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「お母さんを貸してください。お代は出世払いで」。
父に頭を下げた男が9日、「ツケを支払う」舞台に上がる。柔道男子60キロ級に初出場する
平岡拓晃(ひろあき)選手(23)。手料理で支えてくれた母と、わがままを許してくれた父に、
手渡したいのはもちろん金メダルだ。
広島市出身。小学1年で柔道を始めた。体は小さかったが、大きな子に押さえつけられて
負けると、「次は勝つんじゃ」と泣いて悔しがった。「面白い動きする。うち来らしんさいや」と
誘われ、隣接する廿日市(はつかいち)市の中学に越境入学。柔道に没頭した。
高校総体を制し、03年に筑波大1年で学生王者になった。
一挙に同階級の王者・野村忠宏選手の後継者と目された。ところが、その後スランプに陥る。
右ひじのけがと、そのストレスによる過食。体重を戻すためのむちゃな減量で、持ち味の
速い動きが鈍った。野村選手は04年アテネも制し、五輪3連覇を達成。だが、平岡選手は
「北京は譲れない」と心に決めていた。
昨年11月、中学校教諭の父宣好さん(55)に電話した。「お母さんを貸してください」。
頼み事などしたことのない息子の言葉に、宣好さんは驚いた。だが、すぐにその決意を
理解した。「いいよ、でも高くつくよ」「出世払いにさせてください」「いつ出世するんや」。
平岡選手は答えた。「もうすぐです」
母雅子さん(50)は広島市の実家から茨城県つくば市の息子の元に飛んできた。毎日の体重を聞き、
献立を考えた。煮しめ、ひじき煮、きんぴら……。今年4月、全日本選抜体重別選手権に臨む
平岡選手に不安はなかった。優勝し五輪代表に。直後、平岡選手が帰郷した際、
食卓に並んだのは、つくばのメニューと同じお袋の味だった。
雅子さんは、北京入り直前までつくば通いを重ねた。帰り際に平岡選手が礼を言うと、
雅子さんが言った。「お礼はええけ、金メダルがほしい」
でも本当は、それもどうでもいいと思っている。「好きなんです、あの子の柔道が。一番のファンです」。
傍らで宣好さんが笑う。「一番は譲ります」
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