【2次】漫画SS総合スレへようこそpart80【創作】at YMAG
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart80【創作】 - 暇つぶし2ch2:永遠の扉
18/11/23 22:48:19.04 O3D23CZ2.net
 ぷかぷかと浮かぶ自動人形は疎開団地北東部の『外郭』を見る。
(妙に冷たかった謎の物体は……移動済みのようね)
 ヘビの指にもかからなくなった(=温まった)『謎の物体』をリバースは捜す、自動人形越しの空撮で。
 過去。白い法廷。
「お姉ちゃんの自動人形はどこにしまっているのか、物騒な兵器を投げまくり……ます。1年前無銘くんたちともども遭遇した
時は……私たちの全方角がびっしりと埋め尽くされるほどの数を……一瞬で投げました。たぶん……350本は……超えて
……いました……」
「対策が、必要だな」
 なおも追撃に移らんとする自動人形の動きがはたと止まったのは、廃村ド真ん中、13号棟の屋根に昇ってくる人影を認め
たからだ。異常といえば異常だった。爆撃の嵐と悲鳴が轟くなかその人影は安全地帯の対義語のような場所に雨漏りでも
直しにきたような気軽さで登攀してきたのだ。
 自動人形がとりあえず殺すと軽く決議し投擲に移ったのと
「藤甲の武装錬金、キャッチアンドリリース7(セブン)!」
 人影が身を屈め屋根に手を突いたのは同時であった。
「キャッチアンドリリース7の特性は植物の……操作」。倒錯する時系列のなか、白い法廷で斗貴子は述べた。
「三国志のころ南蛮にあったという鎧、藤甲。その右手または左手部分が接触した『植物の死骸』は、吹き込まれる創造者
の生体エネルギーによって意のまま操られるようになる。植物の死骸は容積が大きければ大きいほどいいらしい。私が資
料で見たキャッチアンドリリース7はサイロの中の干し草ブロックをふんだんに使ったもので、大きさときたら銀成市で交戦
した花房のざっと3倍はあったんだが……本人曰く『全然だ、まだまだ大きく』。小技にも向いていて私が最後に共闘した去
年の秋は並木道いっぱいなイチョウの落ち葉をカッターよろしく使っていた」
「植物……?」
 鐶は唖然と両目を瞬かせた。何しろこの時は、いつリバースとブレイクが来るか分からぬ瀬戸際だった
「大量の植物……集める時間…………ないの……では?」
 ペンペン草1つ生えていない廃屋の屋根に手をついた藤甲の戦士に100近くのポテトマッシャーが降り注ぐ。
「? 鐶、キミが気付かないっていうのはどうなんだ?」
 廃屋から噴き出した無数の濃緑の蔦があっという間にジャックの豆の木サイズの太さとなり……枝分かれの数々がポテト
マッシャーを総て絡めとった。
 22号棟付近でリバースは「むー」と膨れた。
「木か何か操る能力……! うう! だからといって『木造建築』まで再生させるのどうなのよ!! 植物使いならフツー
に生きてる奴あやつってよ! 伐採されて建物に使われた木なんて『死んでる』でしょ、なのになんであんなに元気かなもう!」
「ご立腹なのは光っちの年齢のやり取りの……『若返り』『再生』と被りぎみだからすね、わかりやす」
 ぽかぽか。ブレイクは丸い拳で叩かれた。
 そうしている間にも廃屋から廃屋へと飛び移る藤甲の戦士が同様の処置を繰り返し……
 結果。

3:永遠の扉
18/11/23 22:48:46.22 O3D23CZ2.net
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 黒い太線で囲まれた棟総てが、無数の植物の温床と化し!
 その触手じみた蔦が降り注ぐポテトマッシャーを悉くキャッチ! くるくると内側に巻き込んで爆発させた! 瑞々しくも青
臭い水気に満ちているため揉み消せる、という訳だ。
 白い法廷。
「大事なのは……だ」。組んだ右手の人差し指で左手の二の腕トントンと、斗貴子、囁く。
「この緑化の狙いがあくまで『自動人形の爆撃阻止』だけであると……思わせるコトだ」
「本当の目的は私の未来視用の……『マーキング』なんですよね。確かにこの9棟のどれかなら一発でワカっちゃいます。
一面植物だし、それぞれの建物の葉っぱの色を、黄緑とか、やや紅とか、紫のマダラ染みがあるとか、個体差に見せかけ
て塗り分けてもらえるって……話、ですから、色さえ見ればどの建物か即断できます。どれも四面それぞれ完全には覆わ
ず、元の特徴を露出してもらえ……ますから、これらの建物の前で天王星の幹部が虹封じを使う場合……分かります、一
目で」
 できればこういった目印は総ての建物に施したいんだが……斗貴子が難しいカオする理由をドラちゃんは継ぎ足した。
「そう、なの。総ての建物にキッカリとマーキングするのは……マズーなの」
「ですね……。ブレイクさんも……お姉ちゃんも……頭はいいので…………全部の建物に必ず共通した目印があると……
……おかしいな……と考えます。まさか未来視までは……予測できないにしても…………『建物の番号を把握していないと
できない作戦』を……私たち、が、企んでいると考えて…………」
「ああ。絶対逆手にとってくる。例えばマーキングされた壁をあのハルバードで四角くえぐり、寸分違わず同じ形にくりぬい
た隣の建物の壁と入れ替える……といった軽い小細工をされるだけでもかなりマズい」
「そのどちらか片方が未来視の現場になっちゃうと……最悪、ですね」
 特定できなくなりますと、輪。
「そう、なの。それさえなければドラちゃんのかまいたち一発で25棟全部に数字刻めた……なの

4:永遠の扉
18/11/23 22:49:05.72 O3D23CZ2.net
「一番ラクなのは、植物廃屋のない廃村辺縁部の道合計8本総て(※)にバリケードを張りペイント弾で色分け……とかな
んだが、露骨に着色するのはマズいな流石に。不自然すぎて感づかれる」
 ※ CとD、3と4を除く総ての道。ちなみに下部は厳密にいうとこの話し合い直後の戦況図であるが、便宜上、予想図と
して扱う。
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「一体どうすればいい?」
 爆撃こそ阻まれたが自動人形によって『屋外の戦士たち』は監視できるブレイクたちは屋内からの奇襲を警戒しつつB
列通路をまっすぐ北上。やがて植物の濃厚な匂い立ち込める5行目通りにさしかかった時、”それ”は来た。
「バリケードの武装錬金! ウォールサージ!!」
『んもーー!! 次から次と!! どんだけ能力あんのよぉ!!! 光ちゃん出してよぉ!!!』
 怒りの漫符も露骨にくしゃっと笑うリバースの発散(もじ)を見ながらブレイクは「にひ。そりゃまあ30人近い戦士さん相手
にしてますからねえ、むしろ登場ペース遅いくらいすよ」と余裕の表情。そのすぐ前で発現したのは十文字に組まれた柱で
ある。横顔角度で現出したそれは1つや2つであない。通りの、行進だった。一定間隔で並んでいる。のみならず三角に
落ちくぼんだ脊梁に丸太が乗る。神事に使われてもいいほど長大な丸太だった。そして組木も丸太も螺旋状の有刺鉄線
に覆わr『邪魔っ!!』
 ミニミ並みの連射力はあっけなくバリケードを吹き飛ばした。
「あー。迂闊に手ぇ出さない方が…………」
 清純で思慮深い癖にテンパってくると恐ろしく短気というか雑になる恋人をとても可愛らしく思いながらも冷や汗なブレイク。
先ほどの衝撃波エイリアンの例だってある。咄嗟にリバースを守るよう肩ごめに抱きすくめた彼は、おぞましい反撃が来や
しないかビクビクと目を開き周囲を見渡すが……これといって異変はない。
(……? ど、どーいう能力すか? 何も起こらないのが却って怖い! だってそうでしょ! 呆気なく破られて終わった……
ように見える能力ほど後ですっさまじい逆襲してくるんですから!!)
「ぶ、ぶれいく君……そ、その、イヤじゃないけど…………いま戦士が奇襲してきたら私ゼッタイ足手まといになるっていう
か、ここっ、こんな格好見られたら恥ずかしいから、光ちゃんに見られたら、あたっ、あたままっしろになっちゃう、から……!
は、放してくれると嬉しい、かなー、なんて……!!」
 蚊の鳴くような声でしどろもどろな恋人を己の胸の間に見たブレイクは「わわっ! すいません!」とこれまた初心な様子で
解き放った。そして合い向かうコト1秒。どきどきどき。どきどきどき。気まずい赤面のまま両名は硬直したが、『とおろお!』と
銃撃の音階が刻んだ文字を見た青年、「そそっ、そーっすね、この先へ、とおろお! っすね!」と……。

5:永遠の扉
18/11/23 22:49:22.58 O3D23CZ2.net
 破られたバリケードの内側へと、進入した。
 進入して、しまった。
 その姿を25号棟5行目通りに面する窓の中から遠巻きに見た黒髪短髪痩身矮躯の男、思う。
(ええい戦場でイチャつきおって! うらやま憎い小僧どもよ! しかしケケッ! ウォールサージの特性は進入を防ぐもの
などではないぃ!!!! むしろ逆ッ! あれの向こう側にどうしても行きたくなるのだ!! ウケケ! 阻まれれば入りたく
なるのが人間心理! それは調整体といえど例外ではないい!! 本来はガケや落とし穴など落下系武装錬金とのコンボ
で使うものであるが、今回は津村斗貴子の要請で別の、利用よぉぉ!!)
 人間であるのが信じられないほどヘビじみた舌をバックリ開いた口の間からひらひらさせながら壁村逆門(ぎゃもん)29
歳は思う。
(要するに貴様らは! あ! 余が武装錬金を目撃したとき既にぃ! 貴様ら打倒の大いなるゥ陰謀に引き込まれていたのだあ!)
 グルグルと渦を巻く目で汗と鼻息全開で思う壁村逆門(29)の恋人いない歴は年齢と、等しい。
 過去。白い法廷。
「いやいや、8本ある道ゼンブにまでいりませんよ。バリケード」
「そうですよ。お言葉ですが斗貴子先輩、バリケードはですね、道一本分でいいのでは?」
 未来視用のマーキング作業について論じていた斗貴子におずおずと具申したのは先ほど逃走中あれこれ喋っていた男の
後輩2人。音羽警と泥木奉である。
「一本で……? どういうコトだ? コレはちゃんと見た上で……言ってるんだな?」
 困惑気味の斗貴子が差し出したのは自分用に書いた予想図である。

6:永遠の扉
18/11/23 22:49:39.92 O3D23CZ2.net
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「廃村中央に近い、06号棟とか20号棟など6棟は、太枠で覆われた植物廃屋からのツタなどを密かに伸ばすとか、自動
人形の投げた爆薬を受け止め損ねたフリしてブツけて壊しておくとかでマークできるが、それ以外の01から05、更に
21から25の廃屋にまでそういった処置をすると怪しまれるし……何より区別のバリエーションがないぞ?」
「ついでにいうとこの10棟は東西南北あるから、把握すべきスチールは40、なの。だからその傍の道貫く目印が有った方が
分かりやすい、なの。端っこのAとかFとか、1とか6の道に面する面までキッチリ把握すべき、なの」
 なのに1本だけで大丈夫なの……という眼差しを台風の目で送ってくるドラちゃんに、モブな音羽と泥木は「いや大丈夫
でしょコレ」と事もなげにいった。余談だが前者は黒髪短髪しょうゆ顔、後者は茶髪長髪ソース顔。いずれも15~16の街中
に1人はいそうな顔立ちだ。
「まず縦の道、Aですけどコレ、西じゃないですか。で、いまは夕暮れ」
「なら01、06、11、16、21のA列通路に面する側は夕陽を直に浴びてますからその色で分かるのでは?」
 ほー。鐶は虚ろな目をまろくした。斗貴子ですら意表を突かれたように息を呑んだ。
「で、映写機で北端の棟5つの1行目通りに面してる部分と、南端の棟5つの6行目通りに面する側みれますか? 端っこな
分、遮蔽物がないから、他の建物に比べてけっこう明るいと思いますが」
「……あ、確かに」
 輪は驚き「凄いです凄いです先輩たち凄いです!」と2人の手を取ってぴょこぴょこ跳ねた。
(ちょやめて)(女のコに免疫ない俺らにそういう期待しちゃうような仕草やめて)、男戦士2人は紅くなったり困りきったりしなが
らも、
「な、なので後は5行目通りにバリケード張るだけでいいのでは」
「そ! そうなんですよ、廃屋は北面が裏口で南面が玄関ですから、バリケードの夕陽の濃淡でどこか分かるんじゃないかなって」
 男2人の口から急に出てきた裏口だの玄関だのという単語に斗貴子はちょっとついていけない顔をしたが、
「……ああそうか。元が疎開用の建物だからな。裏口もあれば玄関もある。東西南北総て同じ造りする方がおかしい、か」
「で、北が裏口で南が玄関な建物を25個コピペしたのがここ……簡易集合住宅地……なの」
「だから……バリケードが見えて夕陽が物凄く濃い「玄関」が写真に写ってたらそこは16号棟……、「裏口」なら21号棟
……です、ね」
 ちょ、ちょっと待ってくれませんか皆さんの理解が早すぎて私ちょっとついてけないんですが!? 軽く泣き笑いしてみせ
る輪に斗貴子は優しい顔つきで説明……し始めた。
「私の予想図を眺めていればだいたい分かる。バリケードがあり、且つ、夕陽がほとんど写っていなければ20号棟の玄関
や25号棟裏口付近。植物の廃屋が健在なら……絶対に遮られるからな」
 えーと。コメカミから黒煙を噴いてまんまる白目になる桜餅色の髪の少女。
「……まあ、なんだ。キミはそこまで細かく把握してなくても大丈夫というか」
「そうなの。どうせ二回目の撮影の強制力で近くに行っちゃうから、完璧に把握してなくても大丈夫、なの」
 そういうもんなんですか……? カメラ少女、不承不承頷いた。

