18/09/24 12:00:58.45 e8zyEbjk.net
「二回目の撮影の瞬間すりかわった訳じゃないの。最初に渡された時から『Bの木の前』だった……なの」
「Aの木の前で撮影したのに、か…………?」
「そう。これこそがゴットフューチャーの特性です。撮影対象の(1)武装錬金特性 (2)ホムンクルスの、基盤となった動植物
の能力 のうち、指定したどちらかが『次に使われた時の状態』を写真として出力できます!」
不可思議なる能力! だが実態を見せられた以上斗貴子は信じざるを得ない!
「……? というかこのアングル……2回目にキミが撮った写真……じゃないのか?」
「そうなんです。未来の本体(わたし)の撮ったものが、過去の自動人形に送られる仕組みでして」
ゆえに少女戦士は、撮影対象が次に能力を使うまでに『撮影地点』へ強制移動させられ……強制的に撮影……させられる!
何に? 己の、能力に! これはどうあっても抗えぬ、『未来を知るがゆえのリスク』!
「……。特筆すべきは……攻撃の軌道まで写っている……コト……ですね」
鐶の呟きに、ゴットフューチャーへの混乱いまだ冷めやらぬ斗貴子は一瞬処理がおいつかないというカオをしたが……
はっと目を見開き鋭く叫んだ。
「そうか虹封じ! 撮影対象(ブレイク)が『どんな軌道』の『どんな位置』で使っているかあらかじめ分かるなら!」
「一点モノの器官であれば破壊可能……です! 再生可能だったり体液系統だとしても……
「サンプルだけは……採取できる! なの!」
採取できれば分析は容易い!! 対策が……立てられる!!
喜びを掻き消すように背後かなたから絶叫が響いた。殿軍1のものだ。20秒は過ぎている。だが一同は一旦後ろに向
き直り……短くだが手を合わす。(キミたちの犠牲……ムダにしない)。再び走り出す一向。
「ともかく合点がいった。直接戦闘向きじゃない感じの写楽旋が大戦士長救出作戦に駆り出されたのは」
「こーいうコトのためか。ただ単に敵の能力を撮影するだけなら普通のカメラでもできるが、『Bの木の前』のような『次にど
こで使われるか』を予見できるのは……便利!!」
「ああ。恐らく本来はこっちが本分だろうな! 今回の、未来視から逆算的に敵能力あばく使い方はむしろイレギュラー!」
「補助特化の戦士がかなりの数ディプレスにやられている今、この能力は……貴重だ!!」
男戦士2人も歓喜するが、斗貴子は何かに気付くとやや厳しい顔つきをした。
「待て。特性を考えると……輪。キミ……実は死ぬつもりなんじゃないのか?」
はうっ。輪は露骨にドキリとした。隠していた何事かを暴かれたという様子である。汗をまぶした顔で斗貴子を見ると、
しどろもどろに呟いた。
「え、ええと、そそ、それは、そのう」
「どういうコト……ですか?」
鐶の疑問はもっともだろう。未来視の能力がどうして死に直結するのか? 斗貴子は答える。
「『二度目の撮影のとき』、必ず対象の傍にいなければならないっていうその縛りが危険だからだ」
「う。ま、まあ、そうなのは確か、あはは、確か……ですよね」
輪─人間時代のブレイクと同じ名前の彼女が彼の能力を暴かんとするのも因果だろう─は空笑いをうつと、コキリ
と一回うな垂れて、それから観念したよう面をあげた。
「直接攻撃力が皆無の撮影を熾烈な戦闘の中わざわざやればそりゃ天王星の幹部は感づきますよね。『自分と同じタイプ!
光で何らかの搦め手・補助的な特性をかける相手!』……と。しかも特性上最低でも2回は絶対撮らなきゃ……ですから」
そのうえさっき遭遇したとき『武技で戦いそうにないタイプがどうして一大決戦に』てな目で見られてますし、絶対警戒され
てますし……と写楽旋輪は重くいう。
「そうだな。奴は絶対キミを狙う。殺そうとする。バスターバロンがいるころ散々弱い戦力から削っていたからな、当然だ」
「補助に向いた人を消しておけば……残った幹部が…………それだけ有利になれますから、ね……」
「一度目の自動人形の撮影だけなら新月村の建物にまぎれて隠し撮りできるかも……だけど、二度目の方は絶対にすぐ
傍で撮らないといけないから……ヤバイ……なの」
向こうにしてみれば、正体不明の難儀そうな特性ふるう戦士がわざわざ近くに『来てくれる』のだ。それでどうして見逃せ
るか。ブレイクの得物は豪壮なるハルバード……武技に長けた戦士を幾人も半紙の如く斬り捨ててきた魔人なれば、写楽
旋輪なる無力な少女など通常攻撃で殺害できる。
201:永遠の扉
18/09/24 12:01:17.39 e8zyEbjk.net
(うぅ。さすが津村先輩……。賢くて優しいから、私が気付きながらも度外視してたコトを一瞬で呆気なく……)
輪は別に自殺願望がある訳ではない。生きられるならそりゃ生きたいという、普通の感情の方が大きい。だが同時に、誰か
を犠牲にしてまで生き延びたくはないという、これまた普通の倫理観もある。で、彼女は開戦早々、何人もの戦士が火星の
幹部・ディプレスによって惨殺される光景を目の当たりにした。被害者たちと親交があった訳ではない。今日はじめて偶然合
流しただけの、顔と名前すら一致していない者たちだ。それでも普通の少女にしてみれば、仲間であり、人間だ。それを笑
いながら嬲り殺したディプレスには恐怖と共に怒りがある。怒りはブレイクやリバースが虐殺をするたびますます強まった。
(こんな異常な殺戮は止めなきゃいけないです。何としても尖兵のひとりブレイク、攻略しなくちゃ……!)
