07/08/29 23:54:46 GzMEYfnq0
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。
何でも薄暗いじめじめした所で
ニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。
吾輩はここで始めて人間というものを見た。
しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪な種族であったそうだ。
しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。
ただ彼の掌に載せられてスーと持ち上げられた時
何だかフワフワした感じがあったばかりである。
この書生の掌の裏でしばらくは、よい心持に坐っておったが、
しばらくすると非常な速力で運転し始めた。
書生が動くのか自分だけが動くのか分らないがむやみに眼が廻る。胸が悪くなる。
到底助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。
それまでは記憶しているがあとは何の事やらいくら考え出そうとしても分らない。
ふと気が付いて見ると書生はいない。たくさんおった兄弟が一匹も見えぬ。
肝心の母親さえ姿を隠してしまった。その上今までの所とは違ってむやみに明るい。
はてな何でも様子がおかしいと、のそのそ這い出して見ると非常に痛い。
吾輩は藁の上から急に笹原の中へ棄てられたのである。
ようやくの思いで笹原を這い出すと向うに大きな池がある。
吾輩は池の前に坐ってどうしたらよかろうと考えて見た。
別にこれという分別も出ない。
しばらくして泣いたら書生がまた迎に来てくれるかと考え付いた。
ニャー、ニャーと試みにやって見たが誰も来ない。