07/11/25 00:07:02 2YuYz6wb
彼女が家にやってきたのはいつ頃だったろう。はっきりと思い出せないけど、多分春。
まだ風が少しつめたいけど、暖かい日差しが降り注ぐ、そんな頃だったように思う。
―そうか、丸1年なんだ。
彼女はMaxtor DiamondMax 16 4R160L0。160GBというトンでもない記憶容量をもってるくせに、
人懐っこくて穏やかな性格の、我が家の倉庫管理人。
はじめて家にきたとき、僕の持ってる手鏡では彼女の全身を映すことさえままならず、
ATA133カードという姿見を急遽調達するはめになった。
ようやく彼女の頭のてっぺんからつま先まであらためて見てから、これからよろしく、とタイプした小さなファイルを渡したんだ。
彼女はきょとんとしていたように思う。
なにせ無限にも思えるくらいの記憶容量を誇る彼女にとって、それは何千分の一にもみたない小さなテキストファイルだったから。
それからわずか数日、彼女のめざましい働きぶりに、僕は感心を通り越して感動していた。
彼女は高音質の音楽ファイルでも、映像でも、思い出の写真でも、
そしてちょっとエッチな画像なんかも(これには顔を赤らめつつ)てきぱきと保存してくれたし、
必要とあらばさっと取り出してくれる。
いままで散らかっていた我が家のファイルたちはたちまち集められ、分類され、整然と並べられた。
どんどん詰め込もうが、彼女は余裕たっぷりにさばいてくれる。
春が過ぎて、夏になり、彼女は変わらず必要な全てのファイルを保ち、渡してくれた
秋になった。
彼女はごくたまに咳き込むことがあった。
それはよほど気をつけないとわからない程度の音。でも少し気になった。
彼女の管理してくれているファイルは数万に膨れ上がっていたがそれでも八割に満たない程度。
念のため医者に診せてもみたが、
白衣のチェックディスクさんはルーペを眼前にさらしながら問題なしとそっけない診察結果を返してよこした。
そう、彼女の働きぶりに変わりは無い。でもごくまれに、返事が遅くなることが会った。
なにか考え込んでいるんだろうか?
彼女に聞いても、いえ、そんなことありませんよ、と目をぱちくりして答える。