14/05/18 16:34:40.42 .net
花嫁さんは、そんな悲しい顔しちゃいけないのに。けれど、あなたがいるその場所は私のものだったはずだと。諦めきれない記憶が切実な叫び声を挙げていて、今取るべき行動が解っていても一ミリだって動けなかった。
彼女は今日、結婚する。
私の兄、―リヴァイ兵長と。
「もう少しお支度がありますから」とプランナーさんに言われ、それでも部屋を追いだされることはなかったので、手持ち無沙汰の私は部屋の隅にあった椅子に腰かけて足をぶらつかせる。
彼女はプランナーさんと忙しく言葉を交わしていて、ああ大変そうだなあなんて他人事のように思う。
私にも式での役割があれば、やれリハーサルだのなんだのって準備があったのだろうけれど、流石にこの年齢で兄妹の晴れ舞台に引っ張り出されるのは御免だったので、丁重にお断りしてある。
恥ずかしいからという私の言葉をそのまま納得してくれた兄は、ちゃんと見守っててくれよと優しく頭を撫でてくれた。
それが、どんなに残酷な言葉かも知らずに。私には、記憶がある。2千年もの昔、凄惨な戦場を共に駆け抜け、背中を預け、そうして互いが互いの唯一として心を交わし合った、前世の記憶が。
あの頃私は15歳の少年で、男同士で、けれどそこに嫌悪感なんて欠片もなくって、尊敬する兵長の傍にいられるのが嬉しくって仕方がなかった。
そうして兵長より早く最期を迎えた時、覗き込む灰青の瞳を見上げながらたったひとつ、願ったんだ。
(もし次に生まれ変われるなら、今度は女として彼の傍にいられますように)
今度は堂々と、彼の傍に立ちたかったから。そうして出来ることなら、彼の子どもを産んでみたかった。
けれど私の祈りはきっと、少しばかり足りなかったんだろう。転生して物心ついたときに突き付けられたのは、10歳離れた実の兄が彼だという事実。
兄は年の離れた妹である私を、それはもう眼に入れても痛くないくらいに可愛がってくれた。傍目には、きっと仲の良い兄妹に見えているんだろう。
その陰で私がどれだけどろどろと屈折した感情を隠しているかなんて、きっと誰も知らないのだ。
役所には何度も行った、何度行っても戸籍にはしっかりと兄妹である事実が記されていて私を打ちのめした。
一縷の望みを掛けて依頼した遺伝子検査の結果は、99.99%の確率で私と兄が同じ血を分けた兄妹だと証明してくれた。