そのために己がすべきコトは? ディプレスの毒牙を唯一運よく逃れた自分がすべきコトは? ……生存全振りではない
だろう。あの場で死んでいた筈の命だという割り切りもある。ならば身命は戦団全体の勝利のため使うべきだと、組織人と
して、普通に思った。
と、いうコトを述べると斗貴子は「私もそうではあるが、キミのは純粋ゆえに無謀と勇気がごっちゃというか……」と難しい
カオをした。
「ディプレスの野郎が許せないならせめてアイツに一矢報いるまでは……生きるべき、なの。だいたいブレイクの能力が、
何度も未来視しなきゃ見ぬけないタイプだったら…………呆気なく死ぬ方が……被害ひろがる……なの」
「あー、それは確かに」
輪はスイカ口でニコリとしながら平手をグーでポンと叩いた。
「え……。呆気なく肯定……ですか……? 普通こういう時……は、お姉ちゃんたち幹部への怒りを……泣きながら吐露して
……そんで諭されて……いかにもドラマな雰囲気を……醸し出すもの……では……」
「むずかしいトコですねー」
ほへーと笑う輪。(このコ天然だな)(いや多分、素直すぎるだけ……なの)とアイコンタクトしたのは斗貴子&サップドーラー。
あー、その打開策なんだけど、男戦士Aは見かねたらしい。率直な提案を、した。
「本体の方の、そのカメラだけ二度目の撮影地点に三脚ともども立てて、で、撮影スイッチは昔のカメラみたくとびりき長いヒモ
で……とかなら離れててもイケるんじゃ……?」
「いやそれはそれで却ってますます怪しいというか仕込む奴がやられるからなブレイクに」
半眼でツッコむ斗貴子に「さすが斗貴子さん……なの」とサップドーラーは頬染めた。
「先輩の言うとおりなんすけど……俺らがなんか支えてやらにゃ危なっかしいでしょこのコ」
Aに手持ちのカメラをしげしげと見られた輪は首を振った。
「だったらもっと気楽に使えるんですが……ダメなんです! そーゆーの何度も試しても! 必ず! 対象が次に能力使う
とき、必ず!! 近くに行っちゃうんです私!! カメラ持った状態で気付けば撮影してるんですーーー!!」
「……未来を知るためのリスクとはいえ…………難儀だな」
「訓練の話なんですけど、島原で根来さんに「次に電話したとき亜空間に潜ってください」と頼んで、本体のカメラは三脚と一緒に
置いてって、で、飛行機とか電車とかで札幌に着いてから根来さんに電話したときなんかは」
「…………えーと。まさか……ですが」
ハイ。瞬間移動で島原に……。輪はえぐえぐと泣いた。
「もはや呪われた能力だな……」
男戦士Bも気の毒そうな瞳。
「あれ? でも、なの」。サップドーラーは小首を傾げた。「これって逆に……強行偵察向きじゃないか、なの」
さすがドラちゃんさんです!! 輪は走りながら彼女とブンブン握手した。ドラちゃんさんは赤らんだ。
「そうなんです! 撮影対象を『本陣に居る味方』にしておけば、電話一本で前線から本陣へ緊急避難のリスポーンが可能
でもある訳で、だから……ああ、だから厄介に思っていいかどうか、分からないんですよ……」
弱点を逆手に取って強みにするとか……よくその年齢(トシ)で思いつくな……斗貴子は呻いた。
「というか何で島原で根来が協力したんだ? 根来だぞ……?」
202:永遠の扉
18/09/24 12:01:35.93 e8zyEbjk.net
「はあ。よく分からないんですが交通費と宿泊費こっちもちなんで協力してくださいって戦団の掲示板で募集かけたら『島原か。
聖地の1つだ』って例の怖いカオで笑いながら来て……。ビクっとなりましたけど頼みごと絶対遵守してくれるタイプでもありま
すから……あれでもなんで来てくれたんだろう島原遠いのに……」
「…………忍者仲間に……無銘くんに聞けば…………たぶん理由……わかります……」
詳しくは外道忍法帖参照。
「というかリスポーンに使うのって因果律的になんだか矛盾を孕んでるような……」
「だな。二度目の撮影の写真が出力されるってコトは、少なくても二枚目を撮影時点までの生存は保証されてるって訳で、だっ
たら本陣の味方にはヤバイとき電話で『二度目』頼むより、出立前に『戻ってくるまで絶対能力使わないで』って念押ししときゃ
……どんな過酷な戦場からも生きて帰れ……アレこれ理論上は不死の能力だったりするんじゃ……?」
「えッ! わっ私の能力ってそんなにスゴいんですか!?」
「うんまあ」
「理論だけ……ならな」
男戦士AとBの会話にサップドーラーはファンシーな表情を呆れ気味にゆがめた。
「さっきからちょいちょい、こいつらモブでしかも男のくせに意外に頭よくてインテル入ってる、なの……」
「座学だけならこの世代トップクラスだからな。彼らが剛太ぐらいの年に残した試験の点数は、剛太ですら抜けていない。……
まあブレイクの能力推測の甘さを見れば分かると思うが、実戦経験は……乏しい」
「写真……ですが、ダブル武装錬金して、片方はブレイクさん、片方は味方の誰かと撮影対象分ければ……リスポーン理
論で大丈夫……なのでは……?」
「いやー……どうでしょう。ちょっと考えたんですが、自動人形の方には『次の撮影までの生存補正』がない訳じゃないですか。
だって一度目の撮影もう終えちゃってますからね。だから流れ弾とかで呆気なく壊れるのでは。そして壊れたら、武装錬金
特性を維持するための何らかの……機構? みたいなのが破綻して、『次の撮影までの生存補正』も消えて、そして私は
殺されてしまうような気が……するんですよ、すごく」
「キミはキミで思考力ハンパないな……」
普通その年代なら無敵に憧れハシャぐだろうに……斗貴子は感心半分、呆れ半分。
「そうですか? 戦団って、生物としては不老不死のホムンクルスを毎日殺してる組織じゃないですか。なら『絶対』がないって
考えるの……自然だと思いますけど……」
混ぜっ返すわけでもなく心底ふしぎそうに一生懸命かんがえる輪。マジメな少女だ。斗貴子は若宮千里を重ね合わせた。
だからだろう。死なせたくないと思い始めた。
「二度目の撮影時、私がキミを守れればいいんだが……」
「あ! いえ! 津村先輩は幹部たちに集中してください!! 私なんかに構ったせいで機会を逃したら……きっと被害は
ますます大きくなりますから!!」
白いもみじのような小さなパーをわたわたと振る輪。
(いいコだ)
(いいコだな)
男戦士AとBは清涼な思いを味わった。少女であるが故のひたむきな使命感を、異性的な情欲抜きでただただ好もしく
思ったのだ。
(俺らとこのコ……どっちが次の戦場へ行くべきか言うまでもない、な)
(ゴットフューチャーの能力は必ず他の場所で人を救(たす)ける。足止めの幹部程度に……殺させはしない)
「絶対避(さ)けられない死は確かにあると思うんです。それを無理に避けようとして、避けられる方の死を避けられなくす
るのはやっぱ良くないかなあって思うんです。あ、もちろん、ポカとか、ミスとかで死ぬのは嫌だし、皆さんのためにもならな
いから、そーいう点では極力注意しますけど、最善を尽くした上で『本当に、どうにもならない』場合なら、私のそれは無理
に避けようとしないで下さい。避けられる方の命を優先して貰った方が、絶対イイと思いますから。私はドラちゃんさんのお
かげで、もうとっくに避けられた側ですから、これ以上を要求するのは…………ディプレスに殺されてしまった人たちに、悪
いです。申し訳が立たないです。だからもしもの時は、お願いしますね」
203:永遠の扉
18/09/24 12:02:06.07 e8zyEbjk.net
先々の戦略のため生かそうとする戦士。眼前の目的のため死をも厭わぬ戦士。どちらが正しいのか、それは誰にも……
分からない。
……。
やがて。
殿軍が、2から5まで全滅するほどの時間が経ち。
(来たぞ……!)
新月村の廃墟の影に隠れる戦士たちは遠方に連れ立って現れたブレイクとリバースを目視した。
(まずは禁止能力封じのカウンターを……)
(破る!! でなけりゃ全員硬直させられ銃の的!!)
写楽旋輪を軸とした攻略作戦、なるか!?
204:スターダスト ◆C.B5VSJlKU
18/09/24 12:05:15.41 e8zyEbjk.net
以上ここまで。
映画監督:浦鬼ヒロシの想像上の声は、三遊亭小遊三師匠。
写楽旋輪の元ネタは仮面ライダーマッハの歌。写真だから引力がある。
どんぐらいあるかというと「うた」って入れて「詩島」の「詩」が出てきたぐらい。
205:作者の都合により名無しです
18/10/01 11:40:07.13 lUraKDPI.net
乙
206:作者の都合により名無しです
18/10/07 21:20:30.85 KExxTKWD.net
>>スターダストさん
火に対抗するのに、「ただの水」。シンプルだからこそ強くて対応至難、というスタプラ的理論にして
コロンブスの卵。そして今回はなんといっても、殿軍ズがかっこいい! 本作が商業作品だったらきっと、
個別にファンがついて、二次創作で名前もついて、過去の話とか描かれますよ。丁度、ヒロインもいますしね。
207:作者の都合により名無しです
18/10/13 12:27:50.45 5GRC74MA.net
乙
このスレなくなったと思ってたんだけど勘違いだったんだな
再発見できて嬉しい
208:スターダスト ◆C.B5VSJlKU
18/11/23 22:34:55.25 O3D23CZ2.net
>>142-143の間に抜け。総て連投規制が悪い。
なのにどこか男の淫心を誘う肢体でもある。上はサマーセーターと、貞淑な若妻がごとき露出とは無縁の落ち着いたもの
であるのに、ほうと視線を集めずにはいられない質量のふくらみがある。「95」というが、なのに腹回りときたらむかし鎖の巻
きつく事故にでもあったのかというぐらい……病的に細い。「56」という数字は外見年齢7歳の小柄なイオイソゴですら牛一頭
たいらげた日はオーバーしてしまう領域だ。それが滲むような色気ただよう腰周りの上にある。ふとした拍子スカートに浮か
び上がる豊穣の化生のような2つの桃はもはや米国級の「91」。
事実あらくれた戦士の中には良からぬ心構えを以って打倒せんとする者が居た! 10人近く居た! おとなしげな風采に
見合わぬ豊かすぎる肢体を力に任せて自由にせんと! だが彼らはこの少女を見くびっていた! リバース=イングラムを
見誤っていた! 一見たおやかなる深窓の令嬢でしかない彼女だから、悪の組織の幹部をやらされているのは何らかの脅し
があったからに相違ない……などといった考えは思考の筋道としては正しい! それを救済のため手を差し伸べる動機に
するのであればなお! だがあらくれた戦士どもは違う! 『脅されていようと悪に加担したのは事実、だからどう罰してもいい』
といった自分たちにのみ都合のいい解釈を以って挑んだ! ああ、大戦士長救出に選抜されるほどの卓越した連中にも関
わらず斯様なる低俗ともいえる下心をめぐらせてしまったのは親友や親族を殺された怒りもあるが、それ以上に魔性!
