08/05/31 08:13:11
自衛隊機見送り-中国の心をくみ支援を
四川大地震の救援のため、日本政府が検討していた自衛隊機で支援物資を中国に
運ぶという案が見送られた。中国国内で自衛隊機の受け入れに反発があることを
考慮したもので、代わりに民間のチャーター機が使われる。
自衛隊機の派遣が実現していたら、日中関係にとって歴史的な出来事になったろう。
旧日本軍が中国大陸を侵略したことから、中国の人々には、日本に対して複雑な感情
がある。それでも被災者救援のためならばと、過去を乗り越えて自衛隊機を受け入れて
くれれば、日中のきずなはさらに強まる。
しかし、自衛隊機派遣を伝える日本の報道に対し、中国国内のインターネット上で賛否が
大きく割れた。中国政府内部の意見も複雑だった。
歴史の傷は、癒えるのに時間がかかる。中国の国民の間には、日の丸をつけた飛行機が
来ることを歓迎しない人もいるだろう。被災地に近い重慶は、日本が戦争中に度重なる
爆撃をした場所である。中国側の気持ちを尊重して、見送りを決めた判断は正しかった
と思う。
それにしても、一時とはいえ、両政府間で自衛隊機の活用が選択肢として議論された
ことは、従来の日中間では考えられないことだった。
その背景には、首脳の相互訪問を柱とする関係改善の積み重ねがある。地震直前の
胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の訪日では、胡主席と福田首相が災害救援や国連
平和維持活動で協力の可能性を検討するとしていた。
防衛交流も昨年から進んでいる。中国の軍艦が昨年11月に初めて日本を訪れた。
6月には海上自衛隊の護衛艦が中国を訪問する予定だ。今回の自衛隊機派遣の
検討も、こうした防衛当局間のつながりがあったからだ。
だからこそ、今回の派遣見送りが日中間の交流を滞らせることになってはいけない。
今後も、こうした交流をひとつずつ確実に進めていき、両国民の相互の信頼を高めて
いくべきだ。
今回の日本の対応で気がかりなことがある。中国の事情を考えると、細心の上にも
細心の注意を払って進めるべき問題なのに、自衛隊機の派遣にあまりにも前のめりに
なりすぎなかっただろうか。
いま日本がすべきことは、地震への救援に最善を尽くすことだ。陸上自衛隊は大量の
テントの提供を渋っているようだが、ここは送れるものはできるだけ多く送るべきだ。
自治体などで備蓄しているものも活用したい。
さらに医療や防疫、仮設住宅の建設など様々な分野で日本が協力できることがたくさん
あるはずだ。
日中間には、安全保障や食の安全など難題がいくつもある。だが、苦しい時には助け
合うという隣人としての原点を改めて思い起こしたい。
ソース:朝日新聞
URLリンク(www.asahi.com)