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綾波レイに思いを寄せる男性は日本中に100万人はいるだろう。冷淡な
ほど無口で無表情な14歳の謎の少女。包帯姿で現れた現代の女神は
日本アニメの申し子だ。その儚(はかな)げな存在感の内には、決然とした
「迷いのなさ」を秘めている。
▼95年にテレビ放送された『新世紀エヴァンゲリオン』の新作映画が、
きょう公開される。その準主人公の絶大な人気は10年たった今も衰える
気配がない。綾波を探しマニアの街、秋葉原を歩いてみた。精巧な立体
モデルの「フィギュア」は綾波だけは売り切れ。ネット競売では数十万円
の値が付く希少品もある。
▼現実社会では明るく元気な者の周りに人が集まりやすい。暗く
思い詰めたような人柄に魅了されるのは、なぜなのか。フィギュア製作
の専門家に聞くと、綾波モデルを集めているのは30代と40代前半が
ほとんどだという。アニメやネットが築く仮想空間には、人の深層心理を
えぐり出す魔力があるに違いない。
▼綾波レイが最初に「降臨」したとき、日本人はバブル崩壊で自信喪失
のどん底にいた。傷だらけになって人造の巨人に乗り込み、無言で毅然
(きぜん)と敵と戦い続ける綾波への共感はその時代に根ざす。フィギュア
とは、無意識の信仰を形にした現代の偶像だろう。経済は立ち直っても、
日本人の心には虚(うつ)ろが残ったのか。
ソース(日経新聞・春秋)
URLリンク(www.nikkei.co.jp)