清純にして豊穣なる異様の配合に惑わされてしまったとしかいいようがない!
彼らは覚えておくべきだったのだ! リバースが義妹とその両親から訣別するに到った経緯を! そして彼女が『罪』を
標榜するレティクルエレメンツの幹部にあって『何』を司っているかさえ覚えておけば荒くれたちは死なずに済んだ!
踊りかかる多数の影! 銃声!
……。ヘッドショットを決められたのは20をやや過ぎたバイの女戦士であったが、その『彼氏』が傍ら総身殺意の無言の
なか切った最高の手札は一瞬のうちに彼をリバースの眼前へと運んでいた。次元の膜を抜けるゲートルの武装錬金によっ
てサブマシンガンの銃口よりも更に内側の領域へ登場した戦士に対応すべく動きかけたリバースであったが、ほっそりとし
たその肢体は合気によって舞い飛んだ。ゲートル戦士の◎な体術に風くって舞い上がるリバース! 摺り上げた剣の円弧
に入道雲をデコしたような衝撃の噴煙の上(さき)で少女に迫っていたのはあろうコトかハルバード!
そう! 恋人(ブレイク)のハルバードの……恐るべき穂先!
偶然であろう筈がない! 養護施設の桜花も冥王星に仕掛けた一対多の基本! 『敵に敵を投げる』! 穂先は背中か
ら章印を貫通できる軌道にある。ブレイクが我が武器を引かねばリバースが死に、ブレイクが我が武器を引けばその隙ま
いおこる戦士の一斉攻撃でブレイクが死ぬと……そう目論んで仕掛けたのは確かに正しい。
だがゲートルの戦士も他の荒くれ同様、リバースを……見定めてはいなかった!!
「なに、してるの?」
笑顔の少女が……目を開く。同時に白魚のような指がハルバードの、『槍』に当たる細長い穂先を掴んだ。
「ブレイク君の武装錬金で死んじゃったら光ちゃんに会えなくなるでしょどうして邪魔するの許さない許さない」
淡々とした乾いた囁きに半ば呪縛されてしまったゲートルの戦士は見た。
土煙をあげ大地を薙ぎ走ってくるブレイクを! 恋人の窮地を救うべく肉薄してきたのか? いや違う! 彼は自律の意思で
大地に轍を描きつつ突っ込んできたのではない! 他律! ハルバードの穂先を掴んだリバースの、強引きわまる手の動きに
よって地面を『薙がされて』いたのだ! 瞠目すべき反撃であり、膂力だった! 中空から振られたゴルフクラブの芝ギリギリの
フルスイング! 中空にある筈の華奢な体が、ただ穂先一点だけを掴み支え、ブレイクを遠大きわまる長柄武器ともども……
振りぬいた! 彼はけして出力でリバースに劣る訳ではない! 同じくホムンクルス調整体で、高出力で、しかも男性かつ
超重のハルバード使いだからむしろ純然たる力ではリバースより上!
なのに!
そんな彼が中空の穂先から送られてくる軽やかなる恋人の膂力によって……やわやかな山の土にくるぶしまで埋まりながら!
とろけた轍さえ引きつつ! 穂先からの動きに成す術なく……捕らえた! 全身(ヘッド)で戦士(ボールを)!
209:スターダスト ◆C.B5VSJlKU
18/11/23 22:37:56.42 O3D23CZ2.net
でも>>152の「2分56秒後」をなかったコトにするのは私が悪い。
前回予想外の方向に走る筆が楽しくなって突っ走った私が悪い。
どう考えても時間が合わなくなったので
わずか2分56秒後→何十分か後 に変更。申し訳ない。
210:永遠の扉
18/11/23 22:38:35.14 O3D23CZ2.net
第110話 「対『海王星』 其の弐 ─怒涛─」
「直接対決は、避ける」
白い法廷だった。あらゆる調度品が純白に染め上げられた法廷の中央で津村斗貴子は呟いた。
「確かに……先ほどの戦いで狩られなかった者は、ここまで辿り着けた者は、比較的強い。だが幹部に比べれば─…」
「孱(よわ)い」
傍聴席には……人影。身長も体型も年齢も性別もまちまちな人影がそれなりの数、居る。
「だから藤甲さんや財前たち『特性で防御力をあげられる』者以外は……仕掛けるな。生身で向かえば”また”だ。ハルバード
やサブマシンガンの餌食になる。強くても、人間である限りは……真向勝負はこちらが不利だ」
人影の中には、音楽隊副長・鐶光の姿もある。台風の目と雲の髪を持つ少女も。
「なるべく籠もれ。影に隠れろ。盾にするんだ廃屋を。敵の攻撃力は確かに高い。運が悪ければもろともだ。だからこちらに
引き寄せる。運をこちらに引き寄せる。戦費を撒き鋼線を巡らし秤(はかり)をこちらに傾ける。疑心暗鬼で傾ける」
桜餅色の髪を持つ少女はただ固唾を飲み鼓舞に聞き入る。
「……この夏、反逆者として追われていた私が非常措置とはいえ指揮を預かるコトに異議ある方も多いだろう。だがそれは
正しいコトだ。あなたたちが歩んできた道の正しさだ。私はその正しさが勝つコトを祈っている。信じている。力を以って人に
地獄を見せる怪物ども……滅ぼせるのは正しさだけだ。敵は強い。ヴィクターに迫るほどに強い。だが奴らは正しさを、真の
意味で挫くコトなど絶対にできない。どれほどのコトをはたらこうがそれは諦めの裏返しだ。正しさを貫くコトを人の身もろとも
諦めた弱さの証だ、遠吠えだ。きょうまで人々のため戦い抜いてきたあなた達は違う。強い。その強さを私は貸して欲しい。
これ以上の犠牲を食い止めるために……レティクルに勝利する為に、今だけは、私に、その強さを貸して欲しい」
頭を下げる斗貴子に「なに言ってんだ」という声が刺さった。少女の肩が微かに震えた。
「ヴィクターIIIは自分で怪物になった訳じゃないでしょ」
「偶然だ、偶然なのだあ!」
「一般人に被害は出してないしな」
「………………」
「殿軍が、我が門下生が命と引き換えに稼いでくれた時間を有効活用してくれるならね、なんでも」
「犬飼じゃあるまいし、再殺とり下げられてなお粘着するのもねえ」
最後の声は円山円。斗貴子に胃を裂かれた彼が好意的となると物言いたげだった他の人影は黙るほか無い。
(……あとは私が、未来視を持つ私が…………頑張らないと)
そう思う少女、写楽旋輪。
その生い立ちにさほど劇的な光彩はない。ただ両親が戦団の養護施設の職員だったというだけだ。父は事務員、母は調
理師。戦士ですらない2人が、何となく職場結婚をした、それだけの話。分かりやすい戯曲ならここでその両親が、戦団の
関係者ゆえホムンクルスの策謀の巻き添えで死んだというコトにし娘に戦う動機を与えるだろうが、面白味のないコトにな
んと両名ともいまだ健在なのである。
なのに写楽旋輪が戦士を志したのは両親のせい……と書くとちょっと訳がわからないが、しかし、そうなのだ。養護施設の
職員のうちおよそ5分の4は職場を保育所代わりに使う。送迎がラクだし、何よりホムンクルスにさらわれ人質(カード)にさ
れるリスクも減る。代わりに戦団関係者の身内がどんどん社会に対し閉鎖的になる危険性も指摘されてはいるが、そこは
今回の本題ではない。
輪は最初、5分の1だった。つまり戦団とは無関係の幼稚園に通っていた。錬金術とはなるべく無縁でいて欲しいという両親
の意向だった。だから年中組になるまでは両親の勤務先に行ったコトすらなかったのだが、あるとき通園途中だったか帰りの
会のあとだったか、とにかく送迎の最中、父が何がしかの急用で輪ともども養護施設に寄ったときから変わり始めた運命が。
最初は言いつけどおり車の中で待っていたのだが、何がどうなったのか、気付けば輪は養護施設の庭で子どもたちと遊んで
いた。輪が車から出て混ざったのか、それとも車に近づいた子どもたちが輪の好奇心を刺激して誘い出したのか、このあたり
