07/11/09 21:44:03
ゲーツ米国防長官は昨年末の就任時、仕事の優先順位は
「イラク、イラク、そしてイラク」と答えた。それから1年、テロとの戦いに展望は見えない。
それどころか、同盟国パキスタンが不安定の度合いを強め、テロに見舞われている。
もっと深刻な危機はイランが核兵器を持つことだ。
そうなれば中東一帯に核軍拡競争が起き、一気に不安定になる。
長官は訪日に先立って訪れた中国で「石油安定供給にマイナス」との理屈で
国連の対イラン経済制裁への参画を訴えたが、不発に終わった。米国の力の限界が随所に現れる。
中国では攻撃力を高めつつある軍近代化の方向と意図にも疑問を提起したが、中国側は議論に応じなかった。
「安全保障に関する中国の秘密主義」が壁になっている。
ただ冷戦中、ソ連と「軍・軍交流」を進め、誤解を解いていった経験にも触れ、
相互理解のためねばり強い努力を続ける姿勢を示した。
日本と中国も、国防当局間の信頼醸成を根気強く行わなければならない。
日本では、米国の北朝鮮に対するテロ国家指定解除への懸念が相次いで表明された。
北朝鮮からシリアへの核拡散疑惑に加え、6者協議での非核化合意の実効性を疑問視する声も聞かれる。
長官は「たとえ非核化されても、日米のミサイル防衛協力は続けていく」と言明した。
この地域の不安定構造を長期的なものと見ているのである。
9・11テロ後、日米でもり上げた「世界における日米同盟」は、
自衛隊のインド洋給油活動中断でにわかに空洞化したように見える。
だが、長官は自衛隊再派遣への期待を示しつつも、「旗を見せよ」とも「地上部隊の派遣を」とも言わなかった。
ガイアツ(外圧)と受け取られるのを避けてだろうが、いまの米国はガイアツをかける力も衰えているのが実情だ。
戦後、日本は「強い米国」を後ろ盾に、安全保障政策もアジア政策もつくってきた。
その米国が衰退過程にある。「弱まる米国」にとり、
地域を安定させてくれる大国こそが頼りになるパートナーであり、北朝鮮の核問題では中国を選んだ。
米大統領選に出馬を表明した民主党のヒラリー・クリントン上院議員は最近
「米中関係は米国にとって今世紀最重要の二国間関係」と書いた。
長官は「優先順位はつけない。世界はそれほど予測不可能だ」と答えた。
いずれにせよ、米国は外交戦略上、日米同盟を相対化していくだろう。
それをいかに日本と東アジアの平和と安定に資するように相対化させるか。
長官は上智大学での講演で、アジア安全保障の「多国間の連携をもっと拡大する」ことの重要性にも言及した。
米国は東アジアに「昔の欧州での横型の権力均衡秩序でも、
東アジアでの縦型ヒエラルキー秩序でもない新たな秩序」(シーファー駐日米大使)を模索し始めている。
日米中3国による政策対話も、いずれ日米同盟の課題に上ってくるに違いない。
日米同盟は、アジアの安定に大いに役立ってきた。
それは今後も大切な役割だ。
しかし、いまは日本がアジアと安定した関係をつくることが日米同盟を安定させる。
日本とともにアジアの未来を形作っていこうと米国に思わせることができるかどうか。
来週の福田首相の訪米の最大の眼目もその点にある。
ソース 朝日新聞
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