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ルポ「公貧社会」―通勤バス 派遣村行き
東京駅から湾岸沿いを走るJR京葉線で十数分。東京ディズニーランドをすぎ、ほどなく
ホテルや高層住宅に囲まれた新浦安駅に着く。
朝、バスロータリーから改札へと向かう出勤の人波に逆らうように、ジーンズをはき、昼
食を入れたコンビニ袋をもつ一群が降り立つ。向かうのは、ロータリーから道路一本隔て
た小公園の前の、もう一つの「バス停」だ。次々とやって来る送迎バスに乗り込んでいく。
バスの行き先が、さながら「派遣の村」だと聞いて、記者も乗った。
50人近くいるだろうか。黙って外を見たり、携帯電話のゲームに没頭したり。前方を見
ると、「飲食は禁止。破ったら即解雇」の注意書きが目に飛び込んできた。
全国の市町村の中で屈指の財政力を誇る千葉県浦安市の中でも、街路樹にヤシの木
が並ぶ高級感あふれる住宅街を、バスは走っていく。10分もたたないうちに風景が一変
した。着いたのは、工場や倉庫が立ち並ぶ、通称「鉄鋼団地」の一角だった。
バス乗り場で知り合った市川市の男性(34)は10年近くこの一帯で働く。いまは、中古
パソコンを集めて再び商品にする大手ショップの倉庫が職場だ。月に何千台と運び込ま
れる中古品を初期化し、清掃して出荷する。100人近い従業員の半数が派遣で、20~3
0歳代が多い。男性はネットで販売する商品を写真に撮り、機種や機能の説明文を打ち
込む。
ナットやボルト、薬、お菓子、缶詰……。様々な商品の倉庫を転々としてきた。仕事はい
つも、必要な量を集めて運ぶだけの単純作業。「誰でもできる。なんの技術も身につかな
い」。時給は今、1千円。3年かけて150円上がった。残業していると、ディズニーランド閉
園前の恒例の花火の音が聞こえてくる。「もう何年も行っていない。別世界ですね」
(中略)
千葉・東京湾岸沿いの浦安、市川、船橋などで「派遣の村」が目立ち始めたのは、世界
規模の競争が本格化した90年代後半。ここの働き手たちの「悲惨な未来」のシナリオが4
月末、派遣仲間やインターネットで波紋を呼んだ。
「就職氷河期世代は65歳になると、10年前の世代より生活保護を受ける人が77万人
増える。亡くなるまでに受ける保護費は計17.7兆~19.3兆円増」。財団法人、総合研
究開発機構(NIRA)の試算だった。1年あたりの増加額はざっと8千億円。
大競争時代を迎え、欧州などは次世代を担う層の技術習得支援などに力を入れた。一
方で日本は、安い労働力を求める企業に歩調を合わせて規制緩和を加速し、正社員から
非正規社員への置き換えが進んだ。
政府・与党はようやく「日雇い派遣禁止」などに動き始めた。が、足元では、NIRAの試
算を先取りするかのように、「生活保護の村」が次々と現れている。
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