は今の彼らと話しても要領は得ないが、いずれにせよウマは合った。
で、気がむいたら土日にちょくちょく両親に頼んで養護施設を訪ねるようになった。後はもう、門前の小僧うんぬんとか朱に
染まればうんぬんだ。
211:永遠の扉
18/11/23 22:39:00.93 O3D23CZ2.net
『わるいやつらがいる、たたかわなければならない』。
新しい友人たちが被害者であると知った輪はごく自然にそう思うようになった。
だから彼女はよく言われる。『正義に、体感がない』。知己をじっさい奪われた戦士たちからすれば輪の行動理念はひどく
ボヤっとした、得体の知れぬものであろう。蒸気吹くヤカンを触ろうとする乳児のような危なっかしささえ彼らは感じた。
が、要するにただ素直すぎるだけなのだ、輪は。悪党がいる。被害者がいる。誰かが救わなければならない。そう思った
から自分でやる。やる以上、途中で投げ出すのはよくない。だから命を捨てる覚悟をする。恐ろしいまでの素直さでそう考え
それが当然だと思ったから、やる。むしろそれ以外なにがあります……と心底不思議そうに問うたのが救出作戦従事者選
抜第四次試験の面接会場、相手は火渡。「よほどの馬鹿だな」、言葉とは裏腹に彼は頬を釣り上げた。
(そんな私がさっき初めて本気で恐怖した。決意も何もかも忘れ泣きじゃくって命乞いした)
─「ゆゆゆゆるして下さい! わた、わたしはチームじゃなくて、ただっ、この人たちとたまたま合流していただけで……!」
目の前で数多くの戦士を惨殺した火星の幹部に、歯の根打ち鳴らして哀願したのは、やっと初めて『奪われる恐怖』を
獲得したからだ。臆病というなかれ、13をやや過ぎたばかり少女が初めて凄惨な現場に直面したのだ、むしろ正直に泣き
叫んで胸の内をさらけだす方が形質上自然だろう。
(でも……情けなかった。奇襲が始まったとき固まったりせず、ゴットフューチャーを使っていれば、あの撃破数暫定5位の
チームの誰かがディプレスの次の行動を予測できたかも知れない。助かったかも……知れない)
だのに目の前で噴き上がった血煙に震え上がるばかりで何もできなかった。正義に体感がなかったから、恐怖に痺れ
打つべき手を……打てなかった。見殺しにしたと言われても……仕方ない。
(その償いだけは……する!)
父母の顔が脳裏を掠め、再会がどれほどの幸福か泣きたいほどに痛感したが……押し込める。救えなかった暫定5位
の面々だって同じだった筈なのだ。強制的に追い込まれた終局のなかで同じ情動に見舞われていた筈なのだ。
生き延びた先で挑むべきは止めるべきは2人の幹部。無数の戦士(いのち)を羽虫のごとくに千切って捨てた彼らを打破
しうる糸口は……『虹封じ』、その攻略。原理は不明だが戦士の動きを強制停止可能な謎の閃光発する天王星の武装錬
金(ハルバード)、一度は完封したかに見えた気象サップドーラーの虹をしかし無効化し返した『ゆがみの渦』こそ禁止能
力封じへのカウンターこと『虹封じ』!
正体をあばかぬ限り戦士たちに勝ち目は……ない! 敵の槍術と銃撃が人智を絶しているコトは積み重なる夥しい骸が
証明した。津村斗貴子が尋常な手合わせをしてなお降せぬ絶対の力量を、謎の閃光……禁止能力によって身体の自由
を奪われた状態で迎え撃つのは死と同義。実例も、既に出ている。急務であろう攻略は。
そしてきっかけになりそうなのは従軍記者の武装錬金・ゴットフューチャーの未来視。次にいつどこでブレイクが虹封じを
使うか分かれば破壊または分析が格段にやりやすく、なる。
よって『白い法廷』で輪は言う。
「津村先輩。ダブル武装錬金の件……可能でしょうか?」
「試すのか? さっき鐶が言っていた保険を?」
いいえ。桜餅色の髪を振る。生存全振りは暫定5位のチームに申し訳ないし、何より守勢に回って打開できる戦局では
ないと考える。だから未来視を、ゴットフューチャーを、
「使うのは、撮影するのは─…」
..
リバースともども再び入村したブレイク。密やかな戦意や殺意が漂ってくる方角を見ると笑みつつも嘆息した。遠巻きに
こじんまりとした廃屋の数々が見えた。遠い影が整然と重なっているところをみるとどうやら廃屋、碁盤の目に沿うがごとく
一定間隔で配されているらしい。
(……合流地点からやや北東の場所に陣を構えたってトコだね。それはともかく……なんか暑くなってきてるよね?)
(ドラっちの仕業……でしょうね)
212:永遠の扉
18/11/23 22:39:22.67 O3D23CZ2.net
秋口の夕暮れに相応しくない、カラっとした熱気に幹部たちは目で話す。話しながらも歩いている。殺気の根源に近づいて
いる。
(体感気温36~37度。人間の平均体温といっしょです)
(つまり私の指対策……)
熱を察知し、光学迷彩すら回避した『ヘビの指』も、周囲が人肌ほどの温度となれば無力である。
これで建物内の伏兵の有無が分からなくなった…………ごくごく微量の苛立ちを美しい顔に浮かべたリバースだがやにわに
「ん?」と可愛らしく首を傾げた。
「どしたんすか?」
「1人……かなあ? 人間らしい動き一切なしでじっとしてるから断言できないけど、『人間ぐらいの幅と高さ』の、周囲より
微妙に温度低い物体が…………あるね、建物から外れた場所に」
「それは……どっちすか?」
あっち。リバースは北東を指差した。
「距離的に廃屋地帯の……エリア外だね。どうする? 大回りに外回りに……見に行く? それなら奇襲も察しやすいけど……」
「やめときましょう。例えば氷使いさんのような、『特性上、ドラっちの温度操作でもヘビ指察知から逃れられない』タイプが
いらっしゃるなら戦士さん方は必ず逆手に取る」
「あ、そか。エサにするんだね。エサにして引き付けて、地雷でどかーんと」
どかーん、の部分で妙におちゃらけた口調になって笑顔で斜めバンザイするリバースはややはにかみながらブレイクの
反応を窺う。「どかーん」。青年はノリよく笑顔で真似し、少女を喜ばせた。掌の下側同士を打ち付けるあどけない拍手で
「わーー」と喜ばせるさまは恋人同士というより父と娘。
(って、フザけてる場合じゃ……なかったよね)
(ええまあ)
顔を見合わせやれやれと微苦笑するリバースとブレイクの頬を生ぬるい微風が撫でた。
(こっちも天候操作の一環なのか……。それとも単純に普通の風、なのか)
(……風、か)
始まりは風の強い日だったとリバースは思う。あの強風がなければ自分は今の道には居なかったと……何万回目かの
後悔じみた感傷に浸る。継母から、家庭から、決定的に心が切れてしまった出来事の中心は義妹だった、鐶だった。彼女
が強風のせいで期せずして犯してしまった過ちに憤怒し頬を張ったから、その母親に見咎められ……事情も聞かれぬまま
ただ報復処罰のみを執行された。大好きなアイドルからの返事を、当時は大嫌いだった義妹に結果として飛ばされ無くさ
れた出来事への、正当な怒りを、正当だとは認められず、慰められもせず、ただ、一方的に、頬を張られた瞬間から、リバー
スの人間全般に対する感情は急速に壊死を始めた。
(この風がもし強くなったら……あの日のようにごうごうと吹き荒れ始めたら…………)
自分はきっと終わるのだろうな……ふと涌いた予感に少女は両目を薄く空け、じっと俯く。ああ、振り返ってみればなんたる
運命の符合であったか。やがて訪れる暴風が、『リバース=イングラム』へと引導渡すものであったとは!
