである。
今日逃れても明日、明日逃れても明後日と太河内が勝負を受けるまで奏も周囲も鎮まらないだろう。
ならば気の進まない事は早めに終えてしまうに限る。
竹刀を受け取ると、奏は相好を崩した。
(こいつの結婚式以来か――)
奏哲郎の、こんなに嬉しそうな笑顔を見るのは。



77:一本勝負 3/6
11/01/13 16:16:57 bTuft0+t0

面と防具を着けて相手と向かい合い、改めて太河内は後悔した。
面を通しても奏が極めて真剣なのが良く分かる。
その瞳は太河内を真正面からひたと見据えていた。
堪らなくなってつと目を逸らす。……無性に、いつもの薬瓶が欲しかった。
頭痛がする。
目眩がする。
脈が速い。
息が上がる。
胸が、苦しい。
この心音が道場中に響き渡っているのではないかと不安になる。
こうなることが分かっていたからこそ、この事態を避けようと思っていたのに。
「始めッ」
審判役の同僚の声がどこか遠くで響く。
その刹那、右手に受けた一打で太河内は竹刀を取り落とした。


足早に道場を去る太河内を止める者は居なかった。
多分負けたから悔しがっているとでも思われているのだろう。
それはあながち間違いとは言えなかったが、今の太河内は他に明確な目標を持ってロッカーへ向かっていた。
ハンガーにつるした背広のポケットを探り、小さい薬瓶を取り出す。
乱暴に中身いくつかを取り出して音を立てて噛み砕き、それでようやく人心地がついた。
安堵のため息をつき、しげしげと薬瓶を見つめていると思わず苦笑が漏れる。
いつまでもこういうモノに頼っていてはいけないと常々思ってはいるのだが、
ちょっと手元にないだけでこの様だ。まだまだ卒業できそうにない。
こんなことが同僚に知られたら、きっと自分は警察に居られないに違いない――と。
「……太河内さん?」
最も彼の身を竦ませて、最も彼を動揺させて、最も彼が今聞きたくない声が、背後でした。
「ここに居たんですね、良かった」
太河内はとっさに左手を強く握りこんだ。背後の奏哲郎に、薬瓶が見つからないように。



78:一本勝負 4/6
11/01/13 16:18:11 bTuft0+t0

「急に居なくなるから探しましたよ」
奏が朗らかに言いながら近くに来た。
さりげなく身体の右側を奏に向ける。少しでもいいから左手を遠ざけたかった。
「……何か用か」
「いえ、大河内さん足早に帰っていったからもしかしてと――」
太河内春樹は、左手の中の薬瓶に全ての注意を全力で向けていた。
でなければ、いつもの太河内ならばすぐに気が付いたはずだ。奏の視線が太河内の何処に向いているのか、に。
「……ああ、やっぱりだ」
太河内の右手を見ていた奏はそのまま腕を掴みあげる。
「手首、痣になってますね。太河内さんがあの程度を避けられないなんてもしかしたら体調が悪……」
「――っ」
太河内は奏の手を弾いてしまった。
それは全く反射的な行動だった。とても大の男の冷静な反応とは呼べるようなものではない。
いや、もはや冷静であるだとかないだとかいう問題ではない。
いくら全く予期していなかったとはいえ。
この顔の赤さは。この手の震えは。……これではまるで。
(まるで、中学生の少女のようではないか)
警察組織において、自分のような人間は疎まれるというのに。



