08/06/01 23:03:57
少年は、中学3年生であるが、2年先輩の高校中退生(家出逃走中)が運転するバイクの後ろに乗ってひったくった事件
30件で、鑑別所に入っていた。
3月前から、3日に1回のペースでひったくりを繰り返し、小遣いにあてていた。現金の被害総額は30万円強で、現金を
抜き取って残りは現場付近の路上に捨てていたから、かばんなどが全部被害者に戻っていたのは幸いだった。
少年は母子家庭の1人息子で、母親は看護師だった。審判廷で母親は、右手で少年の左手を握って、およそ15分間
少年に語りかけた。実は3カ月前、同僚の看護師が通勤途上で2人乗りのバイクによるひったくり被害に遭っていたのだった。
駅から病院までは徒歩10分。あいにくひっきりなしにバイクが走る道しかない。その看護師は、後ろからのバイクの音を
怖がるので、少年の母親などが付き添っていたが、バイクの音が近づくと身体ごと震え、本当に気の毒だったという。最近、
バイクの走れない道で通うことができる病院を探すといって、とうとう退職してしまった。病院が見つかっても、もし一生バイク
恐怖症がなおらなかったら大変だ、生きていけないと、皆とても心配しているらしい。
母親は、最後に「そんなひどいことを30件もしたとはなんという手や、あんたのこの手を噛みちぎってやりたい」と叫んだ。
後ろの鑑別所職員が間に割って入ろうと腰を浮かせた程迫力があった。少年も母親の手を握り締めながら途中からずっと
泣いていた。
さて、母親は裁判官である私に、「できれば今日連れて帰らせてもらい、30人の被害者の方々のご了解をいただいた上で、
親子で一緒に謝って回りたい。30人の電話番号を教えてほしい」との希望を言われた。少年に聞くと、本人も「そうさせてほしい」
とのことだった。この母親は社会常識をわきまえ、少年に対する指導力も十分にあると思えたので、被害者らの携帯電話の
番号を教え、次回期日を1月余り先に指定して、少年を連れて帰らせた。その際少年に、次回の審判で被害者の反応を口頭
で説明することを求めた。
母親は電話を掛けまくって、毎日1件のペースで面会のアポを取った。
次回期日に、少年は、30人もの方々の応答を全部覚えていて、約1時間かけて丁寧に報告した。面会場所は少年宅、
被害者宅の他、駅前の喫茶店なども多かった。毎日、明日の人はどんな人だろう、何を言われるだろうと少年も母も不安
だらけで寝不足が続いたそうだ。だが、結局全部最後は「もうお母さんを泣かしなや…」といった優しい言葉をいただくことが
でき、被害者と別れた後はいつも「あぁー良かった」と親子でしばらくうれし泣きをしたとのこと。語り続ける少年の顔は感激で
輝いていた。
この親子はもう大丈夫だ、「反省」も十二分にできていると認め、不処分で終局した。
ソース(MSN産経ニュース) URLリンク(sankei.jp.msn.com)