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「ヒラ社員も残業代ゼロ」構想の全内幕 官製ベア・残業代ゼロ・解雇解禁の「点と線」
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記者 「Aタイプの労働者は、労働基準法の労働時間規制の適用除外になるのか」
大臣 「民間議員の提案で、検討はこれから。詳細を民間議員から伺ったわけではない」
記者 「労働時間と報酬は峻別するとある。でも適用除外でないのか」
大臣 「法改正が必要か否かは、厚生労働省で詰めていただきたい」
4月22日の19時前。東京・霞が関の中央合同庁舎8号館の講堂で、予定より30分遅れで始まった
記者会見の壇上。経済再生担当相の甘利明の顔には、ちぐはぐな答弁を余儀なくされたことへの困惑の色が、ありありと浮かんでいた。
質問が集中したのは、この日の経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議で、
産業競争力会議雇用・人材分科会主査である長谷川閑史(経済同友会代表幹事)の名前で提出された、説明資料についてだった。
この「長谷川ペーパー」に、6月に改定される成長戦略への反映に向け1年間議論が重ねられてきた、
官邸の雇用戦略の全貌が示されるとみられていた。この日のペーパーでは、労働時間と報酬のリンクを外す
「新たな労働時間制度」を創設するとして、Aタイプ(労働時間上限要件型)とBタイプ(高収入・ハイパフォーマー型)が提示された。
詰めかけた記者たちが一様にその内容をつかみかねて、首をひねっていたのが、Aタイプだ。
労働基準法では1日8時間、週40時間の法定労働時間を超える残業や休日・深夜労働をした労働者に、
企業は割増賃金を払う必要がある。甘利は言を濁したが、字面を素直に追えば、本人の希望と労使合意があれば、
対象者はこの労働時間規制の適用が除外され、「残業代ゼロ」になると読み取れる。
問題は、その対象者は誰なのか、そして労働時間規制に代わる最低労働条件はどう法で定められるのかという、
肝心要の点について、まるで触れられていないことにある。
「子育てや親の介護などを余儀なくされる労働者に向くのでは」
長谷川は会議で対象者のイメージをこう語ったが、それが特に要件とされているわけではない。ペーパーの冒頭では、
働きすぎや過労死、「ブラック企業」の問題から労働基準監督の重要性まで
五月雨式に触れられているが、いかにもバランスを取るための後付け感が強い。
●新たな労働時間制度「スマートワーク」(略)
●官製ベアを受け入れた経団連も及び腰(略)
●「首相指示」が下され規制緩和は不可避に
強烈な推進役が不在では、スマートワークをこのまま公表することは得策ではない、
と判断した菅原が着目したキャッチフレーズが、「女性の活用」である。
経済界から、より使い勝手のよい「残業代ゼロ」制度を求められたというより、
柔軟な働き方を望む子育て世代や親介護世代の女性の活用のため、という建前のほうが、世間体はもちろん、
女性の活用推進に深くコミットする安倍以下、官邸の受けもはるかによい。
そこで2週間の突貫工事でスマートワークから作り替えたのが、冒頭のAタイプというわけだ。
聞こえのよさを獲得した一方、失われたのがわかりやすさと、これを積極的に導入する意義である。
事前の案内によれば、労使双方にメリットのある「労使自治型裁量労働制」の創設を提言するとあり、
少なくとも新入社員まで残業代ゼロになるスマートワークとは一線を画するものであったことは間違いない。
ところがその5日前に急きょ延期が発表された。関係者によれば、長谷川の意を受けた同友会事務局が
馬田にスマートワークについて提言に入れるよう求めたところ、到底同意できないと馬田が激怒。
長谷川と馬田の間も険悪になり、やむなく延期になったとされる。
「時間ではなく成果で評価される働き方にふさわしい、新たな労働時間制度の仕組みを検討していただきたい」
それでも22日の会議の最後に、安倍が発したこの一言は大きい。
この「首相指示」により、厚労省が主張する現行制度の見直しだけでは済まなくなった。
さらに安倍は5月1日、英国ロンドンの金融街シティでの演説後の質疑応答でも、労働時間規制の緩和に強い意欲を示した。
「もっと柔軟な働き方ができるように労働法制を変えていく。やり遂げなければ日本は成長できない」
経産省の振り付けで、本格的に走り出した労働時間規制の緩和。Aタイプ、そしてその本音である
スマートワークまで近づくかは世論の動向次第だが、規制緩和に向け一定のレールが敷かれたことは間違いない。