10/07/02 02:38:37 HKhb8w2q
蒸し暑い熱帯夜の中、じとじとする首筋にいらいらしながら、スティッカムなるものを検索してみる。
いわいるランカーや、セミプロの一際異彩を放つ配信絵に目が留まり、pixivからスティッカムへとジャンプする。
画面にうつしだされたラフでさえ、その妙技に舌を巻く、その一筆一筆が深遠な神秘のように見えた。
まだ配信して間もないのか、入場者はいなかった。静かに流れる作業用BGMの中、配信者は静かに絵を描き進めていく。
私の頭の中で静かな囁きが聞こえた。
「チャンスじゃないか? 今入れば憧れの絵師さまと交流なるものを味わえるんじゃないか?」
―その言葉に私はぞくりとした。
だが、私が一歩踏み出すより早く、誰かが入場した。
配信者は嬉しそうに歓迎の挨拶を返す。私はがっかりしたようなほっとしたような気持ちで、入場した彼のプロフィールをこっそり覗き見る。
彼もまた同じ底辺だった。
私はまるで自分の姿を見るように、彼が配信者へと送る賛辞の言葉を見つめていた。
配信者もその言葉に軽やかに答えるのを、まるで自分への言葉にようにぼーっとした気持ちで見つめていた。
「まだ今からでも入場したらどうだ?」
そんな囁きが私を誘惑してきた。今度こそ迷わず入ろうと決心したとき、新たな入場者が現れた。
「あら、○×さんきてくれたんですかー!」
と親しげに歓迎する配信者、それからはどんどんと入場者が増えていった。
誰も彼も常連のようで、すぐに右窓を使い絵を描き始める。
プロフィールを確認すれば皆、ランクイン経験のある人ばかりだった。
そんな中、底辺の彼は圧倒され打ちのめされていたように思う。
ただただ控えめで、でしゃばるず、誰かが冗談を言えば「ww」と同調し、自分から話題を振ることもなく、振られることもなく、
ただそこにいるだけの存在になっていた。
―あの時やはり入場しなくてよかった。
そう私は思いながら、ブラウザのXボタンを押しページを閉じた。
「本当にそうだろうか?」
その囁きに、私は心が締め上げられる。
底辺の彼はいるだけの存在だったかもしれない。
だが私はなんだ、存在さえしないじゃないか……。
底辺の彼は成し遂げていたのだ。
私はさめざめと泣いた。
自分の不甲斐なさに、臆病さに、惨めさに、それから底辺の彼に私は嫉妬した。