17/08/15 13:52:38.79 2pMUe1nc.net
こんな記憶がある。家のなかで、数人の大人たちと弟2人に囲まれて、母親が抱きかかえた妹に、スプーンを使って瓶に入った液体を飲ませた情景だ。
「妹は、スプーンですくった透明の液体をなめると、閉じていた目をくっと見開いて、私をにらんだんです。そしてそのまま、息絶えた」
飲ませたのは、毒だった。
「引き揚げが決まったものの、長い道中、幼子は連れて帰ることはできないということになったのでしょう。母親も少しは抵抗したかもしれない。でも、結局は断ることができなかった」
父親が徴兵され、母親が物売りに出るなか、妹のお守りを任されていた。いつも背中に乗せていたからなのか、表情の記憶はあまりない。
村上さんは悔しそうにつぶやいた。
「毒を飲ませた時の表情しか、覚えていないんですよ。そしてそれが、忘れられない」