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イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 I・II [著]ジョン・J・ミアシャイマー、スティーヴン・M・ウォルト
[評者]酒井啓子(東京外国語大学教授・中東現代政治)
URLリンク(book.asahi.com)
■米国の国益に反した偏重外交を喝破
衝撃作である。しかも、超ド級の。
何が衝撃か。米国の外交政策はイスラエル・ロビーに振り回されていて、それは米国の国益にならない、イ
スラエルを特別扱いするな―。そう言い切ったのも衝撃だし、言い切った本がイスラエル・ロビーの圧力にも
負けず世界中で出版できたことも、驚きだ。出版後、米国内で一大論議を呼んでいる。
内容は、これまで中東研究者なら誰しも主張してきたことだ。米国がイスラエルを過度に支援することで、中
東で外交的に有効な主導権を取れないでいること。アラブ・イスラーム社会で反米意識が高まっていることや、
テロ志願者が増えるのは、その米国のイスラエル偏重政策のせいだということ。イラクやシリア、イランは、米
国とうまくやれない関係ではないはずなのに、イスラエルの危機意識が、米政権をこれらの国々との衝突、戦
争に駆り立てていること。
しかし中東研究者が言ったところで、中東オタクのたわごととしか聞いてもらえないのに(やれやれ、評者も
どれだけそういう目にあったか)、本書の衝撃は、筆者がばりばりの米国保守本流の大物政治学者、しかもリ
アリストと呼ばれる学派に位置づけられることだ。主張する外交路線は、ブッシュ父政権期のベーカー国務長
官らの考えに、近い。
筆者が特に標的とするのはブッシュ現政権の核にいたネオコンで、彼らとイスラエル・ロビーが正当化する
イラク戦争や対パレスチナ政策のロジックを、ことごとく見事に論理的に反駁(はんばく)していく。その切れ味
のよさといったら! 読んでいて爽快(そうかい)感すら覚える。