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・すぐれた書評家でもある歴史学者加藤陽子さんは近著『戦争を読む』(勁草(けいそう)書房)で
「まずは小説家が気づき、つぎに学者が名を与えた」という名言を発してうならせる
▼加藤さんは、作家村上龍さんが『希望の国のエクソダス』(文春文庫)で「この国には
何でもあるが、希望だけがない」と語り、社会学者山田昌弘さんが『希望格差社会』
(ちくま文庫)で、“負け組”による反社会的犯罪やひきこもりの多発を予見した例をひく
▼歴史家の役割は「なぜ我々の父祖が、歴史と国家と自己を一体のものとする感覚を
身にまとい戦争を支持していったのか、そのプロセスをグロテスクなまでに正確に描きだす
ことだ」という。とすれば、従軍慰安婦問題で「広義」「狭義」の別を持ち出し、米議会の
反発を買った日本政府の及び腰はいただけない
▼一九五四年に「驟雨(しゅうう)」で芥川賞を受けた吉行淳之介さんが亡くなって、
二十六日で十三年になる。晩年をともに暮らした宮城まり子さんが、入手困難な吉行
作品十二編をまとめて『宮城まり子が選ぶ吉行淳之介短編集』(ポプラ社)を出した
▼収録された「驟雨」は、娼婦(しょうふ)と青年の性愛を描いて戦後すぐの若者の存在
不安を描く。吉行さんが描いた女性の性労働のありようは、明治の“からゆきさん”に
始まる性の商品化、国際化の流れにつらなる
▼民俗学者谷川健一さんは近著『明治三文オペラ』(現代書館)で、性愛の自由なき
戦場の非日常の中で、兵隊と慰安婦が示した連帯と憎悪に、古来の“巫娼(ふしょう)”の
姿を重ね、庶民の哀れを見る。
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