08/03/15 23:58:15
対中姿勢に米苦慮…政権は経済重視、議会からは強硬論も
【ワシントン=黒瀬悦成】
中国チベット自治区ラサでの大規模暴動で、ブッシュ米政権は、中国に言論・信教の
自由尊重を求める「人権主義」を掲げつつ、米中が経済分野などで結びつきを強めている
事情もあり、事態を見守る姿勢を示している。
しかし、中国の「チベット弾圧」を糾弾してきた米国内の人権派や対中強硬派などは
ブッシュ大統領に対し、すでに表明済みの「北京五輪出席」の見直しや対中政策の
再検討を迫る構えで、政権は今後、対応に苦慮しそうだ。
ブッシュ政権は14日、チベット情勢について、「まずは実情を掌握する」
(マコーマック米国務省報道官)と強調しつつ、中国政府に対し、チベットの
精神的指導者ダライ・ラマ14世との対話に踏み切るよう要請する姿勢を
打ち出した。
ブッシュ大統領は、昨年訪米したチベット仏教最高指導者のダライ・ラマ14世を歓待。
米議会も最高位の勲章を授与するなど、チベット問題に強い理解を示してきた。
一方で米国内では、ブッシュ政権が、サブプライムローン(低所得者向け住宅融資)の
焦げ付き問題で揺れる米国経済をチャイナ・マネーが事実上下支えしていることや、
北朝鮮の核問題などの外交課題で中国の助けを必要としていることなどを背景に、
対中融和姿勢に傾斜するのではとの懸念も広がっている。
事実、ラサで僧侶らによる反政府デモが激しさを増し始めた11日、米国務省が公表した
世界各国の人権状況をまとめた年次報告書では、昨年まで「世界の人権侵害国ワースト10」
の一つだった中国が同ランクから除外された。国内外の人権団体などからは、
「中国の人権状況は何ら改善されていない」として、ブッシュ政権の真意をいぶかる声が広がった。
米議会では、対中強硬派で知られる共和党のフランク・ウルフ下院議員が6日、北京五輪を
「ダルフール地方で虐殺を続けるスーダン政府を支援し、国内では仏教徒らを抑圧する中国政府による
『ジェノサイド(大量虐殺)五輪』だ」と批判。同議員は、五輪出席を明言したブッシュ大統領への
失望感を表明し、米政府職員が公費で北京五輪に出席することを禁じる法案を近く下院に提出する
方針を明らかにしている。
中国が14日、ラサで武力行使による暴動鎮圧に踏み切ったことで、今後、ブッシュ政権に
チベット問題での「決然とした態度」を求める声が一層広がるのは確実。当面は、ブッシュ大統領が
五輪出席問題にどう対応するかが焦点となりそうだ。
(2008年3月15日22時49分 読売新聞)