7:永遠の扉
18/11/23 22:50:13.43 O3D23CZ2.net
「え……? むしろ逆に、『二度目の撮影がどこか』分かっていた方が、ブレイクさんとかの居場所から……逆算……
できるのでは……。例えば写真に08号棟が映りこんでいたなら……それの、撮影前の段階で、隣の、03、07、09、13
号棟の……どこかにブレイクさんが差し掛かった時点で……もうすぐ強制移動だって…………身構えられるのでは……」
「だよな。そしたら俺の武装錬金用の心の準備もできるし」
「なので写楽旋も自分の写真がどこのものか分かるようしておいた方がいいのでは」
 鐶に音羽、泥木の囁きに、「ちょ、ちょっと映写機見てきます……地形覚えてきます」とゆらゆら立ち上がった輪。場を、離
れる。
(マジメだなあ。あれで家系は生粋の戦士じゃないんだよな、確か)
(見てて恥ずかしくなるよな……。俺ら両親ともに戦士なのにイマイチやる気ないから)
「ファイト……です。いつも……負けない気持ちで飛べないハードルをクリア……です……」
「なんの話ですか!?」
 フフフ、いつか参戦すると思ってましたよ…………戯画的半眼でドヤ顔する鐶、分かる人には、分かる。
「問題なのは」。斗貴子の人差し指が予想図上の2番目通りを左から右に撫で抜けた。
「ここに何も配置しないっていうのは……どういうコトだ?」
 あ、それはですね。男戦士2人はちょっとだけ才覚を誇る表情を、した。
「『何もない』ってのが逆に目印でしょコレ?」
「そそ。3番通りと4番通りみたく色で判別つく植物とか、5番通りよろしくバリケードとか、そーいったモンが一切無いって
いうのが逆に目印になるんじゃないですか?」
 斗貴子は今度こそ驚愕の表情だ。両目を見開き色を変える形相にはむしろ後輩2人の方がビビった。(え、”あの”斗貴子
先輩がこんな表情!?)(そこまでビビるコトだったのコレ!?)とうろたえる彼らを更に動揺させたのは、彼女がとろけるよう
に優しい笑みを投げかけてきたからだ。
「流石だな。剛太が成績で勝てないわけだ。私が戦団を離れている間、相当努力したんだな」
 偉いぞと言わんばかり凛々しく笑いかける先輩に(やべえ)(剛太の気持ちわかるわ、そりゃ入れ込むわ)と、2人。
(だから……なんでポっと出の人たちなのに、こんな頭いいんですか……?)(ドラちゃんもよく分からなかったから斗貴子さ
んに聞いた……なの。そしたら2人とも10年に1人の逸材って判明した、なの。研究班が何度も何度もスカウトしてるレベル
で……この戦い終わったら本気で転属の話し合いする予定らしい……なの)
 残るはF列通路に面する『5の倍数の棟』東側だが。
「よいしょ……です」
 これもリバースらの到来前。『2本目の倒木』を移し終えた鐶は男戦士2人を振り向いた。
「これでいい……ですか?」
 ああこのコも可愛いな、ああミニスカ生足で裸足なのがポイント高いなという顔で後姿を見ていた男衆は不意の問いかけに
ビクっと直立した─可愛く見えても怪物なのだ、彼らが畏怖する斗貴子が同格またはそれ以上の者5人と組んでやっと
勝てた悪夢のような強豪なのだとそう思い出し、怖くなり─直立した。
「は、はい! ありがとうございます! お蔭で道のちょい向こうで朽ちていた倒木が年齢操作で微妙に若返り、枝が張り!
ここが未来視の舞台になったらゼッタイ場所が分かるようにまして!!」
「更に建物東側の傍に配置完了です! あざっす! さっきの「05」「10」付近同様あざっす!!」
「……誰への…………説明……ですか…………?」
 ぼーっとした瞳を半眼にするデフォルメ鐶。ここは20号棟と25号棟の右側面傍、F列通路の真っ只中であった。
「あああ、おおお、男、男が実空間で傍に来てるの、来るな来るな近づくなーっ! なのーーーーっ!」
 甲高い叫びを上げたのはドラちゃんだ。唐突だが実のところまだ武装錬金名すら明らかになっていない彼女の容貌につ
いて詳しく触れると、雲のようにモコモコとした純白のロングヘアーの横髪いわゆる双鬢(そうびん)も天気をかたどっており、
右は竜巻のようなドリル縦巻きだが完全なドリルではなくキッチン用ペーパータオルの芯を筋目に沿って切った程度の”遊び”
にほつれつつ尖っており、その陰影はメタリックな水色のシャギーによってより一層際立っている。一方、左の鬢は無造作
に垂らしているが、やや水色を帯びた大中小の白色ポンポンを1つずつまぶしている。雪を模したものであろう。

8:永遠の扉
18/11/23 22:50:38.04 O3D23CZ2.net
 つくづくと髪に飾りの多い少女で、前髪やや左上にある髪留めは積乱雲のうち更に”かなとこ雲”。頭の右上にはいかにも
柔らかげな真赤な帽子。少しあとにリバースの自動人形が空撮するが、帽子の上部にはピンク色の線でナルト渦が引かれ
ている。そう。昭和のアニメでおなじみの『お日様』だ。そして更に帽子にはどう結わえ付けているのか……『色あせた紫色の
リボン』。だが少女を装飾するはずのそれはどういう訳か端が破れている。格闘家キャラのハチマキのように破れている。
それこそが彼女を過去(あね)と結びつける象徴であるが、詳細は追って語られるであろう。
 ところで雷はどこかという話になるが、それは後ろ髪で、ほどよい安産型にかかる辺りは純白の髪はもう墨を吸った筆の
ような色合いで、ビカビカとした20近い金色の稲妻型シャギーはそのまま髪となって鋭く下に飛び出ている。
 髪だけで結構な騒ぎだが、耳も、うるさい。イヤリングだ。右は雨粒を3つ縦に連ねただけのシンプルな奴だが、左ときた
ら上から順に、あられ、ひょう、みぞれと来ており最後の1つに至ってはシャバシャバと溶けた様子すら再現している始末。
 瞳は台風の渦だが戯画的で、カタツムリの渦よろしく一筆書き。色は南国の夏の空を思わせる『紺色』だ。
 服装は、シンプル。戦団支給の制服─再殺部隊のそれをより明るく、正規の兵の意匠に改めたものだ─を無造作に
ノースリーブにし、その上から薄緑のパーカーを羽織っておりD寄りのCは魅惑的な起伏を布地にもたらす。
 下が短パンなのは写楽旋輪と同じだが、こちらは裾がクルンと丸まっている。モブの男戦士AとBが(いいな)(ああ、いい
な……)と一瞬見とれていたのは短パンとハイソックスの間から覗く小麦色の太ももいわゆる絶対領域で、細くこそあるが
靴下に圧迫されているせいか妙にムッチリとして見えた。余談だがハイソックスはしましまで、『虹の七色がブロック別に、
グラデーションで並んでいる』ので見るもの全員、熱帯の毒蛇を見たような強烈な酩酊感を味わう。
 とまあ、アニメの世界から抜け出してきたような風貌なのが気象(きあがた)サップドーラーという少女である。奇人変人の
多い戦団の中でも「お前は世界観を無視している」となどとしばしば苦言を呈されるほど現実離れしている、そういう見た目
だ。やがて別の戦場で焦点が当たるであろうジト目ダウナー吸血鬼コス少女と並ぶと一気にコスプレ感が増す。とにかくド
ラちゃんは目が怖い。瞳孔が、呪法のマドラーを突っ込まれ攪拌されたのかという位みごと巻いているのだグルグル渦を。
実際にはよく見ると、三層ほどの、三重ほどのものだし、色合いとか光の反射とかはエメラルドとアメジストで作ったペロペ
ロキャンディーのような幻想的な造詣でもあるから、『これはこれで』とトキめく男戦士が皆無という訳でもないが、夜道で出
くわすとちょっとギョっとする異形の瞳なのは確かだ。ドラちゃんが鐶に何となく同族嫌悪を感じている理由の1つはそういっ
た”瞳が特徴的”カブりだからかも知れない。
 で、ヘアアクセの情報量の多さやら瞳のインパクトやらのせいで霞んでいる─天候使いで”霞む”など狙いすぎなきらい
もあるが、偶然である、あくまで─霞んでいるが、ドラちゃんの面頬は決して悪いものではない。小顔。すっきりと流れる
控えめな鼻、秋の夕暮れ時の蒼穹の際のようにほんのり赤らんだ、だが栄養不足の二枚貝のような儚げな唇……。それ
らが独自の感性に基づく行動と合わさって不可思議爛漫、まさに天気の妖精な魅惑を振りまく少女こそ気象サップドーラー。
 しかも……強い。7年間の戦士生活で撃破したホムンクルス……実に271体。戦部の記録こそ60体近く下回っているが
それでも現役戦士中3位の記録保持者である。
 そんな彼女が。
「ふわあああん!! オトコ、オトコはヤなのーーーーーー!!!」
 3mは離れていた音羽と泥木─配慮して離れようとしていた男たち─に突然恐慌をきたして……逃げ出した。
「お、おい!! もうすぐ幹部たちが村に着くんだぞ、単独行動は」
 やめろとギョっとする斗貴子をよそにドラちゃん、20号棟の東側を北に向かって爆走し……角を曲がって見えなくなった。

9:永遠の扉
18/11/23 22:51:25.05 O3D23CZ2.net
「ここは見知らぬ場所……迷ったらマズい……です……! 私が……連れ戻し、ます!」
「なんだその唐突で無駄な使命感!? というか迷うのはキミ!!」
「あー。大丈夫だと思いますよ」
 足音が曲がりました、20号棟を反時計回りで戻ってくる軌道ですねこれ。冷静に呟く輪を皮切りに「……キミ、耳いいの
か?」「職業病です。普段ビクビクしながら偵察やってますから」などと話している間にドラちゃんは最後の角を曲がり元の
通りへ帰ってきた。表情たるやポンコツ丸出しだった。両目を不等号にしてゴルフボール大の涙をひんひん飛ばしながらファ
サファサした竜巻の鬢と雪の鬢を揺らめかし、「オトコ、オトコから逃げるのーーーっ!!」と半狂乱で全力ダッシュ。
「…………。……雷とかと…………同化すれば一瞬で遠くへ……いける、のでは……」
「それを忘れるほどビビってるんですね、撃破数3位が……」
「どんだけ男性恐怖症なんだ……」

10:永遠の扉
18/11/23 22:51:41.93 O3D23CZ2.net
 えーと。音羽と泥木は困惑した。逃げた少女が廃屋外縁を一周して今度は突っ込んできた状況をどう捌いていいものか
判断を絶した。気配が伝わったのだろう。「っ!?」とぱちり目を開いたドラちゃんは行く手を塞ぐ「オトコ」の姿にキュウリの
ごとくカオを細くし─…
「ギャーーーー!!!」
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
 両目の渦をギャグ漫画にナイズドし……絶叫した。遠景の山林から無数のムクドリが飛び立つほどの声量だった。遠く
離れたアジト偵察組の戦士たちの何人かが「サップドーラーまたやってるよ」と眼窩の下に呆れの線を浮かべるほどの絶叫
だった。それをひとしきり上げたドラちゃんはやがて事切れたかの如く目を閉じその場に崩れ落ちた。
「自爆!?」
「どんだけ…………男性が…………怖いの……ですか……」
 5秒後。
「活により息を吹き返したのはいいんだが……。キミそろそろ離れてくれないか? 幹部への準備とか時間がだな……」
 作戦行動の遅延を危惧する斗貴子をものともせずその後ろに隠れたドラちゃんは、ぶるぶる震えながら黒髪少年と茶髪
少年を睨んでいた。天気図用の指示棒を右手でブン回して威嚇しながら、左手で斗貴子のセーラー服の脇腹部分を必死に
掴んで震えていた。

11:永遠の扉
18/11/23 22:52:26.47 O3D23CZ2.net
「…………キミほんとうに男性恐怖症なんだな…………」
「ああ当たり前なの、オトコは怖い、なの……! 7年前、目の前でお母さん殺したのがオトコで…………! ドラちゃんに
もハンマーで、ギガントマーチで……頭とか……みぞおちとか……殴って…………むむむっ、無理やりいう事きかせようと
してきたから……イヤ、イヤなの…………!!」
 あー。そこは何となく共感……です。鐶は淡々と呟いた。「私も……似たようなコトしてきた……お姉ちゃん……トラウマ
……ですし…………」。
「だから、だから!! ドドドドラちゃんは可愛い女のコが好き、好き、なの……! お姉ちゃんみたいな綺麗な人じゃな
きゃ…………話したくない、なの……!! 怖い、なの……。怖い、なの…………!!」
 じっとりと涙を溜め、小動物全開で男たちを睨むドラちゃん。
 な、なんか悪いな……。俺らすぐ遠ざかるから。威嚇された音羽と泥木、建物の影へと消えていった。
「あ……」
 悪いコトしたなというカオを天気少女はした。ふわふわもこもこの雲型ヘアーの下で台風の目のような瞳孔がシュンとなった。
「ん? キミ……姉がいるのか?」
「……。その話は……すると絶対長くなるから、後で、なの。本当は今すぐお姉ちゃんのコト斗貴子さんに聞きたいけど…………
ドラちゃんは今、ヘンな失敗で尺とっちゃった……なの。だからもう幹部たちへの対策が……優先、なの」
「? 待て。キミの姉は私の知っている者……なのか?」
「……お姉ちゃんのコトまで記憶喪失なら……仕方ない、なの」
「…………」
 斗貴子の凛然とした瞳が困惑に縁取られた。戦士だから、経験則がある。”話を聞きたい”とせがむのは殉職者の遺族だと
……知っている。だが武藤カズキと出逢うまでずっと周囲と距離を置きがちだったのが斗貴子、語れるほどの交遊があった
戦士など…………いない。殺陣師盥のような向こうから話しかけてくるタイプの女戦士になら何人か心当たりがあるが、その
うち殉職者かつ気象サップドーラーと似ている者となると……まったく引っ掛からない。
 なのに。
「………………」

12:永遠の扉
18/11/23 22:52:42.66 O3D23CZ2.net
 斗貴子は。
 夢遊病者のような手つきでドラちゃんの、帽子に触れた。正確にはそこに巻きついている……リボンに。色あせた紫の、
端がボロボロになっているそれを手にした理由は斗貴子にすら分からない。ただ反射的に手が伸びた。魂が吸い付くよう
だった。
「初めて見る気が……しない…………。おかしいんだ。おかしい話なんだ。……いま初めて見た筈なんだコレは。記憶には
ない。思い……出せない。なのに………なぜだ。…………どうして…………このリボンに、私の心は…………こんなに……
……こんなにも…………締め付けられる…………?」
 気丈を任ずる斗貴子の双眸に軽くだが涙が溜まる。カズキが月に消えてから枯れ果てたと思っていた筈のものが、ひどい
懐かしさと、どうしようもない恐怖を織り交ぜ泌(にじ)むのだ。
 忘却の底の奇跡的な感応だった。驚き、くっと息を呑んだ天気の少女は俯き、打ち震えながら
「この帽子のリボンは……」
 お日様をあしらった装飾品に絡み付いている、紫色で長い、古びた布を人差し指で心持ち献上するように斗貴子の方へ。
「赤銅島で事後処理班が奇跡的に見つけた……形見、なの。お父さんと……お母さんが……別れちゃうずっとずっと前から
お気に入り……だったから…………いつも、いつも……身につけていた……から」
 共に過ごした時節の感じられる声だった。鐶が双眸を湿らせ鼻を鳴らすのは自身と義姉の投影ゆえか。されど締めくくられ
言葉は違う。袂別ではなく断絶。
「このリボンを……いつも身につけてたから…………現場に残ってて…………遺骨すら、ない、から……お姉ちゃんが生き
てた唯一の……証、で……」
(……どういうコt…………つっ!!)
 頭痛は、一瞬だったがひどく鋭い。立ちくらみがした。いつ幹部が来るとも知れぬのに、目まぐるしい記憶の奔流があらゆる
意思を褫奪(ちだつ)する。