(……………………だったら、最後かも知れない……この、ひとときぐらい)
リバースは急に「えへへ」と笑いながらブレイクの背後に回りこみ、両手でグイグイ前にやりだす。
(いつもの、いつものやってブレイク君! 強そうな人の、数当て!)
(なんでいきなりテンション高くなったんすか青っち……。可愛いからいいですけど……)
えーと。軽く目を閉じ念ずるように廃屋群へ意識を向けたウルフカットの青年は
(あ、『エリア外の妙にひんやりした何か』、だいぶ強そうす)
とやや驚いてから、
(それ含め…………強そうな人は……5、あ、いや、……6? っかしいすねえ。1つだけ枠が膨れ上がりそうで違うような、
微妙な気配…………)
7人とするとー、清純なショートボブの少女は銃口─赤黒く乾いた血がこびりついている─をぷるんとした唇に当てながら
ニコニコほんわか考える。
(光ちゃんと斗貴子さん、あと天気のコで3人埋まるから)
(更に2~3人すね)
あと。ブレイクは幸運不運半々の顔つきで明後日の方角を指差した。南東600mほどのそこは草の群生地であった。イネ
科の尖ったものも散見できるが、妖怪の差す傘のような”クルンと丸まった葉っぱ”が微風の中しなやかに揺らめいている自然
風景だった。
(あの辺りから……すごい剣気が漂ってるっす。かなり抑えてはいるんですが、それでもこの距離からでも肌がビリビリとなる
ほど……。しゅっち(秋水のコト)を更に強くしたような感じっす)
(バリバリの剣士ってコトね。1人だけ離れている狙いは……ふふ、『私たちじゃ、ない』。捨て置いても良さそうね)
213:永遠の扉
18/11/23 22:40:24.22 O3D23CZ2.net
ぷいぷいとアホ毛を振りながら、当たり前のように恋人の傍に回る少女。すりすりと細い体をすりつけ甘える少女。(イチャ
イチャしたいっす)ブレイクは物凄くデレデレしたが粛然と顔を引き締め……目で注意を促した。
(……道中お話しましたけど、『警戒すべき戦士』は……『あのコ』すからね)
(うん。りょーかい)
屈託のない、透き通るような笑みをリバースは浮かべ、こう続ける。
(見かけしだい撃ち殺すねー)
214:永遠の扉
18/11/23 22:40:40.03 O3D23CZ2.net
いったい誰についての話なのか。
それはさておき2人の幹部、全周を警戒しつつ建物群の、一番端のうち真ん中の前へと移動する。笑みに目を細めたまま、
しげしげと物珍しそうに観察していたリバースは目で訴える。以降しばらくカッコ内の文章、アイコンタクト。
(奇襲したトコからちょっと離れた場所な訳だけど……明治の廃村な割には新しいね。ガラスとか嵌め込んであるよ?)
(ほらこれが数日前ちょっとした話題になってた。戦時中、都市部から流れてきた人を住まわせたっていう)
疎開者用家屋○-○○-○……と書かれたボロボロの表札を無言でしゃくるブレイク。ひょいと通りの奥を覗き込み、
なにやら口中ぶつぶつ数えると……告げた。
(建物は……25。ちょうどタテヨコ5軒ずつすね。さながら簡素版即席の集合住宅)
建物同士の間は6mほど。総て道となって四方へ伸びている。
(隠れるには格好の場所。しかも道は四通八達……いざという時しやすいね、合流)
銃を持ったまま腕組みするリバース。流麗な細身がウソのようなふくらみが胸部にて強調され少し相方をデレっとさせた
が彼女本人はそういう下世話な機微には疎いらしくマジメに考える。
215:永遠の扉
18/11/23 22:40:55.72 O3D23CZ2.net
(どうしたものかなぁ)
廃屋は数こそ多いが強度は怪しい。玄関の戸が倒れていたり荒々しい木目の板が虫食いだらけになっていたりとボロボロ。
ただそれでも向こうの景色が丸見えというほど朽ちてはいない。
(つまり禁止能力を相手へ掛けるに必要な『輝き』は……遮れる)
同時に物陰の、到るところから押し殺した気配が漂う。戦士たち、だろう。遮蔽物でブレイクの特性を避けつつ、隙を見て
攻撃する……そんな肚積もりがビンビンだ。同時にそれは遅滞的なヒットアンドアウェイでもある。足止めがため派兵された
リバースとブレイクにしてみればさほど悪い条件でもないが、
(ヘタに乗り気見せるのは得策じゃないっすよね。万一戦士(むこう)にクライマックス女史のような無数の自動人形を作れ
る的な能力があると……非常にマズい)
(だよね。物陰が多いのを幸いデコイ的な物体を大量に配備、戦士が私たちを狙っているように見せかけつつ、順次撤退、
アジトまたはバスターバロンの方に集中とかやられると……私たちの立つ瀬がない)
鐶との一対一に拘る私人としてのリバースはそれでも構わないが、公人としては幹部としてはまったく真逆。出し抜かれ
しくじるなど避けたい。
(特に要注意は円山円……だね。ここまで追っかけてくる途中チラっと後姿見ただけだけど確かに居た)
216:永遠の扉
18/11/23 22:41:11.35 O3D23CZ2.net
(……そいつは厄介すね)
ブレイクの軽い汗は奇妙だが、合理。確かに従前の円山なら身長吹き飛ばしにだけ気をつけていれば良かったが、
(先ほど一戦交えたイソゴ老の電話曰く今のまどっちは『風船爆弾の形状をある程度までだが変えられる』)
(ロケットスタートで見せた鋭角なスーツ。あの要領で戦士型のダミーボムを作るぐらい……思いつくよきっと)
2人の幹部はイオイソゴを畏怖している。恐怖もあるがそれ以上に敬愛してやまぬ重鎮を、相手どって生き延びたという
だけでも円山は警戒対象だ。最初にスーツの変形を具申したのは恐らく犬飼だろうとも察しているが、知恵とは種火、異なる
思考法を吹き込まれた円山が独自の着想で仕掛けてくると考えて……損はない。
(死角物陰でダミー爆弾を揺らすだけで戦士が居ると錯覚させられるよね。撤退の時間が稼げる)
(だから廃屋などは壊すべき。禁止能力の通りを良くするという意味でも、物陰に紛れての逃走を防ぐという意味でも)
(どうしよっかブレイク君。とりあえず視認できる限り全周囲の廃屋にフルオート射撃ブチ込んどく? そうやって端っこから
順々に壊していけば戦士がどこにどう隠れていようとローラー作戦でいぶり出せるけど)
(にひっ。見たトコ総て木造建築すからね、ミニミ並の連射力かませばウェハースに爆竹ぶつけたように粉々……にはなりますね)
目で会話する恋人たち。
(だよねだよねブレイク君。そしたら叫んで逃げる戦士に『マシーンの特性』……掛けられるよねっ!)
