08/06/20 22:59:19
本書は真面目な文学案内である。
数多ある文学評論の中で萌えを中心に据えたものは少ないのではないだろうか。
戦後60年を過ぎ「萌え」というオタク用語が誕生してから、
先ほど発売された広辞苑にも用語として収録され、瞬く間に認知された。
現代日本における文化として世界では理解されている「萌え」。
その萌えを知り抜いた著者による文学案内が本書である。
「萌え」という言葉に抵抗感がある方々もいるかもしれないが、
日本最古の『枕草子』、また『源氏物語』にも萌え要素があった。
さらにその伝統は受け継がれ、誰もが知る近代文学作品の中に萌え要素を見ることができる。
日本近代文学は「萌え」の宝庫なのだ。
著者は宮沢賢治、夏目漱石に泉鏡花、谷崎潤一郎に太宰治、
また吉本ばななに村上春樹などの作品に内在する萌えを指摘している。
なかでも、本書では日本人初のノーベル文学賞作家である川端康成を
『眠れる美女』『みずうみ』『少年』などを例に挙げ、
「多方面にわたる萌え小説を量産した萌え文学の帝王」といっている、
こんな文学評論は今まであっただろうか。
個人的には川端康成『片腕』にみる‘腕フェチ’という萌え要素に感銘を得た。
繰り返すが冗談ではなく、ふざけているわけでもなく、
著者は真面目に文学と萌えの相関について検証している
。萌えの要素を「妹」「メイド」「ツンデレ」「眼鏡っ娘」「その他」等々11章に振り分け、
各作品について簡単なあらすじを紹介し、萌えセリフ・萌えシチュエーションを抜き出している。
構えず気楽に自分にあった萌え文学を探せる文学案内であろう。
既読のものでもこの新たな視点で読んでみると気付かなかった発見があるかもしれない。
賛否両論はあるだろうが今だからできるこのような読み方があってもいい。
本書は新しい「萌えている」文学案内である。
是非「萌える海外文学」も作っていただきたい。
出版社:幻冬舎
書名:萌える日本文学
著者:堀越英美
定価:1,575円(税込み)
読売新聞
URLリンク(blogs.yomiuri.co.jp)
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幻冬舎
URLリンク(www.gentosha.co.jp)