08/03/16 19:11:55 nSHonfUF0
歳取ってからできた子供だっただけに私の息子に対する愛情は本当に目の中に入れても痛くない
という表現がぴったりの溺愛と言えるものでした。毎日の成長が嬉しくて初めて立ち上がった日、言葉を話した日、
全てを鮮明に覚えています。家内と共に私の船まで来て、その日に獲れた魚を見ては一生懸命その名前を覚えていました。
息子は中でもその姿の美しさからイサキが一番のお気に入りで、イサキが沢山とれた日はいつも以上に喜んでくれました。
しかし、そんな幸せな日々も長くは続きませんでした。息子が風邪で倒れ、悪い事にその菌が脳にまわってしまったのです。
日々衰弱してゆく息子。私は息子の入院の費用を稼ぐためにも漁に出て、そして港に戻ると病院に駆けつける毎日でした。
息子は朦朧とする意識の中、言いました。「大きくなったら僕も船に乗ってパパと一緒にお魚を獲るんだ」
私は息子の小さな手を握りうなずくことしかできませんでした。
そして運命の日がやって来ました。
いつものように病院に駆けつけると家内が真っ青な顔で言いました。「意識が戻らなくなった」
昼からずっと昏睡状態で意識が戻らないのです。私は息子の手を握り繰り返しその名前を叫びました。
それは奇跡なのでしょう。ぴくりと手が動きうっすらと目を開けたのです。そしてか細い声で言いました。
「イ、イサキは?イサキは、と、取れたの??」
私は言いました
「ああ。でかいイサキが取れたよ。今年一番の大漁だ」
息子はそれを聞くとにっこりと笑い、そして目を閉じました。そしてその目は二度と開くことはありませんでした。
今でもイサキが大漁の日にはあの日の事を思い出します。
息子はきっと私を待ちきれなくて今頃天国の大きな海で沢山の魚を獲っていることでしょう。
元気でやってるかい?そちらの海にもイサキはいるかい?