07/06/19 21:22:39
韓国のテレビの新番組に読書座談会というのがあって、そこで村上春樹など韓国で人気の
日本人作家の作品を取り上げ、議論がはずんでいた。韓国では近年、ハルキはもちろん、
よしもとばななや江國香織、奥田英朗など、日本の現代文学が続々ベストセラーになっている。
韓国における昨年の文学作品売れ行きでは、ベストテンの半分以上が日本作品という人気
ぶりだ。
韓国で日本の現代小説が人気なのは、これらの作品が現代の韓国の若者たちの心情に
ピッタリきているということだが、逆にいえば韓国の文学作品の主流(?)をなす深刻ぶった
表情、辛気臭さ、面白みのなさ、政治臭……つまり純文学風の退屈さに、読者が飽きている
ことを意味する。
韓国では日本小説の人気ぶりを“日流ブーム”といっているが、これも実は今にはじまったこと
ではない。ぼくは1970年代から韓国とつきあっているが、当時も山岡荘八の『徳川家康』が
『大望』との題で翻訳され長くベストセラーになっている。三浦綾子の『氷点』も、小説は勿論
何回も映画化、テレビドラマ化され人気だ。山崎豊子の『不毛地帯』もしかり。
ただ近年の人気ぶりは、若い世代を中心に、より大衆性がある。その背景には1970年代
以降、マンガやアニメなどを通じてなじんできた日本モノの影響があるかもしれない。
その意味である週刊誌への20代女性と見られる読者投稿は興味深かった。
「私のお宝」というコラムで、1990年代初めに読んだ日本製マンガ『キャンディ・キャンディ』の
思い出をつづったものだ。
「当時、私はマンガより小説、それも恋愛モノより推理モノが好きで、マンガには関心がなかっ
たが、ある日、親類のお姉さんからもらった『キャンディ・キャンディ』で様子は変わった。
(中略)……初めて私を泣かせたマンガ『キャンディ・キャンディ』をきっかけに、私も感動的な
漫画を描きたいという新しい夢が生まれた。いつかきっとあのマンガのような、老若男女を
問わず多くの人びとの記憶に一生残る名作を描きたいと……。」(『週刊ハンギョレ』5月8日号)
ところで最近の日本小説ブームから、韓国では「日本小説に学べ」の声が読者はもちろん
作家や出版界、マスコミなどで出ているという。たとえば「肩の力を抜いて、やさしく面白く、
そして分断とか民族とか、共同体とか変革などといった、古臭い価値観を捨てて……」
(ハンギョレ新聞・4月2日付)。
しかし当然、これには反発がある。「日本小説に学べ」論に対する批判は次のようにいっている。
「日本を代表する評論家・柄谷行人が“日本で近代文学は終わった”と宣言するほど、日本
小説はかなり前から現実の核心的問題を避けている。周辺国を不安にさせ世界平和を脅か
す日本の右傾化に対し問題提起し、それに抵抗する日本小説を見たことがあるか。
それどころか、日本の代表的作家である村上春樹や村上龍は、軍国主義を代表するような
小説をしきりに書いているのが実情だ。彼らの非イデオロギーとしてのダンディズムや個人主義
というのは、容易に軍国主義と肩を組みうる恐ろしいイデオロギーなのだ」(同)
世界で人気のハルキ文学は日本軍国主義小説だというのだ。はて? どこからそうなるのだ
ろう。いろいろ探してみてわかった。そんなことをいっている日本人がいた。
東大の小森陽一教授で、3月にソウルで行なわれたセミナーの席でハルキの『海辺のカフカ』
を取り上げ「われわれも仕方なかった、過去は過去にすぎない、という日本軍国主義の論理
と類似した構造を持っている」(聯合ニュース)「彼は文学を通じ帝国主義日本の過去に免罪符
を与えている」(朝鮮日報)などと発表したという。
韓国が日本の左派・反日論者のハルキ論に飛びつくあたり、これもまた韓国におけるもう一つ
の“日流”かもしれない。(産経新聞ソウル支局長)
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