05/03/20 21:07:00
食事をしながら久々に、心の底から元部下の幸せに共感して笑う事ができ
た。これは、戦友達と夜に港でドラム缶の炎を囲んで交わす笑顔とは、明らかに
違う感覚であった。何か、遠い、どこか地平線のかなたに置き忘れてきた感覚
であった。元上等兵がここまで幸せな家庭を守り抜いてきたという事実に、
俺は彼を尊敬した。
帰り道に、マンションを出て道路から明るい窓を見上げて、俺は敬礼した。
元上等兵もそれに応えてくれた。二人は暫く、互いにその姿勢を保った。
「ぐんそ、あーそーぼ」
ホテルへの帰り道の間、俺の頭の中をその声が渦巻いていた。そして、元
上等兵の奥さんの笑顔を…これは必要以上に思い描かぬように努めた。