13:永遠の扉
18/11/23 22:53:00.95 O3D23CZ2.net
─ ある所に少女がいました。
─彼女の家は裕福でした。
(この文章は、この文章は、確か…………!)
─お母さんは女優で、2人いるお姉さんはそれぞれモデルやグラビアアイドルを務めるほど綺麗でした。
─しかし少女だけはお世辞にも美人といえない顔立ちだったため3人に苛められました。
─ 家の澱んだ空気が、嫌いでした。
(毒島の……! 演劇の準備をしているとき、草稿にと若宮千里に献上した毒島の……過去……!)
 創作のカタチを借りて語られた火渡との出会いの話。斗貴子の故郷・赤銅島を壊滅させた男がいかにして囚われたかと
いう物語。
─ ある雨の夜。ボロボロになった少年が、見慣れぬ少女を連れて現れました。
(そう、だ……! あのときの私が気に……していたのは……!)
─(”妹”と呼ばれる彼女は座敷牢に幽閉されました)
(『誰の』……妹かと……いうコト…………!)
 その夜、斗貴子は毒島の文章から推測していた。
─両親は離婚、姉妹を1人ずつ引き取ったそうです。
─父の仕事の都合でとある島に転校した姉は、突如起こった火山活動に巻き込まれ行方不明に……。
─死んだと信じたくない”妹”とお母さんは独自の調査の末、少女の邸宅に行き当たりました。
─しかし少年に見つかりお母さんは殺され、”妹”の方は能力が使えるとかで生かされたそうです。
『妹』の姉は……故郷と伝えられている赤銅島にいた少女のうち、都会からやってきた何者かではないかと。
 斗貴子の、失われていた過去の記憶はここしばらくの様々なきっかけから蘇りつつある。それはレティクルとの戦いを生
き延びるため過去を、日常を思い出して支えにして欲しいという防人の提言だったり、草稿提出にかこつけて、斗貴子に
とってのブラックボックスな『7年前』の断片を提示した毒島の配慮だったり、或いは防人の本名に強い関心を寄せるまひろ
の、「どうしてブラボーって名乗ってるんだろうね」といった何気ない問いかけだったりと、相手も角度もまちまちだが、それぞ
れが相乗効果でもきたしているように、急速に、忘却の彼方にあった過去を揺り戻しつつある。

14:永遠の扉
18/11/23 22:53:30.20 O3D23CZ2.net
「(…………)。そういえば……キミのその瞳の色…………見たコトが…………ある」
 右腕で頭を抑えながら凄絶なまでに瞳を細めドラちゃんを網膜に収める斗貴子。
「紺色……。渦巻きのせいで分かり辛くなっているが…………その、紺色の瞳は…………」
 刻むように流れ込んでくる鮮烈な風景。
─「でも、津村さんがウエディングドレスなんて、変よね。絶対白無垢って感じだもの」
 ひしゃげるロッカー。
─「私だったら何が映るのかな?」
 飛び出している白い腕。
─「パリかロンドンでお洋服のデザイナーをやりたいな」
 本能的な怖気を伴う叫断の映像に紛れて響く声。その、主は。
「アヤ……カ……?」
 意味も分からず口に上らせた言葉。天気少女は猛然と目を見開いた。衝撃だったらしい。口をパクパクと数度うごめかし、
「どこまで……思い出してる、なの…………?」と乾ききった動転の声をからくも漏らす。
「す、すまない」
 軋む頭を力なく振りながら斗貴子、搾り出すよう呟いた。
「私自身まだ……混乱している。整理が…………ついていない。7年前のコトはここ数日……思い出しつつあるようだが……」
 呼気が荒くなったのを認めたサップドーラーは「……無理させたくない、なの、今は幹部2人が大事、なの」と口を閉じた。

15:永遠の扉
18/11/23 22:53:49.63 O3D23CZ2.net
「……というか…………あなたにも…………お姉ちゃんが……居たん……ですね……」
 鐶の問いかけに天気少女はすぐには答えず、数秒じっと顔を伏せた。
「人間のまま死んじゃった姉(ひと)と……怪物になって生きている姉(ひと)……どっちの妹が幸せなのか、なの」
 ドラちゃんと呼ばれている彼女。いまいち掴み辛い彼女。その深い部分に斗貴子と鐶は触れた気がした。
 だからこそ、彼女が進んで話すまで……こじ開けないコトにしたところ。
「……でもドラちゃんのお姉さんの方が五億万倍美人さん、なの。キレると顔芸する悪の幹部と違って清らか、なの」
「私のお姉ちゃんは…………黙ってつっ立ってさえいればお姫様…………ですし……?」
「┓┓」な目でシレっとドヤ顔する天気少女に、虚ろな目の少女があくまで無表情を保ったまましかし「あぁん?」と軽く頬
に青筋立てながら詰め寄っている。
「争うな姉で!! いつ幹部が来るか分からないんだぞ!!」
 怒鳴る斗貴子。2人の少女は舌打ちしながら相手から目を逸らす。
「斗貴子さんがああいうなら引いてやるなの。お姉ちゃんの最期の話聞きたいし、何よりかわいいから、萌えなの」
「斗貴子さんは……私の……カップリングシステムの相手……です!! あげません……!!」
 また火花が交錯した。とみるや気付けば斗貴子、腕をそれぞれの少女にとられている。
(い゛っ!? あ、ああ、移動したのか。というか……速っ!!)
 片や撃破数3位、雷とも同化できる戦団のエース、片や音楽隊副長、超高速戦闘を旨とするトリ型。そんな彼女だから
さすがの斗貴子も影すら見えなかった。

16:永遠の扉
18/11/23 22:54:10.26 O3D23CZ2.net
 ほへー。輪はのん気なものである。白目のハニワのような表情でこう聞いた。
「……カップリングシステムって…………なんですか?」
「ああキミは銀成市での私と鐶の特訓を知らなかったか。連携を磨いていたんだがコイツはそれを好きなロボットアニメの
何事かによく例えてきて、だな」
「コネクティブ斗貴子さん!」 叫んだ鐶は落語家よろしく別方向を向き斗貴子の声でするどく叫ぶ、「アクセプション!」。
「だからいい加減にしろソレ!」
「ふふふ……。やっぱりキましたよねコレ…………。まさかの参戦……です」
「というか声真似うまっ! さすがトリ型まるでインコ」
 輪が驚いていると、ドラちゃんが鐶に何やら物言いを始め─…
 数秒後。
「だからフザけてる場合か!! このくだり続けてたら死ぬぞ冗談抜きで!!」
 拳を固める傷ありショートボブ少女の前で、タンコブを作った鐶とドラちゃんがしゃがみ込んでいた。赤毛を覆うバンダナや、
ふわふわもこもこした雲のような髪から、赤熱した、モチの瘤のようなのがプックリだ。
(メチャクチャ強い2人を躾けられるとか……さすが津村先輩…………)
 この点、年齢や性格の強みなんだろうなあと感心する輪の前で、強みある人は弱みを危惧した。
「だいたい木を動かした痕跡……気付かれたらマズいだろ! 元の場所が離れているとはいえ万一連中に見られたら……」
「問題ない、なの」
 ドラちゃんが指示棒を一振りするとつむじ風が地面を撫で……何事も無かったように均した。
「ついでに草……生えてたころ……にまで……若返り」
 さらっと地面を斬ってよく分からない植物でカバーする鐶。ナイフの傷じたいはいつぞやの銀成学園の夜の職員室外壁よろ
しく残るが、それさえもドラちゃんは風で埋めた。
「…………やります、ね。隠匿における年齢操作の弱点を即座に見抜く、とは…………」
「ま、まぁ、草ですっぽり覆う発想じたいは……褒めてやらん訳でもないし? なの。つむじ風の微妙なムラから細工見抜か
れるコト……あるある、なの」
「……そーいうところじゃ息ピッタリなんだな。そして能力が便利すぎる…………」
 私の立つ瀬がないな。ボヤく斗貴子に輪は(いやーあれだけ作戦考えられるだけでも私なんかにはスゴイです)と思った。

17:永遠の扉
18/11/23 22:55:07.62 O3D23CZ2.net
「……」
 斗貴子はちょっと考え込む仕草をした。どうしました? 2軒向こうの建物の影からひょっこり首出す後輩2人が呼びかけ
た瞬間、彼らは斗貴子たちの時間ともども氷結し─…
 意識だけが白い法廷に、飛んだ。奇妙な現象だが、全員とっくに慣れているらしく平然と会話を再開した。
「話の続きだが……今のと同じ細工をA列通路に面する建物の、ええと、西側だったな。西側に……桶とかでできないか?」
「あ! そういえば5棟べつべつの識別までは」
「してなかったですね。すみません。夕陽への気付きでつい……」
「ん? あ、ああそこは私も失念してたから謝らなくてもいい」
 あれ? 輪は首を傾げた。
「だったら何で桶でのマーキングを……?」
 事故が怖いからだ。斗貴子の訥々とした呟きは、鋭敏な男後輩2人ですら俄かには理解できぬ機微だった。
「ふと思ったんだがブレイクは例の禁止能力で光を発するだろ? もしその光が偶然夕陽と同じ色になって周囲を照らした
場合、A列通路以外の、EとかFとかだな、その西側をA(こっち)だと錯覚しかねない」

18:永遠の扉
18/11/23 22:55:27.68 O3D23CZ2.net
「あー。そこまでは……私…………考えつかなかった……です」
「ドラちゃんも然りなの」
(戦闘経験の差だなあ)
 輪に続いて(事故とか考えられる津村先輩アツいな)(確かにメチャクチャ修羅場ってる時にフクザツなコトすると……な)
 意思の集合ゆえに再び同席した男の後輩2人もうなずいた。
 当然起こりえる偶発事象への、リスクへの、マネジメントを出来るのは斗貴子ぐらいなものだろう。
 この提案を実行するついでに北端01~05のうち無個性になりがちな東と西の面にホウキなどの日用品を配置し
マーキングを強化。同様の原理で無個性になりがちな南端21~25については
(22号棟東側……B列に面する部分は先ほどブレイクが、同じくB側に面する21号棟西側はリバースが、先ほど自ら破壊
(マーク)した!!  23~25も然り! 爆撃のどさくさに紛れてそれぞれ識別可能な爆痕を……つけた!! 6行目通り
に面する部分は朽ちた大八車や乾き果てた水瓶などの配置で対応!!)
 瞬く間にてきぱきと作業を指示し終わらせる斗貴子に輪はつくづくと感服した。
「さすが津村先輩。あとは幹部を待つばかりですねっ!」
「だといいが……」
 四本の処刑鎌の構えを小さくする斗貴子。指示フェイズでそれは些か物騒な気配もあるが、あちこち指し示すのに便利と
いう実務的利得は確かにあるし、何よりブレイク・リバース以外の幹部急襲への備えでもある。
「あ、また可動肢の動き見てる。強い人はそーいう細かいチェックも怠らないってヤツですねー」
「まあ、な。ブレイクのようなパワータイプと戦った後はどうも。他の武装錬金ならなんてコトない僅かなひび割れでもバル
キリースカートにはマズいんだ」

19:永遠の扉
18/11/23 22:56:16.92 O3D23CZ2.net
「高速機動ですもんね。同じヒビでも原付バイクと飛行機じゃ後者の方があとあとトンでもないコトになっちゃうように、びゅん
びゅんあちこち物凄い速度で動くバルスカには僅かヒビでも命取り。自分の速度で砕けて割れちゃいますから」
 ひょいっと慣れた様子で戦士一同、建物の影に隠れる。「?? ?」 部外者の鐶だけがよく分からないと目を白黒させて
いたが「トリ、物陰にすっこむの」とドラちゃんに首根っこ掴まれ引きずり込まれた。
 瞬っ。玲瓏の断線は居合いの速度さえ超えている。唐竹割りに振り下ろされたのだ、総ての処刑鎌が、最高速度で。
「亀裂があれば拡がる速度……。だが何もなし、か。鎌、間接とも異常なしと見ていいか……?」
 慎重な不安さのもと角度を変えて軽く浅く処刑鎌を振る斗貴子。(ああもう実務的なカッコよさ。特性なしで撮りたいです
写真。本物の方はまぁまぁウマい程度ですけど、撮りたいですっ) 両目を太い罫線にしてうずうずする輪。
「…………っ」
 鎌の動きをチェックしていた斗貴子の顔色が変わったのはその時だ。
「先輩?」
 カメラ少女は斗貴子の様子に首を捻った。処刑鎌を前に一瞬思案にくれたと思うや、彼女は軽く目を見開きながら自分をじっ
と見つめ始めているではないか。
「どうしたんですか?」
.
「輪。1つだけ、いいか?」
.
「ほへ?」
 輪はまだ、知らなかった。この時の斗貴子の申し出が自分を『勇者』にしてしまう決定的なものだとは……この時はまだ、
知らなかった。

20:永遠の扉
18/11/23 22:56:34.14 O3D23CZ2.net
 そして一同は白い法廷へと戻り。
「えーと。そろそろ話し合いとか、映写機からの把握とか……終わりましたか……?」
 裁判長の席に腰掛けている中肉中背の少年が、どういう訳かバテた様子で問いかける。
 斗貴子は鐶やドラちゃん、輪に後輩2人といった面々を振り返り、これ以上の具申がないのを確認すると裁判長に向き直り
「ああ。そしてすまなかったな。『軍事法廷の武装錬金』。本来とは違う使わせ方を……ずいぶんさせた」
「火渡戦士長の命令ですからね。イヤでもするしか。イヤでも……するしか」
 えぐえぐと泣く裁判長に斗貴子を始めとする全員が同情的な目を投げた。
 戦団が、リバースらの足止め組とアジト強行偵察組に分かれる少し前。白い法廷での、会話。
「戦士たちを法廷(ココ)に!? 待ってください僕のコネクトアラートは敵の防御力を下げるのが本来の役割ですよね!?
戦団最強の業火を毒島さんとのコンボで更に強化しさえすればそれでいい、他の戦士さんには加勢しなくてもイイって話…
…でしたよね!?」
「知ってるよンなことぁ」。裁判長の胸倉を掴んだ火渡は炎を噴かんばかりの勢いで捲くし立てた。
「てめえの2つある義眼型武装錬金が雑念ゼロで直視した敵の精神を一瞬だが法廷型の亜空間へ幽閉! 降した量刑に
相手が憤れば憤るほど退廷後の防御力が下がる……ンなコトをテメエ選抜した俺が知らねえ訳ねえだろうが!」
「え、ええ。火渡戦士長がここに居るのはたぶん寝起きの僕が雑念ゼロで見ちゃったせいで、毒島さん来たのは『弁護士役』
だからでしょうけど……それはともかく防御力低下が本懐の軍事法廷を戦士たちの話し合いに使うって……おかしくないで
すかぁ!!?」

