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和久井会の結成当時、若頭を任されていた越野栄太郎は、常に縄張り拡大を目論んでいた。
結成されたばかりということもあり、古くから縄張りを持つ組を喧嘩で潰すか吸収するかといった荒い方法の連続だったのだ。
その日は、あたり一帯に広大な縄張りを持つ、前田組との交渉だった。
前田組の縄張りを手に入れることができれば、ひとまずの拡大目標は達成である。
越野はこれまでの交渉でもそうして来たように、単身かつ丸腰で前田組事務所を訪れた。
交渉の対応をしたのは、前田久兵衛組長だった。
和久井会が凄い勢いで次々に周りの縄張りを制覇しているのを知っており、組長が直々に出てきたのだ。
渡世歴は越野はおろか、和久井会長よりも何倍も長い大物組長である。
越野はまず、前田組が和久井会の傘下になるよう申し入れた。
前田組長は「突然に無茶を言わはりますが、それは和久井さんの意向でっか？それともカシラさんだけの意向でっか？」と聞いた。
越野は「ワシもカシラやらしてもらってる身です。和久井会としての意向と思ってください」と言った。
前田組長は「カシラさんだけの意向ならば、無礼者として帰れん身体になってもらうところ。和久井会としての意向なら喧嘩せなしょうがおませんな」と伝えた。
前田組長の周りにいた若い衆たちは、急に殺気だった目に変わったが、越野もひるむことなく全員をにらみつけている。
そして間を置くことなく「組長さん、今さっきワシを殺るってなこと言わはりましたな。例え