08/05/28 23:27:34
トロ、カルビ、脂肪分たっぷりのアイスクリーム-おいしい食べ物はなぜカロリーが高いの?と
恨みにも似た疑問を持つ人も多いのでは。油脂分に富んだ高カロリーの食品が、おいしく
感じられる仕組みが科学的に解明され始めた。意外にも“脂ののったうまさ”を感じるのは
舌だけではないのだという。 (永井理)
油脂は精製すると味もにおいもない。なのに油脂分の多い食品がおいしく感じるのはなぜか。
科学的な考察はあまりなく、なめらかな食感が加わるためだと考えられていた。
二〇〇〇年、京都大農学部の伏木亨教授らのグループは、油脂をマウスに与えると三日間で
「やみつき」になることを発見し、突破口を開いた。普通の飼料は必要量だけ食べて残すが、
油は際限なくなめて肥満してしまったのだ。
■執着の条件
「食感だけではなさそうだ」。その後の実験で油脂のカロリーが直接に関係することが
分かってきた。
やみつきになったマウスに、コーン油と消化されないカロリーゼロの油を与える。
最初は両方を夢中でなめるが、一時間たつとマウスはカロリーのない油をなめなくなった。
「油脂が消化され、高カロリーかどうかの信号が脳に伝わっている」と考えられる。
一時間かけて“片方はカロリーがない”という情報が届いたのだ。
グループの松村成暢さんらは三月、さらに決定的な結果を発表した。マウスの胃にカロリーの
高い油脂や糖質を直接入れ、カロリーのない油脂を与えると今度は飽きずになめ続けた。
胃にカロリーが入ることが執着の条件の一つだったのだ。
■油は透明人間
マウスは油脂の味を感じ、カロリーのあるものと無いものを区別しているようだが、
純粋な油脂は人間には無味無臭だ。「人間は、油と共存する味覚成分によって油脂分を
認識している。油は透明人間で直接見えない。私たちは、その包帯を見ているようなもの」
(伏木教授)という。
グループはさらに、舌の表面に油脂を感知するCD36、GPR120という受容体があることを
突き止めた。これらは味覚を感じる受容体ではない。だがこの受容体が働かないと、
やみつき効果が表れないという。
「味覚の信号と受容体の信号が脳で合わさり、そこにカロリーの信号が加われば、
報酬系を刺激する味になるのでは」と伏木教授は推測する。
報酬系とは、欲求が満たされたとき快感を発生させる脳の仕組みだ。(1)舌の情報
(2)胃などのカロリー情報-この二つがそろうと報酬系が刺激され「やみつきになるほど
おいしい」という満足感が得られるわけだ。
■だませない胃
糖分でも油脂と同じことが言えるという。低カロリーの代用油や人工甘味料で「おいしいのに、
なにか物足りない感じ」がするのは(2)が満たされないからだという。「口の中はごまかせても、
胃まではごまかせません」と伏木教授。
(2)の情報を出すのが胃などの消化系か、消化後の代謝系かは、今後の研究課題だ。
詳しい仕組みが分かれば、口と胃の情報をうまく組み合わせることで、カロリーが低くて
満足できる油脂が作れるのではないかという。
TITLE:東京新聞
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