15/12/08 03:57:02.24 0.net
かつて、関東の某博徒系団体の葬儀を取材したときのこと。
亡くなったのは若い組員で、抗争による被害者だった。
組は抗争中ということで金が必要であり、香典を集めるため全国の組織に案内を送っていた。
事情を知る友好団体の関係者は、文字通り義理で列席し、つまりは抗争を応援する意味も込められていたのだ。
単に応援する意味合いもあれば、互いに潰し合えば漁夫の利を得られるという算段もあっただろう。
名もなき若い組員の葬儀ながら、列席者の人数はかなり大層だった。
司会進行役が次々に名前を読み上げると、読み上げられた列席者が焼香に立つ。
この繰り返しが延々と続き、中には居眠りをしている列席者もいた。
そんなとき、司会進行役のもとに1人の組員が汗をかきながらやってきて、何やらメモを渡した。
司会進行役は驚いた表情で、メモを読み上げた。
「つ、続きまして、三代目丸山組和久井会 和久井一朗殿」
皆が一様に、まさかという顔をしている。
和久井会長といえば、このような義理場に足を運ぶことなどない大物中の大物。
ましてや、何の面識もないであろう若い組員の葬儀だ。
まぁおそらくは名代だろうと大方の列席者が思ったが、祭壇に向かって歩くのは、まぎれもなく和久井会長本人だった。
ますます会場はざわめき立ち、和久井会長の動きに全ての視線が注がれた。
和久井会長は静かに焼香し、ゆっくりと祭壇に向かって手を合わせる。
そして振り返り、先頭に座っていたその組の組長を見つめた。
そしてそのまま、会場を後にしたのだ。
司会進行役も、次に焼香する列席者の名を呼ぶのを忘れるほど、会場全体が緊張感に包まれている。
抗争により命を落とした若い組員を弔う気持ちも当然あっただろう。
そして和久井会長は、いつまでこのような抗争を続けているのだという無言のメッセージを伝えたかったのかもしれない。
被害に遭うのは、いつも若い者だ。
いい加減にしろという目で抗争当事者の組長を見つめているように我々は思えた。
そして案の定、その日から音が鳴ることはなくなり、抗争は終結したのだ。
【了】