07/02/02 22:07:29
菊池氏が危険視しているのは、この手のニセ科学が、教育の現場にまで幅をきかせようとして
きている点にある。たとえば、小学校の道徳の授業で「水にありがとうと声をかけるときれいな
結晶ができる」という説を説かれていたり、教育関係者やPTAのあいだで「テレビゲームをしす
ぎると、脳の機能が壊れる」といういわゆる「ゲーム脳」説の講演会がおこなわれていたり
するということが、今の日本で実際に起きているのだ。
しかも、悩ましいことに、それらの説を流布している人たちの多くは、善意から行動している
というのである。本人たちは「良いこと」をしているという確信を持っているのだから、その
説の科学的な問題点や論理的な欠陥を指摘しても、なかなか納得してもらえないし、なによりも
「善意の行動に横やりを入れている」ように見えかねないというところが難しい。つまり、
場合によっては、善意の第三者の中には、ニセ科学の問題点を指摘している側が悪役に見え
かねないってことにある。まあ「正義の押しつけ」は、バランス感覚の優れている人ほど、
気持ち悪く感じるもんかもしれないしね。
さらに言えば、教育やしつけの現場で、そんな「ニセ科学」によりかかりたくなってしまうと
いう状況が存在するということこそが、大きな問題であると言えるだろう。
菊池氏に言わせれば、人がニセ科学に魅入られやすいのは、ニセ科学が単純な二分法で複雑な
問題に明快に白黒をつけてくれるからだという。しかし、現実の世界というものは複雑なもので
あり、その複雑さを少しずつ読み解いていく課程こそが「合理的思考」であり「科学的思考」
だとも、菊池氏は言う。
菊池氏の取り組みがユニークなのは、自らの活動によって、今すでに「ニセ科学」を信じて
しまっている人を説得できるとは、必ずしも考えていないという点にある。
それよりも、今はまだそういう説を知らない人たちが、ふとしたはずみでその存在を知り、おか
しな考えにとりつかれてしまう前に、「こういう説は科学的なように見えて、実は非科学的で
何の信憑性もないんですよ」ということを広めておこうというのである。病気に例えれば、
感染してしまってからでは治療は困難だから、しっかりと予防措置をしておきましょう、という
ようなことかもしれない。
近年、菊池氏以外にも、こうした「ニセ科学」への警鐘を鳴らすという啓蒙活動を、ネット上
でおこなっている科学者たちが現れてきている。これらの試みが、大きな実を結び、ニセ科学
の広がりに少しでも歯止めがかかることを期待したい。(抜粋)
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