21:永遠の扉
18/11/23 22:57:09.68 O3D23CZ2.net
 イレギュラーですが、この場合仕方ないです。おとなしい毒島まで採択の方向で動き出した瞬間、裁判長はもう本当泣きたく
なった。
「連絡に向いた戦士がもうあなたしか居ないんですよ。他は火星の幹部に殺されましたから」
「だからてめえの特性の1つ、『裁判員招聘』を連絡用に使う!」
「確かに事前の裁判員の話し合いがしっかりしていれば居るほど、降す量刑が正確になって、結果敵の防御力低下が大き
くなるのが僕のコネクトアラートですけど、コネクトアラートですけれども!」」
 裁判長席で両手を広げ大きく叫んだ少年、続ける。
「提出する証拠とか、検事役の事実把握とかがしっかりしてるほど強力な弱体化ができますけど! でも戦士まだ60人以
上いますよね!? 津村先輩たち銀成組に全部で68人って伝わってから急遽、核鉄どころか『無銘の武器』すら持ってな
い人たちまでゾロゾロ集結し始めたせいで「あれ? コレ全部で何人か火渡戦士長ですら把握できてないんじゃないか」っ
て位すっごい大所帯ですよね!? ディプレスとかリバースとかブレイクにさんざん殺されてもなお60人以上残ってるぐらい
沢山動員してますよね!? なんなんですか急に増員された人たち! 見たトコ門下生さんとも別口みたいだし!」
「あん? それも知らず召喚状配ったのかよ。『債務者』だよ『債務者』」
「……うわあ。出たぁ。また出たぁ。戦団のみくぶーさん謎優遇また出たよ……。やめて欲しいなあ、人数さえ増やせば無敵
とか骨董だよ、帝国思想だよ。第一ソレこの夏破れたでしょ、ヴィクター相手じゃ手も足も出なかったでしょ……」
「知らねェよ。債務者になってんのはアイツらの勝手だろうが」
「あとヴィクターは完全上位互換ですから……。財前さんの……」
「だからって独断で来るコトまで黙認しないで下さいよ! ああもう結局シワ寄せは弱いところに来るんだ、僕みたいな法に
しか縋れない弱者に来るんだ。防御力低下が本懐の軍事法廷を用途とはまっっっっったく、ままま、まーーーっっったく、
違う使い方させられて……疲弊するんだ、死に掛けるんだ……」
 そこは本当にすみません。毒島は頭を下げた。
「13人が本来の上限な裁判員を50人近くオーバーするのは大変な負担ですが」
「速攻で話し合って指示下せるのはてめえの能力だけなんだよ」
 グダグダぬかさずさっさとやれ。凄む火渡に裁判長のようななよっとした15才の少年が勝てる訳もなく。
(白い法廷に呼ぶのに必要な召喚状自体は決戦前全員─音楽隊については戦団拘留中─に配ってたから、取りこぼ
しはなかったけど……ああ、約60人を招いて足止め組とアジト強行偵察組に分けたのはなー。普段使っている裁判員の
控え室と、それとは別に急増した控え室に、それぞれ火渡戦士長の提示した図形をペタペタ張って大まかにグループ分け
して、それで足止め組は説明者な毒島さんにそのまま引率されて出立したから僕はそんな頭脳使ってないけど、疲労が、
キャパが……)
 盛大な溜息をついていると─なお、写楽旋輪と遭逢した直後のブレイクが火渡に言った『アレ』とは足止め/アジト偵察
のグループ分けのコトである。ただ彼が想定していたのは軍事法廷を用いた奇想天外な通話ではなく、もっと普通の、アナロ
グな触れ回りだった─裁判長が溜息をついていると、斗貴子が誰かに目礼して退廷するのが見えた。軽く手をあげ応対
するその相手が誰か認識した裁判長は、つくづくと乾いた声をもらす。
「師範」
「んゅ?」
 間延びした反応を示す相手に、裁判長らしい厳粛さを込めて、言う。
「火渡戦士長不在時はあなたが足止め組の総指揮をって決定事項(はなし)なのに、津村先輩に判断丸投げしすぎでは」
「合理的判断というべきだよ少年そこは。撃破数2位の実力と天王星海王星の未知数部分を天秤にかけると最適解っしょ?
『あちしが総指揮官ではなく別働隊で動く』ってのは」
「……そりゃ禁止能力が『戦士一同への加担を禁ずる』とかも可能だったら戦団屈指の剣腕にコンフュかかってヤバいし、
それはリバースの方の特性が操作とか、幻覚とかだった場合でも同じですけど……」
 アレ? 少年裁判長は顔を引き攣らせた。
「みくぶーさんは大丈夫なんですか? みくぶーさんも敵に取られたら大概ヤバいですよね?」
「そっちはまあ、債務者連中の方が疎開住宅地外に逃げれば何とか、ね。供給速度が遅くなりゃナントカなるでしょ」
 何よりあちしは連携に向かんよ、建物壊しちゃダメなフィールドなら特に。手をひらひらし無責任に笑う師範。
(…………破壊力、クッソやっばいもんなあ。剣一本で…………)

22:永遠の扉
18/11/23 22:57:35.20 O3D23CZ2.net
 戦部と共闘(コラボ)した時は彼の腕が巻き添えで飛びまくったらしいというウワサを思い出し裁判長、目の下をどんより
と黒くする。
「てか本当は指揮とか責任とか関係なしに」
「そ。好き勝手あばれたいだけなのだよ!!」
 腰に手を当て悪びれもしない女子高生。
(ああもう、戦部さんといいホント記録保持者は個人主義、指揮系統という概念がない……)
 目の下のクマ、ますます濃い。
「『ま、大戦士長を操っている土星の幹部の特性だけは絶対師範に効かないですけど』
 でもソレ自分限定だからなぁ。大戦士長助ける役には立たないからなあ……ボヤき、ズルズル続く。
「何よりあちしはね、若い才能に託すタイプなのだよ。指揮は津村斗貴子がいい絶対いい
 戦部に次ぎドラちゃんに勝るホムンクルス撃破数2位の師範・チメジュディゲダール=カサダチは女子高生風の黒髪
少女であった。裁判長席から5mほどの白い壁に寄りかかり、艶やかな髪をいじり、脇腹を抱く。華奢なる平均値(ぜっせい)
の美少女だ。どこかの制服とスカートに巻いたカーディガンと、ほどよい起伏がえも言われぬ色香を振りまいている。
「未来に、この先にいかんとする少女の拍動は何より強い。銀成で何があったかは知らんよ。でも目ぇ見れば分かる。
あれが死中、活路を開ける眼差しじゃないっていう奴ぁアホだね、アホ。だから牽引させちゃうよ? 息子に袖ぇされた
恨みもあるし」
 息子? 怪訝な顔する裁判長だが「こっちの話」と遮られたので本筋に戻る。
「彼女に任せて大丈夫ですかあ? 未知を見抜くという部分に関しては本人も認めてるように……」
「ま、足らんね。そーいう知恵は後輩連中に劣る。けどそんなもんは下っ端が補えばいい。トップに必要なのは」
「必要なのは?」
「華と決意さ。そんであちしにはそれがなーい」
 わーいと楽しそうに笑ってバンザイした無責任女さらに言う。
「こちとらヌヌのよーな苦渋に耐えて耐えて成長するタイプじゃない。戦士になったのは『トモダチ』の仇ただひとつのため。
飛ばされた時代の割と近くで盟主(カタキ)の野郎が決起するって気付いたから戦士になった、ってだけだし」
 チメジュディゲダールは300年先未来から飛ばされてきた少女である。縁をいうなら斗貴子たち現行の戦士よりむしろ
その次世代、武藤ソウヤと『深い』だろう。
「ま、『リウシンに宿るあのコの反応見る限り、どうやら敵討ちは真剣に思えば思うほど滑稽になる意外な状況になっちゃっ
てる』よーだけど?」
(まーたワケの分からない話を……)
 裁判長はそろそろ頭痛を覚え始めた。眼精疲労を伴う鈍いヤツを。
「むー? 少年? 疲れてるのかなあ? カワイイお姉さんに癒して欲しいのかなあ?」
 少年裁判長がギョっとしたのは、5mは離れた壁際にもたれかかっていた筈の師範が音も立てず背後に回っていたから
だ。どころかその細い手を椅子ごしにとはいえ少年の肩に回している。
 垂れ下がる、黄色いリボンを孕んだ漆の滝のように艶やかな髪から漂う甘ったるい匂いにウブな少年はドキっとしたが、
「ぶぶ、無礼ですよ! 裁判長への不敬は即刻退廷の対象に……!!」
「はは愛い奴め愛い奴め。本気で嫌だったら即刻そーすりゃいいのに、ちょっと嬉しいから拒めずにいるの丸分かりー」
「っ!!」
 ぼっと赤面する少年裁判長に
「ああもうかわいいやっちゃな君。あちしに無反応だった武藤ソウヤとは大違いー♪ うりゃりゃー」
 髪わしゃわしゃ攻撃を仕掛ける師範。
「ちょ、やめ、やめてくださいーー!!」
「本気で、そう思ってる?」
 耳元にかかる熱い吐息に第二次性徴がやっと終わるか終わらないかの少年はどぎまぎする。口紅なしでツヤツヤと
輝く薄桜の肉たぶが妖姫のようにゆらめいているのさえ視界の端に見え、目を伏せる。
「やめて、やめて……ください」
 怖いらしくうっすら涙目になる少年裁判長。
(え、そ、そんなガチな顔されると……え、これ、どうするん? ここっ、こーいうときってみんなどーすすめてるん!?)
 師範もドキドキして中断する。
「……」
「……」
 気まずい雰囲気が流れたが、師範は空咳を打ち、
「は、はは、どーですかなドキドキしたかな少年。じょ、冗談だからね、からかった……だけなのだから」
 と笑い話で進めようとする。少年はまだ混乱している。そんな混乱振りが可愛くてまた抱きつきたくなるが、(まてまて
まてい。戦闘中ではないか、こんなんしとる場合やない)と、やや自己弁護的に自制する。

23:永遠の扉
18/11/23 22:58:48.85 O3D23CZ2.net
「こほん。その、だ。『別働』が終われば津村斗貴子に判断丸投げした分の埋め合わせはするからね。ではさらばだ!」
 退廷する師範。疎開住宅地南端に出た彼女はそこから更に南東600m地点の草深い場所に身を潜める。
(虹封じ破りとは無縁に思えるけど……違うんだよねー実は。むしろ一番重要ちゅーか)
 ズゴン。地平の彼方で重々しい地響きが立つ。軽く浮かび上がりながら師範は思い返す。
 斗貴子の依頼に端を発すやり取りを。
─24体分身は絶対アラが出ます。それでなくてもアイツは時々抜けてるんだ。
─ほぅほぅいい着眼点だねそいつは。なるほど……。確かに……『掻い潜って、こっちに』……。ありうるね。
 盤外からの一手をツブす、盤外からの一手、それが師範!!

24:永遠の扉
18/11/23 22:59:04.37 O3D23CZ2.net
 一方、裁判長は。
(惜しかったやらホっとしたやら……)
 泣いていた。裁判長席にガクリと横向きに首つきエグエグ泣いていた。黒髪ロング巨乳JKと先ほどいい雰囲気になりか
けながらも何もなかったのが『惜しかったやらホっとしたやら』らしい。
(彼には負担をかけたがこれで未来視の要件! 整った!)
 廃村についてからこっちの戦士の策動総て未来視ひとつの為である。廃屋にワイヤーを仕込んで見せたのは、室内から
密かにブレイク”たち”を撮影する輪の……保護のため。
(幹部たちが建物を破壊しながら進軍すると、隠れている輪が巻き添えで殺されるか、最良でも発見されるかで詰む)
 エイリアン衝撃波で彼らの破壊の度合いは低下した。爆撃を植物廃屋で防いだのはごく自然にマーキングを行うため。
建物により植物の色が微妙に、個体差レベルと認識されていいほど微妙に、『異ならせる』コトで未来視の舞台になった
場合ひつような『差異の判別』を容易にした。(なお建物の東西南北の判別にあっては、窓や扉の微妙な露出具合の違いを
基準とする)
(そしてバリケードの武装錬金で5行目通りに面する建物総てをマーク。夕陽の色合いでの判別はブレイクの槍の輝き
で誤認する恐れがあるから植物廃屋からの”ツル”の伸び具合で分かるよう調整した)

25:永遠の扉
18/11/23 22:59:23.64 O3D23CZ2.net
 他の場所については前述の通り。準備は、整った。
(……気になるのは…………鐶も言っていたコトだが)
 いまだ廃村中央上空から一帯を睥睨するリバースの、自動人形。
(アレは…………なんだ? いや自動人形なのは分かっているが……だったら『何の役目』を負っている? サブマシンガ
ンの武装錬金に……自動人形? なぜ? 御前も似たような存在だが、あちらはいちおう、矢を番えるという役割がある)
 ダブル武装錬金を使っているにも関わらず一体しか確認できない点も不穏だが、そちらは戦士一同に注意済みだ。人が
到底通れそうに無い隙間から、残り1体が例えばナイフ片手で暗殺しにくるといった使い方は充分想定できる。
(だが自動人形がそういった間接攻撃のため付帯するケースは稀! 多くは主武装の攻撃を強く補佐するため存在する! 
だがここまであの連射力を高めていた様子はない。……。と、なると)
 脳裏に蘇るのは、白い法廷に入ったころ行われた輪の申し出。
「津村先輩。ダブル武装錬金の件……可能でしょうか?」
「試すのか? さっき鐶が言っていた保険を?」

26:永遠の扉
18/11/23 22:59:39.40 O3D23CZ2.net
 いいえ。桜餅色の髪を振る。生存全振りは暫定5位のチームに申し訳ないし、何より守勢に回って打開できる戦局では
ないと考える。だから未来視を、ゴットフューチャーを、
「使うのは、撮影するのは─…」
「リバースです。海王星の、幹部です」
「……? っ! そうか! そういえば奴は、まだ!!」
「はい。既に禁止能力を使ったブレイクと違い、彼女だけはまだ武装錬金特性を使っていません。先ほどのコンセントレー
ション=ワンじたい既に特性並みの強さでしたが、あれはあくまで術技のひとつ……。彼女はサブマシンガンの『特性』
ではなく『特徴』……剛太先輩でいうならモーターギアを手で持って刃で直接刻んでいた程度の加減で」
「あれだけの虐殺しやがったなの」
「そしてお姉ちゃんの特性は……妹にすら……さんざんいじめた私にすら……使われたコト……ありません」
 いわばまったくの未知! 果たしていかなるものなのか。特性抜きで既に劣勢を強いられている戦士側としては何としても
予備情報が欲しい! そして! 写楽旋輪の武装錬金特性は……未来視! 撮影対象が次に特性を使う瞬間を激写できる!
「しかしそうなると特性上、”あの”2人の傍に行かざるを得なくなるぞ。分かっているのか? これは、同時ならまだいい方だ。
別々に……という公算の方が高い。よって普通に実行するなら4回もの撮影が必要となってくるが、しかし敵は馬鹿じゃない。
何の殺傷力もないカメラで何度も撮られれば……先ほどキミも指摘していたコトだが……絶対に気付く。『厄介な補助の特
性を持っている』……と。なのにキミは、気付かれたとしても、一度目の撮影を終えた時点で、強制的に、”あの”幹部たち
のどちらかに近づいてしまう”変えられない運命”を背負い込んでしまうんだぞ」

