09/03/30 23:55:38 hIx/ujph0
静謐な深更に携帯電話はけたたましく鳴動した。
私は眠気朦朧と電話機に手を伸ばし受信メールを鈍重な目線で一瞥。
「俺、助かりたかったんです。藤原さん、御免なさい」送信者不詳の謎めいた草々な謝辞。
私は眠気のなか一抹の空恐ろしき不安感を抱懐するも、夢寐の悪戯だと自己へ言聞かせ再び就床。
しかし直後、鳴る筈の無いインターホンが嫋々と鳴る。此処は電報さえ届かぬ山間僻地の家屋の筈。
安眠のまどろみは翻然と雲散。私は慄然と開眼覚醒し跳ね起きた。
私の住家が不当債務弁護依頼主の卑劣な密告によって極秘裏に足が付いた瞬間だった!
私は戦々恐々とインターホンの受話器に鼓膜を肉薄。
「・・・・・藤原か。俺山田だよ。」
不快な男声が脳裏の記憶を忌々しく呼覚ます。
いつぞや電話口で痛烈に罵倒した悪漢が、実家の門前に実在し臨戦待機している恐怖感と絶望感。
「オメーの住所はお前チクられてっから判んだYO、バーカ」
ヴェルはインターホン越しに慄然と狼狽しつつ、屋外で害意を漲らせている怪人に詰問。
「私のウチに来て一体ドコに拉致するお積りですか?」
「何処でもEだろ。俺の好きに拉致するYOお前YO」余裕綽々の悪態で威嚇して来る巨悪のチンピラ。
「好きにするってどーゆー事でしょうか」内心焦燥しつつも私は毅然と問質し直す。
「答えやえーやw、答えやえーやw、答えやえーやw」
門前のチンピラは私との対面を待機しかね、翼々と畏怖する私に奇声連呼して嘲弄しつつ郵便受口から長い腕を伸ばし、解錠。
私は彼奴の悪辣な面貌を視認する事無くベランダから脱兎の如く逃走。
暁闇に駆込んだ近郊の駐在所にて毛布に包まって飲んだ珈琲の美味と来たら―。
素足に痛ましく刻まれた創痍は当時のスリルを鮮烈に彷彿させてくれるよ。
×月×日 銭湯脱衣場にて。 ヴェル