79:一本勝負 5/6
11/01/13 16:20:13 bTuft0+t0

もう終わりだ、と太河内は思った。
奏はこれで何も気が付かないほど鈍くはないし、そこからなにも推測出来ないほど愚かでも無い。
よりにもよって奏に全て知られて、自分はもう警察に居ることも出来ないだろう。
お互いに命を預け合う警察の人間達にとって、己のような性癖の人間はある種の恐怖と言っても過言ではない。
むろん太河内とて、いくら特殊な性癖だからといっても誰でもいいわけではないのだけれど、
相手にとってみれば「自分がその対象に入り得るかもしれない」というそれだけで恐怖なのであろうし、
そしてそういう相手に命を預けられないというのは至極当然なのであろうし、
結束を重視する警察官にとって信用しきれない相手が居ると言うのはとても致命的なこととなるのはとても良く分かる。
だからこそ、太河内はそういうことはなるべく表に現さないように努力してきたのであって、
少なくとも今まではその努力は報われていたと、そう思っている。
太河内とてなにも警察組織を乱したいわけではないのだ。
むしろその秩序を愛してすらおり、組織としてさらなる高みを目指すために尽力したいと心から願っていた。
だから。
人を愛するだとか。
人に愛されるだとか。
そういうことは一切諦めて、気持ちは自分の内だけに仕舞いこんで、ただ警察組織の為だけに生きようと。
ほんの数秒前まではそう思っていたのに、全て終わりだ。
この警察をより良く改革するという夢も。
ひっそりと心に留めておいたこの想いも。
今まで大切にしてたものを同時にどちらも失ってしまうとは、一体何の罰なのだろう。
太河内は瞠目した。これから叩きつけられるであろう嫌悪の情に、自分はどれだけ耐えられるだろうか。
突き刺すような沈黙に太河内は身を縮める。
ひどく長く感じたが、実際は数秒経ったかどうかくらいなのだろう。
耐えきれなくなって太河内は目を開ける。
真っ先に見えたのは奏哲郎の屈託のない笑顔で、真っ先に聞こえたのは有り得ない一言だった。
「――すみません、怪我してるとこ触ったら痛いですよね」



80:一本勝負 5/6
11/01/13 16:25:49 bTuft0+t0
「あ、太河内さんやっぱり痣になってますね」
神部尊ののんびりした声で太河内は我に返った。道場で三本勝負を終えて、面を脱いで一息ついていたところだった。
神部の視線をたどって右手首に目を落とすとくっきりと赤い線が付いていた。
「お前が力を入れすぎなんだ」
「だってそれ、一本目のやつでしょ?まさかあんなに太河内さんがぼんやりしてるなんて思いませんよ」
唇を尖らせながら神部が手を伸ばしてきた。痣の状態を確かめようとしているようだ。
ばしりとその手を弾いて睨めつけてやる。
「触るな、かすり傷だ」
さらに不満げな顔をして手をひっこめる神部を見て、太河内はひっそりと苦笑した。
とっさの対応も我ながら上手くなったものだ。ということは数年前に比べて自分は少しは成長したのだろうか。
少なくとも今だにあの薬瓶を手放せないあたりは全く成長していない。
「そんなことより太河内さん、僕の勝ちですからね」
「分かっている」
その途端に神部は機嫌の良い顔になり、その単純さにますます苦笑してしまった。
ようやく手に入れたパルトネールをくれてやるというただそれだけだけなのに、
わざわざこんな回りくどいことせざるを得ない自分は成長したようでやはりしていないのだろうな、と
太河内春樹はこっそりとため息をついた。

<了>
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!

最初のAA忘れてしまってどうもすみませんでした。

ラム→缶書きたかったのに何故かこうなりました。

81:一本勝負 6/6
11/01/13 16:26:38 bTuft0+t0
最後のナンバリングもミスってしまいました……重ねてすみません

82:風と木の名無しさん
11/01/13 21:55:20 HLcMgOvLO
>>64
何この謎のロマンチックさ
そして相変わらずツッコミどころが満載w
次も楽しみにしてます

83:風と木の名無しさん
11/01/13 22:09:03 3A7iLULF0
>>64
何だろう…すごく…癖になります
おっぱいおっぱい
本家も続き楽しみにしてます

