07/12/20 17:33:23
★早い話が:市長の子は市長=金子秀敏
外来魚のブルーギルが増えすぎて琵琶湖の生態系が脅かされている。
天皇陛下が先月11日に琵琶湖畔で開かれた式典で「心を痛めています」とあいさつした。
このニュースが伝わった米イリノイ州のシカゴでは、日本に謝るかどうかで論議が起きたという。
ブルーギルは米国では普通の食用魚だそうだ。天皇が皇太子時代の1960年、訪米の折に
シカゴ市長から贈られた。その子孫が琵琶湖でやっかいものになっているが、米国では
「イリノイ州の魚」に指定されて親しまれているのである。
えら(ギル)に青い模様があるから「ブルーギル」。通称は「サン・フィッシュ」(太陽の魚)。当時の
シカゴ市長R・J・デイリー氏は、日の出ずる国から来た皇太子は魚の研究家と聞いて、気を
利かせて「太陽の魚」を献上したのではないか。
まだ日本では食糧難の記憶が残っていたころだった。「当初、食用魚としての期待が大きく、
養殖が開始されました」と天皇自身が語ったように、食材として歓迎された。だが、すぐに飽食の
時代が来た。ブルーギルは食用魚として親しまれることなく、在来魚を食う生態系の破壊者として
嫌われた。
さて、天皇のお言葉が出ると、ブルーギルの実家シカゴの地元紙が「天皇は後悔している。市長は
日本に謝るべきだ」というコラムを載せた。現在の市長R・M・デイリー氏は、あのデイリー市長の
息子だ。父に代わって謝罪する必要があるのか。
すると「サン・フィッシュを食べない日本人がおかしい」「いや、日本に謝罪してシカゴ五輪の誘致に
協力してもらおう」などなど、賛成あり反対ありで論壇がにぎわった。
その最中、コラムの筆者に日本の外交官が「日米関係は非常に良好である。謝罪の必要はない」と
言ってきた。それが暴露されて議論はさらに盛り上がったという。
米国の新聞は「心を痛める」を「リグレット(後悔する)」と訳した。だから、後悔の原因はなんだ、
それは市長が悪い、いや悪くないという議論が生まれたのである。
だが、「心を痛める」は、自分自身の「心の状態」に限定した言い方である。他者を批判しないのが
天皇語の特長だろう。「後悔する」という言い回しとは微妙に違う。日本人は慣れているが、米国人には
理解しにくいかもしれない。
(金子秀敏・専門編集委員)毎日新聞 2007年12月20日 東京夕刊
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