08/02/06 18:24:34
★「ヒュミント工作」の実態（下） 「友だち」を褒めあげ付け込む
ヒュミント（人間を使った情報収集活動）の協力者獲得工作では、公開情報（新聞、雑誌など）を
小道具として最大限に活用する。
工作員は、「わたし、日本語、よくできません。日本のことをもっとよく知るために、どの新聞や雑誌の
記事を読んだらいいか、教えてください」などと言う。実際は、日本語に堪能で、新聞や雑誌は非常に
よく読み込んでいる。新聞や雑誌ならば、公開情報なので、別に教えてあげても構わないと考え、
情報を提供する。
そうすると工作員は、「実は、大使館では新聞や雑誌をきちんと保管していないので、よろしかったら
コピーが欲しい」と言ってくる。実際は、新聞や雑誌は、切り抜きをし、分類してある。こういうときは、
「僕は忙しいんだ。国会図書館か日比谷図書館に行けばコピーができるよ」と言って、先方の依頼を
断ればいいのだが、日本人にはお人よしが多いので、「これくらいならいいか」と思って引き受けてしまう。
先方は、情報源が文書の受け渡しに慣れるような訓練をしているのだ。
コピーをもらうと工作員は、ほんとうにうれしそうに感謝し、コピーの記事について、情報源の意見を聞く。
そして、「鋭い洞察ですね」とか「私にはそういう解釈があるとは気づきませんでした」などと相手を
褒めあげる。一般論として、日本の官僚は子供のころから、褒められてばかりいて、しかられることが
極度に苦手な学校秀才型が多いので、他者に認められたいという「認知欲」が肥大している。ここに
付け込むのだ。
もちろん腹の中では、「この程度の分析しかできないのか。こいつはあまり頭がよくないな。それに
お世辞を言われてこんなに喜ぶのは、相当、単純な人間だ。あまりばかだと使いものにならず、
こっちが面倒なことに巻き込まれるのではないか」といった類のことを考えているのだが、顔には
出さない。そして、「私は日本語の聞き取りが得意でないので、紙にメモを作ってもらえないか」と頼む。
これに応じて、情報源がメモを作成すれば、その時点から、協力者になる。ここでいきなりカネを
渡すことはしない。相手に警戒心をもたせずにカネを握らせるには、それなりの技法がある。
報道によれば、今回、懲戒免職になった内閣情報調査室（内調）職員は、２００７年１～１０月に８回、
ロシア大使館員と接触して、現金で８２万円を受け取っていたということだが、これはなかなか見事な
工作である。メモを作成してくれたお礼に情報源を夕食に招待する。そして、「今日はこちらの
招待ですから」と言って、車代として２万～３万円を渡す。実際にタクシーを呼んで、情報源を乗せて、
カネを渡せば、９０％の人が受け取る。１回受け取ってしまえば、その後は、毎回、車代と言って
５万円くらいを封筒に入れて渡せばよい。仮に５０万円を渡せば、相手は警戒する。５万円ならば、
「ちょっと多いけれど、まあいいか」と思って受け取ってしまう場合が多い。そのうち、封筒に入れる
カネを１０万円に引き上げる。工作員は心理的な優位を獲得する。
その後も「秘密情報はいりません。あなたが友だちとしてできる範囲でいいので、教えてください」という
枕詞をつける。プロの工作員ならば、役所の文書の持ち出しのような足がつく危険な情報収集よりも、
情報源にメモを作らせ、口頭で追加説明をさせるという手法を好む。
工作員が必要とする情報は、秘密の印が押された公文書だけではない。例えば、この内調職員は、
衛星センターに勤務していたことがある。衛星センターの機構、職員名、画像解析に従事する態勢と
担当官の氏名などという情報は、ロシアの諜報機関が手にしたい情報である。さらに内調内部での
派閥や人間関係、特に不倫関係に関するうわさなどは、国家公務員法で漏洩が禁止されている
秘密ではないが、諜報機関が破壊活動を行うときは不可欠の情報だ。この種の情報を工作員は
根掘り葉掘り聞き、丹念にファイルしていく。
インテリジェンスの相場観でみると、この内調職員をロシア側は重視している。それは工作員が
後任にこの内調職員を引き継いでいることでわかる。個人的友人は引き継がない。また、
情報源として価値がなく、「カネ食い虫」状態になっている情報源は切り捨てる。今回の内調の
事案については、事実関係をできるだけ明らかにし、ロシア側の狙いを解明し、マスコミに
公表することで、国民の防諜意識を啓発することが重要である。
FujiSankei Business i. 2008/2/6
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