04/03/12 17:57 +m3/AuJe
17
百合の頬が思いきりふくれた。その姿があんまり幼くて可愛いので、口の端が思わず緩んだ。
「……お兄ちゃんって本当は優しくないよね」
「よくわかってるじゃないか。ほら行くぞ。さすがに俺も冷えてきたからな」
そうして歩き始めた百合へ近づきすぎないように、俺も並んだ。
先ほどの会話が妙に引っかかったが、意味などない内容だし、俺は記憶に留めず流すことにした。
そうして俺達は交差点に差しかかった。百合はあれからあまり話し掛けてこない。
沈黙は気になったが、あえて問いたいとも思わなかった。
百合に対する気持ちが揺れ始めたことで自分自身が精一杯だったのだ。
雨の音は思考をかき乱すように辺りへ強く響き渡る。
考え事に耽っていたせいで、雨に混じった音に気づくのが遅れた。
間近に迫った一台の車。激しい勢いで迫ってくる。
気づいたときには避ける余裕さえなかった。
とっさに俺は百合をかかえこんで、抱きしめていた。