08/02/24 22:44:46
米国の劇場映画興行には、一般的に二通りの方法がある。ひとつは『トランスフォーマー』や
『ハリーポッター』シリーズのように2000スクリーンから4000スクリーンを利用して
米国全土で一斉に上映が始まる全米公開である。
日本人にも馴染みの深い上映方法で、大作映画に利用される。
一方、外国映画や文芸映画、アート系の映画などよりマニアックな作品は、
都市部で数館から100館程度の規模で上映する限定公開が利用される。
日本で言えば、独立系や単館ロードショーに近いイメージだ。
日本の劇場アニメは『ポケットモンスター』や『遊戯王』など一部の作品を除けば、
米国ではこの限定公開が行われ、劇場数はかなり少ない。また多くの場合は劇場の興収よりも、
その後に発売されるDVDの宣伝の意味が強い。
こうしたなかで近年、あらたに1日から3日といった非常に短い期間、全国の多数の劇場で
同時上映する方法が現われている。同時に行うことで話題性を呼び、宣伝を合理化出来る、
広い地域でメディアの露出が可能となりDVDの宣伝効果も高まる狙いがあるとみられる。
これはフィルムでなくデジタル上映で可能になった。
この試みのひとつとして、この2月に米国の大手アニメ流通会社ファニメーションの
映画配給会社ファニメーション・フィルムス(Funimation Films)が、
『劇場版ワンピース エピソード・オブ・アラバスタ 砂漠の王女と海賊たち』と
『ベクシル-2077日本鎖国-』、それに実写映画『蒼き狼 地果て海尽きるまで』を
それぞれ週末3日間、全米97館で上映した。
しかし、米国の映画興行情報サイトBOX OFFICE MOJOの興行成績で見る限り、
その結果はかなり厳しい。
2月7日から10日まで91劇場で公開された 『ONE PICE』の3日間の興収合計は6587ドル(約71万円)
となっている。3日間のうち何度上映されたのか不明だが(多くは1回のみと考えられる)、
1館あたりの平均興収は68ドル(7300円)となる。米国の映画のチケット代は
日本の半分程度なので、1館あたり10人前後の観客しかいなかった計算になる。
『ONE PIECE』については、作品が本来はキッズ向けであるにもかかわらず、
12歳以下の子供が映画を観るには保護者の同意が必要なPG13が指定されている影響も
大きいとみられる。青年層がコアターゲットという歪な状態になったとも考えられる。
しかし、翌週2月14日から17日まで同じく3日間、91劇場で公開した『ベクシル』の興収は、
『ONE PIECE』のさらに半分の興収3259ドル(約35万円)に落ちこんだ。
もっとも今回の劇場興行の苦戦が、必ずしも作品の不人気を示しているわけはない。
例えば、2005年に上映31館で限定公開された『アップルシード』は、劇場興行では苦戦したが、
その後に発売されたDVDは記録的な大ヒットになっている。劇場興行と人気は必ずしも結びつかない。
実際にカートゥーンネットワークで放映される『ONE PIECE』は、米国の人気アニメのひとつである。
そうであっても、短期間で多くの都市で集中上映を行う試みが、思った以上にうまく回っていない
ことは確かである。実際に昨年9月に、やはり同様のプロジェクトとして行われた
「Anime Bento」の苦戦からもこれは伺える。
Anime Bentoは、全米250館で1日のみ『鋼の錬金術師 シャンバラを往く者』、
『ルパン三世 カリオストロの城』、『鴉 -KARAS-』などを上映した。
こちらも人気作品がラインナップだったが、興行成績はかなり厳しかったようだ。
今回の結果も含めて日本アニメの短期集中上映の興行方式は、
今後見直しされる可能性も高いだろう。
一方で、昨年は、従来の限定公開方式を変則的に利用した今敏監督の『パプリカ』が
ロングラン興行で大きな成果をみせている。これは上映都市を変えながら、
半年以上にわたり数館から十数館の劇場で上映を続けたものである。
こうした成功例も念頭に、アニメも含む日本映画が最も入り込むのが難しいとされる
米国映画興行の壁を越えようとする動きは今後も別のかたちで続くことになる。
animeanime.jp
URLリンク(animeanime.jp)
ファニメーション・フィルムス
URLリンク(www.funimationfilms.com)