27:永遠の扉
18/11/23 22:59:57.97 O3D23CZ2.net
「え、ええ。分かってます。だから採択は津村先輩の判断にお任せします。片方だけでも相当リスキー……ですからね……」
 幼いノドがごくりとなる。下顎をぬぐうように触る輪の顔は緊張に引き攣り汗をまぶす。一見恐怖の表情でしかないが、ど
こか魅惑的な恐怖刺激に興奮している風もある。
「戦闘能力皆無な私が欲張ってもう1人撮影しようとしたら……絶対ロクなコトにならないというか、ブレイクの方すらしくじって
…………例の虹封じすら破れなくなってしまいますから…………」
 なので独断はしません。ご判断に従います…………マジメな様子でおずおずと聞く輪。
 斗貴子は、悩んだ。未来視用のマーキングが着々と進む中、悶々と悩み続けていた。
(どうする? ブレイクだけでも相当厳しいのに……リバースまで任せるのか? もちろんこのコの安全だけを考えるなら
撮影対象は1人に留めるべきだ。絶対1人だけに留めるべきだ。だがもしブレイクの虹封じが決まった瞬間、リバースが特
性を解放したら? いやそもそもその前段階で使われるコトだって有り得る)
 記憶が軽いザッピングをきたす。鷲尾。心の銀板に焼きついてやまぬ『カズキとの連携を思わぬ直感で見抜いた男』。
(敵は目論見に気付く物。素養において感づく物)
 空を見る。自動人形を、見る。
(私の推測が間違っていなければ……あれは特性発動のキーだ。あの人形が御前よろしくトリガーを引くコトで発動するのか、
或いはアレ自体が銃弾となるのかそこまでは分からないが、姿を現した以上、特性使用は近いとみるべき。もしかすると私
たちの所在を掴むため”だけ”上空へ浮かんでいると見せかけて、そのじつ特性を発動するのに必要な何らかの条件を
あの場所で満たしつつあるのかも知れない。だとすれば先ほどの山林で使われなかったツジツマは一応合う)

28:永遠の扉
18/11/23 23:00:16.68 O3D23CZ2.net
”見る”コトで特性発動要綱を満たす武装錬金だってある。アリス・イン・ワンダーランドやブレイクのハルバード、バキバキ
ドルバッキーなどがまさにそれだ。先ほど発動したウォールサージ……バリケードの武装錬金も含めていい。
(あの自動人形を目視するコトで『かかってしまう』類の武装錬金かも知れず、実際そうだったりすると……マズいな。遠目
とはいえほぼ総ての戦士が目撃してしまっている。ポテトマッシャーを投げられたんだ、反射的に仕方ない)
 つまり……ブレイクに専念している横腹をリバースに衝かれる恐れはある。むしろそのために禁止能力が開陳されたと
いう可能性すらある。
─「だからあの自動人形は積極的に攻撃しておくべきだ。破壊できればよし。迎撃のため特性を使われてもよし」
 去来する指示の赴くまま植物廃屋、時おりポテトマッシャーを投げ返す。だが地対空、重力に勢いの大半を削がれるM2
4型柄付手榴弾は避けられる。自動人形は笑顔のまま、放物線のやや先をフヨフヨ舞って避けるのだ。
(……まあ仕方ない。向こうもそれ位はするだろう。大事なのは……ブレイクが虹封じを放つ際みせた……『微妙な顔の歪み』)
 輪郭そのものがそうなったのではなく、『見え方』のみがそうなったらしいというのは山林からココ疎開住宅地へと退却する
さい行った何人もの戦士からの聴取の結果だが、だとして「クサい」と疑わざるを得ない。
(普通ならあれが能力の一端だと読み解いて攻略するだろう。剛太がよくやるアレだ。お手本のような戦いだ。並みの相手
とそれが繰り広げられるなら私だって疑わない。だが!)
 ブレイクに、わずか一晩とはいえ早坂秋水ともども演技において師事した経験が警鐘を鳴らす。

29:永遠の扉
18/11/23 23:00:44.96 O3D23CZ2.net
(そうだ。アイツは演技においてズブの素人だった私たちを、たった一晩で『見れる』レベルに育て上げた男だ。そしてあの
刻限はあの日、六舛孝二が突然設定したもの! 言い換えればブレイクは『設定された時間内で指定どおりの仕上がりを』
生める男! 表稼業がそういう舞台系のプロデュース業だというからな、慣れているのは当然だ)
 なのに、である。そんな男が。
(『微妙な顔の歪み』で……シッポを出すか? 繰り返すが普通のホムンクルスなら、わずかな異変とか、奇妙さで、能力
の全貌を暴かれるコトは……大いにある。強い力を持ったが故の油断だ。暴かれるという概念を描けぬほど愚かというか、
暴かれても押し切れると信じられるほど高慢なのか、とにかく手軽な力のためだけ怪物と化すような連中が用心を欠いて
いるのは……納得できる)
 されどブレイクは『ほぼ最強に近い禁止能力が、破られるコト』すら想定しているようだった。その弱点を補うため様々な
動植物の能力を調整体たるその体に盛り込んでいるようだった。
(なのにシッポを出すか? たった一晩で演技の素人を、一点集中の特化突貫で『見れる』レベルに仕上げられたブレイクが、
それなりに長年使っているであろう今の体のその秘密を、『顔の歪み』のようなポカで悟られるような、質の低い状態のまま
……捨て置くか?)
 した筈だ、訓練を……と斗貴子は思う。ブレイクは、舞台畑だ。己への客観を繰り返し綻びを繕う術に長けている。ならば
生命線ともいえる虹封じを、かすかな異変(ヒント)ひとつなしで実行できるよう稽古するのが自然ではないか。

30:永遠の扉
18/11/23 23:01:08.62 O3D23CZ2.net
(つまりアイツは……コントロールしようとしている……? 敢えてあのわずかな『歪み』を、本当なら見せずとも済む綻びを、
わざと見せつけるコトで、戦士(わたし)たちの集中や、リソースの総てを自分にだけ向けようとしている……?)
『演技の神様』。敵の幹部でありながら、人間としてまんまと私と早坂秋水を騙しぬいたのがブレイクという男、自分の特性
をエサに相方の特性が通りやすくなる土壌を整えている可能性は……否定できない。現実主義者な斗貴子、警戒する。
(だが特性使用時のリバースを未来視できれば……奴がどの地点に立ったとき特性を使うか予め読めれば……)
 白い法廷。
「え!! また!! ちょ、やっと精神が回復し始めた刹那にゴッソリ削られるの辛いんですよお!!?」
 びいびいと泣いて抗議する裁判長に「悪い、本当に最後だ!」と片手で拝んだ斗貴子は輪に言う。
「リバースの件、頼む」
 と。同時に召喚されていた戦士たちもこれで作戦概要を理解した。
(厳しい条件だが万全を期せるのはコレしかない! 後は攻勢に転じ!)
(それに紛れて……『撮影』!)
 疑念。方策。抱いていたのはマレフィックも、然り。
(龕灯(がんどう)? 光ちゃんが片思い中な無銘くんの?)
(ええ。むめっちの。さっき戦士さんたち追ってるとき……見ましたか?)
 進軍の僅かな時間の中、思わぬ相方の目による質問にリバースは少し銃口を顎に当て考える仕草をしたが「そーいえば
見かけなかった……」と笑みをやや不審に染めた。
(……アレ? クラちゃんの話だと光ちゃんたちがヘリごと墜ちた時には、確か)
(ええ。随伴してたそうですね。あれは創造者から離れても活動できる類の武装錬金ですから、銀成に残留したむめっちの
龕灯がココ救出作戦の舞台に来ているのは不思議じゃないす)
(聞いた話だと戦団本部から銀成まで毒島ちゃんに護送されてる時も、幾つかは監視モニター代わりに瀬戸内海側に残して
おいたっていうし)
 更にその前、秋水vs音楽隊全員の戦いにおいても、小札に挑む秋水に侍らせていた実績がある。
 そういった機能をして銀成から遠いココ新月村へやってきた龕灯の武装錬金『無銘』は。
(光っちたちが何人かの戦士さんたちと合流地点に急行する時は)

31:永遠の扉
18/11/23 23:01:24.28 O3D23CZ2.net
(斗貴子さんたちの方に残ってたはずだよ。
だって私、見たもん)
─(来い幹部。奇襲しな。削りごろの雑魚戦力が別行動だぜ、仕掛けて来い)
─ 高速で合流地点めがけ飛んでいく鐶。
─ 梢の中でそれを見つめる双眸は、双子星の満月のごとく爛々と輝いており─…
(仕掛けたくて仕掛けたくて仕掛けたくて仕掛けたくてしょうがなかったけど作戦のためガマンしたから覚えてる合流地点へ
先行中な光ちゃんの傍に龕灯はなかった可愛い光ちゃんの全身を見るためにコンセントレーション=ワンで見たからハッ
キリ覚えてる龕灯なんて居なかった一緒に飛んではいなかった)
 ギラつく目をうっすらと開け、笑うリバース。声こそ出しては居ないが思考のギアは、速い。そんな狂ったノンブレーキな
思考回路のやや恐ろしい形相を見たブレイクは、(ああ……可愛い)と鼻の下を一瞬伸ばしたが、すぐ比較的まじめな、
しかしニヘラとした顔つきでこう瞳で、訴えた。
(龕灯の話に戻りますけど、ときっちたちに随伴してた筈のものを……青っちは見やしたか? 俺っちは全然ですけど)
 ブレイクは肩を竦め「見てない」とジェスチャアした。リバースは、考える。
(えぇと……。確か)
─(…………お姉ちゃん)
─ 廃屋の屋根で、目を閉じ微笑する姉を音楽隊副長・鐶光は見上げる。
─ 恐怖に震え、挫けそうになる体を支えているのは……1人の少年とのかけがえなき思い出。
─ 付近に浮かぶ龕灯は
─(いよいよ……か)
─ 聖サンジェルマン病院にいる「1人の少年」の心をざわつかせる。.
(バスターバロンと一緒に、合流地点の戦士たちを襲った頃はあったよ)
 問題はそこから『どこに』? ブレイクもリバースも分からない。破壊男爵の土煙は戦士たちのみならず幹部からもクリア
な視界を奪っていた。だから龕灯がどこへ行ったか……分からない。
(分からないのって………………メチャクチャ怖いよね)
(ですね。あれがアジト強行偵察組に合流していなかったら……つまりこっちに、俺っちたち対策としてどこかに隠れている
のなら)
(こわい)
 清純な笑顔がやや引き攣り、汗をまぶした。
(だって無銘くんの龕灯の特性……『性質付与』だよ!? むかしの懐中電灯な龕灯発するあの光で、あ、光っていっても
お菓子の妖精のような光ちゃんじゃなくて、光源って意味のね、その光って、スキャンした物体の『性質』を別の物体に
付与可能なんだよ!?)
 にひっ。まったく恐ろしい能力すよねえ。言葉とは裏腹にブレイクの笑みは軽い。
(端的にいうとあの龕灯は『俺っちや光っちの特性をも』限定的にとはいえコピーしうる。ま、実際どこまで再現できるかは
やってみるまで分からないすけど)
(私たちが『掛けた』戦士からスキャン可能かは分からないけど、万が一、可能なら)
(『武装錬金特性の使用を禁じる』だけは迂闊に使えません)
 どういうコトか? 簡単だ。例えば斗貴子にそれを使う。バルキリースカートを封じる。だがその状態の彼女を龕灯がス
キャンすると…………。そして龕灯本来の……『照らす』によって幹部たちに性質付与が及ぶと……。
(私たち最悪の場合無力化されちゃう! だってそうでしょ! 『武装錬金特性の使用を禁じる』を投影光で別な物体にコ
ピペできるのが無銘くんの龕灯……なんだから!)
(ですね。マシーンやバキバキドルバッキー、ゼッタイ安全とはいえませにょね。付与の照明、当てられたら)
 2人の幹部が特性を封じられる危険性が……戦士にとっては『可能性』が、ある。
(それでもまあ、槍や銃本来の力で戦える分だけマシすけど)
(……私の特性を性質付与で返されると…………ね)
 先ほどブレイク、ワイヤートラップに挑む前のブレイクは、確かに思った。

32:永遠の扉
18/11/23 23:02:45.64 O3D23CZ2.net
─(とにかく反射能力の有無は早いコト暴くべき。俺っちのはともかく青っちの『特性』は跳ね返されたら原理上、術者で
─すら解除不能……すから)
(『アレ』をむめっちたち敵側の方々に渡すのは非常にマズイ。他のマレフィック……たとえば分解能力のディプレスの旦那
に使われて暴走させられると『レティクル三強』以外総崩れ。他に青っちの特性掛けられるのが致命的なのは……えるっち
とか、イソゴ老みたいな頭脳派すね。お二方の生命線は武装錬金特性よりむしろ読み合い駆け引きの類にありますから、
『それがまったくできなくなる』青っちの特性との相性は最悪、掛けられる=死と言って過言ではないすね。ま、イソゴ老は磁
性流体化さえしっかりやれば相性の優位で大丈夫ですけど)
 そして救出作戦におけるリバースの武装錬金・マシーンの特性は先ほど殿軍5に使った一発のみ。おりよくそこに駆けつけ、
恋人をあやしていたブレイクは横目ながら龕灯の不在を確認している。
(だから私のは大丈夫なんだけど、ブレイク君の方が実は密かにスキャンされていたりしたら……)
(にひっ。決して有利じゃないのは確かすけど、まったくの不利でもありません。だって戦士さん方に使ったのは「攻撃」とか
「抵抗」の禁止すからね。最悪ふたりともがソレ掛けられたとしても、逃げればいいだけっす)

33:永遠の扉
18/11/23 23:03:51.04 O3D23CZ2.net
(あ、そっか。撤退が許されるケースなら、戻ってグレイズィングさんに治療してもらってもいい……って話だもんね)
 …………。2人はちょっと沈黙した。未練があるような、でも叶わない方が当然なのだろうなと覚悟しているような、微妙な表情を
浮かべた。沈痛だったのはリバースで、珍しく……開いていた。笑みをやめ寂しげに、目を。
(えーと。嫌ならやめてもイイんですよ? 誰が強制したもんでもないですし)
(ダメ。やらなきゃ……いけない。『一番、光ちゃんのためになる選択』……だから)
 やや哀愁に湿りつつも強い意思を込めた瞳にブレイクは「こればっかは俺っちでも禁じられないすねぇ」とだけ呟いた。
(ま、戦略上、撤退するほか無くなった場合は私情捨てて帰って来いってイソゴ老に言われてますけど……その場合、向か
う先はアジトじゃなく……)
 ブレイクはなぜか山影かなたを見た。霞み果てた、雲を衝かんばかりな白銀の巨人を、見た。不可思議な挙措だが、リバー
スは心得ているらしくニコリと頷いた。