84:風と木の名無しさん
11/01/13 22:16:39 asY82Wgx0
>>64
盛り沢山のツッコミと面白さw
どう言えば良いかと考えてたら
>>82の 謎のロマンチック それだw
なんだこのかわいむさ苦しい漢と書いてオトコどもはw
加えて謎のほのぼの さらに謎の胸キュン
たまらんですw

85:風と木の名無しさん
11/01/15 11:41:00 E+Rpmp380
>>64
某所の評価とやらも読んだけどこのタイプの小説がわからないとはwwwオバなのかなwww
このノリ最高!もっとやれ~!次も楽しみにしてます
おっぱいおっぱい

86:風と木の名無しさん
11/01/18 13:14:57 l7BAv5Uk0
雄っぱい

87:世界が 1/7 ◆I9jpBkGhiY
11/01/19 01:18:58 9WirUpbk0
生。☆と元アフロネタ。これでお終い。

|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!

まあ色々あったなと、溜め息みたいだけど全然違う息をついた。意味合いが全く違う。
色々で纏めるのもどうなのよ、と言えばそうなんだけども、お前の言い方も結構それどうなのよ、だったしね。
お互い様みたいな面はあるよな。
「こんな気持ちいいなら、もっと早くやっときゃ良かった」
しかし余韻無し、この発言。この言い方に何となくぐさっと来るあたり、俺の方が繊細なんじゃないのかと思う。
うんそのまあ、それ、が終わってから、一人でベッドでゴロゴロいつまでもしてたら、もう俺帰るよ、って。
ちょっと、ホントに俺の方が、ヤリ逃げされたみたいになってんだけど。別にゆっくりピロートークとか、期待してはないけども。
Tシャツを被るお前の頭を、寝そべったままぐしゃぐしゃとしたら、お前は笑った。ははっ、て、柔らかく。
そんで笑いながらどうだったよ、とか言われてもね。
「好きだよ」
「返事になってないよ、シンタ」
「そりゃ、ゴメンよ」
初回の思い出とか、実はあんまり余裕がなかったです、としか言いようがなく、俺の方が恥ずかしいのは実は本当だったりした。
ちゃんと、女の子相手みたいにしてみなとか、そういう煽り方をすんなって。
言われたら途端に、むしろ意識しちゃうだろ、お前なんだって。でもさ。
「あと、やっぱ声が好き」
「俺の?」
「うん」
エロく言えば、アノ声な。何かもう、たまんなかったよ。
お前あんな風に言うんだ。あんな風に。
途端に枕にばつが悪そうに埋めた俺の頭を、お前は思い切り小突いた。思い出すなバカ、とか、図星過ぎて身動きできない。
あんな声で、俺を呼ぶんだと。
耳に残る。
ずっと思ってたけど、お前の声は耳に残る。
寝ても覚めてもって言葉通りだ。夢の中でも多分聞いてた。
起きてからも、最初にぼんやりホテルの部屋の天井を眺めながら、俺はお前の声のことを思っていた。

