07/01/26 01:55:31 xCB3grA20
最初に線路に落ちた酔客の父親のことが新聞記事になっていた。父親は
亡くなったふたりの男性の遺族を訪ねて血を吐くように詫びたという。だが、彼自身
も愛していた息子を亡くした父親だったのだ。
何という悲劇か。ここには善意の人々しか登場しない。それなのに3人の人間
が死に残された家族は一様に悲しみに沈んでいる。ふたりを道連れにした酔客
の遺族たちは、自らの悲しみに浸る以前に世間に対して罪の意識さえ味あわさ
れている。
善意の死を体現した韓国人の青年は、韓国籍であったがためにマスコミによっ
て多くの意味をその死に付与され日韓の架け橋にさえさせられた。そのため老
夫婦は遠い他国での息子の死を嘆きつつも大衆の善意というものに応えること
を強要される。
40代の独身カメラマンの母親は、「相手も助けられず、自分も死んで……犬死
だよ」とつぶやいた。「犬死」という言葉に込められた無念さが、息子の死に対する
母親の深い悲しみが、僕の胸に迫った。
世間に讃えられ誇れる息子になるより、無事に帰ってきてくれる息子を彼女は
望んだに違いないのだ。その日も、彼女の息子は「ただいま」と言いながら玄関に
入ってくるはずだった……。