34:永遠の扉
18/11/23 23:04:15.61 O3D23CZ2.net
(だね。今からじゃ『最初にして最後の一本』、ゼッタイ乗れないもん。だからアッチで代替輸送)
(っと。無言のやり取りはどうやらここまでみたいすね)
 ザッ。灰色の道で砂利を弾き飛びのく。髪を巻き上げる風圧と共に深緑の鞭が振り下ろされた。地面が抉れ、特撮のコン
クリート爆発が起こる。残された30cmほどのクレーターに、(そんなにいきますか。道の地質、割と堅いんですけどねえ)
(調整体(わたしたち)の頭蓋骨にすらヒビ入れられるレベルね。脳震盪コミで)とBランクの脅威認定をする幹部たちは
悟る。
 周囲で次々に点火しゆく殺意を。戦士がいよいよ攻勢に転じるは─…
 12号棟東側。B側通路に面する地点!
 地面を鋭く叩いた植物廃屋のツタも遥か足元、中空で緑の鞭を薙ぎ、或いは吹断する幹部たちに電撃的知覚、奔る。
「そこっ!!」
 半円軌道を描くハルバード。もはや触手の茎が何本も何本もその断面から濁ったフォレストグリーンのスムージーを吹き
散らしながら舞い飛ぶ中、肉厚の斧鎌槍がその腹でがっきと噛みあっていたのは……羽根のついたミサイル。

35:永遠の扉
18/11/23 23:04:35.62 O3D23CZ2.net
「スターストリークミサイルの武装錬金・プラチナサクロス」
 10号棟F列通路側外壁そば。遠目に爆発を無感動に観察する創造者は月吠夜(げつぼうや)クロス。ワイヤートラップの
いのせん同様、未来からきたアウトローだ。
「……」
 爆風からブレイクを抱えて飛び出すリバースであったが
「コンセントレーション=ワンで咄嗟に逃げたようだけど」
 巨大な拳型オーラの接近を許す。
(っ! 終了後すぐ使えないのが『集中した一瞬』なのに!!)
「むしろソコ狙ったんだからねっ!!」
 ハイトーンな金切り声を上げる金髪お団子の少女は一瞬まえ、超速攻のスピンを打っていた。先ほどリバースに接近していた
「巨大な拳型オーラ」とはつまり、最終段階の超速を誇る直撃必至のものだった。

36:永遠の扉
18/11/23 23:04:51.62 O3D23CZ2.net
(通常射撃で対処!!)
 ドウッ、ドウ。銃口がけたたましい産声とともに弾き出した無数の吹断はこれまでの殺戮劇同様、金髪少女戦士の全身に
雨よ霰よと着弾した。着弾しながらも業火の如く吹き上がる黄金の紙幣状の陽炎によって散り飛ばされひどくリバースを驚
かせた。
(拳の威圧といい吹断を弾く防御力といい……なんなのこのオーラ。紙幣!? バスターバロンに炸裂した例のアレが遂に!?)
 だが瞬間記憶に秀でた海王星は微妙な不一致に気付く。別物。では金髪少女の能力は? 武器も持たず防具も着けて
おらぬ彼女に疑問はますます深まった。
(このコの武装錬金は何!? 『どんな武装錬金』……!?)
(分からぬときゃあ封じるに限りますよ青っち!)
 光る穂先! 発動するは最速の伝播─…
「攻撃を、禁ずる!」
「甘いですね」
 バリケードの映り込んだ鉄板ほどある破片が、輝くハルバードと赤毛の少女の中間点を遮蔽する。禁止能力は物理的に
シャットアウトされた。
(っ! この破片……さっきのミサイル!? 妨害は必然!? それとも偶然!?)
(必然ですよ)
 合沓(ごうとう)の甍の向こう、10号棟F列通路側外壁そばで燕尾服姿の青年が眼鏡を直した。
 ブレイクは見落としていたのだ! 舞い飛んでいたミサイルの破片の1つ! それがバリケードを鏡映するのを!
(『対象にダメージを与えられなかった場合、その破片のどれか1つに、周囲5m圏内に存在する総ての武装錬金のうち
いずれか1つの特性を付与できる』のが我がプラチナサクロスの弾丸でしてね)
 その付与を当てるため破片をある程度操作できる『特徴』の方で月吠夜は禁止能力を遮光したのだ。
(本当はいまだ謎な海王星の特性を当選させ暴きたかったのですが、まあいいでしょう)
(ハハ余裕ぶって。『あの場所』の5m圏内着弾だったら一定確率で写楽旋輪の能力と所在がバレてしまうってさっきまで
必死こいてタヨネー。必死こいて着地弾地点を『あの場所』から5m超えて離れた場所にしてタヨネー)
(……。そういう、何が選ばれるか創造者の私ですら読めぬタチの悪さ、たっぷりと味わってもらいますよ)
 端正だが、神経質そうな顔つきの彼は傍からガバリと走り出す人影に、仲間(いのせん)ともども嘆息した。
(賭けはあなたの勝ち、ですか。壁村氏のものが来ると見事いい当てたあなたの)
「そして越境を目論め! ウォールサージを見た者よ!!」
 錆々としわがれた吼号響く12号棟東側に支店は戻る。
(か、体が勝手に金髪の方へ……!)
(マズい! ミサイルの破片にバリケードが映り込んでいるのは鏡映ではなく……特性! むめっちの龕灯のような『性質
付与』系! そして借りたバリケードはたぶん誘引系統の何か!! 進軍途中越えたのがあまりに当然過ぎて気付かな
かった!!)
((だったら!!))
 ブレイクはリバースを中心に轟然と旋転。なおも向かい来る金髪少女戦士の拳にその豪宕なる穂先をブチ当て威力を減殺
する。吹き上がる衝撃。一瞬片目をつむり疼痛を示した金髪少女だがダメージはほぼ皆無。
(アポジモーター! サブマシンガンの逆噴射で天王星を加速、ね!!)

37:永遠の扉
18/11/23 23:05:21.06 O3D23CZ2.net
 だったらと拳と繋がる肩口からゴールドの噴炎を上げ前進。電磁の衝撃が拡がる一瞬の、しかし凄絶な鬩ぎあいの中、
天王星の物陰から二挺を構え跳びあがったリバースは、むろん彼の柄を足場にしたものである。(強い相手! だからこ
そ……一点集中!) ミニミ以上の連射力をただ一弾に集中した吹断は果たして金髪少女の眉間を光り輝く障壁ごと貫い
た。と認識できる筈だったのだ、野太い蔦どもさえ間(あいだ)に割って入ってこなければ。植物廃屋からの来援という訳で
ある。こちらは耐久度が低い代わり数が多い。吹断は立ちはだかる蔦の数々をブチブチと貫通しながらも運動エネルギー
を破壊の抵抗に奪われ見る見ると減衰、21本目の蔦の半ばほどで遂に停止。
 海王星はあやうく叩きつけそうになった。銃を、地面に。
(っとに、厄介な連携……!!)
「は、今から」
 投網よろしく扇形に放物される鉄色の細い線が震えたころ、ブレイクは80匹近い衝撃波エイリアンに襲われ始めた。
 リバースはそろそろ、キレ始めた。
(はぁ!!? あのワイヤーの術者らしき戦士が廃屋の植物に近づくの見てないわよ私イラつくイラつくそうよ空から監視し
てた自動人形はそれらしき人影全然見てなかったのにどうして仕込めてるのよイラつくわそしていつになったら光ちゃんを
出してくれるのよ出しなさいよ!)
 離れた場所で、術者は思う。
(できて当然当然とぉ~ぜん♪ だってワイヤートラップ仕込んでた廃屋をフジコーさんがそのままツタの化身にしちゃった
んだヨ~?だったらさあ、とぉ~ぜん、あるヨネー!! ツタの中にも、わ・い・や・ぁ!)
(……仕組みはなんとなく分かったわ! そしてそれが! 貫通しゆく私の銃弾に作用し!)
(俺っちに攻撃を……! へ、へへっ、ちょっとブルっちゃいますねえこの連携力(コンボ)!)
 この場に居る連中総てラクに殺せていたさっきの雑兵どもとは違う……リバースとブレイクがほぼ同時に感得した瞬間、
 電撃的な直感が咄嗟に2人を背後へ運んだ。ブレイクは巨拳のオーラを弾いた反動で、リバースは蹴りで蔦を破裂させた
揺り返しで、それぞれ着地し更に飛びのく。
 至近距離特有の、音すらない轟雷が彼らが寸前まで居た場所を焼き尽くした。
                                               
「気象兵器(HAARP)の武装錬金、スノーアディザスター……なの。
 地上8mほどで渦巻いていた少女型の黒雲が渦巻いて四散した。
(ドラちゃんとかいうコの雷……!)
(接近戦に気を取られているところに撃破数3位の大火力、すか)
 ひゅうと口笛を吹くブレイク。彼はやや黙り……黙り……振り返りがてらハルバードを振り下ろす。熱した鉄を水につける
ような音も一瞬、B列通路北方面から放たれていた大口径の光線は槍圧衝撃波によって両断、爆発を遂げる。そしてどこ
からともなく、声。
    スノーア       
「……snoreは「いびき」って意味、です。勉強になるでしょ……です……」
 02号棟の影に隠れる赤い三つ編みにリバースの瞳が輝いた。
(光ちゃん! いつぞやブラボーさんにブっぱなした口からの破壊光線って訳ね今の!)」
「最大火力連発……! 雷からの間髪いれずは流石に危な……」
 かったと踏み出しかけたブレイクだったが、視界のずっと端に妙な閃光を感じたため振り返る。だが警戒に有った奇襲は
ない。代わりに見えたのは廃屋の窓の奥たたずむ……姿見。
(今の雷かビームの輝きを……反射した?)
 一方、その廃屋……11号棟の窓際すぐ下、姿見に映らぬ死角には─…

38:永遠の扉
18/11/23 23:05:39.62 O3D23CZ2.net
(あぶなかった! あぶなかったーー!! 危うく『最初の撮影』……気付かれるトコだったーー!!)
 2体の自動人形ともども小柄な体を限界まで縮めるよう座り込み息急く口おさえる……写楽旋輪。
(でも何とかできた! 報えた! 他の戦士さんたちの連携攻撃に紛れての撮影……できました!!)
 むろん斗貴子の絵図である。
─「2回目はともかく1回目は廃屋に紛れて撮影すべきだ。最初のが強制移動なしの任意で可能な以上そうすべきだ」
─「フラッシュはドラちゃんの雷に紛れて焚く、なの。『雷が、たまたまあったようにしか見えぬ鏡』に反射したよう偽装する、なの」
─「そう……ですね。ちょうど……この家に鏡……ありますし」
─「え!? コレ腐って水銀部分も剥落しまくりですよ!? これじゃ雷の反射の、説得力が……!」
─「ボロボロでも問題ない……です。ありさえすれば……私が…………」
 鐶が事もなげにキドニーダガーを取り出した時の驚きは今でも鼓動を早くしている。
─「ふたたび年齢操作!!」
─「はい……です。どれほど朽ちていようと……私の特性で……若返らせれば、いいだけ、です」
 そして『古びているが、ギリギリ雷を反射できる』程度の絶妙な保存状態に仕立て上げ……雷に紛れ撮影!
(あああ助かった!! 津村さんとドラちゃんさんと鐶さんのお蔭で助かったーー!)
 写楽旋輪! ブレイクならびにリバースの……『撮影一回目』成功!
(あとは念のためこの廃屋から脱出。偽装に偽装を重ねたとはいえ、あっけなく騙されてくれる天王星の幹部とはとても。
きっといぶかしんで寄ってくる。その前になんとか脱出しないと……!)
 しかし、である。よく考えてみてほしい。いま疎開住宅地上空にはリバースの分身たる自動人形が居る。戦士たちの動きは
つまりほぼ筒抜けといっていい。じゃあ11号棟への侵入自体マズイのではないかとなるが、そちらは自動人形が打ち上げ
られる以前の話だから問題ない。大事なのは今。『空中からの監視をどう掻い潜って脱出するか』だ。
(……ああほんとう、仲間って、いいなあ)
 振り返った輪は笑う。窓から見えぬ死角にまるまると浮遊(うか)んで居たのは……バブルケイジ。共に入居(シェア)した。
─「輪ちゃんの身長いま何cm……なの?」
─「149cmですけど」
─「……9発までか。しかし残り14cmは小動物としては不自然な大きさ、捉えられる恐れが。せめてあと2cmあれば……」
─「そうね。あと2cmあればもう1発加えて1cmに縮められるんだけど……」
─「この戦いが来年だったらと思います。去年おととしと2cmずつ伸びてはいるんですよ。なら、来年だったら……」
─「なにか……いい手段…………ない……でしょうか……」
 呟く鐶。頷いた一同はちょっと黙ってからギョっとした表情で……二度見した、彼女を。
─「「「「あっ!!!」」」」
─「ふぇ? どう……しました……?」
(年齢のやり取りで私を1歳加算。そしたら運よく151cmになったので…………うん、まあ、成長期なのに結局毎年2cm
ずつしか伸びんのかい私って気もするけど─ぜったいお父さん遺伝子のせいだ、おじいちゃんもひいおじいちゃんも150
cmなかったもん─とにかく151cmにはなったので)
 10発のバブルケイジで1cmになればまず、上空からは見えない。認識できない。むしろこれこそバブルケイジ本来の特性
を強く活かした戦略的措置なのだが……やんぬるかな、先ほどのイオイソゴとの戦いで開花した変幻と速度の戦い方こそ
警戒と評するリバースとブレイクは、あろうコトかこの基本、失念していた!! いや、仮にこちらも警戒していたとしても、
恐らく上空からの捕捉は叶わなかっただろう! 自動人形が監視すべきは25棟もの建物! その周囲で動くただ1つの、
1cmほどの物体をピンポイントで発見するなど……ほぼ不可能に近い! そもそも自動人形という第二の目で監視している
リバース自身、戦闘に集中力の大半……割いている!

