08/04/20 17:44:15
節度のある対応を望む
長野市で二十六日に行われる北京五輪聖火リレーで、出発式・点火式を行う予定だった
善光寺が辞退を決めた。「文化財や信者の安全」のほかに、「チベット問題を考慮した」という。
一九九八年の長野冬季五輪は善光寺の鐘で幕を開けた。国内で唯一の聖火リレー開催地
となった今回も、五輪にゆかりの深い善光寺に白羽の矢が立ち、寺側も地元実行委員会の
要請を快諾していた。
しかし、三月のチベット暴動で事態は急変する。信者からは「出発地を辞退してほしい」との
電話が相次いだらしい。
辞退の理由として善光寺側がチベット人に対する人権弾圧を取り上げ、「同じ仏教徒として
憂慮した」と語ったことは、日中両政府にとって大きな誤算だったに違いない。
五月六日に予定されている胡錦濤中国国家主席の来日。中国で初めて開かれる北京五輪。
日中平和友好条約締結三十周年に当たる今年は、この二つのイベントをてこに、日中関係を
改善するまたとない機会であった。
だが、中国製ギョーザ中毒事件やチベット暴動、聖火リレーの混乱などで、政府の思惑は
大きく狂い始めている。胡主席の訪日にも暗雲が漂い始めてきた。
中国では、ケータイ・メールによる呼び掛けに応じた若者が、パリでの聖火リレー妨害に抗議し、
フランス製品ボイコットを呼び掛ける抗議デモを繰り広げた。長野市の聖火リレーが混乱すれば
中国の反日感情に火が付く恐れもある。関係者の節度ある対応を求めたい。
長野市での聖火リレーには野球日本代表の星野仙一監督や女子レスリングの吉田沙保里選手、
陸上短距離の末続慎吾選手らが参加する。平和と友好を願って聖火をつなごうとしているリレー
走者は、どのような気持ちでいるのだろうか。
言論の自由、表現の自由が保障された民主主義社会では、中国のチベット政策に対して平和的
な手段で意思表示することを誰も止めることはできない。
非暴力による意思表示は、五輪開催国や聖火受け入れ国が支払わなければならない政治的
コストである。
だが、暴力行為によって聖火リレーが妨害され、友好を願って参加した走者の純粋な気持ちが
傷つくとしたら、話は別だ。暴力行為は理由はどうであれ、五輪の精神になじむものではなく、
非難されなければならない。暴力行為は中国政府を硬化させるだけである。
来日した楊潔〓外相に対し、福田康夫首相は「国際的な問題になっている現実を直視する必要
がある」と述べ、チベット問題への適切な対応を求めた。しかし、楊外相は「ダライ・ラマ集団が
破壊活動を停止すれば対話の扉は開かれている」と従来の主張を繰り返すにとどまった。
「チベット問題は内政問題であり、外国が干渉すべきではない」―これが中国の主張である。
胡主席の訪日を実り豊かなものにするためには、硬直した姿勢からの変化を感じさせるような
メッセージを発信することが大切だ。
※(注=〓は「たけかんむり」に「厂(がんだれ)」でその中に「虎])
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