08/05/24 00:02:19
「うちの会社って勝ち組企業なのかな?」
「田園都市線沿線のどのあたりにマンションを買えば勝ち組だろう?」
「思い切って、FXで勝ち組への最短ルートを走るか?」
勝ち組幻想が社会に広がっている。グーグルで「勝ち組」を検索すれば353万件がヒット。Amazonのホームページで「成功」
という言葉を含む書籍を検索したところ、6583件あることがわかった。
「自分が勝ち組に属しているかどうか」はそれだけ切実な問題なのだろう。一億総中流の時代が終わり、収入格差が広がる
現代。成果主義の影響などもあり、社内でも、勝ち組社員と負け組社員の差は歴然とし始めている。
ところが、誰もが認める勝ち組社員に限って、突如としてうつや自律神経失調症を発症することがある。明日、あなたを襲う
かもしれない、サドンデス(突然死)ならぬ『サドンうつ症候群』。突然の心の病に倒れたという、谷本仁さん(仮名・47歳)の
ケースを紹介しよう。
「大便を垂らしながら会社に通っていたんですよ。朝一番の電車で」
そう語る谷本さんは当時、大手警備保障会社の支店長を務めていた。
都内の有名私立大学を卒業。入社翌年、米国大学院に企業留学した。会社がそうとうな期待をかけていることは、誰もが
認めるところだった。自身も「将来は社長に」と決意を固めていたという。36歳にして全国でもトップ3に入る支店を背負い、
彼はますます昇進への執念を燃やす。「ここを全国トップに育てれば、社長の椅子はぐっと近くなるはずだ」
そこで着手したのは、いわゆるダメ社員のクビ切りである。
「部下たちにこう宣言しました。3回遅刻したらクビだぞ、と。そして遅刻や無断欠勤した人間を切っていきました。2年間で
15名の部下を辞めさせました」
宣言した手前、自分が遅刻することがあってはならない。そこで毎朝始発電車に乗り、早朝6時にはタイムカードを押すよう
にした。帰宅は毎晩12時過ぎ。土日も出勤した。この頃、会社を休んだのは1年間でたった7日間だった。
「人の3倍働かなければ、のし上がっていくことはできない、と必死でした」
谷本さんは勝ち組に残らねば、という焦りに追い立てられていたのだ。
ところが、ある日とんでもない事件が起こってしまう。突然、通勤途中で下腹部の激痛に見舞われ、トイレに行こうとしたが
間に合わなかったのだ。ズボンをつたう温かい感触。そして異臭―。あまりのショックになすすべもなく、呆然と立ち尽くしていた。
さすがに驚いて病院へ駆け込むと、医師はこう告げた。「過敏性大腸症候群ですね。ストレスで自律神経のバランスが崩れる
病気です」。
忙しいビジネスマンに増えている「過敏性大腸症候群」。これには、背後にうつが潜んでいることが多い。
通勤中に谷本さんを襲ったあまりにもショッキングな事件。彼はなぜ、そんな状態になるまで自分を痛めつけ続けたのだろうか。
「いや、今思えば、頭痛や目の疲れといった前兆はあったんですよ。だけど、気付かないふりをしていた。頭の中は、『ライバル
に勝たなければ』『エリート集団から排除されたくない』という思いでいっぱいでしたから」
その姿は、まるで滝に打たれる修行僧だ。修行中の僧侶は、ひたすら冷たい水を浴び続けるうちに、だんだんそのつらさを
感じなくなっていくという。これは、肉体の苦痛を和らげるため、脳内ホルモンのエンドルフィンが分泌されて、感覚を麻痺させる
ためだそうだ。
谷本さんのような働き方をしている人は、結構多いのではないか。職場では食事もそっちのけで深夜までデスクにしがみつき、
ボロボロになって家に戻ると、泥のように眠る。有休はほとんど使わず、2~3年に1度、ひどい体調不良に陥って会社を休む。
「もうこんな働き方はごめんだ」布団の中でそう決意するが、治ると前にも増して頑張ってしまう。昇進や昇給、周囲の賞賛と
いった成功の証がエンドルフィンとなり、心身の苦痛を忘れさせてしまうのだ。そして、ある日突然の症状に襲われる。
もちろん、与えられた業務の絶対量が多いということもあるが、目に見えない何かが「勝ち残れ」と自分に号令をかけるのだろう。
一昔前まで、「見えない何か」というのは企業に対する忠誠心だった。今は違う。頑張り続ける人々は「会社人間」ではない。
会社と一体化して自分を見失っているのではなく、むしろ会社と一体感を感じられない不安に、駆り立てられているのである。
(以下略。全文はソース元でどうぞ)
ソース(ダイヤモンド・オンライン) URLリンク(diamond.jp)