二挺のサブマシンガンをぷいぷいと振りながら微笑むリバースの頬は桜色。さきほどブレイクと再会した際の感情の吐露
が上機嫌の原因の何割かだ。残りは……彼女が今から辿る戦いのなか垣間見せていくであろう真情に、拠る。
217:永遠の扉
18/11/23 22:41:28.24 O3D23CZ2.net
(ただまあ、一斉射撃はまずいでしょ?)
(えー、なんで! 撃ちたいのにぃ)
くいくいっと人目がないのを確認したリバースは、妙に幼い感じで指を咥えた。可愛らしい仕草だが、無骨なサブマシンガン
を持ったままでもあるから……やや異常。
(ガマンすよ青っち。戦士さん方がここに逃げ込んでから俺っちたちが着くまでざっと6分……。その間にお師匠のホワイト
リフレクションのような『攻撃を反射する特性』が廃屋に仕掛けられていたらマズい)
う……。リバースは純朴なる笑顔のまま硬直した。
(そ、そーだよね。私の特性ってディプレスさん以上に……『跳ね返されたらヤバい』もんね。怖すぎるから皮肉すら込めて
『リバース』って幹部名にして自戒してるぐらいだし……)
(にひっ。それでなくても幹部(おれっち)たち全員、盟主さまの特性合一には手も足も出ませんからねぇ)
特性合一とは先ほど戦部たち先遣隊に用いられたメルスティーン=ブレイドの秘奥である。敵の特性を喰らうと同時に
合一(はつどう)し、その特性そのものと化すコトであらゆる攻撃をやり過ごし、しかるのち正に等価交換の原理よろしく……
『敵特性で受けるはずだったダメージ』を大刀ワダチの斬撃に換算し相手に返す。
戦士にとっては絶望の奥義でしかないそれをブレイクたち幹部は箸が茶碗にうまく乗らず落ちるのと同じぐらいの頻度で
受けているから、カウンターへの警戒心、実に高い。
(……そういえばバスターバロンを止めた、あの)
(小銭が乱舞していた武装錬金も反射能力……でしょうね。あれきり見ないのはアジト直行組へ編入されたからか)
(もしくは創造者がさっきの乱戦の最中、私たちに)
(殺されていらっしゃればありがたいすけど……)
にひっと青年は少女に笑いかける。やや情緒不安定な『彼女』を安堵させるに足る笑顔だった。
(ちゃあんと始末できたかどうか確認できない以上、廃屋にフルオートをブッパするのは危険すよね? ここはもう、コンセン
トレーション=ワンで後の先が取りやすい場所じゃなくなってますよね? さっきの山あいのような見通しが良い場所じゃな
くなって……ますよね? 何しろ廃屋が多いんすよ? 物陰から死角から高速連射を反射されたらさすがのコンセントレー
ション=ワンでも対応できなくなる。『集中した一瞬』だからこそ二手三手のわずかな遅れが致命的になるって……賢くて優
しい青っちなら……言ってるコト、…………わかってくれますよね? 余計な傷負ったらどうしようって、俺っちね、それだけが
心配なんすよ)
わしゃわしゃと髪を撫でられたリバースはやや驚いたように『ちょ、人目があったらどうするの、恥ずかしいでしょ!!』と
地面に弾痕で刻むが、あやしつけるようなナデナデに段々と大人しくなり、
「……………………うん」
218:永遠の扉
18/11/23 22:41:50.43 O3D23CZ2.net
と耳たぶまで桜色にして頷いた。俯き加減にすらなっているため表情は髪に隠れ見えないが、白い面頬一面カツカツとした
赤外の斜線に彩られているのは確かである。頭頂部から伸びる長大なアホ毛すら、ぷるぷると気恥ずかしげに震えた。
(えと、えと、さっきブレイク君が、さっち、した、強い人7人のうち1人が……あの貨幣バリアーみたいなのの……使い手って
センもあるよね)
おー。糸目のブレイクは驚いたあと、リバースの手を握りブンブン振った。
(それっすよソレ。青っちの勘はよく当たりますから、それかも)
(……うん。だったら……うれしい……。ブレイク君の役に……立てたら……)
もう少女は真赤になって何も訴えられない。青年も照れまくりで動けなくなったがココを戦士にたらマズイとばかり
(ととっ、とにかく反射能力の有無は早いコト暴くべき! 俺っちのはともかく青っちの特性はホントね、跳ね返されたら原理
上、術者ですら解除不能……すから!)
よってここは俺っちが様子を見るべきでしょう……ウルフカットの青年が静寂の村へ歩み出す。
(もう1つ、怖いのは)
ちょっと目を閉じた彼が思い浮かべたのは鳩尾無銘という音楽隊の少年だ。しかしはてな、銀成に残り、救出作戦には不
在の無銘をどうしてブレイクが想起したのか。……その論拠はしばし後に明かされるであろう。
(……『アレ』が『どっちにあるか』不明瞭な以上、まず打つべき最善手は)
くっと槍の柄を強く握る。先ほど山林はおろか火炎同化状態の火渡すら両断してのけた槍腕だ、いまにも頽(くず)れそう
な廃屋など倒壊させられぬ方がむしろおかしい。
(ですがここは敢えて加減(セーブ)!! 弱めの攻撃なら廃屋(ココ)に反射が仕込まれていたとしても……なんとかできる!)
斧部分を先遣とする全力の横薙ぎが廃屋へと吸い込まれ─…
白い法廷に、声が響く。
「『22号棟』、B列側を中心に大きく破損! 画像記録します!」
219:永遠の扉
18/11/23 22:42:07.52 O3D23CZ2.net
建物が5掛ける5で配されているなら、付帯する道は両側コミなら6本だ。
便宜上、タテのものは列と呼ぶ。番号は左から順にAからF。ヨコのものは、行。上から順に1から6。
法廷特設のスクリーン上に疎開住宅全景が映された。ノイズやチラツキの多いレトロ映画風味の画質だった。
25ある廃屋に割り振られた番号は、以下の通り。(東西南北は通常の地図と同じ)。
A B C D E F
││ ││ ││ ││ ││ ││
┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─
┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─ 1
││ 01 ││ 02 ││ 03 ││ 04 ││ 05 ││
┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─
┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─ 2
││ 06 ││ 07 ││ 08 ││ 09 ││ 10 ││
┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─
┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─ 3
││ 11 ││ 12 ││ 13 ││ 14 ││ 15 ││
┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─
┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─ 4
││ 16 ││ 17 ││ 18 ││ 19 ││ 20 ││
┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─
┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─ 5
││ 21 ││ 22 ││ 23 ││ 24 ││ 25 ││
┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─┘└─
┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─┐┌─ 6
││ ││ ││ ││ ││ ││
いまブレイクのハルバードの直撃を浴びたのは22号棟。壊された外壁はB列下端、6行目に出るか否かの辺りである。
「……!!」
220:永遠の扉
18/11/23 22:42:58.82 O3D23CZ2.net
崩れ落ちる外壁のなかに天王星が認めたのはキラリと光る線分であった。(勢いのまま切断……はもう遅いすね)。明らか
に金属な硬度と張力を有するその線は既に斧を貫通している。辺縁から2cmほど上部に貫き通っているのだ。
(接触したなら斬れているし何より手応えがなかった! つまりこの謎こそが……特性の)一端と分析する青年の足元に何かが
落ちた。(…………?) いやにささくれだった物体だった。一瞬青年は威嚇するヤマアラシと錯覚したが共通しているのはシル
エットの大枠だけだった。言い表せる単語は『衝撃波のエフェクト』だった、そうとしかいえなかった。漫画などで斬撃や魔法の
傍に必ずある刺々しいそれだった。プラモのオマケのような樹脂性の、半透明した掌サイズのものが7~8個ばかりころころと
ブレイクの足元に落ちていく。
(…………これ絶対離れた方がいいやつですよね?)
(破壊見越して建物に仕込まれてたワイヤー起因だもん。高いよ、反射能力の可能性)
などと悟りながらも2人の幹部、即座に逃げ出さなかったのは決して油断ではない。
(接触即爆発でなかった以上!!)
