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>>1の続き
■アルカイダ弱体化が奏功か
こうした数字は明らかにイラクの治安の顕著な好転を物語っている。米軍がサダム・フセイン政権を
打倒するための軍事作戦を開始したのが2003年3月だから、もうイラクでの米軍駐留は合計4年半となる。
米軍やイラク一般国民へのテロ攻撃など武力闘争を展開してきたのは、当初はフセイン政権の残党、
さらにはスンニ派、シーア派の私兵、そのうえに国際テロ組織のアルカイダだといえるが、最大の脅威は
なんといってもアルカイダだった。それらの軍事攻撃がいまや大幅に減ったというのである。
ブッシュ大統領は治安維持の対策として今年はじめに増派作戦を断行した。3万の増派が投入された
イラク駐留の米軍は総兵力16万4700人にまで拡大した。増派米軍の着いた直後のイラクでは戦闘の
激化が報告され、戦死者、戦傷者の数も逆に増えた。だがその増派から10カ月が過ぎた今、戦闘も
戦死、戦傷も顕著に減ってきたのである。
その原因としては、米軍がイラク国内のアルカイダの拠点に従来よりも積極果敢に踏み込んで、
撃破を図り、かなりの成功を収めたことに加えて、米軍に陰に陽に抵抗し、アルカイダにも
協力することのあった少数派のスンニ派が基本方針を変え、米軍やイラク政府に協力するように
なったことが挙げられている。なかでもスンニ派がアルカイダに敵対するようになったことが大きく、
以前はイラク全土でも治安が最も悪いとされたアンバル県での情勢好転はそのことが主要因だという。
実際に米軍首脳の間では「イラク領内のアルカイダ組織は中核に壊滅的な損害を与えた」として、
「勝利宣言」まで出そうという動きがあった。ホワイトハウスの判断で、そうした「宣言」は政治的に
好ましくないとされ、取りやめになったという。そんな動きは、イラク国内の純軍事情勢がどれほど
米軍側に有利に展開してきたかを示す例証だとはいえよう。
だが、この治安の改善や情勢の好転が果たしてどれほど定着した状態なのかは分からない。一時の
変則状態だという可能性も除外できない。今後またテロ勢力が活動を強めることもあるかもしれない。
民族、宗派の争いがまた激化して、殺し合いが内戦のようにならないという保証もない。
しかしそれでもなお、ここ数カ月のイラク情勢がそれ以前の4年ほどと比較して、テロ攻撃や
破壊行為、そして殺りくが減ったことは事実として否定できないのである。
■民主党寄り大手メディアも報道
米国内でもブッシュ大統領のイラク政策には依然、反対が強い。議会の民主党議員の多くが
その急先鋒であり、民主党寄りの大手メディアも同様の傾向を示す。いずれもブッシュ大統領の
増派措置には強く反対していた。だから増派の結果とみられるイラク情勢の好転はなかなか
認めたくないという一面もあるだろう。
しかしそうした大手メディアのワシントン・ポストやCBSテレビなども「イラクでのテロ攻撃や
米軍将兵の犠牲の減少」を少しずつ報じるようになった。
10月下旬、ABCテレビの夕方のニュースではチャールズ・ギブソン記者が次のようなイラク
報道をしていた。
「今日のイラクのニュースといえば、ニュースがないということです。イラク警察がABCに
告げたところでは、彼らの知る限り、今日は主要な武力攻撃はなかったそうです。バグダッドでも
攻撃が減り、本日は爆弾攻撃も路肩爆弾の爆発も報告されなかった、とのことでした」
―こうした言葉は象徴的だといえよう。
繰り返すが、今のイラクの軍事情勢がそのまま続くという保証はない。しかし治安の回復が
このまま続けば、米国内での外交論議だけでなく、大統領選をからめての内政の論議にまで
大きな影響を与えることとなる。
あれほど悪評の、あれほど失態とされたブッシュ大統領のイラク政策がもし成功してしまったら、
どうなるのか。日本側でも今後の国際情勢や対米関係への対処を考えるうえで、幾多の
可能性のシナリオの一角にインプットしておいたほうがよいような現状なのである。
国際問題評論家 古森 義久氏 2007年11月6日
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