07/12/26 21:19:35
中国の「食の安全」への不信が高まっている。
ただ、日本の食生活は中国産品に大きく依存している。いたずらに不安にかられず、
冷静に問題点を把握することが肝要だ。(編集委員 藤野彰)
本紙と米ギャラップ社が11月に実施した日米共同世論調査によると、
中国からの輸入品の安全性に関して、日本では「大いに(または多少)不安を感じる」が93%にも上った。
中国食品への不信増大を背景に、今夏以降、野菜などの輸入量は大幅な落ち込みを見せている。
財務省統計によれば、中国野菜の輸入量は対前年比で8月に21・2%、9月に21・7%それぞれ減少。
中国産魚介類の輸入量も8月に26・4%、9月に29・4%の減少となった。
確かに輸入中国食品の違反件数はかなり多い。
昨年の厚生労働省輸入食品監視統計を見ると、国・地域別の違反件数では中国が530件(34・6%)と最多で、
2位以下の米国(239件)やベトナム(147件)を大幅に上回っている。
しかし、中国の違反件数が目立つのは、輸入食品の届け出件数自体が57万8524件(31・1%)と、
他の国・地域より圧倒的に多いことの反映でもある。
届け出輸入食品のうち問題食品がどのくらいあるかを示す違反率そのものは、
中国の場合、0・09%と全体のほぼ平均水準にある。
これに対し、違反率ではベトナム(0・35%)、インド(0・29%)、台湾(0・17%)、
米国(0・12%)などの方が中国よりも高い。
アジア、北米、南米、アフリカの各地区平均違反率と比べても、中国はそれらを下回っている。
つまり、違反率を見る限り、中国産だけをことさら目の敵にする理由はない。
厚労省医薬食品局では「中国からの輸入食品全部が危険なわけではない。
輸入量が膨大なので、検査も増え、必然的に違反件数が多くなる」と指摘している。
違反食品の約3分の1が中国産という現実は軽視できず、一層の監視強化が必要だが、
危険度を誇大に解釈することは禁物といえる。
むしろ、「食の安全」は中国国内の方がずっと事態が深刻だ。
中国政府の食品調査(今年7月発表)では、全体の合格率は85・1%。
米、小麦粉、食用油などの基本食品については91・5%だった。
裏返せば、日々の食生活に欠かせない必需品でさえも1割近くは欠陥食品ということであり、
食品全体ではそれ以上の比率で不良品が出回っていることになる。
現に、中国では欠陥食品による中毒、死亡事件などが後を絶たない。
中国(香港を含む)には約13万人(昨年10月)の在留邦人がおり、
日本人渡航者も昨年は延べ375万人を数えた。
食品安全面では日本国内居住者に比べ、在留邦人らの方が、より高いリスクにさらされている。
今後、中国との経済交流拡大につれて長期滞在者、旅行者数がさらに増大していくことは疑いない。
中国食品の安全問題は、輸入品だけでなく、中国国内の食をめぐる状況全般をも視野に入れて、
情報提供、警告などの対策を検討しなければならないだろう。
中国当局は、食品業界に対する指導監督を強化する一方、企業責任を明記した食品安全法の制定を急ぐなど、
信頼回復に躍起になっている。
とはいえ、問題の根底には、市場経済化に伴う拝金主義や道徳荒廃、官僚の腐敗、
未熟な法治などの矛盾があり、一朝一夕に解決することは困難だ。
経済グローバル化が進む今日、もはや「食の安全」に国境はない。
日本側は、食品管理の徹底を中国に引き続き求めると同時に、
先の第1回日中ハイレベル経済対話で合意した「食品安全での協力」を具体的に推進していく必要がある。
(2007年12月25日 読売新聞)
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