08/07/14 12:38:09
★マスコミは外務省にだまされている～武次官が浴びせた冷や水
…喉に刺さった骨--そう形容される東シナ海のガス田開発をめぐる日中対立に「各期的な合意」と日本中が
大騒ぎになっていた6月19日。北京では元駐日大使の武大偉外交部筆頭次官と日本の北京特派員の間で、
なんとも奇妙なこんなやりとりが交わされた。
記者：私は共同通信の記者です。
武大偉：共同は（この件に関し）大量にニュースを発信したが、一部のニュースはまったくの誤報だ。
記者：私が知りたいのは、中国側の発表によると日本の法人は中国の関連法規に従って油田開発に参加する
ことになっているのですが、こういうやり方は「共同開発」とは言えないのではないですか？
武大偉：あなたがそう思うのでしたらそれでいいんじゃないですか。その表現も、まあ間違いではありませんよ。
この会話が交わされたのは、前日、日中間で合意された東シナ海ガス田の共同開発について武次官が一通りの
説明をした後の質疑のなかでのこと。
日中双方が互いに妥協して歩み寄った末に一つの合意に達したのであれば、中国もその外交成果を高らかに
謳いあげてもよい場面なのだが、武次官は日本の浮かれた気分にいきなり冷や水を浴びせかけたのである。
「喉に刺さった骨なんて抜けてないのですよ」と、この会見に出席した記者が語る。
「そもそも合意なんていっても中身は空っぽ。それなのに日本ではなんであんなに大騒ぎして外務省を
持ち上げているのか、本当に不思議です」
実際、日本のマスコミのはしゃぎっぷりは見ていて悲しくなるほどだ。例えば6月18日の合意を受けて報じられた
新聞各紙の社説の見出しである。
＜ガス田開発 現実的な妥協ができた＞（朝日新聞・6月19日付）
＜日中ガス田合意 「戦略的互恵」へ具体的一歩だ＞（読売新聞・同日付）
＜ガス田合意「協力の海」へさらなる努力を＞（毎日新聞・同日付）
＜日中ガス田合意 やっと対象の交渉可能に＞（産経新聞・同日付）
だが、この新聞記事を日本の国民が読んだ同じ日に、武次官は前述したように日本側の浮かれた気分に明確に
釘をさしたのだ。この会見で武次官は記者の質問に続けてこう答えている。
「もっとも大切なことは、春曉（日本名は白樺）のガス田開発は絶対に中国の法律にのっとった協力でなければ
ならないということだ。その主な法律（中華人民共和国対外合作開発海洋石油資源条例）に関してはすでに私が
説明したとおりだ。そしてこの意味は春曉ガス田の主権は中国にあるということだ。私はこの点を明確にしておきたい。
こう言った後に武次官は、「共同通信がこの数日出した記事は今日あなたが指摘したような明確な認識がなく、
不正確に（この合意を）認識していたようだ」と、わざわざ付け加えてもいるのだ。つまり、ガス田開発の合意に
関する日本側の報道が、「誤りである」と婉曲ながらはっきりと指摘したのである。
そもそも東シナ海のガス田問題とは、日中の境界線が定まらない係争中の海域で、中国側が勝手に地下資源の
開発を進めてしまったことに端を発する問題だ。そのため、ガス田問題の背後には常に海の国境である境界線の
確定という大問題が絡み、そのことが問題解決を難しくしてきたという経緯がある。
日本では「中間線問題」とも言われるこの問題は少々複雑だが大切なポイントなので多少長くなるが説明をしておく。
（中略）
「本来、係争中の海域では二百海里を主張するのが常識です。しかし、当時の外務省は境界線の妥結点として
『中間線』を早々と持ち出してしまった。中間線とは互いの陸地の基線から基線の真ん中をさす言葉です。
妥結点としては適当かもしれませんが、交渉の初期の段階でこれを持ち出せば相手を利することになる。案の定、
中国は中間線から中国側の海域は日本が放棄した『解決済み』の海域として、一方的に地下資源開発を進めて
しまったのです。しかも、最初に平湖ガス田の開発が明らかになった直後にも日本側が外交ルートを通じて正式に
中国側に抗議をすることもなかった。そのため中国はその後もガス田開発を続け、新たに四つのガス田をあの海域
に造ってしまったのです。
その一方で、逆に日本が中間線より日本側で開発をしようとすると、大陸棚の主張を持ち出しそれこそ猛烈な勢いで
抗議してやめさせるという構図ができあがってしまったのです。
外交の敗北と言われればまさにそうかもしれません。」（外務省OB） （つづく）
（週刊文春 7月17日号 P148-151より抜粋）