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食乱 何たべてるの 第一部<4>
2008年1月3日
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▼中食・外食産業
東京・新宿の商店街のはずれ。古いビルの一階に、配達専門の弁当店があった。
大手スーパーの水産物担当だったAさん(50)が、十七年前に「脱サラ」して始めた店だ。
配達ケースを荷台に取り付けたバイクが三台、入り口に止まっていた。
細長い調理場の壁沿いに、流し台、ガスコンロ、揚げ物場、炊飯器のスペースが並ぶ。
中央に二列の作業台。午前九時だというのに、昼の弁当づくりの作業は既に佳境に入っていた。
弁当箱にダイコンやインゲンの煮物、カツ、卵焼き、かまぼこ、ヒジキ、漬物などが
手際よく詰められていく。棚の上には、シイタケやニンジン、コンニャクの煮物、塩ジャケ、
ホタテ、カジキなどが入った食品保存容器。
この日は、六百円の弁当八十個の予約が入っていたため、調理スタッフ三人が朝六時から
七時台に出勤して、調理を始めた。届ける時間が昼どきに集中するため、前もっておかずを詰め、
配達直前にご飯を盛る。作業中にも「B撮影スタジオから千円を十三個」
「C社から七百八十円を五個」と次々に注文が入り、新しい弁当箱が作業台に並んでいく。
食材のコストを抑えつつ、作業効率も考えながら、おかずの品数をそろえなければならない。
そのために「どうしても冷凍物の比率が高くなる」とAさんは話す。
野菜ではインゲン、ホウレンソウ、カットニンジン、ミックスベジタブルなどほとんどは中国産だ。
エビのブロックはタイ産。冷凍庫から出してすぐに揚げられるチキンカツも中国もの。
一方、ダイコンやヒジキなど煮物、サラダ、茶わん蒸しなどは自前で作る。米も国産のコシヒカリだ。
「安くておいしくなければ、お客さんは離れてしまう。でも、食材費を売り上げの30%以内に
抑えないと採算が合わない。その中で、手間をかければおいしいもの、コストが大幅に安くなるものは
自前で作る。味が変わらないものは、でき合いのメーカー物を使う」
一九九三年の「平成コメ凶作」の時は、米の質にこだわりすぎて業績が悪化した。
九六年夏の「O157騒動」でも食中毒への恐怖感から、売り上げが激減した。
このところの「中国不信」が、宅配弁当の敬遠につながることを、Aさんは恐れる。
弁当には、食材の原産地表示は義務づけられていないが、配達先で「中国野菜を使っているの?」
と尋ねられることが増えたという。
「聞かれれば説明するが、メーカーが検査して安全性を確かめているのだから、うちのような
零細業者は信じて使うしかない。『中国食材抜き』なんて考えられない」
Aさんは近所の業務用食品スーパーを利用する。冷凍食品など加工品中心の品ぞろえだが、
通常のスーパーと同様に少量の買い物をする女性客も多い。冷凍物のコーナーを眺めると、
やはり「中国原産」が主役だった。
カットされたオクラが五百グラム九十八円の“特価”。「解凍してごまあえするだけで一品できるね」。
たまに使うというロールキャベツは十個入り三百九十円。付け合わせ用にカットされたニンジン
(五百グラム、二百九円)、皮をむいたサトイモ(五百グラム、百四十九円)、焼き鳥のもも串(くし)
(五十本、千百九十円)など「安くて調理の手間が省ける食材」が並ぶ。
市場調査会社「富士経済」(本社・東京)の調査では、業務用食品スーパーの二〇〇六年度の
市場規模は三千六百八十億円。過去三年で倍増した。流通業界が頭打ちの中で、数少ない「勝ち組」だ。
手間のかかる生鮮品を扱わないことで人件費を抑え、中国などに工場を設けて安価な加工食品を
開発するスタイルが目立つ。中小の飲食店、弁当店では、仕入れ先を卸業者から業務用スーパーへ
移行する動きが目立つ。安さにひかれ一般客も増えている。
「手間とコストの優先」は、中食・外食産業だけでなく、現代人の食生活全体に広がっているようだ。