39:永遠の扉
18/11/23 23:05:56.92 O3D23CZ2.net
(ま、だいたいそんなカンジだとは思うけど、念のため、なの)
 ドラちゃんは自然現象に見せかけ、村全体に微風を吹かせていた。そう、入村時の幹部たちの頬を撫でてきりずっと吹いて
いる生ぬるい風は作為のもの、スノーアディザスター起因の貿易風ならぬ錬金風。
 細かな草のカケラや、葉っぱ、よく分からないゴミなどが村の道路をカサカサと動き回っている状態で、『縮んだ少女』1人
を発見するのは難しい。
(これでも、ドラちゃんなら……建物から建物へと移動する、不自然な動きの小さな物体だけに狙いを絞って……監視する
……なの)
(だから、風にわざと煽られながら、さりげなく軒下に滑り込み……廃屋特有の割れ目から中に入れ……ですね)
─「あれ? でも風船10発でいいんですか? 私の自動人形2体を考えたら、30発は必要なんじゃ」
─「10発でいい。本体が縮めば武装錬金も縮む。私の時もそうだった」
 なお、身長を元に戻したい時は白い法廷にて依頼すればいい。
 構造的には何ら破綻のない作戦だが、しかし輪は1つだけ、泣きたくなるほどの不満点を抱いている。
─「……」
─「どうしたんですか津村先輩」
─「その……1つ、イヤなコトを……」
─「??}
─「えーとだ。例の再殺騒ぎで喰らったとき、私は…………」
(ううう。ですよねえ!? 奥多摩の件を考えると、こうするしかない、ですよねえ!!?)
 廃屋の中、今まさにバブルケイジに当たらんとする写楽旋輪。実をいうと一糸たりと纏っていない。ほんのりと色づいた、
青い肢体であった。やや丸みとふくらみを帯びてきているが、中学2~3年の見た目相応の生硬い、少年のような体つき
だった。なお彼女の使命感に対する名誉を守るため特記するが、以下しばしば挟まれる葛藤は一瞬のものである。
(恥ずかしい、恥ずかしいですーー!! そりゃバブルケイジが服に作用しない以上、仕方ないといえば仕方ない、です
けど! もし服着たまま縮んだら服がココに残って、その痕跡から何か企みがあるって天王星たちにバレるから、ぬ、
脱ぐしか、下着まで脱ぐしかなかったんですけど…………恥ずかしい、恥ずかしいですーーー!! しゃ、写真撮る私が
ヌードモデルみたいな格好とかどうなん!! どうなんーー!! あああシャレにもならない、カメラ使う私がカメラ使われた
ら終わりって状態になってるの笑えないよね全然笑えないっ、はずかしいい!!)
 あああ、さっき幹部たち撮るとき、誰も、特に男の戦士さんの誰も、見て無いですよね、私、みてないですよねー!!?
心の中の輪は瞳ぐるぐる、溶けたハニワみたいに背を反って、頭を、抱えている。
(しかもこのカッコで別の廃屋に……『服』置いてあるところまで歩かなきゃいけない訳……なんだよね!?! その道中、
天王星の幹部が手違いでやってきて見られたら、死ぬ! 色んなイミで死んじゃうよおお!!! ヤダー!)
 もう顔は真赤。涙目。(で、でも写真! 写真はちゃんと分析しなきゃ! 従軍記者の武装錬金の1パーツなカメラから出
力された写真は、武装錬金扱いで縮むって検証したさっきの手間隙の元を取るためにも……分析しなきゃ!!)。
 体育座りでなるべく肌の露出を抑えながら、そして(てか1歳年取ってるのに全然おっきくなってないのどうなんよ……)
と特定部位に対して悲哀を覚えながらも、写真を、見た。
(? これは……)
 2つの自動人形からそれぞれ受け取った写真を見た輪のカオがやや曇る。恐怖というより、「……あー、読み解き必要
なタイプな奴だー」な、ニュアンス。若いとはいえ未来視一本でやってきた戦士なのだ、”一見こう見えるけど実はこう”な
タイプの、予知特有のよくある写真はなんとなく直感でわかる。
(その辺の気づきは白い法廷で津村先輩の実務的思考力とすり合わせるとして)
 冷感とは全く別次元な怖気が、ぶるっときた。細い体をきゅっと抱く。
(一度目の撮影を終えたいま……もう後戻りできないんだよね、私…………)

40:永遠の扉
18/11/23 23:07:19.22 O3D23CZ2.net
 成功は同時に死地への端緒でもある。次にブレイクやリバースがその能力を使ったとき、非力なる少女は既に幾度なく
大殺戮劇を繰り広げてきた恐るべき魔人たちへの……意思とは無関係な接近を強いられる! 強いられて、しまう!
(……)
 恐怖がよぎる。薄い胸のなか拳ををギュっと握り締める。リバース・ブレイク両名と同格の幹部(ディプレス)の殺戮現場で
覚えた震えに押しつぶされそうな心を辛うじて支えているのは犠牲者(あのとき)への想いだ。彼らの家族は彼らの死をま
だ知らない。不安に怯えながらも、自分の大事な人だけは必ず帰ってくると、自分との約束が支えになって帰ってくると当た
り前に信じているのだろう。
(それがもう……打ち砕かれている。私の友達の……養護施設の子達のような子が……生まれてしまっている)
 だからこそそれ以上の拡充は必ず防ぐ。
(私の、未来視で。絶対に)
 青い炎の使命感が灯ったとき、風船すら1つもない11号棟内部で、「桜餅色の小さな何か」が、片隅の、外へと続く割れ目
へと吸い込まれた。
 バブルケイジの破裂音は予定通り、破裂するような音で鳴くカマイタチの連撃によって掻き消されたが。
 天王星の幹部は先ほどの光への疑惑に染まり始めていた。
(あの光……本当にただ雷とかビームとかが鏡に照り返しただけ……ですかね? 何かの、武装錬金だったりは……)
『自分と同じタイプ! 光で何らかの搦め手・補助的な特性をかける相手!』と先ほど写楽旋輪が推測したような気付き方の
経路に天王星の幹部は入りつつある。ちなみに事前に彼が『未来視の能力と、それを操る少女の姿形』といった情報を入手
していないのは、先ほど輪に遭遇したときの反応からも明らかだ。よって彼は思いもよらない。未来をハッキリと予知しうる
能力が戦団にあり、それを『虹封じ』の破壊ないしは分析の柱石に据えているとは。
 …………。
 ブレイク=ハルベルドは『枠』(わく)に拘る幹部だ。司る虚飾の罪もそこから出ている。枠。飾り立てる、枠。銀成で斗貴子
と秋水を一晩で演技に熟達させたのも『飾り方』を知っていればこそだ。その原型は学生時代、カラーコーディネーターを
志していた部分に萌(きざ)す。そちらは不慮の事故で後天的な全色盲になってから失われたが、換骨奪胎、1つの技能
への熟達が別分野への転向をももたらすケースはかなりある。バイクメーカーの経営再建を手がけたサラリーマン社長が
ゴタゴタで追い出され行き着いた大手小売チェーンで空前の赤字をV字回復させる小説のような絵物語が実際あるのが
世の中だ。
 カラーコーディネーターを断念せざるを得なくなったブレイクは紆余曲折を得てアイドルとなり、自らのプロデュースへの
繰り返しを経て国民的な声望を一時期だが得ていた。それは当時の恋人とか親族とかの薄汚い裏切りで大破綻をきたし
たが、詳細は省く。
 重要なのは流れ着いた先で、レティクルエレメンツという組織で、イオイソゴ=キシャクという老人に巡り会ったという一点!
先の戦いで彼女のやり口を「かっ込んだ」犬飼倫太郎よろしくブレイクもまた影響を受けている。
(戦いとは大枠を整える……にひっ、イソゴ老の戦い方、実に参考になりやす)
 裏切りによって人間の暗部につくづくと嫌気が差しながらも、磨けばどこまでも輝かしくなれる可能性の部分だけは今もって
信じているのがブレイクだ。たとえ才覚や力量が足らなかったとしても『枠への規定』がしっかりしている人間は、戦士は、
絶対に強いと警戒(しんらい)している。し続けている。
 その感覚が訴える。さっきの光、本当に雷などの照り返しだったのかと。既に数々の連携を、組織力を、枠の美しき噛み
合せを、披露している戦士たちなら、偽装の1つや2つ行うのではないか……と。信頼しているといいながらこうやって疑う
のは結局過去、裏切られているからだ。手ひどい痛みから抜け切れずにいるから悪に身をやつし正義を殺す。
(……光。すぐ浮かぶのは、やっぱり龕灯すかねえ。むめっちの)
 性質付与に必要なスキャンがいま雷に紛れて行われたのかと考えたが首を振る。データにある龕灯の射程は、短い。せ
いぜい二~三歩先のものしかスキャンできないだろう。一方、先ほどの雷か否か怪しい照り返しは八歩以上離れた場所で
起こった。射程距離でスキャンしてから鏡のある廃屋にヒットアンドアウェイで逃げ込んだ? ともブレイクは考えたが理に
合わぬと首を振る。

41:作者の都合により名無しです
18/11/23 23:09:12.18 O3D23CZ2.net
(ああいう超遠距離でも操作できる武装錬金のうち自動人形とか乗り物じゃないもんは遅いんすよ、移動速度。それが一瞬
で逃れ去るのはまず不可能。そりゃ光っちのような高速移動可能な方が持ってスキャンして離れるとかもやれなくはないで
すけど、そーいう気配なかったですし)
 そもそも幹部2人の『特性』に掛けられた戦士が先ほどの場に居なかったのが決定的事実となって龕灯の仕業を否定
する。
(……じゃあさっきの照り返しは…………なんなんすかねえ。考えすぎ? でも戦時中からある建物なのに鏡だけ曇ってい
ないとかちょっとヘンなような……。いやでもあの家保存状態良さそうだし、運よく風とか吹き込まないまま今まで……? 実
際それがギリ成立する感じな古い鏡なのが却って迷う! うーん。どっかの浮浪者が持ち込むのは……ないでしょうし。その
枠にかけて身だしなみを気にする訳がない。じゃああの光はいったい……。……。……。ひか……り……?)
 光、という言葉にブレイクは思いつく。

42:作者の都合により名無しです
18/11/23 23:09:36.26 O3D23CZ2.net
(……まさか光っち? ボロボロだった鏡をキドニーダガーで……若返らせた? いやでも……なんのために? 銀成で6
人相手どった時みたくここら一帯若返らせた? いやでもソレ、あのときみたいな混雑(メリット)ないっすよね? だいたい
それなら建物全部もっと若くなってなきゃおかしいし……。『じゃあ鏡だけを若返らせた』? 何のため? 他の戦士さんの
攻撃の媒介のため……? イソゴ老の忍法鏡地獄と同系統だけどやや違う……完璧な鏡を必要とする、何らかの特性の
……ため……? でもだったらそれ……屋外に置きませんか? 建物の密集をさいわい、こっちが追い込まれて曲がった
所に鏡を配置! そこからの特性をかける! ……みたいなのが最善手…………あー、だめですね、俺っちではそれ位
しか考えつかない。なんなんすかあの鏡……)
 やや腑に落ちないものを感じ、(できればあの廃屋確認したい! 青っちにあの鏡の匂い嗅がせれば光っちの特性が
効いてるかどうか、分かるし!!)と、輪のいた廃屋めがけ踏み出しかけたブレイクだが。
「はァ? ヨソ見してるとかバッカじゃないの!!!」
 飛び込みがてら地面を拳で割り砕く金髪少女に肩を竦めつつ困り気味に笑う。
(そうなんすよねえ、パッとあっち行けない理由はこのコ。連携してる戦士さん方の中で一番厄介かも)
 先ほど数々の戦士を一撃の下に両断してきた全力の一撃はもう何度目であろう。だがそれはまたしても防がれる。今回は
黄金の波濤に包まれた右拳によって呆気なく受け止められた。ばさりと紙幣用のオーラが散るなか、隙ありとばかり背後の
死角に回りこんだリバースが乱射をするが、
「しゃっ!!」
 左拳からの、これまた紙幣を横向きに並べた円錐型の衝撃波によって吹断の銃弾が消滅する。
(このメチャクチャな強さは……なに!? なんなの!!? 幹部(わたしたち)2人同時に相手どって……互角ぅ!!?)
(戦士長一覧にこんな人居なかったのに、俺っちが想定してる光っちの攻撃力より……だいぶ上…………)
 そういえばとブレイクは思い出す。
(『一世さん』。俺っちのお師匠……小札さんのお兄さんも10年前たしかディプレスの旦那とイソゴ老、火力知力の恐るべき
タッグを圧倒したといいますが…………そ、そんな冗談のようなレベルが一介の戦士にゴロゴロしてるなんて……ありえない!)
(さてはコレ……実力じゃないわね! インチキ! 武装錬金特性による何らかのインチキ!!)
 リバースが思うなか、金髪少女は、怒った。
「かーっ!! あったまくるわねえ!! 学窮(わたし)が掴んでんのにどーして砕けないのよっ!! ホント特性補助向
きは硬いの多くて大嫌いっ!!!」
 多くの命を弄んできた断頭の刃。それがなよなかな少女の手にむんずと掴まれている。
 ひどい、力だった。
 調整体の、化外の膂力を持つブレイクが、まったく押し切れなかった。
 誤って巨岩に斧をめり込ませてしまった木こりの気持ちを理解した。
 奥歯を噛み締め、丹田に力を入れる。
 押し込めない。
 美しい手だとすら思った。タコのない。つるりとした掌だった。
 それが、切断できない。
 ずるり、ずるり。柔らかい土の感触が足元から立ち上る。掘っている。掘りこむほどにかけている。何を? 力を。なのに、
進まない。
 ならばと反る。背筋の計測器など一瞬でガラクタに出来るバネがやっと解放された。全身を心地よさがつきぬけた。背骨
が鳴る。筋肉がほぐれる。不自然な体勢が終了を告げる。
 慟哭。
 瞠目。
 動いていない。ハルバードの穂先だけは動いていない。少女の掌に掴まれたまま動いていない。彼女ごと引きずったのだ
ろう……淡い期待を粉砕したのは小さな小さな2つの靴。何ら、掘っていない。引きずられてはいない。今度はプロレスラー
を理解した。四ツ手で惨敗寸前のプロレスラーを理解した。
 くしゃっ。ブレイクの口角が引きつった。枠に拘るこそ枠の見えぬ相手は、怖い。にへらとした貌(かお)はもう臆面もない困
惑で、痙笑だ。

43:作者の都合により名無しです
18/11/23 23:10:28.73 O3D23CZ2.net
(……やれやれ。こうなってくると)
「どう! 自分より強い力で押さえつけられる気分は!! 仲間(みんな)がされて怖かったコト、これからたっぷり仕返しして
やるんだからっ!!!
「ンー」
 放胆にも柄から左手を外したブレイクは、それで頬をかいた。枠(かいま)見える相手の軽躁さが恐怖を少し和らげたと
みえる。
「自分より強い力で押さえつけられる気分、すか」
 ぬっと彼の背後から現れたのは猫背のリバース。例の赤と黒の瞳で爛々と牙向いて笑っている表情だ。
「比較的毎日あじわってますけど?」
 金髪の少女戦士は両目から火花を飛ばし、丸まった。銃床が、振り抜かれている。グリップごと叩きつけるのではなく、銃
身を握り、遠心力に任せて振り下ろしたのだ。めきょっ。金色の脳天が嫌な音を立て陥没した。窪みに銃床が一瞬ひっかかり、
強引に、引き剥がされた。青ばんだ眼球をぐろんと上向けた少女は頭蓋のなか確かに聞いた。言語に絶する金属音と卵
の殻の割れる音を。同時に、生命力のエネルギーそのものなオーラに彩られていた金色の髪が……地毛なのだろう、赤毛
へとみるみる退色した。

44:作者の都合により名無しです
18/11/23 23:10:51.19 O3D23CZ2.net
「うそ……! 射手(シューター)がこの攻撃力……!? 近接特化の殿群ズにあれほど遅らされたのに……!?」
「青っちはむしろ格闘寄りっすよ? 精密射撃はあくまで副産物……。サブマシンガンで字ぃ書くっていう無茶を練習しまくっ
た結果、射撃もうまくなったってだけで。むしろ好きなのは拳と拳の勝負。伝軍さんら相手に遅れたのは『たっぷりと堪能し
た』からであって……圧されていた訳ではないっす」
「うふふあはは防御力を高めているなら一点集中で破ればいいだけよ終わり終わりこれで終わり手こずらせてくれたわね」
 崩れ始める少女の姿に勝利を確信し他の戦士に向き直るリバースは
「いっっったいわねもう!!!」
 膨れ上がる拳によって……手近な廃屋へ叩き込まれた。玄関やや上に着弾したリバースは上半身でホコリと色あせに
満ちた板を、足でドアの枠やガラスを、それぞれ破滅的な音と共に巻き込んでぐしゃぐしゃにしながら薄暗い室内へと吸い
込まれ……やがて崩落の中の人となった。
(……。さっき妙な反射? のあった廃屋すね。これで鏡の調査ができなくなったのは偶然?)
 建屋の崩れる凄まじい音のなか、いっそう疑念を高めるブレイクだが、謎はまだある。
「っつー!! 死なないからって痛いものは痛いんだから!! ホントもう、許さないんだから!!」
 戯画的な白目にちょちょぎれんばかりの涙をたたえクロス字の両掌で脳天を抑える少女は……そう、生存していた。うむ
と口中で気合を入れると再び金色の波濤が全身に溢れた。後頭部にお団子のある赤毛もまた鮮やかに脱色。
(戦闘不能に……ならない!? レティクルナンバー2腕力の本気をマトモに浴びて……すか……!?)

