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ウイルスとの闘いで、「リバースジェネティクス(逆遺伝学)」という技術が注目されている。
実験室内で遺伝子からウイルスをつくり出すというもので、遺伝現象から遺伝子の
正体を明らかにしてきた従来の研究とは逆方向の手法だ。特定の遺伝子を
改変したウイルスを増やして研究できるほか、効率のよいワクチン開発にもつながる。
いわば「ウイルスの人工合成」。これがさまざまなウイルスで可能になってきた。
感染すると40~70%と高い死亡率を示すニパウイルス。東京大学医科学研究所の
甲斐知恵子教授と米田美佐子助手らは、このウイルスでリバースジェネティクスに
初めて成功、10月に米科学アカデミー紀要に発表した。
ニパウイルスはリボ核酸(RNA)しか持たない。酵素を使ってこれを相補的DNAに変換し、
サルの細胞に入れると、感染性のあるウイルスの増殖が確認できた。最も危険な
ウイルスに分類されているため、国内では扱えず、フランスで研究を進めた。
このウイルスは、98年にマレーシアで見つかった。オオコウモリからブタなどを介して
ヒトに感染すると考えられている。甲斐さんは「なぜ死亡率が高いのかなどの謎を解明したい」と話す。
ウイルスの遺伝子がDNAの場合は、宿主動物の細胞に入れるだけで増殖が始まるが、
RNAの場合は相補的DNAへの変換が必要だ。なかでも狂犬病ウイルスやニパウイルスなどは、
ほかのたんぱく質を発現させるなど複雑な手順が必要で、人工的につくり出せるようになったのは90年代になってからだ。
永井美之・理化学研究所感染症研究ネットワーク支援センター長は「この技術を使えば、
特定の遺伝子に手を加え、その働きを生きたウイルスで解析できる」と、効用を説明する。
ワクチン開発にも威力を発揮する。世界的な大流行の発生が懸念される新型インフルエンザ。
ワクチンは鶏卵でウイルスを増やして製造するが、新型への変化が心配される
鳥インフルエンザ(H5N1型)は強毒で鶏卵が死んでしまう。東大医科学研究所の
河岡義裕教授らは、毒性にかかわる遺伝子を取り除く手法を確立した。
これを利用して弱毒化ウイルスがつくられ、現在、世界中で使われている。
病原性のある麻疹ウイルスでこの技術を確立した一人、竹内薫・筑波大助教授は
「病原性を高め、様々な動物の広範な部位に感染するようなウイルスをつくることも原理的には可能」という。
その意味では危険性も秘めた技術だが、遺伝子組み換え実験についてはウイルスの
危険度に応じた封じ込め対策をとるように法律などで規制されている。排水時のウイルスの
処理方法や実験室の構造などが危険度の段階別に定められ、文部科学省で専門家の審査を受ける。
ニパウイルスやエボラウイルスなど、危険度分類が最も高いウイルスを扱える施設は、現在、国内にはない。
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