88:世界が 2/7 ◆I9jpBkGhiY
11/01/19 01:20:20 9WirUpbk0
で、まあ、うん。俺がおかしな具合だったのは、まあ仕方ないだろ。次の日タケシにどんだけ、訝しがられたことか。
ぼんやりしてんなよ。って、そりゃそうだ。
聞いてんの俺の話!?って、スマン聞いてなかった。
挙句にやっぱお前ら、話し合いじゃなくて喧嘩したんじゃないのとか、いや逆だむしろ逆、と俺は思ったんだけど。
だけどそれが、何でそう思うのよって言ったら、そりゃお前以上にタクヤがおかしいからだよ!って返された。
「…は?」
どゆことだ。
いや確かに言われてみれば、だった。いつものお前じゃなかった。
あのおっそろしいほどにクールと言うか、今まで残酷なくらいに、何が何でも全く態度を変えなかったタクヤが、だよ。
朝ロビーで顔を合わせた時、何だかこっちを眩しそうに見て、一っ言も何も言わなかった時点では、別にそんなことも
あるかとか、それくらいにしか思わなかった。俺もちょっとは変な気分だった、し。
でも確かになんだ。移動中の車でも何時も煩いお前が、黙って即、寝に入っちゃうし。だけどそれは無理させたかなとか、
ああ逆に俺は責任もあることだし、そっとしておいてやりたい気分になってしまったわけで。
その上で差し入れも欲しがらないとか、うわあ。そりゃ気付くべきだった、明らかに変だ。
ていうか、俺以外が気づく程度には変だ、元気がないってあっさりわかる。今だってそうじゃないか。
寂しい時に何時もするみたいに、ぼんやり何も無い窓の外を見てたかと思えば、弾く気もないギターをぽつぽつ鳴らしてる。
ここで気心の知れた後輩でも居れば、俺は間違いなくあいつのテンションを上げて来いって指令を出しただろう。
だけど悲しいかな、そうそう上手くはいかないな。今は俺とお前の、仕事なわけなんで。
要するにここは俺が何とかしなくちゃならない、そんな部類のことなわけで。正直自信はないんだけど。
黒めの髪が、そのはじっこが赤いシャツの襟の上で跳ねている。
ああ、何度も言う、何度も言うけど、たまらなく好きだな。
頼りない鼻歌とかさ。それでも微かなお前の気配とかさ。

89:世界が 3/7 ◆I9jpBkGhiY
11/01/19 01:21:19 9WirUpbk0
「タクヤ?」
俺が呼ぶと、お前は思いっきり背筋を伸ばした。
「うぁっ?」
おい。何でそんなびっくりする?別にここで、昨日の続きとかそこまで俺、節操なしじゃないよ。
ぴんっ、てお前が爪弾いてたギターの弦を変な風にはじいて、不協和音が流れた。変な和音が。
「…次、リハ四時だって」
「お、おう」
「タクヤ」
「なんだよぉ」
「……コーヒー、空だよ」
ぷいっと横を向いて、とっ散らかったテーブルの上からマグカップを引っ張り出して、何かこっちと目を合わせないよう
頑張ってるみたいだけど。いやそれ、さっきから何回も空なの、なのに何もぐもぐやってんだ。
変だよ、確かに。何でこんな狭い楽屋でさ、俺に背中向けてんの。
そりゃ気まずいかもしれないよ。そりゃ、俺だってちょっとは気恥ずかしいよ、なあ。だけどそこまで嫌なら、出てってくれても
いいんだよ。
何でそこまでして、ここにいるの。でもって、俺の顔を見ないのさ。
「あのさ…後悔してんだったら、謝るから。なあ」
そんな気はなかったんだけど、そうなると俺も、段々心配になって来る。昨日のあの直後には、全然そんな風には思わなかったけど。
タケシからの出演メモを置いて、傍のパイプ椅子に座る。あ、意識してなかったけどこいつを、机と壁の方へ追い込むみたいになって
しまっていた。
「こっち向け、タクヤ」
「イヤだ」
「……は?」
ギターを抱え込んで、ぐるり反対方向に逃げる。明らかに俺を見ないようにしてる、これは。
お互いのジーンズの膝頭がくっつくくらいの距離なんだけど、そんな距離を、逃げようとしてる。
もっと離れたければ本当に、あっという間に光年の距離になることなんか、お前には簡単なはずだ。お前にはいつでも。
昔からお前には、俺を脱ぎ捨てることなんか簡単なはずだった。縋ってたのは俺の方。
俺が髪をぐしゃぐしゃに、昨日みたいに手を伸ばして乱しても、タクヤはじっとギターを抱きしめていた。

