08/06/30 07:24:33
★From:台北・庄司哲也 かじ西へ、高まる反日
「釣魚台(尖閣諸島の台湾名)は台湾と日本のどちらの領土か」。台湾メディア数社から質問攻めにあった。
「カメラを向けるな。私は一記者だ」と、心の中でつぶやいた。口に出せば「怒る日本人特派員」と、大々的に
報じられることは目に見えていたからだ。
沖縄県石垣市の尖閣諸島付近で10日、台湾遊漁船が海上保安庁の巡視船と接触、沈没した事故を
きっかけに、台湾で「反日」の雰囲気が盛り上がった。質問攻めにされたのは尖閣諸島へ抗議船が向かった
台湾北部の港で取材中のことだ。
劉兆玄・行政院長(首相)は「開戦も排除しない」と発言。台湾紙は「日本と戦わば」と日台の軍事力比較を掲載した。
矛先は台湾在住の日本人にも向けられた。日本人学校の外壁にも日本を批判する落書きが書かれた。
日本の在台湾大使館に相当する交流協会台北事務所は在留邦人に注意を呼びかけた。いずれも「親日」
と言われてきた台湾では異例だ。
台湾は東シナ海と太平洋の間に浮かぶ船のような形をしている。西にかじを切れば中国へ、東にかじを
取れば日本の領海へと進む。
沈没事故とほぼ同時期、北京では9年ぶりに中台間の正式対話が再開された。台湾の馬英九総統の与党・
国民党と中国共産党との間で週末チャーター航空便の就航、中国人観光客の台湾観光開放などで合意し、
双方で同胞意識が広がった。
台湾の有力紙「中国時報」に掲載された一枚の時事漫画が台湾社会の空気を見事に表していた。巨大な
魚の背の上の人物が、日の丸を掲げた船に石を投げている絵だった。魚には「国共和解」の文字。中国の
後ろ盾があれば、日本なんて怖くないぞというわけだ。
民進党の陳水扁政権の8年間、台湾は東にかじを切った。「72年の断交後、最良の状態」と表現されるほど
日台関係は良好だった。その民進党が「外来の政党」と批判したのが国民党だ。
中国大陸で抗日戦争を戦った国民党にとって、中国とのつながりや、台湾の日本統治を終わらせた抗日の
歴史は、台湾での政権の正統性を主張するための外せない装置だ。「親日」は党の存在意義の否定にも
つながる。
馬総統は前政権の政策を清算し、違いを示さなければならなかった。遊漁船沈没事故は新政権が民進党
政権下で東へ進んだ台湾の航路を西へ修正しようとしている時に起きた。台湾に住む多くの日本人が、
政権交代の意味を肌で感じた。
だからかもしれない。「反日」が盛り上がった時期、台北市内で見かけた若いカップルの姿にほっとさせられた。
2人ともサッカー日本代表のジャージーを着ていた。
親日・台湾の姿を久々に見る思いがした。せめて庶民レベルでは以前のままであってほしい。政権交代は
そんな願いも消してしまうのだろうか。
(毎日新聞 2008年6月30日 東京朝刊)
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