08/06/09 01:28:01
北京五輪が本当にスポーツの祭典なら、まずスポーツの価値を何よりも
優先すべきであり、スポーツの価値を裏付ける、人道主義、人権という概念が
何よりも優先されなければならない。そのような環境が整って、初めて
<スポーツの神> が降臨する祝祭空間が可能となるのである。
地震が起きてから日本ですっかり報道されなくなったチベット問題の動向は、
欧米では克明に報道されていた。5月にダライ・ラマ法王は欧州各国を歴訪し、
5月19日にはドイツ、ベルリンのブランデンブルグ門広場で歴史的な演説を行った。
演説はテレビで生中継された。
「ここに多くのチベット国旗が林立しています。しかし、この運動は反中国運動では
ありません。私が1949年に初めて毛沢東主席と会ったとき『チベットの旗を
大事にしなさい』と言われました。それと同じように私たちは五星紅旗を尊重しています」。
ダライ・ラマ法王は演説の最後に、2万5000人の大観衆の前でこう述べた。
平和的な姿勢を貫き、中国政府との対話を求め続けるダライ・ラマ法王に
ここまで言い切られては、中国政府は逆に対応に苦慮するだろう。
ブランデンブルグ門広場はチベットの雪山獅子旗で埋め尽くされ、ダライ・ラマ法王が
登場したときにチベット国旗を彩る赤、青、黄の無数の風船が一斉に空に放たれた。
ドイツを後にしたダライ・ラマ法王は英国に飛び、5月22日にはロンドン、
ロイヤル・アルバート・ホール前で1000人の聴衆に語りかけ、チャールズ皇太子に
クラレンス宮に招かれ歓談し、23日にはブラウン首相と会談を行った。
こうした動きが多くの日本国民にあまり伝わっていない。日本のメディアが論理よりも
感情に流れがちなのは今に始まったことではないし、メディアも民間企業である以上、
需要があるニュースを中心に配信しなければならない事情があるのは仕方の
ないことだろう。だが、「自由」や「人権」「民族自決」といった普遍的な価値観に
対する侵害に関してもっと批判的であってほしいと思うし、単なる欧米崇拝のように
聞こえてしまうかもしれないので気が引けるが、欧米のメディアがチベット問題に
ついて地震の前後も変わらない姿勢を取っていることの意味を考えてほしい。
メディアのこうした状況に対して、われわれができることは声を上げ続ける
しかないのだが、特に思うのは様々な圧力にもめげずに人権擁護を訴えて
きた人たちに今こそ、声をあげてほしいということだ。福島瑞穂さん、辻元清美さん、
土井たか子さん、菅直人さん、政治家ではないが大江健三郎さん、その他、
草の根で人権擁護を訴えてきた人たちにチベットの人権状況の改善のために
動いてほしい。そうした人たちから、これまでに、これといった声が出てこないのが
残念でならない。メディアを通じて彼らにこそ先頭に立ってほしい。まさか彼らの
言う人権擁護は、中国や朝鮮半島出身者と、特定の考えを持った日本人に限る、
というわけではないだろうから。
世界からの反発に対して、中国国内では激しい排外主義と偏狭な愛国心だけが
膨張する中で、北京五輪は目前に迫っている。しかも、東トルキスタン独立運動の
活動家が正式に「ジハード」を宣言、新疆ウイグル自治区からの中国人退去を求めている。
これはテロ攻撃の予告に他ならない。スポーツの価値をスポーツが支えるという
五輪の存在理由(レゾン・デートル)そのものの成立が、もはや難しくなってきている。
それは、五輪をあまりに政治利用しようとした中国政府への、<スポーツの神>
からの報いだと言ったら言い過ぎだと謗られるであろうか?(終)