07/06/26 08:51:06
24日に閉幕した上海国際映画祭は13本の最新日本映画が一挙、上映される「日本映画週間」などで、
いつになく盛り上がった。参加作品「武士の一分」の山田洋次監督や女優、桃井かおりら日本映画を
代表する顔ぶれが記者会見に登場し、詰めかけた中国側の報道陣も非常に好意的だった。実際、
上海の地元紙だけでなく全国紙も最近の日本映画の好調ぶりを伝え、「武士の一分」だけでなく、
「アンフェア」(小林義則監督)や「大奥」(林徹監督)などは日本週間スタート前に入場券は
すべて売り切れる人気ぶりだった。
だが、国際映画祭後半の21日付解放日報に「すべての観客は涙を流した」という実にエモーショナルな
タイトルの記事が掲載された。解放日報は上海市共産党委員会の機関紙の役割を果たしている。
内容は米インターネット大手、アメリカ・オンラインのテッド・レオンシス元副会長が制作した
ドキュメンタリー映画「南京」が報道陣向けに公開され、観客は旧日本軍の残虐さに皆、涙流したと
いうものだ。会場は通路にあふれるほどの盛況ぶりだったそうだ。その「南京」が中国全土での
封切りを前に上海映画祭(22日)で一般公開された。会場は日本映画週間に参加する日本映画が連日、
上映される映画祭のメーン映画館「上海影城」の3号館だ。座席(280席)はほぼ満席。学生っぽい
若者や公務員風の中年男性が多い。午後6時半に始まった映画には正直いって少しがっかりした。
解放日報によれば、中国版「シンドラーのリスト」のはずなのだが、歴史背景があまりに違うことも
あってシンドラーとの比較は飛躍がありすぎるし、欧米人証言者を俳優が演じること自体、いわゆる
ドキュメンタリーとして違和感が残った。欧米人の証言(日記などの記録)と南京事件の生き残りの
中国人(当時、小中学生)へのインタビュー、そして日本の平和活動家が収録した旧日本軍兵士の
インタビューで描く構成になっていたが、よくよく考えてみると、中国中央テレビ(CCTV)の
外国人向け英語番組で毎日のように放映されている抗日戦争史ドキュメンタリーとそっくりなのである。
米国のサンダンス映画祭でこの映画が初公開されたとき、制作陣が産経新聞とのインタビューに
応じているが、その際、CCTVとの共同制作など密接な関係を認めている。おそらく中国人証言者は
中国側がアレンジしたのだろう。中国人証言者が涙ながらに日本の残虐性を証言し、さらに軍服姿の
極右活動家らが靖国神社境内で南京占領軍さながらに万歳する様子が大写しされていたが、その手法に
“軍国主義復活”を暗示するプロパガンダ臭を感じざるを得なかった。
解放日報が期待したようには会場のすべての観客は涙を流さなかったが、中国人証言を聞きながら
目頭を押さえる人は確かに散見された。また歓声?を上げながら拍手する人たちさえいた。
その拍手が何を意味するのかよくわからなかったが、南京事件が米国で制作されたことへの
賛辞なのだろう。解放日報は「南京大虐殺の事実を外国人の視点で初めて客観的に描いた」と
評価していたからだ。
日本映画賛辞が続き、日本ドラマブームの幕開けさえ報じられる一方で日本の過去問題を明示する
映画が上映される。まさに胡錦濤政権のいう「歴史を忘れず、未来を志向する」なのだろう。(前田徹)
産経新聞 URLリンク(www.sankei.co.jp)