(即効かつ直接火力の特性じゃ……ないよね!)
危惧が的中するなら尚のコト全体像は仲間のため掴まねばならないというごくごく当たり前の使命感と……一握ほどの好奇心ゆえだ。
謎めいた金属の線は決して脆弱ではなかったが、調整体のブレイクがやや力を込めハルバードを振るうとブツリと切れた。
(戦士さんたちの奇襲を警戒しつつ衝撃波っぽい奴をしばらく観さt)
リバースとのアイコンタクトか元の位置に視線を戻したブレイクの笑みが僅かだが氷結した。いない。先ほど落ちた結構な
数の衝撃波が総て総て消えている。リバースも気付き、その周辺に目を凝らす。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
少女の視界いちめんを鋭い牙の羅列が覆った。(……!?) 波若はらしくもなく慄然とした。身を竦め、固め、アホ毛すら
縦にピンと伸ばした。(ひにゃああ! なになにこれなんなのぉおお!?!!) 口をもにゃもにゃさせ両目がくしゃくしゃの毛
糸玉状態なリバースを救ったのはハルバード付帯の鎌であった。プリズムの細かなカケラが散る中、謎の牙の持ち主は
縫いとめられたまま地面に叩きつけられた。
221:永遠の扉
18/11/23 22:44:13.80 O3D23CZ2.net
「どうやらさっきの衝撃波らしいすね」
「ふぇえ……!?」
心臓をバックバクさせながらやや虚脱した涙目─うわめっちゃエロい。記憶しよとブレイクは思った─で”それ”を見
たリバースは「あ」と口を開いた。確かに、衝撃波だった。ただし米粒なような細長い牙を、人間の口腔を異常に細く縦長に
したような歪な口にビッシリと生やしている異形だった。
それが、ワイヤートラップの呪詛を受けた衝撃波が、リバース前後左右あらゆる方角から飛び掛る……。
(なんで攻撃したブレイク君じゃなく私を……! もう! こっちが言うのもアレだけど!! 性格悪すぎないこの特性!?!)
222:永遠の扉
18/11/23 22:44:39.61 O3D23CZ2.net
(攻撃した者以外”にも”反射できる変則的反射能力、すか……。対象の選定条件はなんなんすかねえ。必ず攻撃者(俺っち)
以外を狙うのか、それとも今回たまたま青っちの方が条件を満たしてしまったのか……。ともかく手動目視で選んでいない
のは確か。精度やタイミングが粗雑すぎるし、創造者らしき気配が近くにないから……自動(オート)! そして自動の条件
付けは必ず……分かってしまえば単純もいいトコな要項! それこそ『青っちの特性が着弾する』条件と同じ『単純なヤツ』!
だからこの衝撃波が狙う条件は…………心拍数が急激に跳ね上がった方を狙う……的な?)
その、正体は!
(ワイヤートラップの武装錬金、シルバーイノセント!)
ブレイクからは離れた、しかし疎開住宅街の一部『10号棟F列通路側』外壁に手をつく美しい少女がいた。黒いエプロ
ンドレスを来た、透けるように白い肌の少女だ。しかし顔の右半分は赤黒く焼け爛れている彼女はキラキラと笑い、想う。
(特性は攻撃エフェクト剥奪!! ワイヤーに触れたものは衝撃波やオーラまたはそれに類する『エフェクト』を奪われた
上でワイヤートラップに拘束されるノサ!! そして『エフェクト』は武器が動いた瞬間、つまり武器を貫通しているワイヤー
が揺らされた瞬間、反射を始める。さてさてその対象選定の条件、見抜けるかなーアイツら)
射之線。通称いのせん。未来から飛ばされてきたアウトローの1人が仕掛けた最初の攻撃は総て撃砕され地面に落ちた。
『ああもう怖かった怖かったホントやめてエイリアンみたいな奴がガウガウ襲ってくるのやめてーー!』
器用にも衝撃波と地面をワンセットのキャンパスにしている弾痕文字を見たブレイクは(自分だって怖いカオするくせに)
と極めて好意的にニヤけたが、軽く真顔になる。
223:永遠の扉
18/11/23 22:45:26.21 O3D23CZ2.net
「カウンターである以上、元となった敵(こっち)の攻撃力が低ければ衝撃波そのものの威力も低い……」
「加減してて正解だったね……」
でもあの技こわいです、とてもこわいです……銀髪のアホ毛を一部銅色になるほどしおれさせながらガタガタ震えるリバー
ス。(戦いとなると狂暴なのに、かーわいい)。掌中の珠を愛でるような眼差しのまま天王星、依頼。
「青っち青っち。ちょっと5~6発、左隣の建物撃ってくれますかね?」
『? あー、検証? 反射対象が必ず攻撃者以外の者になるのか、的な』
銃声。
07号棟、2行目通り側。
「っ!」
飛び掛ってきた衝撃波を軽く散らした鐶はしばらくどんよりと黙っていたが「ねーの……あほ」とややムっとした様子で
頬を染めた。ねーとは伊予弁でいう「姉」である。鐶の地金は伊予弁である。
22号棟前。足元に粉々の衝撃波を落としたブレイクは推理に移る。
224:永遠の扉
18/11/23 22:45:55.23 O3D23CZ2.net
「落ちた衝撃波は一発あたり7~8個。俺っちの斬撃のときと数だけは一緒ですがサイズは遥かに小さい。これは斬撃
と銃弾それぞれの衝撃のサイズ比とほぼ一致……したんですが、俺っちに跳ね返ってきたのはうち半分ほど……。残り
がどっか飛んでいったのを考えると…………」
『なんか……ゴメンね。光ちゃんの匂いのする方へ飛んでいったのって……そういうコト……だよね……』
最愛に同率の概念を有している非貞淑をもじもじと恥じるリバースに「そうすかね。むしろ光っちと同率っての確定して
嬉しいんですけど」と不思議そうに聞き返すブレイク。「……ばか」。少女は俯きながら軽く小突いた。
ちっ。いのせんは舌打ちした。
(義妹と恋人への敬愛がきっちり等しいとは予想外。これで確実に見抜かれター!)
そう。シルバーイノセントの反射対象は!
(攻撃者(そいつ)の『最も敬愛する』者! だからブレイクの攻撃はリバースに行った! その彼女は彼と義妹を等しく愛して
いるから衝撃波が半々に分かレタ! イレギュラーだけどある意味では本来の使い方! そう! これはどちらかというと索敵
用の特性! ワイヤートラップに引っ掛かった奴の仲間の所在を暴くノダ! だからリバースは期せずして捜したい標的(い
もうと)の所在に近づいたコトにナル!!)