90:世界が 4/7 ◆I9jpBkGhiY
11/01/19 01:22:25 9WirUpbk0
「…タクヤ、俺さ。…謝りたく、ないんだよ」
何か言ってくれ。頼むから。
「だから…どうしたらいいの」
お前中心にまた景色が変わっていく感覚に陥る。でも今は繋がってる、手の中の髪の感触を弄ぶ。
馬鹿だなと普通に、自分でも思う。
ただこういうものを見つけたことがない奴には、何て言われても別にいい。いいんだ、俺は。俺は。俺は。
「……喋らんで、くれるかな」
ぽつり。
「……え?」
「声、聞くと、ちょ……マジで。聞きたくないんで」
がたん。
「うわっ」
突然の展開、突然すぎる展開。
発言もいきなりなら、立ちあがるのもいきなりだ。少しぼうっとしていた、俺にギターを放り投げてきたと思ったらお前は。
「コンビニ行く!4時までに戻る!」
「え、え、え!?タクヤ!?」
「呼ぶな!喋んなよ!!」
酷過ぎないか、この仕打ち。
危うくパイプ椅子のまま後ろ向きに、俺はひっくり返りそうになった。それを見向きもしないでお前は吐き捨てて、相変わらず目を全然
あわせようともしないで、ああテーブルとかスタンドとかにガタガタぶつかりながら部屋を出て行こうとする。
ちょっと。
ショックで胸が潰れそうになるとか。女子か俺は、とも思ったけど事実過ぎて。
一瞬泣こうかと素で思った、素で。
たった数歩離れただけだけど、これが光年かと。縋ってたのは俺の方だったと。
瞬間に思い知って、俺は一人で泣こうかと思ったんだ。思ったんだよ、タクヤよ。
「…シンタ」
「……?」
だけどその事実を俺が、俺の頭が一応理性とか意識とかそういう物が受け止めて、数秒何とか理解しようと努めていたその時だった。
呼ばれてふと振り向くと、ドアの前でお前が固まっていた。
正確に言うと、凝り固まっていた。
片方の手はドアノブにあって、出て行こうとした瞬間に意識がこっち側に戻って、振り向いてしまった。
そんで振り向いてしまったらもう、どっちにも行けないんだ、みたいな。

91:世界が 5/7 ◆I9jpBkGhiY
11/01/19 01:22:57 9WirUpbk0
「……。」
怒ってるみたいな顔だが、ごめん、泣きそうな俺だったけどちょっと笑いそうになった。
何でだか、耳も頬っぺたも真っ赤だからさ、お前。
そんな顔で凄んでも、って。怖くないよ、全然怖くない。
「何、…タクヤ」
お前が手を、ゆっくりあげた。掌を拳に変えながら。
真っ直ぐ俺を指す。
そのまま、また黙る。
「シンタ」
そして、しばらくして押し殺した風に言った。
何で。何でここでハイタッチなの。
そう言いたかったけど、お前が余りにも必死そうに見えるので、俺は黙っていた。
手を伸ばせば多分届くそれくらいの距離、だ。何とか、俺はパイプ椅子の角度をバランスぎりぎりまで傾けて、腕の先を拳にして、伸ばした。
お前の大事なギターは抱きしめたまま。
こつんと触れあうだけ。別に何でも無いこと。
「……コンビニ、行って来るし」
何俺、どうしちゃったのよ。
「…え?」
「コンビニ」
「…あ、うん」
それきり、いきなり現実に戻ったみたいにお前は背中を見せて、乱暴にドアを閉めて出て行った。ばん、と強い音と風が残った。
「…何だあいつ」
そう、それから数秒、俺が固まっててもそれは仕方ないことだと思う。
思わずゆっくり呟いて、さっきの拳の方の手で癖みたいに口髭を撫でる。ゆっくりじんわり、その手が柔らかくなっているような感覚があった。
その手を、ギターヘッドに置く。お前の指がいつもそこにあるところに。
二、三、音を出す。低い響き強い響き、幾つかのコードも鳴らしてみる。
けれどどんな音の中でも俺の耳はお前の声の方を、覚えている。
こんなの無い、のかもしれない。
こんなの無い。
こんなの無い、はずだ。
俺はどうしちゃったんだ。


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