08/04/02 09:18:01
これは言論や表現の自由にとって極めて深刻な事態である。
中国人監督によるドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」の今月
公開を予定していた東京と大阪の五つの映画館が、すべて上映中止
を決めた。来月以降の上映を準備しているところも数カ所あるが、
今回の動きが足を引っ張ることにもなりかねない。
右翼団体の街宣車による抗議や嫌がらせの電話など具体的な圧力を
受けたことを明らかにしている映画館は一つしかない。残りは「お客様に
万が一のことがあってはいけない」などというのが上映をやめた理由だ。
トラブルに巻き込まれたくないという気持ちはわからないわけではない。
しかし、様々な意見がある映画だからこそ、上映してもらいたかった。
すぐに思い起こすのは、右翼団体からの妨害を恐れて、日教組の集会
への会場貸し出しをキャンセルしたプリンスホテルである。
客や周辺への迷惑を理由に、映画の上映や集会の開催を断るようにな
れば、言論や表現の自由は狭まり、縮む。結果として、理不尽な妨害や
嫌がらせに屈してしまうことになる。
自由にものが言えない。自由な表現活動ができない。それがどれほど
息苦しく不健全な社会かは、ほんの60年余り前まで嫌と言うほど経験
している。
言論や表現の自由は、民主主義社会を支える基盤である。国民だれも
が多様な意見や主張を自由に知ることができ、議論できることで、
よりよい社会にするための力が生まれる。
しかし、そうした自由は黙っていても手にできるほど甘くはない。
いつの時代にも暴力で自由を侵そうとする勢力がいる。そんな圧迫は
一つ一つはねのけていかなければならない。
言論や表現の自由を守るうえで、警察の役割も大きい。嫌がらせなど
は厳しく取り締まるべきだ。
五つの映画館が上映中止に追い込まれた背景には、国会議員らの動き
がある。自民党の稲田朋美衆院議員らが公的な助成金が出ていること
に疑問を呈したのをきっかけに、国会議員向けの異例の試写会が開かれた。
稲田氏は「私たちの行動が表現の自由に対する制限でないことを明ら
かにするためにも、上映を中止していただきたくない」との談話を出した。
それが本気ならば、上映を広く呼びかけて支えるなど具体的な行動を
起こしたらどうか。
政府や各政党も国会の議論などを通じて、今回の事態にきちんと向き
合ってほしい。私たちの社会の根幹にかかわる問題である。
いま上映を準備している映画館はぜひ踏ん張ってもらいたい。新たに名
乗りを上げる映画館にも期待したい。それを社会全体で支えていきたい。
URLリンク(www.asahi.com)
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