14/05/18 16:46:33.53 .net
「…ずっと、その言葉が、欲しかったんです」
―遅いですよ、リヴァイさん。
甘く響く言葉に、込み上げる衝動に任せてエレンを思い切り引き寄せた。冷え込む空気など入り込む隙がないようにぴったりと身体を寄せて、またぐずぐずと泣き始めたエレンを抱き締める。まったく、泣いたり笑ったり怒ったり、忙しい奴だな。
その全ての原因が自分なのだと思えば、申し訳なさとともにほの暗い喜びも沸き上がってきて、もうどうしようもないほど腕の中の存在に入れ込んでいる自分を再認識する。
「エレン」
「…ん」
「……すまなかった」
「…っ、」
もう二度と傷つけるようなことはしないからと、誓いと覚悟を込めてエレンの背を撫でる。またもや俯いてしまったその表情は窺えなくても、ぐっとこちらに身体を預けてきてくれるから、わだかまりが少しずつ溶けていくのを感じて目頭が熱くなる。
この温もりを再び抱き締めるのに、どれだけの遠回りをしてきたのだろう。散々傷つけて傷ついて、間違え続けた俺の手をまたエレンが取ってくれたことは、最早奇跡としか言いようがない。一生分の運を使い果たしてしまったような気もするが、
そんなことを考えていたものだから、身じろぎして顔を上げたエレンが言い出したことに俺はぽかんと間抜け面を晒すことになる。
「ねえリヴァイさん。一発、殴らせてくださいよ」
「…は?」
「俺、山ほど泣かされたんですから。それくらい当然ですよね!」
抱き締める腕を振り解いて勢いよく立ち上がったエレンは、弾むようにそう言い切ってこちらを見下ろしてくる。咄嗟に何も反応が出来ないでいると、「拒否権はないですよっ」とからかうような言葉が降ってきた。
やれやれ、内心ため息を吐きつつもそれで話が済むのなら安いもんだとも思ってしまう。地面に直接触れた尻をはたきながら立ち上がれば、土手の傾斜のお陰で視線はエレンの方が僅かに低い。
「…好きにしろ」
唸るように告げると、くすりとエレンが笑いを零した。足元が踏ん張れないからと傾斜を上がって平らな砂利道に並んで立つ。漸くいつも通りになった目線。ふと気付いたようにエレンがこちらの顔を注視して、訝しげに尋ねてきた。
「…リヴァイさん、左のほっぺたどうしたんですか」
言われて、初めて左頬に触れた。少し熱を持ったような感覚が指先に伝わって、こちらを睨みつける燃えるような視線を思い出す。
「…部下から平手打ちされた」