45:作者の都合により名無しです
18/11/23 23:11:06.69 O3D23CZ2.net
「なんなのあなた? 本当に、なんなの?」
 やや恐慌状態にあるブレイクをいよいよ直立させその輪郭を波打たせたのは、廃屋11号棟の瓦礫の下から暗鬱と響く
声である。怒りはない。ザラつきも。おぞましいノーブレスとは真逆の、人に聞かせるための、丁寧な喋り方だ。ただ静粛で、
凛然とした、絶対の使命感にあふれる美しい声だった。
 だからこそ天王星の幹部は、ビビる。
(……こ、これ、青っちが一番ブチ切れてる時の声っす………………!)
 しかしゴールドの波濤噴き上げる少女戦士は涼しい顔で首を一回右に曲げ、コキリと鳴らしただけだった。だのにそれが
加速装置のスイッチだったかの如くブレイクの傍を溶けて過ぎ去った彼女は耳を覆いたくなるほどの衝撃音のなか実像を
取り戻し……リバースと組み打つ。そちらは銃身で、金髪少女は前腕部の手の甲側で、それぞれ相手とせめぎ合い始めた。
「…………リバース=イングラム。コードネームは『波』。マレフィックネプチューン」
「財前・ミック・マイ。日本名の当て字は『美しき紅の舞』。ホムンクルス撃破数11位」
 互いを容易ならぬ好敵手と認めた少女たち、破顔(わら)う!
 戦時国債の武装錬金、デフォルト=デフォルト!!
 特性は生体エネルギーの借り入れ! 契約は書面ではなく握手によって行われる!! 財前美紅舞の右掌を変換して
発動する超小型輪転機タイプの武装錬金は握手した者の掌の皮を巻き込み、パスタの原型の如く”なめし”、表皮細胞総て
の塩基配列に『約款』を刻みつつ元の状態に張り直し……掌(それ)自体を遺伝子レベルで戦時国債へと造り替える!! 
そして掌を戦時国債化された『債務者』は、美紅舞の要請時、強制的に生体エネルギーを徴収される!!!! 

46:作者の都合により名無しです
18/11/23 23:11:35.05 O3D23CZ2.net
 徴収された生体エネルギーは、美紅舞の、攻撃力、防御力、回復力、瞬発力など様々な能力の強化に使用可能!! それ
こそがブレイクに競り勝ちリバースの猛攻を凌いだ秘密! 美紅舞は各場面に必要な力を瞬間ごと爆発的に高めるコトで凌い
だのだ、実力で遥か勝る二名の幹部を!
 先ほど白い法廷でデフォルト=デフォルトの概要を聞いた鐶は、呻いた。
「戦士からエネルギーを集め際限なく強くなる武装錬金……? だったらそれは……、一種の、簡易版の」
 斗貴子はやや難しげに答えた。
「ああ。そうだ。下位互換とはいえ要するに……」
「ヴィクター……だな」
 リバース=イングラムが殴り飛ばされ吹き飛んだ。
 財前美紅舞の轟然たる拳に頬を射抜かれたのだ。
(やった! 音楽隊の副長ですら有効打を与えられなかった幹部が!)
(飛んでいく! ここ12号棟東側からB列通路を北へ、01号棟方面へ……飛んでいく!!)

47:作者の都合により名無しです
18/11/23 23:11:54.07 O3D23CZ2.net
 A       B     C       D       E       F
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 美紅舞、思う。
(本家(ヴィクター)のような『徴収したエネルギーごと吸い取る』タイプじゃなきゃ、これ位どうにか、なんだから!!!)
 鐶は……首を振る。
(…………血も髪も……落としてはいない……ですね、お姉ちゃん)
 DNA含有物質からでも武装錬金を複製できる上司(リーダー)からサンプル回収を依頼されている少女は義姉の用心深さ
に感服しつつも心胆寒いものを覚える。
 リバース=イングラムは飛ばされながら平然と……微笑む。

48:永遠の扉
18/11/23 23:12:19.18 O3D23CZ2.net
(コンセントレーション=ワン発動前に直撃するほど速く……光ちゃん以上に、強い……、かぁ)
 吹き飛ぶ幹部、『口の中の違和感』をぷっと吹き捨てる。過ぎ去る屋根の上でエナメルが白く跳ねた。びきり。沸騰する思
いに両目を見開く。赤と黒に彩られた2つのレモンに宿るはむろん絶対の殺意である。
「許せない許せない許せない許せない許せないポっと出の戦士ごときが光ちゃんより力強いなんて許せない殴られたコト
は別にいいのよ許してあげるアナタの気持ちとか正しい使命感とか伝わったからむしろ嬉しいし歓迎するあなたはきっとい
い人マジメな人好きよ好きよむしろ好きよでも光ちゃんより力強いのは許さない光ちゃんこそが一番強いんだから許さない」
 怒気に引き攣っている声……ではない。静虚で、空虚なトーン。自殺直前唱える『ぶつぶつ』だ。哀愁の不協和音だ。
(こええ、コイツこええ)(アドレナリンのオーバードーズ……!) 藤甲や美紅舞といった近くに居た者が悉く活力を奪われる
調べだった。声が天女の如く澄み渡っているからこそ余計陰惨だった。
 屋根より高いとはいえ姿勢自体は地面と水平だ。仰向けだ。二挺のサブマシンガンは左右それぞれの大腿部の上に伸
ばす。マズルフラッシュ。追撃に翔ぶ美紅舞の全身を夥しい弾丸が穿つ。想像を絶する速射だった。撃ち込まれた美紅舞
周辺の大気が弾き飛ばされ跳弾するほど速く鋭い連射だった。屋根や壁の跳弾を受けた部分はひどい音を奏で砕け散る。
漬け物石を力士に投げつけられたような有り様だった。
「!?」
「イッターイ!!!」
 破片は、10号棟傍に隠れ潜む月吠夜といのせんの肩や頬まで掠り傷とはいえ切り裂いた。
(めちゃくちゃ離れてるのに……巻き添え!?)
(3人家族なら広々住める建物3棟と、幅6mの道4本隔てたこの場所に!!? それも音からすれば直撃ではなく……財
前美紅舞への攻撃の余波の……更に余波、なのに……!)
 飛んできた木片はナイフの鋭い突き込みのような威力があった。クールな佇まいをやや蒼褪めさせる月吠夜はしかし更に
見た。角の向こう……リバースの射線の通る道・”2行目通り”の路面にある、決定的な恐怖をもたらす、『見てはならない
もの』を。
『そこに、いるのね』
 字、だった。それが先ほどまで見せていた弾痕ならまだコケ脅しだと笑って流せた。が、違う。木片だった。地面に折り重
なった木片が、確かに、ハッキリと、上記の文章を並べているのだ。
(ぎゃひいいいい!! こわいこわい月吠夜こわいよ逃げようヨーーー!!!!)
 もはや魔技としかいえない。跳弾で文字を作るだけでも人智を絶した行為なのに、リバースはその跳弾が巻き上げた木
片で、『建物3棟と幅6mの道4本隔て』た場所に、文字を、書いたのだ。
 惑乱し、建物の影から角の向こうへ飛び出そうとするいのせんの首ねっこを(わ!! こら!!!)、月吠夜は押し殺した
大声で引っつかみ引き戻す。
(お、落ち着きなさいいのせん! これほどの曲撃ちをできる者を相手に迂闊な動きを取るのは危険!! というか木片
で有効なダメージを与えられないと踏んだから、私たちを文字で揺さぶり建物の影からいぶりだそうとしてるんですよ彼女!
どころかヘタをすればブラフ!! 総ての道に同じ文言を書いている可能性だって! 空中の、自動人形の監視を以って
すら、戦士(われわれ)がどこに隠れているか分からない”からこそ”、そこにいるのねといった漠然とした、いかにも見つけ
ているような言葉で動揺させ、見える位置に飛び出させようとしてる可能性だって!)
 あ、なるほど。いのせんは、ピタリと止まった。
(だったらそれに気付かず出てく奴とか、バカだよねアハハ!!!)
 笑ういのせんは確かに見た。5号棟の屋根に一瞬浮かび上がった赤毛の三つ編み少女を。「あ……」。月吠夜がただ呆然
と見守った推移はこうだ。「ややや、やられる前に……やれ、です……!」「落ち着け! いつものキミなら簡単に見抜ける
ブラフだろ!! ビビりすぎだ姉に!!」と地上の斗貴子に三つ編みを引っ張られ強引に引き摺り下ろされていたのは言うま
でもなく鐶光。トラウマゆえ面白いよう釣られたらしい。余談だが彼女の本名は「ひかる」。しかしリバースは「ひかりちゃん」
と呼ぶ。通りがいいのだ。
 ともあれブラフの文字よ、動揺と諫止の気配がそこかしこでし、再び静寂が戻る。気配を察した海王星はやれやれと、笑う。

49:永遠の扉
18/11/23 23:12:37.53 O3D23CZ2.net
(……流石にかからない、か。1人ぐらいは期待したんだけどなぁ。そしておびえる光ちゃん……可愛い)
 笑顔のまま、やや変質的に息を荒げる憤怒の化身、
(こ、こいつ、舐めたマネを……!!)
 今度は美紅舞に怒られる。
「学窮(わたし)に吹き飛ばされているさなかにあって、道に、戦士が飛び出してこないか観察したあげく義妹に萌える……
ですって!!? 馬鹿にしてるの、リバース!?」
「邪魔者殺したかったのに、失敗しちゃった」
 てへへと笑う。目はとっくに閉じている。ノーブレスの呪詛と乱射、それから怯えすくむ義妹の姿でいくぶんスッキリしたよう
だ。笑うと、ゆるふわしたショートボブと相まって童話の中のお姫様のような雰囲気がある。それでいて殺人になんらの罪
悪感を抱いていないのは異常という他ない。サマーセーターにロングスカートという清純な新妻のような格好すらもはや獰
悪のアクセサリー。
(こいつ! ちょっとやそっとの追い込みじゃ引き離せない!! あーもう! エネルギー、温存したかったのにィ!)
 コオオオ……。息を大きく吸った財前美紅舞の双眸戛然一閃!!!
「粉砕!! ブラボラッシュ!!!」
 無数の拳打を叩き込まれる恋人を遠目で見たブレイクは「おや」と細目を開けた。
(あのコ、ブラボーさんの弟子か何か……らしいすね。確かに……拳で戦う以上、師事するのは当然といえば当然。ときっ
ちや、武藤カズキさん、かの剣持真希士さんらがブラボー技(アーツ)使わないのは武装錬金が武装錬金だから、ですし)
 となると。『枠』に拘る天王星の幹部は顎に手を当て考える。
(先ほど青っちを『集中した一瞬』に入るより速く殴り飛ばせたのも説明がつく。『直撃・ブラボー拳』。速度に特化したブラボー
技(アーツ)を使われたと見るべき)
 12棟東側の天王星に、13号棟屋根中央から……声が、かかる。
「随分……余裕だな。恋人が圧されているのに」
 瞬く間に綯(な)われた無数のツタが一本の、長老な屋久杉のような太さになり……背後からブレイクを襲撃する。
(先ほど切断された反省を生かしこの太さ! いかなハルバードといえど切断できまい!)
「だからね。殿軍さんらの件でもいいましたけど」
 ウルフカットの青年、振り向きさえしなかった。
「圧されてるってのは、違う」
 ギザギザした閃電が駆け抜けた次の瞬間、巨大なツタは……倒れていた。断面は、滑らかなものと、繊維質がブチブチに
ちぎれたものとに分かれている。どうやら3分の1ほど斬りこまれ、自重によって倒木したらしい。
(なっ!! 大人10数人のかごめかごめでようやく収まる太さを!!?)
「10日に一度」
「……!?」
 倒れたツタを確認するや、くるりと振り返り直したブレイク、相変わらず感情の読み取りづらいウッソリとした笑顔だ。
「10日に一度。青っちがディプレスの旦那と本気で殺しあう頻度す。分解能力を持つ旦那としょっちゅうやり合って腕とか足
とかフッ飛ばされて、勝った数と同じぐらい負けて、でも即死だきゃあ避けてんのが青っちですよ?」
 だから、ですね。ほほ笑むブレイク。夕映えの逆光が不敵と嘲弄を強くする。
「分解能力スピリットレスに成す術なくシルバースキン、”ほどかれちまった”ブラボーさんの、更にお弟子さんらしき人に青っ
ちが押されるなんてコト……ないですよ。ありえません。アレは様子見……難儀な中ボス倒すための……『喰らって覚える』」
 瞠目する植物使い……藤山地力(32)は更に見た。光刃によって更に長く、凶悪に増幅されたハルバードを。
「生体……エネルギー!? できたのか!? ヴィク……もとい! 武藤カズキのような強化が!?」
「ん? 禁止能力用の『輝き』が何かお考えにならなかったんで? あれ……俺っちの生体エネルギーですよ? 生体エネ
エルギーを武装錬金に流せるならそりゃ磨くでしょ、サンライトハートプラスみたいな使い方」
 そして。嘆息と共にブレイクは歩み出す。


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