225:永遠の扉
18/11/23 22:46:11.19 O3D23CZ2.net
「まぁ、移動……しますけど……。白い法廷で……ワイヤーの特性聞いたときから……こうなるって……予想してましたし……」
「ちょっと待て一人で動くな! 私と一緒に行動しろと言っただろ!!」
方向音痴の移動にプンスカと、抑え目の大声上げてついていく斗貴子。
なお銃弾のような『飛翔体』についてはワイヤーが接触した瞬間ノータイムで衝撃波を返す。
白い法廷、映写機。
「敵はやはり反射能力から探りにきたな」
「彼らにしては小規模な破壊ですが」
「いわば加減の効力射。『次の手』の揺り戻しがどれほどか探る小手調べ……全力と思わず油断せずいきましょう」
『白い法廷』でカタカタと回る映写機の周りに艦長と侍従2人を含む何名かの戦士が現れ……また消えた。彼らはみな、見
たのだ。スクリーンを。
そしてただ1人法廷に残ったのはドジョウヒゲを蓄えた30前後の男。カチンコを持った彼は神経質そうに呟いた。
「記録映画の武装錬金、シャイニングインザストーム」
映写機と撮影用カメラの2パーツから構成される武装錬金だ。特性は一度『ロケ』をした場所に生じる『変化(生命体の登場
も含む)』の上映。なお『ロケ』の制限時間は3分。3分間の撮影で記録できなかった部分の『変化』については把握不可能
のため、カメラワークには相応のセンスが求められる。
上映されるロケ対象には任意で番号や注記などの情報を、スクリーン上にポップアップで表記可能。
長々と書きはしたが果たしてこの情景に意味はあるのか? ある。幹部二名が22号棟に到達する少し前、斗貴子と写楽
旋輪はこう語らった。
226:永遠の扉
18/11/23 22:46:27.95 O3D23CZ2.net
「番号を割り振る……ですか? 廃屋に」
「ああ。未来視用の符丁だ。写りこむ建物じたいはシャイニングインザストームが健在である限りはすぐ照会できるが、な
にぶん『法廷(ココ)』での話し合いは一度終わると次までが少し……長い。建物の符丁をしっかり決めておかないと、いざ
天王山というとき必要な戦力が別な場所へ行ってしまう……からな」
「え……。こんな大事なときに迷うような人……いるん……ですか?」
お前だ鐶! 斗貴子の瞳と声が吊り上がった。
「この土壇場で迷いましたとかやられると本当全滅するしかないからな私たち! ホムンクルスに頼るのは正直癪で仕方な
いが火渡戦士長が法廷(ココ)にすら来られないとなると私たちは圧倒的に火力不足!」
「きっと何か罠にかけられたの。『こっちに気を取られたら死ぬ』って時は法廷(ココ)呼べない縛りがある……なの」
「…………私を天王星の幹部から救ってくれたあと…………いったい何が……」
そう。彼が前述の『ダム1個分の水』に囚われていたのはまさにこの時期。幾度となく完全鎮火寸前になりつつ蒸発を続けて
いた。もしそうしなかった場合、洪水は山あいのみならず疎開住宅地にまで押し寄せていただろう。そうなっていればとっくに
崩壊寸前だった25棟など一瞬で全滅し、戦士は禁止能力遮光のアドバンテージを失っていただろう。
が、そうとは知らぬ斗貴子は慎重な彼女らしく『死亡』さえも覚悟しており、
「火渡戦士長がこの場に来られないなると、自力で安定して幹部に立ち向かえるのはキミか師範かサップドーラーぐらいな
んだ! 私や『財前』は武装錬金の特性的に不安要素が多い、からな……!」
「って話……なの。方向音痴め、しっかりしろや、なの。斗貴子さんに苦労させるなバーヤバーヤ、なの」
鐶は無言でドラちゃんの口周りの肉を掴んだ。ドラちゃんは雷になって逃れた。距離をとった2人はその四肢を、やってやん
よやってやんよとブラブラさせつつ睨みあった。
「だからケンカ」するなという斗貴子の声を遮ったのは木槌が打たれる堅い音。
「静粛に。それ以上裁判官同士で揉めたら退廷を命じる」
厳格な言葉とは裏腹な、声変わりすらまだな少年の声音が響くと鐶たちは「むー」と視線を外した。
「おおお、オトコ、オトコがドラちゃんに指図っ、するなあっ、なの……!!」
天気少女だけは……斗貴子の背中に隠れながら猛然と抗議し、わぁわぁ泣いた。
「…………キミ、男性恐怖症なのか?」
昔なにがあった……セーラー服美少女戦士はつくづくと呆れる。
「とととっ、とにかく、廃屋に番号振っておいて損はないですよね!?」
写楽旋輪は話を逸らした。
「亀田さんが未来視前に殺された場合の対策にもなるし、な」 斗貴子は映写機を見ながら呟いた。「照会をコレに頼りきっ
ていると……創造者死亡または武装解除時に困る。未来視に映りこんだ虹封じが”どこで”発動したものか分からなくなる」
「でも25棟全部の様子、幹部たちが追いついてくる前ゼンブ覚えるの無理ぽなの。四角い建物だから東西南北コミで考え
ると100の画像、なる早で覚えなきゃならない、なの。万全期すなら屋根までかよゴルァ、なの」
「何しろココ……集合住宅地な感じで基本デザイン同じ……ですから、見分け……つきづらい…………です。細かな破損の
違いこそ……あります…………けど、ほぼほぼ同じ……です」
どうするんですか? 輪たち少女の愛らしく大きな瞳を幾つも受けた斗貴子、腕組みしながら粛然つぶやく。
「そこは村に着いたリバースたちの『二手目』と絡ませ解決する」
03号棟北東、D列通路・1行目通り交差点。
「ちょっとちょっと幹部たち、とうとう上昇(のぼ)ちゃったじゃない! 何とかしなさいよねアナタたち!!」
頭頂部やや後ろにデッカいお団子ヘアを持つ赤髪の少女がビシバシと指差すその彼方に打ち上げたモノとは!!
「自動人形?」
白い法廷で輪は目をぱちくりさせた。
「そう……です。一年と少し前…………レティクルから出張してた私が……ブレミュに保護された時……見たから……」
鐶が目算をつけた『義姉の二手目』はいま確実に履行された。
すなわち。
(上空からの偵察!!)
227:永遠の扉
18/11/23 22:46:55.10 O3D23CZ2.net
リバースを可愛らしくデフォルメした、標準的なポテトチップスの袋と同じぐらいの背丈の自動人形が疎開住宅地中央の
上空へ移動しぐるりと辺りを見渡した。
(反射能力が、先ほど見たもの”だけ”なら派手に建物壊しつつの進軍も可能だけど)
(そのドサクサに紛れて奇襲されると、ちょおっとヤバイすからね。慣れてきたあたりで他の反射能力を差し込まれると怖い)
(円山円の風船(デコイ)遺して撤退……なーんてセコい手使っているかどうかも見抜きたいし)
まずは物陰にいる戦士から把握しにかかる。果たして、居た。いよいよギラギラとしてきた西日が輪郭をボカしているせいで
上空からはハッキリと見えなかったが、廃屋に吸い付くようにしている人影は確かにかなりの数、散見できた。
(首や微妙な胸のゆらぎ……どうやらゼンブ風船爆弾じゃなく……人間のようね)
「そして戦士さんたちの姿を……認識したお姉ちゃんが、あの自動人形が、するのは……」
04号棟・1行目通り側。
カツッ。男戦士AとBこと音羽警(おとわ・けい)と泥木奉(どろき・たてまつ)のすぐ後ろの地面に頭を打ちつけたトーチ型の
何かが黒煙を上げ大破した。爆音にギョっとそちらを見た03号棟の赤毛お団子少女であったが仲間の諫止の声とそれか
ら風切り音に09号棟方面の上空を見上げた。
「ポテトマッシャー!!? M24型柄付手榴弾で、爆撃ィ!!?」
ラーメンに播くコショウのようにばらばらと振りまかれる全長約40cmの棒、棒、棒。空中たかく浮遊する自動人形は薬屋
の看板マスコットのような善意そのものの笑いを一切崩さぬまま烈火を孕んだ棒を十指に挟み投げつけるのだ。人影めが
け、人命めがけ事務的に機械的に投げつけるのだ。
やがて各個平均170gのTNT火薬が廃村のあちこちで大きく炸(はじ)けた。
228:スターダスト ◆C.B5VSJlKU
18/11/23 22:47:34.60 O3D23CZ2.net
次スレへ移ります。
【2次】漫画SS総合スレへようこそpart80【創作】
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229:作者の都合により名無しです
18/12/24 17:47:15.24 GyecC+ke.net
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230:作者の都合により名無しです
19/12/03 14:17:44.00 yrbNBwJg.net
あげ
231:作者の都合により名無しです
20/10/19 21:48:16.47 2/vMfLmf.net
不才
232:作者の都合により名無しです
21/03/15 01:49:47.04 +WD711oE.net
まだあったのか
233:作者の都合により名無しです
21/05/25 11:39:00.03 PaSQv4LR.net
あげ
234:作者の都合により名無しです
23/09/25 19:06:04.39 ACvxyRoc.net
ほんまにかいな、待って